StudyMed医師国家試験

「体にいい」の中に紛れた落とし穴―トランス脂肪酸と冠動脈疾患の一次予防

第113回医師国家試験 E問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第113回 E問題 第24問

冠動脈疾患リスクを低減する行動として適切でないのはどれか。

  1. a.禁煙
  2. b.減塩
  3. c.野菜摂取の増加
  4. d.長時間労働の回避
  5. e.トランス脂肪酸摂取の増加

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、冠動脈疾患のリスクを減らす生活習慣を問う公衆衛生の問題だ。ポイントは、狭心症や心筋梗塞の土台にあるのが粥状動脈硬化だということ。それぞれの行動が動脈硬化の危険因子を「減らす」のか「増やす」のかを一つずつ判断していけば、自然と答えにたどり着けるよ。
医学生医学生
冠危険因子というと、脂質異常症、高血圧、糖尿病、喫煙あたりがすぐ浮かびます。
ドクタードクター
いいね。そこに肥満・メタボリックシンドローム、慢性腎臓病、家族歴、加齢・男性、そして職業性ストレスなどの心理社会的要因も加わる。まずは禁煙から考えよう。
医学生医学生
禁煙は迷わず適切ですよね。でも、長年吸っていた人がやめても、もう手遅れということはないんでしょうか。
ドクタードクター
そこは大事な誤解だね。たばこの煙は血管内皮を傷つけ、LDLの酸化、HDLの低下、血小板凝集の亢進、冠攣縮の誘発など多方面から動脈硬化と血栓形成を促す。禁煙するとリスクは比較的早い時期から下がり始めるから、何歳からでも意味がある。受動喫煙を避けることも同じくらい重要だ。
医学生医学生
減塩は高血圧対策ですね。循環器内科の実習で、患者さんに1日6g未満と説明している場面を見ました。
ドクタードクター
そう、日本高血圧学会が高血圧患者に推奨している目標だね。食塩の摂りすぎで血圧が上がると血管壁への負担が増えて動脈硬化が進む。減塩はその流れを断つ行動だ。では野菜摂取の増加はどうかな。
医学生医学生
野菜はビタミンが多いから体にいい、くらいのイメージしかありませんでした。
ドクタードクター
もう少し掘り下げよう。野菜に多いカリウムはナトリウムの排泄を促して血圧を下げる方向に働く。食物繊維は腸管でのコレステロール吸収を抑え、食後高血糖も緩やかにする。さらに抗酸化物質も含む。つまり高血圧・脂質異常症・糖尿病・肥満のすべてに効いてくるんだ。
医学生医学生
長時間労働の回避は、ちょっと意外でした。仕事の量と心臓って直接つながるんですか。
ドクタードクター
直感的には遠く感じるよね。でも長時間労働や慢性的な職場ストレスは、交感神経の持続的な緊張で血圧を上げ、睡眠不足を招き、喫煙・過食・運動不足といった不健康な生活習慣も誘発しやすい。虚血性心疾患の一次予防のガイドラインでも職業性ストレスは危険因子として扱われているし、いわゆる過労死の主な病態にも虚血性心疾患が含まれる。
医学生医学生
衛生学の講義で、過労死の労災認定の話を聞いたのを思い出しました。となると、残るトランス脂肪酸が「適切でない」行動ですね。
ドクタードクター
正解。トランス脂肪酸は主に植物油を部分水素添加する過程で生じる不飽和脂肪酸で、マーガリンやショートニング、一部の揚げ物用油や菓子類に含まれる。摂るとLDLコレステロールが上がるうえにHDLコレステロールが下がる、という二重に悪い作用をもつ。だから摂取を増やすのはリスクを高める行動なんだ。
医学生医学生
不飽和脂肪酸なら体にいいと思い込んでいました。植物由来なのに悪者というのは紛らわしいです。
ドクタードクター
まさにそこが出題者の狙いだろうね。脂肪酸は種類ごとに整理しておこう。肉の脂身やバターに多い飽和脂肪酸はLDLを上げる。トランス脂肪酸はLDLを上げHDLも下げるので、飽和脂肪酸より悪影響が大きいとされる。一方、青魚に多いEPAやDHAなどのn-3系多価不飽和脂肪酸は中性脂肪を下げ、心血管イベントの抑制と関連する。オレイン酸などの一価不飽和脂肪酸やリノール酸などのn-6系は、飽和脂肪酸と置き換えることでLDLを下げる。
医学生医学生
同じ不飽和でも、構造によって働きが逆になるんですね。生化学で習ったシス型とトランス型の違いがここでつながりました。
ドクタードクター
いい結びつけ方だ。国際的にも、WHOはトランス脂肪酸を総エネルギー摂取量の1%未満に抑えるよう勧告していて、米国などでは部分水素添加油脂の食品への使用が規制されている。日本の動脈硬化性疾患予防ガイドラインでも、工業由来のトランス脂肪酸は控えるよう推奨されているよ。
医学生医学生
外来で生活指導をするときは、何をセットで伝えればいいでしょうか。
ドクタードクター
禁煙と受動喫煙の回避、適正体重の維持、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸を控えること、魚・野菜・果物・未精製穀類・大豆製品・食物繊維を増やすこと、減塩、節酒、そして中等度以上の有酸素運動の習慣化。加えて働き方や睡眠など生活全体に目を向けるのが、一次予防を担う医師の視点だね。

