白から紫、そして赤へ―指先が語る全身性強皮症の早期サイン
第119回医師国家試験 A問題 第22問
国試問題にチャレンジ
56歳の女性。指先の蒼白化を主訴に来院した。3か月前から寒いところで指先が白くなることを自覚したため受診した。白くなった後は紫,その後に赤へと変化するという。体温36.2℃。脈拍72/分,整。血圧120/76mmHg。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。関節の腫脹や圧痛を認めない。手の写真(A,B)を下に示す。血液生化学所見:CK 121U/L(基準41~153)。免疫血清学所見:CRP 0.1mg/dL,抗核抗体640倍(基準20以下),リウマトイド因子〈RF〉86IU/mL(基準20未満),血清補体値(CH50)34U/mL(基準30~40),C3 88mg/dL(基準52~112),C4 36mg/dL(基準16~51)。爪郭部のダーモスコピー像(C)を下に示す。 診断はどれか。

- a.皮膚筋炎
- b.関節リウマチ
- c.全身性強皮症
- d.結節性多発動脈炎
- e.抗リン脂質抗体症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
寒冷で指先が白→紫→赤と変化するRaynaud現象は、中高年発症、抗核抗体陽性、指尖部の陥凹性瘢痕、爪郭毛細血管の異常を伴う場合、膠原病による二次性を疑います。手指の腫脹(puffy fingers)、指尖部陥凹性瘢痕、爪上皮出血点は全身性強皮症の微小血管障害と線維化を反映する早期所見で、分類基準の点数を積み上げると診断に至ります。リウマトイド因子は膠原病などで非特異的に陽性となるため、関節炎所見のない例では関節リウマチの根拠になりにくく、CK正常なら皮膚筋炎、炎症所見がなければ結節性多発動脈炎も考えにくくなります。強皮症はびまん型(抗Scl-70抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体)と限局型(抗セントロメア抗体)に分けられ、間質性肺疾患、肺高血圧症、腎クリーゼなどの内臓病変の評価が予後を左右します。Raynaud現象を診たら爪郭と指先を観察する習慣が、強皮症の早期診断への第一歩になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・56歳女性。3か月前から寒冷曝露で指先が白→紫→赤と色調変化する。これはRaynaud現象の典型的な三相性変化である(白:指動脈の攣縮による虚血、紫:静脈うっ血・チアノーゼ、赤:血流再開による反応性充血)。 ・バイタルは正常で発熱はない。関節の腫脹・圧痛はない。 ・手の写真A:手指全体がソーセージ様に腫れ、皮膚に光沢がある(手指の腫脹〈puffy fingers〉、浮腫性の皮膚硬化を示唆)。 ・手の写真B:指尖部に小さな陥凹性瘢痕(digital pitting scar)がみられる。指先の慢性虚血を反映する所見である。 ・爪郭部ダーモスコピー像C:爪上皮(甘皮)に点状〜線状の黒褐色の出血点(爪上皮出血点)が並び、毛細血管の異常(拡張など)がうかがえる。微小血管障害を示す。 ・CKは正常で筋炎を示す所見はない。CRP陰性で全身性炎症はない。 ・抗核抗体640倍と高力価陽性、RF 86IU/mLと陽性。補体(CH50、C3、C4)はいずれも正常。
診断へのプロセス
