喉仏のすぐ下、指先のくぼみが命をつなぐ―緊急気道確保は輪状甲状靱帯で
第116回医師国家試験 E問題 第12問
国試問題にチャレンジ
正面および側面の頸部写真を下に示す。 緊急気道確保時に穿刺あるいは切開するのに最も適した部位はどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
挿管もマスク換気もできない緊急時の外科的気道確保では、甲状軟骨と輪状軟骨の間にある輪状甲状靱帯を穿刺・切開するのが第一選択です。この部位は声門下の気道で皮膚から最も浅く、前面に甲状腺や大血管がなく、喉頭隆起から正中を下にたどった最初のくぼみとして素早く同定できます。甲状軟骨そのものは硬く声帯損傷の危険があり、舌骨の高さは声門上、側頸部は大血管の走行部位、下位頸部気管は深く出血リスクが高いため、いずれも緊急時には不適切です。気管切開は第2〜4気管軟骨の高さで行う待機的処置であり、小児では外科的切開を避け穿刺を選ぶ点も重要です。体表解剖と結びつけて部位を理解しておくことが、救急現場での迅速で安全な気道確保につながります。
解答・解説
正解はdです
本問は、気管挿管もバッグバルブマスク換気もできない「挿管不能・換気不能(cannot intubate, cannot oxygenate:CICO)」のような切迫した状況で行う外科的気道確保の部位を、体表から特定できるかを問うている。
体表解剖の整理
頸部前面を上から順に触れていくと、次のような目印がある。 ・舌骨:下顎のすぐ下、頸部の付け根の高さで触れる馬蹄形の骨 ・甲状軟骨:成人男性では前方に突出した喉頭隆起(いわゆる喉仏)として見え、触れやすい ・輪状甲状靱帯(輪状甲状膜):甲状軟骨の下縁と、その下にある輪状軟骨の上縁との間にある、指先で触れるとくぼみとして感じられる膜状の部分 ・輪状軟骨:気道で唯一全周性の軟骨輪 ・その下に気管軟骨が続き、第2〜4気管軟骨の前面を甲状腺峡部が横切る。さらに下方で胸骨上切痕に至る 写真では、①が舌骨付近、②は正中から外側にずれた高さ(甲状軟骨より上方の側頸部)、③が喉頭隆起(甲状軟骨)、④がそのすぐ下のくぼみ、⑤が胸骨上切痕に近い下位の頸部気管の高さを示している。
緊急時に輪状甲状靱帯を選ぶ理由
輪状甲状靱帯は声門より下の気道の中で皮膚から最も浅い位置にあり(成人では皮膚から平均約7 mm程度とされる)、前面に甲状腺や太い血管がなく、甲状軟骨と輪状軟骨という触れやすい目印で短時間に同定できる。このため、輪状甲状靱帯穿刺(針による穿刺)や輪状甲状靱帯切開(輪状甲状膜切開)が緊急外科的気道確保の第一選択となる。写真ではこれが④に相当する。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。①は舌骨の高さを示している。ここは声門より上方で、穿刺・切開しても喉頭蓋周囲(声門上)に到達するにすぎず、上気道閉塞の部位より上になる可能性がある。また気道は骨や軟骨に囲まれておらず内腔を確実に捉えにくいため、気道確保の部位として不適切である。
- ×b. ②
誤り。②は正中から外側へずれた側頸部を指している。この領域には総頸動脈や内頸静脈などの太い血管が走行しており、穿刺・切開すれば大出血を招く危険がある。しかも気道は正中にあるため、ここからでは気道内に到達しない。外科的気道確保は必ず正中で行う。
- ×c. ③
誤り。③は喉頭隆起、すなわち甲状軟骨の突出部である。硬い軟骨であるため穿刺・切開には適さず、その内側には声帯があるため損傷すると発声障害の原因となる。甲状軟骨は輪状甲状靱帯の位置を探すための目印として用い、そこから指を下にすべらせて直下のくぼみを同定する。
- ○d. ④
正しい。④は甲状軟骨のすぐ下のくぼみ、すなわち甲状軟骨と輪状軟骨の間にある輪状甲状靱帯の高さである。声門下の気道のうち皮膚から最も浅く、前面に甲状腺や大血管がないため出血が少なく、体表の目印から短時間で確実に同定できる。そのため緊急時の輪状甲状靱帯穿刺・切開の部位として最も適している。なお、輪状甲状靱帯の上縁付近には左右の輪状甲状動脈が吻合して走ることがあるため、切開は靱帯の下半分寄りで横方向に加えるとされる。
- ×e. ⑤
誤り。⑤は輪状軟骨より下方、胸骨上切痕に近い下位の頸部気管の高さである。気管は下にいくほど皮膚から深い位置を走り、その前面には甲状腺峡部や下甲状腺静脈などの血管、さらに下方では腕頭動脈などがあるため、出血の危険が高く手技にも時間がかかる。この付近での気管切開は、長期の人工呼吸管理などを目的に手術室などで計画的に行う処置であり、一刻を争う緊急気道確保には適さない。
輪状甲状靱帯穿刺・切開の概要
・適応:上気道閉塞や顔面外傷などにより、気管挿管もマスク換気もできない状況(CICO) ・体位:可能であれば肩の下に枕を入れて頸部を伸展させ、喉頭を前方に突出させて触れやすくする(頸椎損傷が疑われる場合は過度の伸展を避ける) ・同定法:喉頭隆起を触れ、そこから指を正中で尾側にすべらせて最初のくぼみを探す ・穿刺:太い留置針や専用キットで穿刺し、酸素を送る。針による換気は換気量が限られ、二酸化炭素が貯留しやすいため一時的な処置である ・切開:皮膚と靱帯を横切開し、気管チューブや気管切開チューブを挿入する。換気がより確実である ・合併症:出血、皮下気腫、縦隔気腫、気胸、気管後壁や食道の損傷、誤留置、声門下狭窄など ・小児(おおむね12歳未満):輪状甲状靱帯が小さく、輪状軟骨部が気道の最狭部であるため、外科的切開は避け針による穿刺を選ぶのが一般的である
輪状甲状靱帯切開と気管切開の違い
・輪状甲状靱帯切開:緊急処置。浅く、出血が少なく、短時間で行える。長期留置では声門下狭窄の危険があるため、状態が安定したら気管切開などに切り替える ・気管切開:通常は第2〜4気管軟骨の高さで行う待機的処置。甲状腺峡部の処理などが必要で時間を要するが、長期管理に適する
POINT
・緊急外科的気道確保の第一選択部位は輪状甲状靱帯(甲状軟骨と輪状軟骨の間) ・選ぶ理由:皮膚から浅い、前面に甲状腺・大血管がない、体表の目印で素早く同定できる ・目印は喉頭隆起(甲状軟骨)→その直下のくぼみ ・必ず正中で行う(側方には総頸動脈・内頸静脈) ・気管切開は第2〜4気管軟骨付近で行う待機的処置で、緊急時には向かない ・小児では外科的切開を避け、穿刺を選ぶ
