StudyMed医師国家試験

「待てる腹痛」と「待てない腹痛」―虚血と穿孔が告げる緊急手術のサイン

第118回医師国家試験 A問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第118回 A問題 第13問

緊急手術を考慮すべき疾患はどれか。2つ選べ。

  1. a.癌性腹膜炎
  2. b.絞扼性腸閉塞
  3. c.放射線性腸炎
  4. d.麻痺性イレウス
  5. e.穿孔性汎発性腹膜炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腹部疾患のなかで緊急手術を考慮すべきものを選ぶ問題だ。判断の軸は「時間とともに取り返しのつかない状態へ進み、しかも手術でしか原因を取り除けないか」。この視点で選択肢を見ていこう。
医学生医学生
腹部の病気で手術を急ぐものというと、まず腸閉塞が浮かびます。
ドクタードクター
ただ、腸閉塞がすべて緊急手術になるわけではないんだ。腸閉塞は血流障害のない単純性と、血流障害を伴う複雑性に分ける。単純性なら絶食や減圧などの保存療法から始めるけれど、問題は複雑性、つまり絞扼性腸閉塞だ。
医学生医学生
癒着バンドやヘルニア門で腸が締め付けられて、腸間膜の血流まで止まってしまうものですね。
ドクタードクター
そう。血流が途絶えると数時間の単位で腸管壊死が進み、穿孔、敗血症へと急速に悪化して致命的になる。だから疑った段階で緊急手術を考慮し、絞扼を解除して壊死した腸管を切除する。
医学生医学生
消化器外科の実習で、指導医から「絞扼は時間との勝負」と言われました。でも、実際にはどうやって疑えばいいんでしょうか。
ドクタードクター
持続する激しい腹痛、腹膜刺激症状、頻脈やショック、代謝性アシドーシスや乳酸の上昇が手がかりになる。造影CTでは腸管壁の造影不良、closed loop、腸間膜が渦を巻くwhirl sign、腸間膜の浮腫や腹水に注目する。単純性腸閉塞として経過を見ていて、痛みが間欠的から持続的に変わってきたら要注意だ。
医学生医学生
もう一つの正解は穿孔性汎発性腹膜炎でしょうか。OSCEの腹部診察で練習した筋性防御や反跳痛が、腹部全体に出る病態ですよね。
ドクタードクター
正解。消化管に孔があいて内容物が腹腔全体に広がると、細菌性腹膜炎から敗血症性ショックに至りやすい。腹腔内の洗浄・ドレナージと、穿孔部の閉鎖や切除のために緊急手術が必要になる。
医学生医学生
でも、十二指腸潰瘍の穿孔を手術せずに治療した症例を、症例検討会で聞いたことがあります。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。上部消化管穿孔では、漏れた内容物が初期には比較的無菌なので、症状が限局していて全身状態が安定していれば保存的治療を選ぶこともある。ただ、汎発性腹膜炎に至った場合は手術が原則だ。下部消化管穿孔は糞便による細菌性腹膜炎が早くから起こるので、より重篤で、緊急手術が強く求められる。
医学生医学生
虚血と穿孔、この2つが緊急手術の大きな柱ということですね。麻痺性イレウスは、名前に「イレウス」とつくので少し迷いました。
ドクタードクター
近年の国内ガイドラインでは、機械的な閉塞を「腸閉塞」、閉塞を伴わない腸管麻痺を「イレウス」と呼び分けることが推奨されている。麻痺性イレウスは器質的な閉塞がなく、開腹術後、腹膜炎、低カリウム血症などの電解質異常、オピオイドなどの薬剤によって蠕動が止まる機能的な状態だ。治療は原因の是正に加え、絶食、胃管やイレウス管による減圧、輸液といった保存療法になる。
医学生医学生
腹膜炎が原因の麻痺性イレウスなら、結局手術になりそうですが。
ドクタードクター
その場合に手術するのは原因である腹膜炎に対してであって、麻痺性イレウスそのものが緊急手術の適応になるわけではない。病態と、その原因を分けて考えることが大事だよ。
医学生医学生
癌性腹膜炎も「腹膜炎」とついていますが、穿孔による腹膜炎とは別物ですよね。
ドクタードクター
そう。胃癌、膵癌、卵巣癌などが腹膜に播種して、腹水や通過障害をきたした状態で、細菌感染による炎症ではない。進行・終末期の病態であることが多く、化学療法、腹水の排液、症状緩和が中心になる。放射線性腸炎も、骨盤内腫瘍への照射に伴って下痢や出血、晩期には狭窄や瘻孔を起こすけれど、治療は対症療法や内視鏡的止血が中心で、疾患そのものが緊急手術の適応となるわけではない。
医学生医学生
名前に引っ張られず、虚血や穿孔があるかどうかで判断すればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、緊急手術を考えるもう一つの柱が出血だ。腹部大動脈瘤破裂、ショックを伴う異所性妊娠破裂、血行動態が不安定な外傷性腹腔内出血などがこれにあたる。虚血の仲間には、急性腸間膜動脈閉塞症、整復できない嵌頓ヘルニア、卵巣腫瘍茎捻転、精巣捻転も入る。
医学生医学生
救急外来で腹痛の患者さんを診るときは、「この人は待てるか」を最初に考えるということですね。
ドクタードクター
まさにそれ。バイタルサインと腹部所見を繰り返し評価して、虚血・穿孔・出血のサインがあれば早めに外科医へ相談する。その判断の速さが患者さんの予後を左右するんだ。

