胃瘻は「おなかに開いた消化管の出口」―入浴も、口から食べることも諦めなくていい
第120回医師国家試験 A問題 第61問
国試問題にチャレンジ
82歳の男性。悪心と嘔吐を主訴に来院した。3か月前に胸部中部食道癌と診断されたが,積極的な治療を希望しなかった。1か月前から食物のつかえ感を自覚している。5日前から悪心があり,急いで食べると嘔吐するようになった。喫煙は20本/日を60年間。飲酒は焼酎2合/日を62年間。意識は清明。身長170cm,体重55kg。体重は1か月で2kg減少した。脈拍68/分,整。血圧126/58mmHg。呼吸数12/分。血液所見:赤血球318万,Hb 10.6g/dL,Ht 32%,白血球6,800,血小板24万。血液生化学所見:総蛋白6.8g/dL,アルブミン3.8g/dL,総ビリルビン0.6mg/dL,直接ビリルビン0.4mg/dL,AST 24U/L,ALT 18U/L,LD 188U/L(基準124~222),尿素窒素22mg/dL,クレアチニン0.8mg/dL,Na 134mEq/L,K 4.2mEq/L,Cl 98mEq/L。CRP 1.0mg/dL。胸腹部造影CTでは,遠隔リンパ節転移や他臓器転移はなかった。気管支や大動脈浸潤も認めなかった。上部消化管内視鏡検査では食道癌が増大し,経鼻内視鏡がかろうじて通過できるほどの強い狭窄を認めた。6か月以上の予後が予想されたため,経皮内視鏡的胃瘻造設術を施行した。造設されたボタン型胃瘻カテーテルの外観を下に示す。今後の胃瘻管理について,栄養サポートチーム〈NST〉にコンサルテーションを行った。 正しいのはどれか。

- a.入浴は可能である。
- b.経口摂取は禁止する。
- c.経腸栄養剤の注入は無菌操作で行う。
- d.経腸栄養剤は開封後数日間使用してよい。
- e.瘻孔周囲は毎日ポビドンヨードで消毒する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクター
医学生
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ドクター
医学生
ドクターまとめ
胃瘻は胃壁と腹壁が癒着してできた瘻孔で、腹腔ではなく胃内と体表をつなぐ「消化管の出口」です。そのため瘻孔が安定していればカテーテルを覆わずに入浴でき、周囲皮膚は消毒薬ではなく石鹸と微温湯で洗って乾燥させるのが基本です。消化管内はもともと無菌ではないので栄養剤の注入は清潔操作で十分ですが、経腸栄養剤は細菌が増えやすいため開封後は速やかに、冷蔵でも24時間以内に使い切ります。胃瘻造設後も誤嚥に注意しながら経口摂取を続けることはQOLの維持に役立ち、カテーテルの回転やストッパーの遊びの確保でバンパー埋没症候群を防ぐことも大切です。「どこに通じる穴か」から管理法を導く考え方は、人工肛門など他の瘻管理にも応用でき、在宅医療や多職種連携の場面で必ず役立ちます。
解答・解説
正解はaです
症例の整理
・82歳男性。3か月前に胸部中部食道癌と診断されたが、積極的治療(手術・化学放射線療法など)は希望しなかった。 ・1か月前から食物のつかえ感(嚥下困難)、5日前から悪心があり、急いで食べると嘔吐する。腫瘍の増大による食道狭窄で、食物が通過しにくくなっている。 ・長期の喫煙(20本/日×60年)と大量飲酒は、食道扁平上皮癌の代表的な危険因子である。 ・体重55kg(BMI約19)、1か月で2kgの体重減少。Hb 10.6g/dLの貧血があり、MCV(Ht÷赤血球数)は約100fLと軽度大球性で、飲酒の影響が考えられる。アルブミン3.8g/dLは保たれているが、経口摂取量の低下が進みつつある。BUN/Cr比の上昇(22/0.8)は経口摂取不足による軽度脱水を示唆する。 ・CTで遠隔転移や気管支・大動脈浸潤はなく、内視鏡では経鼻内視鏡がやっと通るほどの高度狭窄。6か月以上の予後が見込まれるため、栄養ルートとして経皮内視鏡的胃瘻造設術(percutaneous endoscopic gastrostomy:PEG)が行われた。 ・写真:腹壁に接して固定されたボタン型胃瘻カテーテル(蓋付きの接続口)が写っている。周囲皮膚に発赤・びらん・浸出液・肉芽などの異常はみられない。
設問の考え方
問われているのは、造設後の胃瘻の日常管理である。押さえるべき原則は次の通りである。 ・胃瘻は「消化管の出口を体表に作ったもの」であり、消化管内はもともと無菌ではない。したがって栄養剤の注入は清潔操作で十分で、無菌操作は不要である。 ・瘻孔が完成した胃瘻の周囲皮膚は、消毒ではなく洗浄(石鹸と微温湯)で清潔と乾燥を保つ。 ・瘻孔が安定していれば、入浴や日常生活の制限は基本的にない。 ・胃瘻を造設しても、誤嚥のリスクを評価したうえで食べられる範囲の経口摂取は続けてよい。 ・経腸栄養剤は栄養豊富で細菌が増えやすいため、開封後は速やかに使い切る。 これらに照らすと、正しいのは入浴が可能であることである。
選択肢考察
- ○a. 入浴は可能である。