まとめ

冠動脈疾患の本態は粥状動脈硬化であり、一次予防の中心は脂質異常症・高血圧・糖尿病・喫煙・肥満・職業性ストレスなどの危険因子を減らすことです。禁煙、減塩、野菜摂取の増加、長時間労働の回避はいずれも危険因子の是正につながる一方、トランス脂肪酸はLDLコレステロールを上げHDLコレステロールを下げるため、摂取を増やすことはリスクを高めます。脂肪酸は飽和脂肪酸・トランス脂肪酸を控え、n-3系多価不飽和脂肪酸(EPA・DHA)や一価不飽和脂肪酸を活用するという整理が重要です。「不飽和だから体にいい」という思い込みを避け、各行動が危険因子にどう作用するかを理解しておくことは、試験対策だけでなく日常診療での生活指導にも直結します。

解答・解説

正解はeです

冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患)の本態は、冠動脈に生じる粥状動脈硬化(アテローム硬化)である。したがって一次予防(発症そのものを防ぐこと)の中心は、動脈硬化を進める危険因子を減らすことにある。 日本人で重視される冠危険因子には、脂質異常症(特に高LDLコレステロール血症)、高血圧、糖尿病、喫煙、肥満・メタボリックシンドローム、慢性腎臓病(CKD)、冠動脈疾患の家族歴、加齢・男性、そして職業性ストレスなどの心理社会的要因が挙げられる。 本問では、これらの危険因子を「減らす方向」に働く行動か、「増やす方向」に働く行動かを一つずつ判断すればよい。禁煙・減塩・野菜摂取の増加・長時間労働の回避はいずれも危険因子の是正につながるが、トランス脂肪酸はLDLコレステロールを上げHDLコレステロールを下げるため、その摂取を増やすことはリスクを高める。設問は「適切でないもの」を問うているので、トランス脂肪酸摂取の増加を選ぶ。

選択肢考察

  1. ×a.  禁煙

    喫煙は冠動脈疾患の主要な危険因子である。たばこ煙は血管内皮を障害し、酸化ストレスの増大、LDLの酸化、HDLコレステロールの低下、血小板凝集能の亢進、冠攣縮の誘発などを通じて動脈硬化と血栓形成を促す。禁煙すると冠動脈疾患のリスクは比較的早期から低下し始めるため、リスク低減行動として適切である。受動喫煙の回避も同様に重要である。

  2. ×b.  減塩

    食塩の過剰摂取は高血圧の大きな原因であり、高血圧は冠動脈疾患の主要な危険因子である。減塩により血圧が下がり、血管壁にかかる負担が軽くなることで動脈硬化の進行が抑えられる。日本高血圧学会は高血圧患者に1日6g未満の食塩摂取を推奨しており、リスク低減行動として適切である。