まとめ

腹部疾患で緊急手術を考慮すべきかは、「時間とともに不可逆的な臓器障害や敗血症へ進み、手術でしか原因を除けない病態か」で判断し、その大きな柱が虚血(絞扼・捻転・血管閉塞)と穿孔による汎発性腹膜炎です。絞扼性腸閉塞は腸間膜の血流障害から数時間単位で腸管壊死・穿孔に進むため疑った段階で手術を考え、持続痛、腹膜刺激症状、アシドーシスや乳酸上昇、造影CTでの腸管壁造影不良などが手がかりとなります。穿孔性汎発性腹膜炎も敗血症性ショックに至りやすく、洗浄・ドレナージと穿孔部処置のための緊急手術が原則です。一方、麻痺性イレウスは保存療法と原因是正、癌性腹膜炎は化学療法や緩和ケア、放射線性腸炎は対症療法が中心で、疾患そのものは緊急手術の適応ではありません。病名に惑わされず病態で「待てるか、待てないか」を見極める力は、救急外来での腹痛診療の基本となります。

解答・解説

正解はb, eです

急性腹症などの腹部疾患で緊急手術が必要かどうかを判断する際には、「時間とともに不可逆的な臓器障害や致死的な敗血症に進行し、手術でしか原因を取り除けない病態か」を考える。典型的には次の二つが緊急手術の大きな柱となる。 1.血流障害(虚血):腸管や臓器の血流が途絶えると数時間の単位で壊死が進み、壊死した腸管から穿孔・敗血症をきたす。絞扼性腸閉塞、急性腸間膜動脈閉塞症、腸重積(整復不能例)、卵巣腫瘍茎捻転、精巣捻転などがこれにあたる。 2.穿孔・汎発性腹膜炎:消化管などに孔があき、内容物が腹腔全体に広がると細菌性腹膜炎から敗血症性ショックに至る。洗浄・ドレナージと穿孔部の処置が必要になる。 これに対し、腫瘍の進展による病態(癌性腹膜炎)や、治療の副作用による慢性的な腸管障害(放射線性腸炎)、腸管の動きが機能的に低下した状態(麻痺性イレウス)は、原則として保存的治療や原因への対処が中心で、緊急手術の対象とはならない。 なお、近年の国内の診療ガイドラインでは、機械的な閉塞を「腸閉塞」、閉塞を伴わない腸管麻痺を「イレウス」と呼び分けることが推奨されており、本問の選択肢もこの用語法に沿っている。

選択肢考察

  1. ×a.  癌性腹膜炎

    癌性腹膜炎は、胃癌・膵癌・卵巣癌・大腸癌などが腹膜に播種し、腹水貯留や腸管の通過障害をきたした状態である。細菌感染による炎症性の腹膜炎とは異なり、進行・終末期の病態であることが多い。病期診断のための審査腹腔鏡や、症例によっては腫瘍減量手術が行われることはあるが、いずれも予定手術であり緊急手術の適応ではない。治療は化学療法、腹水穿刺・排液、症状緩和が中心となる。

  2. ○b.  絞扼性腸閉塞

    絞扼性腸閉塞は、腸管が索状物(癒着バンドなど)やヘルニア門などで締め付けられ、腸管の閉塞と同時に腸間膜の血流も障害される複雑性(血行障害性)の腸閉塞である。放置すると腸管壊死、穿孔、敗血症へと急速に進み致命的となる。持続的な激しい腹痛、腹膜刺激症状、ショック、代謝性アシドーシス、乳酸値上昇などがみられ、造影CTでの腸管壁の造影不良、腸間膜の浮腫や腹水などが診断の手がかりとなる。疑った段階で緊急手術を考慮し、絞扼の解除と壊死腸管の切除を行う。