1. Raynaud現象+抗核抗体高力価陽性 → 膠原病を疑う。鑑別の候補は全身性強皮症のほか、全身性エリテマトーデス(SLE)、混合性結合組織病(MCTD)、多発性筋炎/皮膚筋炎、Sjögren症候群などである。 2. 手指の腫脹、指尖部の陥凹性瘢痕、爪上皮出血点・爪郭毛細血管異常は、いずれも全身性強皮症の微小血管障害と線維化の初期像として特徴的である。 3. CK正常・筋症状なしで皮膚筋炎、関節症状なし・CRP陰性で関節リウマチ、炎症所見なしで結節性多発動脈炎、補体正常でSLEはそれぞれ考えにくい。 4. 2013年の米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会(ACR/EULAR)分類基準に当てはめると、手指の腫脹(2点)、指尖部陥凹性瘢痕(3点)、爪郭毛細血管異常(2点)、Raynaud現象(3点)で計10点となり、分類の閾値である9点以上を満たす。 以上より全身性強皮症と診断する。RF陽性は全身性強皮症を含む膠原病の高γグロブリン血症に伴って非特異的にみられうるもので、診断と矛盾しない。
選択肢考察
- ×a. 皮膚筋炎
皮膚筋炎でもRaynaud現象(約3割)や抗核抗体陽性がみられ、爪囲紅斑や爪上皮出血点、爪郭毛細血管の異常を伴うことがある。しかし本例はCKが正常で筋力低下・筋痛の記載がなく、Gottron丘疹・徴候(手指関節伸側の角化性紅斑)やヘリオトロープ疹(上眼瞼の紫紅色浮腫性紅斑)など特徴的な皮疹もない。手指の腫脹と指尖部の陥凹性瘢痕は強皮症に特徴的であり、皮膚筋炎は考えにくい。なお、CKが上昇しない皮膚筋炎(無筋症性皮膚筋炎)も存在するが、その場合も特徴的皮疹が診断の手がかりとなる。
- ×b. 関節リウマチ
RF陽性ではあるが、関節リウマチの診断の中心は関節滑膜炎であり、本例には関節の腫脹・圧痛がなく、CRPも陰性で活動性の関節炎を示す所見がない。RFは関節リウマチに特異的ではなく、全身性強皮症・Sjögren症候群・SLEなどの膠原病、慢性肝疾患などの慢性感染症、さらには健常な高齢者でも陽性となりうる。関節リウマチにより特異的な抗CCP(環状シトルリン化ペプチド)抗体の記載もない。手の写真でも関節の変形や滑膜腫脹ではなく、指全体の腫脹と指尖部の瘢痕が主体である。
- ○c. 全身性強皮症
全身性強皮症は、微小血管障害・皮膚や内臓の線維化・自己免疫異常を三本柱とする疾患である。Raynaud現象は約9割にみられ、多くの例で初発症状となる。初期には手指が浮腫性に腫脹し(puffy fingers)、その後に皮膚硬化(手指硬化〈sclerodactyly〉)へと進む。指尖部の虚血は陥凹性瘢痕や潰瘍を残し、爪郭部では毛細血管の拡張・出血・脱落と爪上皮出血点がみられる。本例は三相性のRaynaud現象、手指の腫脹、指尖部陥凹性瘢痕、爪上皮出血点・爪郭毛細血管異常、抗核抗体高力価陽性がそろっており、全身性強皮症と診断できる。RF陽性も強皮症で非特異的に3割程度にみられるとされ、矛盾しない。
- ×d. 結節性多発動脈炎
結節性多発動脈炎(PAN)は中型動脈を主体とする壊死性血管炎で、発熱・体重減少などの全身症状、CRP上昇などの強い炎症反応、高血圧(腎動脈病変による)、多発単神経炎、皮膚では下肢の網状皮斑・皮下結節・潰瘍などを呈する。疾患特異的自己抗体はなくANCAも通常陰性である。本例は発熱がなくCRP陰性、血圧正常、神経症状もなく、所見は手指に限局した微小血管障害であり合致しない。
- ×e. 抗リン脂質抗体症候群
抗リン脂質抗体症候群は、抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインⅠ抗体)の存在下に動静脈血栓症や妊娠合併症(習慣流産など)を繰り返す疾患である。皮膚症状としては網状皮斑や下肢の潰瘍が多く、指趾の虚血・壊疽も起こりうるが、本例には血栓症の既往や妊娠合併症の記載がなく、手指の腫脹・爪郭毛細血管の拡張と出血といった強皮症に特徴的な微小血管障害の像とは異なる。
全身性強皮症の病型
