血友病と薬害エイズ―「非加熱」の二文字が奪ったもの
第119回医師国家試験 C問題 第27問
国試問題にチャレンジ
薬害エイズ事件で,医原性免疫不全症の原因となった非加熱濃縮血液製剤を用いて治療されていた疾患はどれか。
- a.血友病
- b.多発性骨髄腫
- c.無菌性髄膜炎
- d.成人T細胞白血病
- e.Creutzfeldt-Jakob病
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
薬害エイズ事件は、プール血漿から作られた非加熱濃縮凝固因子製剤にHIVが混入し、凝固因子補充を必要とする血友病患者に医原性のHIV感染とAIDS発症が多発した事件です。日本では約1,400人が感染し、加熱製剤の導入や非加熱製剤の回収の遅れが被害を拡大させました。関連する薬害として、サリドマイド事件、MMRワクチンによる無菌性髄膜炎、乾燥硬膜移植による薬害ヤコブ病、フィブリノゲン製剤などによる薬害肝炎、キノホルムによるスモンも押さえておきましょう。現在の血液製剤はNATやウイルス不活化処理、遺伝子組換え製剤などで安全性が高まっていますが、生物由来製品使用時の説明と記録保存が求められるのは、こうした歴史の教訓によるものです。薬害の歴史を知ることは、医薬品を安全に使う医師としての姿勢の土台になります。
解答・解説
正解はaです
テーマ
日本の代表的な薬害の一つである薬害エイズ事件の概要を問う問題である。
事件の概要
血友病は、血液凝固第VIII因子(血友病A)または第IX因子(血友病B)が先天的に欠乏・低下するX連鎖潜性(劣性)遺伝の出血性疾患で、関節内出血や筋肉内出血を繰り返す。治療の中心は不足している凝固因子の補充であり、1970〜80年代には多数の献血者(主に米国からの輸入血漿)の血漿をプールして凝固因子を濃縮した「濃縮血液製剤」が使われていた。 多人数の血漿を混ぜて作るため、一人でもウイルス保有者がいれば製剤全体が汚染されうる。当時の製剤は加熱などのウイルス不活化処理がされていない「非加熱」製剤であり、ヒト免疫不全ウイルス〈HIV〉が混入したまま血友病患者に投与された。その結果、日本では血友病患者を中心に約1,400人がHIVに感染し、多くが後天性免疫不全症候群〈AIDS〉を発症して亡くなった。米国では1983年に加熱製剤が承認されていたが、日本で加熱製剤が承認されたのは1985年であり、その後も非加熱製剤の回収が遅れたことが被害を拡大させた。1989年に患者らが国と製薬企業を提訴し、1996年に和解が成立している。
考え方
「非加熱濃縮血液製剤」=「凝固因子製剤」と結びつけば、凝固因子の補充を必要とする疾患である血友病が答えとわかる。
選択肢考察
- ○a. 血友病
血友病の止血・出血予防には凝固第VIII因子または第IX因子の補充が必要であり、当時はプール血漿由来の非加熱濃縮凝固因子製剤が広く用いられていた。この製剤にHIVが混入していたため、血友病患者に医原性のHIV感染(その結果としての免疫不全)が多発した。これが薬害エイズ事件である。現在の凝固因子製剤は、ドナーの核酸増幅検査〈NAT〉によるスクリーニングと加熱・溶媒/界面活性剤処理などのウイルス不活化・除去工程を経ており、さらに遺伝子組換え製剤や、第VIII因子の機能を代替する二重特異性抗体(エミシズマブ)も使われている。
- ×b. 多発性骨髄腫
多発性骨髄腫は形質細胞の腫瘍性増殖により単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)が産生される造血器腫瘍で、治療は化学療法、プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗体薬、自家造血幹細胞移植などである。凝固因子製剤による治療は行わず、薬害エイズ事件とは関係がない。なお、免疫調節薬のサリドマイドはかつて妊婦の服用で胎児の四肢欠損などを起こした薬害(サリドマイド事件)の原因薬であり、現在は厳格な管理下で多発性骨髄腫に用いられている。
- ×c. 無菌性髄膜炎
無菌性髄膜炎は、通常の細菌培養で病原体が検出されない髄膜炎で、多くはエンテロウイルスなどによるウイルス性髄膜炎である。血液製剤で治療する疾患ではなく、薬害エイズ事件とは無関係である。薬害との関連では、1989〜1993年に接種された新三種混合〈MMR〉ワクチンのおたふくかぜワクチン株による無菌性髄膜炎の多発(MMR薬害)が知られている。
- ×d. 成人T細胞白血病
成人T細胞白血病〈ATL〉はヒトT細胞白血病ウイルス1型〈HTLV-1〉感染を原因とするT細胞腫瘍である。HTLV-1は母乳、性的接触、細胞成分を含む輸血で感染するが、ATLの治療に濃縮凝固因子製剤は用いず、薬害エイズ事件とは関係がない。輸血によるHTLV-1感染は、1986年から献血血液の抗体スクリーニングが導入されたことで防がれている。
- ×e. Creutzfeldt-Jakob病
Creutzfeldt-Jakob病〈CJD〉は異常プリオン蛋白の蓄積により急速進行性の認知症、ミオクローヌス、無動性無言に至るプリオン病である。治療に血液製剤は用いず、薬害エイズ事件とは無関係である。ただし、脳外科手術で移植されたヒト乾燥硬膜を介して医原性CJDが発生した「薬害ヤコブ病」は、別の薬害事件として知られている。
日本の主な薬害
・サリドマイド事件(1960年代):睡眠薬・つわり止めとして妊婦が服用し、胎児の四肢欠損(アザラシ肢症)などが発生。 ・スモン(1950〜70年代):整腸剤キノホルムによる亜急性脊髄・視神経・末梢神経障害〈SMON〉。 ・薬害エイズ事件(1980年代):非加熱濃縮凝固因子製剤によるHIV感染。主な被害者は血友病患者。 ・薬害ヤコブ病:ヒト乾燥硬膜移植による医原性CJD。 ・薬害肝炎:フィブリノゲン製剤や血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎ウイルス感染。 ・MMRワクチン禍:おたふくかぜワクチン株による無菌性髄膜炎。
薬害エイズ事件の教訓と制度面の影響
・血液製剤はプール血漿から作るため、未知を含む病原体の混入リスクを常に伴うことが認識された。 ・国内自給の推進と安全確保を目的に「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」(血液法)が整備された。 ・医薬品副作用被害救済に加え、生物由来製品による感染被害を救済する「生物由来製品感染等被害救済制度」が創設された。 ・医療関係者には、生物由来製品(特定生物由来製品)使用時の患者への説明と使用記録の保存が求められるようになった。
POINT
・薬害エイズ事件:HIVが混入した非加熱濃縮凝固因子製剤が血友病患者に投与され、医原性のHIV感染・AIDS発症が多発した事件。 ・日本では約1,400人が感染。加熱製剤の導入・非加熱製剤の回収の遅れが被害を拡大させた。 ・関連して押さえる薬害:薬害ヤコブ病(乾燥硬膜→CJD)、薬害肝炎(フィブリノゲン製剤→C型肝炎)、MMRワクチン(無菌性髄膜炎)、サリドマイド、スモン。