  3. ×c.  放射線性腸炎

    放射線性腸炎は、骨盤内腫瘍(子宮頸癌、前立腺癌、直腸癌など)への放射線治療に伴う腸管障害である。照射中から照射後早期の急性期には粘膜障害や浮腫による下痢・腹痛がみられ、数か月から数年後の晩期には腸管壁の微小血管障害と線維化により出血、狭窄、瘻孔などが起こる。治療は止痢薬などの対症療法や、出血に対するアルゴンプラズマ凝固法(APC)による内視鏡的止血、高圧酸素療法などが中心である。狭窄や瘻孔に手術が必要になることはあるが、疾患そのものが緊急手術の適応となるわけではない。

  4. ×d.  麻痺性イレウス

    麻痺性イレウスは、腸管の器質的な閉塞はなく、腸管壁の神経や平滑筋の機能が低下して蠕動が止まる機能的なイレウスである。開腹術後、腹膜炎などの腹腔内炎症、電解質異常(特に低カリウム血症)、オピオイドや抗コリン薬などの薬剤、敗血症などが原因となる。治療は原因の除去・是正に加え、絶食、経鼻胃管やイレウス管による減圧、輸液、消化管運動を促す薬剤(パンテノール、大建中湯など)の投与といった保存療法である。腹膜炎が原因の場合は原因疾患に対して手術を要することがあるが、麻痺性イレウス自体は緊急手術の適応ではない。

  5. ○e.  穿孔性汎発性腹膜炎

    消化管などの穿孔により内容物が腹腔内に漏れ、炎症が穿孔部周囲にとどまらず腹腔全体に広がった状態である。腹部全体の筋性防御・反跳痛、板状硬などの腹膜刺激症状がみられ、敗血症性ショックに陥りやすいため、腹腔内洗浄・ドレナージと穿孔部の閉鎖や切除を目的とした緊急手術の適応となる。上部消化管(胃・十二指腸潰瘍)穿孔では漏出内容が初期には比較的無菌で、症状が限局し全身状態が安定していれば保存的治療が選択されることもあるが、汎発性腹膜炎に至った場合は手術が原則である。下部消化管穿孔は糞便による細菌性腹膜炎が早期から生じるため、より重篤で緊急手術が強く求められる。

緊急手術を考慮すべき主な腹部疾患

・血流障害:絞扼性腸閉塞、急性腸間膜動脈閉塞症、非閉塞性腸間膜虚血(NOMI)で腸管壊死を伴う例、S状結腸軸捻転(内視鏡的整復不能・壊死例)、嵌頓ヘルニア(用手整復不能例)、卵巣腫瘍茎捻転、精巣捻転。 ・穿孔・腹膜炎:消化管穿孔による汎発性腹膜炎、壊疽性虫垂炎・穿孔性虫垂炎、壊疽性胆囊炎。 ・出血:腹部大動脈瘤破裂、異所性妊娠破裂(ショック例)、外傷による腹腔内出血(血行動態不安定例)など。

腸閉塞の分類(現在の用語法)

・腸閉塞(機械的閉塞):単純性(閉塞性、血行障害なし)と複雑性(絞扼性、血行障害あり)に分ける。単純性は絶食・減圧などの保存療法から始めるが、絞扼性は緊急手術の適応である。 ・イレウス(機能的):麻痺性イレウスと痙攣性イレウス。保存療法と原因への対処が中心。

絞扼を疑う所見

持続性の強い腹痛、腹膜刺激症状、発熱・頻脈・ショック、白血球増多、CK・LDH・乳酸の上昇、代謝性アシドーシス、造影CTで腸管壁の造影不良、closed loop、whirl sign、腸間膜の浮腫・血管の拡張、腹水など。

POINT

・緊急手術の二大適応は「虚血(絞扼・捻転・血管閉塞)」と「穿孔による汎発性腹膜炎」。 ・絞扼性腸閉塞は腸管壊死に進行するため、疑った段階で緊急手術を考慮する。 ・麻痺性イレウス、放射線性腸炎、癌性腹膜炎は保存的治療や原因治療が中心で、緊急手術の適応ではない。 ・上部消化管穿孔は限局例で保存的治療がありうるが、下部消化管穿孔や汎発性腹膜炎は緊急手術が原則。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。