StudyMed医師国家試験

「治療中に起きた」だけでは足りない―医原病を見抜く一本の物差し

第120回医師国家試験 C問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第120回 C問題 第22問

医原病はどれか。

  1. a.癌の化学療法中に発生した遠隔転移
  2. b.妊娠中の風疹感染による子どもの難聴
  3. c.通信販売で購入した健康食品による肝障害
  4. d.グルココルチコイドの長期使用による骨粗鬆症
  5. e.市民によるAED〈自動体外式除細動器〉の使用後の死亡

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は「医原病」の定義を正しく理解しているかを問う問題だ。どれも何らかの健康被害だけれど、注目すべきは「その障害の原因が医療行為そのものにあるか」という一点。まず、医原病という言葉からどんなイメージを持っているかな。
医学生医学生
医療ミスで起きた病気、というイメージです。医療安全の講義でもインシデントの話とセットで聞いた気がします。
ドクタードクター
そこがよくある誤解なんだ。医原病は、診断・治療・予防といった医療行為が原因で新たに生じた疾病や障害のこと。過誤があったかどうかは問わない。適切に処方した薬の副作用でも、避けがたい手術合併症でも医原病に含まれるんだよ。
医学生医学生
ミスがなくても医原病になるんですね。じゃあ薬の副作用はほとんど該当するということですか。
ドクタードクター
その通り。薬剤の副作用は医原病の代表例だ。その目で選択肢を見ると、グルココルチコイドの長期使用による骨粗鬆症が正解になる。医師が治療目的で処方した薬の副作用として生じた障害だからね。
医学生医学生
内分泌の講義で、ステロイドは続発性骨粗鬆症の原因として一番多いと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。グルココルチコイドは骨芽細胞の働きを抑えて骨形成を落とし、腸管からのカルシウム吸収も低下させる。骨密度が比較的保たれていても骨折しやすいのが特徴だ。では、癌の化学療法中に起きた遠隔転移はどうだろう。
医学生医学生
治療中に起きているので、一瞬医原病かなと思ってしまいました。
ドクタードクター
時間的に重なっているだけで、転移は癌そのものの自然経過なんだ。化学療法が転移を起こしたわけではないから医原病ではない。ただし同じ化学療法でも、抗癌薬による骨髄抑制や心毒性、治療関連白血病のような二次発がんなら医原病に当たる。原因が病気か治療かを区別するのがポイントだね。
医学生医学生
妊娠中の風疹による難聴は、原因がウイルス感染なので医療とは無関係ですね。小児科実習で先天性風疹症候群の三徴を確認されました。
ドクタードクター
難聴、白内障、先天性心疾患だね。原因は母体の風疹感染で、医療行為ではない。むしろワクチンで予防できる疾患として、公衆衛生の観点で大事な話だ。
医学生医学生
健康食品による肝障害は、薬物性肝障害と似た機序なので迷いました。
ドクタードクター
機序は似ていても、本人が通信販売で自己判断で購入・摂取したもので、医師の処方や治療が関与していない。だから医原病には当たらない。とはいえ外来では、サプリメントや健康食品の摂取歴を必ず聞く習慣が大切だよ。
医学生医学生
AEDの使用後の死亡はどうでしょう。電気ショックは医療行為っぽく感じますが。
ドクタードクター
一般市民が救命のためにAEDを使うことは、医師法上の医業には当たらないとされている。それにAEDは心電図を自動解析して、心室細動や無脈性心室頻拍でなければ通電しない仕組みだ。使用後の死亡は、心停止を起こした原疾患によるものと考えるのが通常だね。BLSの実習で、ためらわず使うよう教わったと思う。
医学生医学生
整理すると、病気の自然経過、感染、自己判断の摂取、市民の救命処置は外れて、医療行為が原因のものだけが医原病ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床での広がりを押さえよう。医原病には薬の副作用のほか、造影剤腎症や内視鏡での穿孔、カテーテル関連血流感染症、放射線肺臓炎、輸血後感染症、院内感染、そしてスモンや薬害エイズのような薬害も含まれる。ステロイドなら骨粗鬆症だけでなく、糖尿病、感染症、消化性潰瘍、大腿骨頭壊死にも注意が必要だ。
医学生医学生
ステロイドを長く使う患者さんでは、骨折予防も最初から考えておくべきなんですね。
ドクタードクター
そう。経口グルココルチコイドを3か月以上使用中または使用予定なら、既存骨折、年齢、投与量、骨密度をもとに予防的な薬物療法を検討し、第一選択はビスホスホネート薬とされている。治療が新たな病気を生まないよう先回りするのも、医師の大切な仕事だよ。

