生後2週の超低出生体重児に血便―門脈に走るガスが告げる壊死性腸炎
第120回医師国家試験 A問題 第60問
国試問題にチャレンジ
日齢15の男児。NICU入院中に看護師が血便に気付いたため医師に報告した。在胎26週,前期破水のために緊急帝王切開で出生した。出生後すぐに気管挿管され,保育器内で人工呼吸管理を行われていた。栄養は人工乳を経鼻胃管から注入され,排便も1日2回はみられていた。今朝,経鼻胃管から胆汁を混じた胃液が10mL吸引された。身長32cm,体重830g。体温37.2℃。心拍数180/分,整。血圧46/24mmHg。呼吸数40/分(呼吸器設定:換気回数40/分,FIO2 0.25)。SpO2 96%。腹部膨隆を認め,腫瘤は触知せず,腹壁の色は暗赤色であった。血液所見:赤血球317万,Hb 12.1g/dL,Ht 37%,血小板12万。静脈血ガス分析:pH 7.17,PCO2 55 Torr,HCO3- 20mEq/L。胸腹部エックス線写真を下に示す。 最も考えられる疾患はどれか。

- a.腸重積症
- b.壊死性腸炎
- c.空腸閉鎖症
- d.胎便性腹膜炎
- e.Hirschsprung病
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
医学生
ドクターまとめ
早産・低出生体重児が人工乳による経腸栄養中の生後2〜3週に、胃残の増加、腹部膨満、血便を呈した場合は新生児壊死性腸炎(NEC)を考えます。腹部エックス線の腸管壁内ガスは診断の決め手、門脈内ガスは重症化、腹腔内遊離ガスは穿孔を示し、腹壁の暗赤色調、血小板減少、代謝性アシドーシスも進行のサインです。腸閉鎖症・胎便性腹膜炎・Hirschsprung病は出生直後から、腸重積症は乳幼児期に好発するため、発症時期と背景で鑑別できます。治療は絶食・胃管減圧・広域抗菌薬・循環管理が基本で、穿孔や内科的治療抵抗例では手術を行い、母乳栄養は予防因子として重要です。「誰に・いつ起きたか」で新生児の消化管疾患を整理する視点は、NICUでの早期発見に直結します。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・背景:在胎26週で出生した早産児、体重830gの超低出生体重児(出生体重1,000g未満)。前期破水・緊急帝王切開で出生し、生直後から人工呼吸管理中。栄養は人工乳(母乳ではない)を経鼻胃管から注入している。日齢15まで経腸栄養が進み、排便も1日2回あった。 ・発症:血便の出現、経鼻胃管から胆汁を混じた胃内容(胆汁性胃残)10mLの吸引。体重830gの児にとって10mLは注入量に比して多い残渣であり、消化管の通過・蠕動が障害されていることを示す。 ・身体所見:腹部膨隆、腹壁の暗赤色調(腹壁の発赤・変色は腸管壊死や腹膜炎が腹壁に及んでいることを示唆する)。腫瘤は触れない。心拍数180/分と頻脈で、血圧も低めであり、循環が不安定になりつつある。 ・検査:血小板12万/μLと軽度低下。静脈血ガスはpH 7.17と酸血症で、PCO2 55 Torrの上昇(呼吸性アシドーシス)に加え、HCO3⁻ 20 mEq/Lの低下(代謝性アシドーシス)を伴う混合性アシドーシスである。PCO2の上昇は腹部膨満による横隔膜挙上で換気が妨げられていることを反映し、代謝性アシドーシスは腸管虚血・敗血症による組織低灌流を反映する。 ・胸腹部エックス線写真:腸管ガスが腹部全体に拡張し、腸管壁の輪郭が厚く不整にみえる。肝臓の領域(右上腹部)に肝門部から辺縁に向かう枝分かれした細い線状の透亮像があり、門脈内ガスと考えられる。腸管壁内ガス(壁に沿った泡沫状・線状の透亮像)の存在も疑われる。
診断に至るプロセス
超低出生体重の早産児が、人工乳による経腸栄養開始後の生後2~3週に、胆汁性胃残・腹部膨満・血便という消化器症状を急に呈し、全身状態の悪化(頻脈、アシドーシス、血小板減少)を伴っている。これは新生児壊死性腸炎(necrotizing enterocolitis:NEC)の典型像である。エックス線での門脈内ガスと腸管拡張はNECの診断を強く支持する所見であり、腹壁の暗赤色調は腸管壊死の進行を示唆する。 日齢15まで経腸栄養と排便が問題なく行えていたことから、出生直後から症状が出る先天的な腸閉塞性疾患(腸閉鎖症、胎便性腹膜炎、Hirschsprung病)は考えにくい。また腸重積症は超低出生体重児の新生児期には極めてまれである。
選択肢考察
- ×a. 腸重積症
誤り。腸重積症は生後3か月~2歳ころの乳幼児、特に1歳前後に好発し、間欠的な不機嫌(腹痛)、嘔吐、イチゴゼリー状の粘血便が三徴で、右上腹部にソーセージ様の腫瘤を触れる。超音波で標的像(target sign)を示す。新生児期、とくに超低出生体重児での発症は極めてまれで、本例では腫瘤も触れない。エックス線の門脈内ガスや腹壁の暗赤色調も説明できない。
- ○b. 壊死性腸炎