・びまん皮膚硬化型(dcSSc):皮膚硬化が肘・膝より近位(体幹を含む)に及ぶ。発症後早期に急速に進行し、間質性肺疾患、強皮症腎クリーゼ(急激な高血圧と腎不全)などの内臓病変が多い。抗トポイソメラーゼⅠ(Scl-70)抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体(腎クリーゼと関連)が代表的。 ・限局皮膚硬化型(lcSSc):皮膚硬化は肘・膝より遠位と顔面に限られ、緩徐に進行する。長い経過で肺動脈性肺高血圧症を合併しうる。抗セントロメア抗体が代表的。
主な臨床所見
・皮膚:Raynaud現象、手指の腫脹→手指硬化、指尖部陥凹性瘢痕・潰瘍、仮面様顔貌、舌小帯の短縮、毛細血管拡張、皮膚の色素沈着・脱失、石灰沈着 ・肺:間質性肺疾患(死因として重要)、肺動脈性肺高血圧症 ・消化管:下部食道の蠕動低下による逆流性食道炎・嚥下障害、腸管の運動低下 ・腎:強皮症腎クリーゼ(ACE阻害薬が治療の中心。高用量の副腎皮質ステロイドは誘因となりうる) ・心:心筋線維化による不整脈・心不全
ACR/EULAR 2013分類基準(要点)
手指の皮膚硬化がMCP関節より近位に及べばそれだけで9点(分類可能)。それ以外は、手指の皮膚硬化(手指の腫脹2点、MCPより遠位の手指硬化4点のうち高い方)、指尖部病変(潰瘍2点、陥凹性瘢痕3点のうち高い方)、毛細血管拡張2点、爪郭毛細血管異常2点、肺動脈性肺高血圧症/間質性肺疾患2点、Raynaud現象3点、強皮症関連自己抗体(抗セントロメア抗体、抗Scl-70抗体、抗RNAポリメラーゼⅢ抗体)3点を合計し、9点以上で全身性強皮症と分類する。
爪郭毛細血管の観察
ダーモスコピーやキャピラロスコピーで爪郭部の毛細血管を観察すると、全身性強皮症では巨大毛細血管、出血、毛細血管の脱落・無血管野などがみられる。進行に応じて早期(early)、活動期(active)、後期(late)パターンに分類される。爪上皮出血点は肉眼やダーモスコピーで観察でき、全身性強皮症のほか皮膚筋炎・MCTDなどでもみられる。
Raynaud現象の整理
・一次性(Raynaud病):基礎疾患がなく、若年女性に多く、対称性で軽症、指尖潰瘍を残さず、爪郭毛細血管は正常。 ・二次性:全身性強皮症、MCTD、SLE、Sjögren症候群、皮膚筋炎、振動工具使用、閉塞性動脈疾患、薬剤(β遮断薬など)などに伴う。高齢発症、指尖潰瘍・瘢痕、爪郭毛細血管異常、自己抗体陽性があれば二次性を疑う。
膠原病と主な疾患標識抗体
・全身性強皮症:抗セントロメア抗体(限局型)、抗Scl-70抗体・抗RNAポリメラーゼⅢ抗体(びまん型) ・多発性筋炎/皮膚筋炎:抗ARS抗体(抗Jo-1抗体を含む。間質性肺疾患)、抗MDA5抗体(急速進行性間質性肺疾患)、抗TIF1-γ抗体(悪性腫瘍合併)、抗Mi-2抗体(典型的皮疹、治療反応性良好) ・関節リウマチ:抗CCP抗体 ・SLE:抗dsDNA抗体、抗Sm抗体 ・MCTD:抗U1-RNP抗体 ・抗リン脂質抗体症候群:ループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテインⅠ抗体 ・結節性多発動脈炎:疾患特異的自己抗体はない(ANCAは陰性)
POINT
・寒冷で指が白→紫→赤 → Raynaud現象。中高年発症、自己抗体陽性、指尖部の瘢痕・潰瘍、爪郭毛細血管異常があれば二次性を疑う。 ・手指の腫脹(puffy fingers)、指尖部陥凹性瘢痕、爪上皮出血点・爪郭毛細血管異常 → 全身性強皮症の早期所見。 ・ACR/EULAR 2013分類基準:Raynaud現象3点、陥凹性瘢痕3点、手指腫脹2点、爪郭毛細血管異常2点などの合計9点以上で分類。 ・RFは関節リウマチに特異的ではなく、膠原病や慢性炎症で非特異的に陽性となる。 ・抗セントロメア抗体は限局型、抗Scl-70抗体・抗RNAポリメラーゼⅢ抗体はびまん型と関連。
