腎臓は無事、まず何を出す?―SLE治療の「土台」ヒドロキシクロロキン
第120回医師国家試験 A問題 第59問
国試問題にチャレンジ
54歳の女性。顔面の皮疹と関節痛を主訴に来院した。4週間前から顔面の皮疹と手関節痛が出現し,徐々に増悪したため受診した。体温36.2℃。両頰部に紅斑を認める。硬口蓋に無痛性潰瘍を認める。両側の手関節に腫脹と圧痛を認める。尿所見に異常を認めない。血液所見:赤血球360万,Hb 11.6g/dL,白血球3,100,血小板17万。免疫血清学所見:CRP 0.4mg/dL,抗核抗体陽性,抗dsDNA抗体88IU/mL(基準12以下)。 この患者でまず開始すべき薬剤はどれか。
- a.リツキシマブ
- b.シクロフォスファミド
- c.ヒドロキシクロロキン
- d.ベリムマブ〈抗BAFF抗体〉
- e.ミコフェノール酸モフェチル
対話形式の解説
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医学生まとめ
蝶形紅斑、無痛性口腔潰瘍、関節炎、白血球減少に抗核抗体・抗dsDNA抗体陽性がそろえばSLEを考え、活動期でもCRPが上がりにくい点も特徴です。SLEの治療は障害臓器と重症度で選び、腎・中枢神経などの重要臓器病変がない皮膚・関節中心の例では、ヒドロキシクロロキンを基本に少量〜中等量のステロイドを必要に応じて併用します。ヒドロキシクロロキンは禁忌がなければ全SLE患者に推奨される基本薬で、再燃予防や生命予後の改善が示されている一方、網膜症のため定期的な眼科検査が欠かせません。シクロホスファミドやミコフェノール酸モフェチルはループス腎炎・中枢神経ループスなど重症臓器病変の寛解導入に、ベリムマブなどの生物学的製剤は既存治療で効果不十分な場合に用います。「臓器と重症度で治療を階段状に選ぶ」という考え方は、膠原病診療全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・54歳女性、4週間前からの顔面皮疹と手関節痛が徐々に悪化。 ・両頰部の紅斑:蝶形紅斑(急性皮膚エリテマトーデス)を考える。 ・硬口蓋の無痛性潰瘍:SLEに特徴的な口腔潰瘍(痛みがないため本人が気づかないことも多い)。 ・両手関節の腫脹・圧痛:関節炎。 ・白血球3,100/μLと減少(4,000未満)、Hb 11.6g/dLと軽度貧血。血小板は正常。 ・CRP 0.4mg/dLと炎症所見は軽度。SLEでは活動期でもCRPが上がりにくいのが特徴である(漿膜炎や感染症合併時は上昇しやすい)。 ・抗核抗体陽性、抗dsDNA抗体高値(SLEに特異度の高い自己抗体)。 ・尿所見異常なし:ループス腎炎を示唆する蛋白尿・血尿はない。発熱もなく、中枢神経症状・漿膜炎・高度の血球減少の記載もない。
診断
2019年EULAR/ACR分類基準では、抗核抗体陽性を入口条件とし、各項目の重み付け点数の合計が10点以上でSLEと分類する。本例は急性皮膚ループス(6点、口腔潰瘍2点は同じ領域のため高い方のみ算入)、関節病変(6点)、白血球減少(3点)、抗dsDNA抗体(6点)で計21点となり、SLEと診断できる。関節炎と皮疹からは関節リウマチ、皮膚筋炎、血管炎なども鑑別に挙がるが、抗dsDNA抗体陽性を含めた全体像を説明できるのはSLEである。
治療の考え方
SLEの治療は、障害されている臓器と重症度によって選ぶ。本例は皮膚・粘膜・関節症状と軽度の血球減少が中心で、腎・中枢神経などの重要臓器病変はない軽症~中等症のSLEである。このような例では、ヒドロキシクロロキン(HCQ)を基本薬として開始し、症状に応じて少量~中等量のグルココルチコイドを短期間併用するのが標準的である。HCQは重症度にかかわらず、禁忌がなければすべてのSLE患者に推奨される基礎治療薬であり、再燃予防・臓器障害の抑制・生命予後の改善が示されている。一方、シクロホスファミド・ミコフェノール酸モフェチル・生物学的製剤は、ループス腎炎などの重要臓器病変や、既存治療で効果不十分な場合に用いる薬である。
選択肢考察
- ×a. リツキシマブ
誤り。リツキシマブはB細胞表面のCD20に対するモノクローナル抗体で、B細胞を除去する。SLEでは既存の治療(グルココルチコイド・免疫抑制薬)に抵抗性の難治例や重症例で検討されることがある薬であり、わが国ではSLEへの適応も承認されていない。重要臓器病変のない本例で最初に使う薬ではない。
- ×b. シクロフォスファミド