正しい。NECは主に早産・低出生体重児に起こる腸管の虚血性・炎症性壊死である。本例は在胎26週・830gの超低出生体重児で、人工乳による経腸栄養中という発症リスクを備え、発症時期も生後2~3週と典型的である。胆汁性胃残、腹部膨満、血便、腹壁の暗赤色調、頻脈、混合性アシドーシス、血小板減少がそろい、エックス線で腸管拡張と門脈内ガスを認めることからNECと診断できる。門脈内ガスを認める段階は修正Bell分類でStage IIB以上に相当し、全身状態の悪化を伴う進行例である。
- ×c. 空腸閉鎖症
誤り。空腸閉鎖症は先天的に空腸の内腔が途絶している疾患で、通常は生後1~2日以内に胆汁性嘔吐と上腹部膨満で発症し、胎便排泄がないか少ない。エックス線では閉鎖部より口側の数個の拡張腸管(triple bubble signなど)と、それより肛門側のガス欠如を示す。日齢15まで経腸栄養が進み、1日2回の排便があった本例とは合わない。
- ×d. 胎便性腹膜炎
誤り。胎便性腹膜炎は胎児期に腸管が穿孔し、漏れ出た胎便が無菌性の化学性腹膜炎を起こす疾患である(腸閉鎖症や胎便性イレウスなどが原因となる)。出生前の超音波で腹水や腹腔内石灰化として見つかることが多く、出生直後から腹部膨満や嘔吐を呈し、エックス線で腹腔内の石灰化像を認めるのが特徴である。日齢15まで順調に経過してから発症した本例とは経過が異なり、石灰化の所見もない。
- ×e. Hirschsprung病
誤り。Hirschsprung病は神経堤細胞の遊走障害により、直腸から口側に連続して腸管壁内神経節細胞が欠如し、その部分が蠕動できずに機能的な腸閉塞を起こす疾患である。胎便排泄遅延(生後24~48時間以降)、便秘、腹部膨満、胆汁性嘔吐で発症することが多い。合併症として腸炎(Hirschsprung病関連腸炎)を起こすことはあるが、本例は日齢15まで排便が保たれており、超低出生体重児での発症リスクや門脈内ガスなどの全体像からはNECの方がはるかに考えやすい。
新生児壊死性腸炎(NEC)の概要
・好発:早産児・低出生体重児(特に在胎32週未満、極低出生体重児)。在胎週数が短いほど発症時期は遅く、生後2~3週ごろに多い。 ・病態:腸管の未熟性(バリア機能・免疫・蠕動の未熟)、腸内細菌叢の異常、腸管の虚血・低灌流、経腸栄養(特に人工乳)が重なり、腸粘膜の傷害から細菌が侵入して腸管壁の炎症・壊死に至る。回腸末端~上行結腸が好発部位である。 ・危険因子:早産・低出生体重、人工乳栄養、急速な栄養の増量、新生児仮死、動脈管開存症、多血症、交換輸血、臍カテーテル留置など。母乳栄養は予防的に働く。 ・症状:胃残の増加(胆汁性のことも)、腹部膨満、血便、嘔吐、腹壁の発赤・変色。全身症状として無呼吸・徐脈、体温不安定、哺乳不良、ショック。 ・検査:腹部エックス線で腸管拡張、腸管壁内ガス(pneumatosis intestinalis、確定的所見)、門脈内ガス(重症のサイン)、腸管穿孔時は腹腔内遊離ガス(仰臥位でのfootball sign、側臥位での遊離ガスなど)。血液検査では血小板減少、代謝性アシドーシス、CRP上昇、DICなど。
修正Bell分類(重症度)
・Stage I(疑い):体温不安定・無呼吸などの非特異的全身症状、胃残増加、軽度腹部膨満、便潜血。エックス線は正常~軽度の腸管拡張。 ・Stage II(確診):IIAは腸管壁内ガスを伴う軽症、IIBは門脈内ガス(±腹水)を伴い、軽度の代謝性アシドーシスや血小板減少などを呈する中等症。 ・Stage III(進行):IIIAは腸管穿孔はないが低血圧・高度アシドーシス・DICなど重篤な全身状態、IIIBは腸管穿孔(腹腔内遊離ガス)を伴う。
治療
・内科的治療:絶食、胃管による減圧、輸液・循環管理、広域抗菌薬の投与、血小板減少・凝固障害の補正。 ・外科的治療:腸管穿孔(遊離ガス)や、内科的治療に反応しない全身状態の悪化・腸管壊死が疑われる場合に、開腹による壊死腸管切除・腸瘻造設や、腹腔ドレナージを行う。 ・後遺症:腸管狭窄、短腸症候群、神経発達障害など。
新生児期の消化管疾患の発症時期の目安
・出生直後~数日:腸閉鎖症、腸回転異常症(中腸軸捻転)、胎便性腹膜炎、胎便性イレウス、Hirschsprung病 ・生後2~3週(早産児):NEC ・乳児期(3か月~2歳):腸重積症
POINT
・早産・超低出生体重児+人工乳栄養中+生後2~3週に胃残増加・腹部膨満・血便→新生児壊死性腸炎(NEC)を考える。 ・エックス線で腸管壁内ガスは診断の決め手、門脈内ガスは重症化、腹腔内遊離ガスは穿孔を示す。 ・腹壁の発赤・暗赤色調、血小板減少、代謝性アシドーシスは進行・重症化のサイン。 ・治療は絶食・胃管減圧・広域抗菌薬・循環管理。穿孔や内科的治療抵抗例は手術。 ・母乳栄養はNECの予防因子。 ・発症時期で鑑別:腸閉鎖症・胎便性腹膜炎・Hirschsprung病は出生直後から、腸重積症は乳幼児期。
