「治療中に起きた」だけでは足りない―医原病を見抜く一本の物差し
第120回医師国家試験 C問題 第22問
国試問題にチャレンジ
医原病はどれか。
- a.癌の化学療法中に発生した遠隔転移
- b.妊娠中の風疹感染による子どもの難聴
- c.通信販売で購入した健康食品による肝障害
- d.グルココルチコイドの長期使用による骨粗鬆症
- e.市民によるAED〈自動体外式除細動器〉の使用後の死亡
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
医原病とは、診断・治療・予防などの医療行為が原因で生じた疾病や障害を指し、医療者の過誤の有無は問いません。グルココルチコイドの長期使用による骨粗鬆症は、治療目的の薬剤の副作用であり典型的な医原病です。一方、癌の自然経過による転移、母体の風疹感染による先天性風疹症候群、自己判断で摂取した健康食品による肝障害、一般市民によるAED使用後の死亡は、原因が医療行為ではないため医原病に当たりません。医原病には薬剤副作用のほか、検査・処置の合併症、院内感染、輸血後感染症、薬害なども含まれ、ステロイド長期投与時にはビスホスホネート薬などによる骨折予防を検討します。「原因は病気か、医療行為か」という視点を持つことは、副作用の予防と医療安全の基本姿勢につながります。
解答・解説
正解はdです
医原病(iatrogenic disease)とは、診断・治療・予防などの医療行為が原因となって新たに生じた疾病や障害をいう。薬剤の副作用、検査や手術に伴う合併症、院内感染、輸血後感染症、放射線治療による障害などが含まれる。医療者の過誤によるものに限らず、適切な医療行為であっても避けがたく生じた有害事象も医原病に含まれる点が重要である。 判断の軸は「その障害の原因が医療行為そのものにあるか」である。 ・原疾患の自然経過(癌の進行など)によるものは医原病ではない ・病原体の感染など医療と無関係な原因によるものは医原病ではない ・医療者の関与しない自己判断の摂取(健康食品など)による健康被害は医原病ではない ・一般市民による救命処置は医療行為には当たらない この観点で選択肢をみると、医師が治療として処方したグルココルチコイドの副作用で生じた骨粗鬆症だけが、医療行為に起因する障害に該当する。
選択肢考察
- ×a. 癌の化学療法中に発生した遠隔転移
誤り。遠隔転移は癌そのものの進行(自然経過)によって生じるもので、化学療法が転移を引き起こしたわけではない。治療中に起きたという時間的関係だけでは医原病とはいえない。一方、同じ化学療法中でも、抗癌薬による骨髄抑制や心毒性、二次発がん(治療関連白血病など)であれば医原病に該当する。
- ×b. 妊娠中の風疹感染による子どもの難聴
誤り。妊娠初期の母体の風疹ウイルス感染により、胎児に先天性風疹症候群(難聴、白内障、先天性心疾患が三大症状)が生じたものであり、原因はウイルス感染である。医療行為によるものではないため医原病ではない。先天性風疹症候群は、妊娠可能年齢の女性やその周囲へのワクチン接種で予防できる疾患である。
- ×c. 通信販売で購入した健康食品による肝障害
誤り。健康食品やサプリメントによる肝障害は、薬物性肝障害に準じた機序で起こりうる健康被害だが、本人が自己判断で購入・摂取したものであり、医療行為(医師の処方や治療)に起因していない。したがって医原病には当たらない。
- ○d. グルココルチコイドの長期使用による骨粗鬆症
正しい。グルココルチコイド(副腎皮質ステロイド)は医師が治療のために処方する薬剤であり、その長期使用による副作用として生じた骨粗鬆症は、医療行為が原因の障害すなわち医原病である。グルココルチコイドは骨芽細胞の機能を抑制して骨形成を低下させるとともに、腸管からのカルシウム吸収低下などを介して骨量を減少させ、続発性骨粗鬆症の原因として最も多い。骨密度が比較的保たれていても骨折しやすいのが特徴で、長期投与時には骨折リスクを評価し、ビスホスホネート薬などによる予防的治療を検討する。
- ×e. 市民によるAED〈自動体外式除細動器〉の使用後の死亡
誤り。一般市民が救命のためにAEDを使用することは、反復継続する意思をもって行うものではないため医師法上の医業(医療行為)には当たらないとされている。また、AEDは心電図を自動解析し、電気ショックが必要な心室細動・無脈性心室頻拍でなければ通電しない仕組みであり、使用後の死亡は心停止を起こした原疾患によるものと考えるのが通常である。
医原病の主な例
・薬剤の副作用:グルココルチコイドによる骨粗鬆症・糖尿病・感染症・消化性潰瘍・大腿骨頭壊死、アミノグリコシド系抗菌薬による聴器毒性・腎障害、抗菌薬投与後のClostridioides difficile感染症、薬剤性間質性肺炎など ・検査・処置に伴うもの:造影剤腎症・造影剤アレルギー、内視鏡検査時の穿孔、カテーテル関連血流感染症 ・治療に伴うもの:手術合併症、放射線治療による放射線肺臓炎や二次がん、抗癌薬による二次性白血病 ・その他:輸血後感染症、院内感染、薬害(スモン、薬害エイズ、薬害肝炎など)
グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症
続発性骨粗鬆症の中で最も頻度が高い。骨形成の低下が主体で、投与開始後早期から骨量が減少し、椎体骨折のリスクが高まる。投与量が多いほど、また期間が長いほどリスクが高い。わが国のガイドラインでは、経口グルココルチコイドを3か月以上使用中または使用予定の患者で、既存骨折、年齢、投与量、骨密度をもとに薬物療法の開始を判断し、第一選択はビスホスホネート薬とされている。
POINT
・医原病=医療行為(診断・治療・予防)が原因で生じた疾病・障害。過誤の有無は問わない ・薬剤の副作用は医原病の代表例(例:グルココルチコイド長期投与による骨粗鬆症) ・原疾患の自然経過、感染症、自己判断で摂取した健康食品による被害、一般市民による救命処置は医原病に含まれない