誤り。シクロホスファミドはアルキル化薬の免疫抑制薬で、静注パルス療法(IVCY)として、重症のループス腎炎(ISN/RPS分類III・IV型など)や中枢神経ループス(NPSLE)、重篤な血管炎などの臓器・生命を脅かす病態の寛解導入に用いる。骨髄抑制、出血性膀胱炎、性腺障害(卵巣機能不全)、発癌などの副作用があり、尿所見正常で重要臓器病変のない本例には適応がない。
- ○c. ヒドロキシクロロキン
正しい。ヒドロキシクロロキンは抗マラリア薬で、抗原提示細胞のエンドソーム内pHを上げてToll様受容体(TLR7・9)を介した自然免疫の活性化や抗原提示を抑えると考えられている。皮膚ループス・関節症状・倦怠感などに有効で、再燃の予防、臓器障害の進行抑制、血栓症リスクの低下、生命予後の改善が示されており、禁忌がなければすべてのSLE患者に推奨される基本薬である。皮膚・粘膜・関節症状が中心の本例でまず開始すべき薬剤である。副作用として網膜症(ブルズアイ黄斑症)があり、開始前と定期的な眼科検査が必要である。用量は実体重ではなく理想体重に基づいて決める。
- ×d. ベリムマブ〈抗BAFF抗体〉
誤り。ベリムマブはB細胞の生存・分化を促すサイトカインBAFF(B cell activating factor、別名BLyS)に対するモノクローナル抗体である。わが国では既存治療で効果不十分なSLEに用いる薬として位置づけられ、ループス腎炎への上乗せ効果も示されている。最初から開始する薬ではない。
- ×e. ミコフェノール酸モフェチル
誤り。ミコフェノール酸モフェチル(MMF)はプリン合成酵素IMPDH(イノシン一リン酸脱水素酵素)を阻害してリンパ球の増殖を抑える免疫抑制薬である。SLEではループス腎炎の寛解導入・維持療法の中心的な薬で、グルココルチコイドを減らすための併用薬として難治例にも用いられる。催奇形性があり妊娠中は禁忌である。腎病変のない軽症の本例で最初に選ぶ薬ではない。
SLEの治療の全体像(重症度・臓器別)
・基本薬:ヒドロキシクロロキンを禁忌がなければ全例に用いる。紫外線防御(遮光)も指導する。 ・軽症(皮膚・関節・軽度の血球減少など):HCQ+必要に応じ少量のグルココルチコイド、NSAIDs(関節痛)、外用ステロイド(皮疹)。 ・中等症~重症、ステロイド減量困難例:グルココルチコイドに免疫抑制薬(アザチオプリン、MMF、タクロリムスなど)を併用。効果不十分なら生物学的製剤(ベリムマブ、アニフロルマブ〔Ⅰ型インターフェロン受容体抗体〕)を追加する。 ・重症臓器病変(ループス腎炎III・IV型、中枢神経ループスなど):ステロイドパルスを含むグルココルチコイド+MMFまたはシクロホスファミド静注で寛解導入。 ・近年の治療指針では、グルココルチコイドは長期の副作用(骨粗鬆症、無腐性骨壊死、感染、糖尿病など)を避けるため、維持期にはできるだけ減量・中止(プレドニゾロン換算で1日5mg以下を目標)することが推奨されている。
SLEの分類基準(2019年EULAR/ACR)
入口条件:抗核抗体80倍以上(またはそれに相当する陽性)。 臨床領域:全身症状(発熱)、血液(白血球減少、血小板減少、自己免疫性溶血)、精神神経(せん妄、精神病、痙攣)、皮膚粘膜(脱毛、口腔潰瘍、亜急性皮膚ループス・円板状ループス、急性皮膚ループス)、漿膜(胸水・心嚢液、急性心膜炎)、筋骨格(関節病変)、腎(蛋白尿、腎生検でのループス腎炎)。 免疫領域:抗リン脂質抗体、補体低下(C3・C4)、SLE特異抗体(抗dsDNA抗体、抗Sm抗体)。 各領域で最も高い点数のみを算入し、合計10点以上かつ臨床項目を1つ以上満たせばSLEと分類する。
ヒドロキシクロロキンの注意点
・網膜症:長期・高用量で発症リスクが上がる。開始時と、その後は定期的(リスクに応じ年1回程度)に眼科でスクリーニングを行う。 ・その他:皮疹、消化器症状、まれに心筋症、低血糖など。 ・妊娠中も継続可能で、むしろ継続により再燃を防ぐことが推奨されている。
POINT
・蝶形紅斑+無痛性口腔潰瘍+関節炎+白血球減少+抗核抗体・抗dsDNA抗体陽性→SLE。CRPは上がりにくい。 ・SLEの治療は臓器病変と重症度で選ぶ。 ・ヒドロキシクロロキンは禁忌がなければ全SLE患者に使う基本薬。特に皮膚・関節症状中心の軽症例の第一選択。網膜症の眼科チェックが必須。 ・シクロホスファミド、MMFはループス腎炎・中枢神経ループスなど重症臓器病変の寛解導入薬。 ・ベリムマブ(抗BAFF抗体)、アニフロルマブなどの生物学的製剤は既存治療で効果不十分な場合に追加する。リツキシマブは難治例で検討される(国内ではSLEに適応外)。