正しい。胃瘻は胃壁と腹壁が癒着して瘻孔(トンネル)が形成されており、お湯が腹腔内に入ることはない。瘻孔が安定すれば、カテーテルをビニールなどで覆わずにそのまま入浴やシャワーができ、入浴時に瘻孔周囲を石鹸で洗うことがそのままスキンケアになる。入浴後は水分をよく拭き取って乾燥させる。なお、造設直後で瘻孔がまだ完成していない時期(施設により1~2週間程度)は、シャワー浴から始めるなど慎重に進めることが多い。本例の写真では瘻孔周囲に異常所見はなく、入浴を制限する理由はない。
- ×b. 経口摂取は禁止する。
誤り。胃瘻を造設したからといって経口摂取を一律に禁止する必要はない。本例の狭窄は高度だが完全閉塞ではなく(経鼻内視鏡は通過する)、嚥下機能も保たれていると考えられる。誤嚥や嘔吐に注意しながら、水分やとろみ食・流動食などを楽しみとして少量ずつ口から摂ることは可能で、生活の質(QOL)の維持にもつながる。不足分を胃瘻で補うという考え方である。
- ×c. 経腸栄養剤の注入は無菌操作で行う。
誤り。経腸栄養剤は消化管内に注入するものであり、消化管内はもともと常在菌が存在する環境である。血管内に直接入れる静脈栄養とは異なり、無菌操作は不要で、手洗いと器具の清潔を保つ清潔操作で十分である。ただし、栄養剤や器具の細菌汚染は下痢や感染の原因となるため、使用後の接続チューブや注入用ボトルは洗浄・乾燥させ、定期的に交換する。
- ×d. 経腸栄養剤は開封後数日間使用してよい。
誤り。経腸栄養剤は糖質・蛋白質・脂質を豊富に含み、開封すると細菌が増殖しやすい。汚染された栄養剤は下痢や腸炎、敗血症の原因となる。開封後は速やかに使用し、使い切れなかった分は冷蔵保存して24時間以内に使い切るのが一般的な原則である。室温で容器に移して投与する場合は、長時間(目安として8時間程度を超えて)つり下げたままにしない。
- ×e. 瘻孔周囲は毎日ポビドンヨードで消毒する。
誤り。瘻孔が完成した胃瘻周囲の皮膚は、毎日、石鹸を泡立てて微温湯で洗い、よく乾かして清潔を保つのが基本である。ポビドンヨードなどの消毒薬を毎日使うと、皮膚の常在菌叢やバリア機能を損ない、かぶれ(接触皮膚炎)や創傷治癒の遅れを招くため、ルーチンの消毒は不要である。発赤・腫脹・排膿など感染徴候がある場合に個別に対応する。
胃瘻の種類
胃内の固定具と体外の形状の組み合わせで4種類に分けられる。 ・胃内固定具:バンパー型(抜けにくく交換間隔が長い。目安は4~6か月ごと)、バルーン型(蒸留水で膨らませる。交換が容易だが破損しやすく、1~2か月ごとに交換。バルーン水の定期確認が必要)。 ・体外の形状:ボタン型(体表に出る部分が小さく、自己抜去されにくく目立たない。注入時に接続チューブをつなぐ)、チューブ型(チューブが体外に出ており接続しやすいが、引っかけやすい)。 本例の写真はボタン型である。
日常管理のポイント
・スキンケア:石鹸と微温湯で洗浄し乾燥。ガーゼは浸出液がなければ不要。 ・カテーテルの回転:1日1回程度、ボタン(またはチューブ)を回転させ、上下に少し動くことを確認する。外部ストッパーの締め付けが強すぎると、胃粘膜内に内部ストッパーが埋もれるバンパー埋没症候群や、皮膚の圧迫壊死の原因となる。体表と外部ストッパーの間に1~1.5cm程度の遊び(あそび)を持たせる。 ・注入時の体位:誤嚥性肺炎や胃食道逆流を防ぐため、注入中と注入後しばらくは上半身を30~90度挙上する。 ・注入後:カテーテル内をぬるま湯でフラッシュし、閉塞を防ぐ。薬剤は簡易懸濁法などで溶かして注入する。 ・合併症:瘻孔周囲炎、不良肉芽、栄養剤の漏れ、事故(自己)抜去、バンパー埋没症候群、下痢、誤嚥性肺炎など。事故抜去されると瘻孔は数時間で狭くなり始めるため、早急に再挿入する必要がある。
経腸栄養と静脈栄養の選択
消化管が使える場合は経腸栄養を優先する(腸管粘膜の萎縮防止、バクテリアルトランスロケーションの予防、カテーテル関連血流感染がない、生理的で安価)。経腸栄養が4週間以上にわたって必要と見込まれる場合は、経鼻胃管よりも胃瘻などの消化管瘻が勧められる。悪性狭窄による嚥下障害には、予後が短く早期に経口摂取を回復させたい場合は食道ステント留置が選ばれることもある。
栄養サポートチーム(NST)
医師・看護師・管理栄養士・薬剤師・臨床検査技師・言語聴覚士などの多職種で構成され、栄養状態の評価、栄養投与ルート・投与量の提案、合併症対策を行う。
関連:人工肛門(ストーマ)の管理
ストーマも消化管が体表に開口したものであり、入浴は可能、ストーマ周囲は消毒ではなく洗浄、装具交換は清潔操作で行う、という点で胃瘻と同じ考え方が当てはまる。
POINT
・胃瘻は瘻孔が安定すれば、カテーテルを覆わずにそのまま入浴できる。 ・胃瘻造設後も、誤嚥に注意しながら可能な範囲で経口摂取を続けてよい。 ・経腸栄養剤の注入は清潔操作で十分(無菌操作は不要)。 ・経腸栄養剤は開封後細菌が増えやすく、冷蔵保存しても24時間以内に使い切る。 ・瘻孔周囲は消毒せず、石鹸と微温湯で洗浄して乾燥させる。 ・カテーテルは毎日回転させ、締め付けすぎによるバンパー埋没症候群を防ぐ。 ・ストーマ管理も同じ考え方(入浴可、消毒不要、清潔操作)。