  3. ×c.  野菜摂取の増加

    野菜にはカリウム(ナトリウムの排泄を促し血圧を下げる方向に働く)、食物繊維(腸管でのコレステロール吸収を抑え、食後高血糖を緩やかにする)、抗酸化物質などが豊富に含まれる。このため野菜摂取を増やすことは高血圧・脂質異常症・糖尿病・肥満の予防や改善に役立ち、冠動脈疾患の発症リスク低下と関連する。リスク低減行動として適切である。

  4. ×d.  長時間労働の回避

    長時間労働や職場の慢性的なストレスは、交感神経の持続的な緊張による血圧上昇、睡眠不足、喫煙・過食・運動不足といった不健康な生活習慣の誘発などを介して、冠動脈疾患のリスクを高めると考えられている。虚血性心疾患の一次予防に関するガイドラインでも、職業性ストレスなどの精神保健上の問題が危険因子の一つに挙げられている。いわゆる過労死の主要な病態にも虚血性心疾患が含まれる。したがって長時間労働の回避はリスク低減行動として適切である。

  5. ○e.  トランス脂肪酸摂取の増加

    トランス脂肪酸は、主に植物油の部分水素添加(マーガリン、ショートニング、一部の揚げ物用油や菓子類など)の過程で生じる不飽和脂肪酸である。摂取するとLDLコレステロールが上昇し、さらにHDLコレステロールが低下するため、冠動脈疾患のリスクを高めることが多くの研究で示されている。動脈硬化性疾患予防ガイドラインでも工業由来のトランス脂肪酸は摂取を控えるよう推奨されている。摂取を増やすことはリスク低減行動とはいえず、本問の正解(適切でないもの)である。

動脈硬化性疾患予防のための生活習慣改善(日本動脈硬化学会の推奨の要点)

・禁煙し、受動喫煙を避ける ・過食を避け、適正体重を維持する ・肉の脂身、動物性脂肪(飽和脂肪酸)、工業由来のトランス脂肪酸の摂取を控える ・魚(n-3系多価不飽和脂肪酸:EPA・DHA)、野菜、果物、未精製穀類、大豆・大豆製品の摂取を増やす ・食物繊維の摂取を増やす ・減塩する ・アルコールの過剰摂取を控える ・中等度以上の有酸素運動を日常的に行う

脂肪酸の種類と血清脂質への影響

・飽和脂肪酸(肉の脂身、バター、乳脂肪など):LDLコレステロールを上昇させる ・トランス脂肪酸(部分水素添加油脂由来):LDLコレステロールを上昇させ、HDLコレステロールを低下させる。飽和脂肪酸よりも冠動脈疾患リスクへの悪影響が大きいとされる。WHOは総エネルギー摂取量の1%未満に抑えることを勧告し、米国などでは部分水素添加油脂の食品への使用が規制されている ・n-3系多価不飽和脂肪酸(青魚に多いEPA・DHAなど):中性脂肪を低下させ、心血管イベントの抑制と関連する ・n-6系多価不飽和脂肪酸(リノール酸など)、一価不飽和脂肪酸(オレイン酸など):飽和脂肪酸と置き換えることでLDLコレステロールを低下させる

日本人の主な冠危険因子

脂質異常症、高血圧、糖尿病(耐糖能異常を含む)、喫煙、肥満・メタボリックシンドローム、慢性腎臓病、冠動脈疾患の家族歴、加齢・男性、精神的・社会的ストレス(職業性ストレスを含む)

POINT

・冠動脈疾患の一次予防は、動脈硬化の危険因子(脂質異常症、高血圧、糖尿病、喫煙、肥満、ストレスなど)を減らす行動である ・トランス脂肪酸はLDLコレステロールを上げ、HDLコレステロールを下げるため、摂取を控えるべき脂質である ・推奨される食習慣:減塩、野菜・果物・魚・食物繊維の摂取増加、飽和脂肪酸とトランス脂肪酸の制限 ・長時間労働などの職業性ストレスも冠動脈疾患の危険因子として扱われる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。