まとめ

医原病とは、診断・治療・予防などの医療行為が原因で生じた疾病や障害を指し、医療者の過誤の有無は問いません。グルココルチコイドの長期使用による骨粗鬆症は、治療目的の薬剤の副作用であり典型的な医原病です。一方、癌の自然経過による転移、母体の風疹感染による先天性風疹症候群、自己判断で摂取した健康食品による肝障害、一般市民によるAED使用後の死亡は、原因が医療行為ではないため医原病に当たりません。医原病には薬剤副作用のほか、検査・処置の合併症、院内感染、輸血後感染症、薬害なども含まれ、ステロイド長期投与時にはビスホスホネート薬などによる骨折予防を検討します。「原因は病気か、医療行為か」という視点を持つことは、副作用の予防と医療安全の基本姿勢につながります。

解答・解説

正解はdです

医原病(iatrogenic disease)とは、診断・治療・予防などの医療行為が原因となって新たに生じた疾病や障害をいう。薬剤の副作用、検査や手術に伴う合併症、院内感染、輸血後感染症、放射線治療による障害などが含まれる。医療者の過誤によるものに限らず、適切な医療行為であっても避けがたく生じた有害事象も医原病に含まれる点が重要である。 判断の軸は「その障害の原因が医療行為そのものにあるか」である。 ・原疾患の自然経過(癌の進行など)によるものは医原病ではない ・病原体の感染など医療と無関係な原因によるものは医原病ではない ・医療者の関与しない自己判断の摂取(健康食品など)による健康被害は医原病ではない ・一般市民による救命処置は医療行為には当たらない この観点で選択肢をみると、医師が治療として処方したグルココルチコイドの副作用で生じた骨粗鬆症だけが、医療行為に起因する障害に該当する。

選択肢考察

  1. ×a.  癌の化学療法中に発生した遠隔転移

    誤り。遠隔転移は癌そのものの進行(自然経過)によって生じるもので、化学療法が転移を引き起こしたわけではない。治療中に起きたという時間的関係だけでは医原病とはいえない。一方、同じ化学療法中でも、抗癌薬による骨髄抑制や心毒性、二次発がん(治療関連白血病など)であれば医原病に該当する。

  2. ×b.  妊娠中の風疹感染による子どもの難聴

    誤り。妊娠初期の母体の風疹ウイルス感染により、胎児に先天性風疹症候群(難聴、白内障、先天性心疾患が三大症状)が生じたものであり、原因はウイルス感染である。医療行為によるものではないため医原病ではない。先天性風疹症候群は、妊娠可能年齢の女性やその周囲へのワクチン接種で予防できる疾患である。

  3. ×c.  通信販売で購入した健康食品による肝障害

    誤り。健康食品やサプリメントによる肝障害は、薬物性肝障害に準じた機序で起こりうる健康被害だが、本人が自己判断で購入・摂取したものであり、医療行為(医師の処方や治療)に起因していない。したがって医原病には当たらない。

  4. ○d.  グルココルチコイドの長期使用による骨粗鬆症

    正しい。グルココルチコイド(副腎皮質ステロイド)は医師が治療のために処方する薬剤であり、その長期使用による副作用として生じた骨粗鬆症は、医療行為が原因の障害すなわち医原病である。グルココルチコイドは骨芽細胞の機能を抑制して骨形成を低下させるとともに、腸管からのカルシウム吸収低下などを介して骨量を減少させ、続発性骨粗鬆症の原因として最も多い。骨密度が比較的保たれていても骨折しやすいのが特徴で、長期投与時には骨折リスクを評価し、ビスホスホネート薬などによる予防的治療を検討する。

  5. ×e.  市民によるAED〈自動体外式除細動器〉の使用後の死亡

    誤り。一般市民が救命のためにAEDを使用することは、反復継続する意思をもって行うものではないため医師法上の医業(医療行為)には当たらないとされている。また、AEDは心電図を自動解析し、電気ショックが必要な心室細動・無脈性心室頻拍でなければ通電しない仕組みであり、使用後の死亡は心停止を起こした原疾患によるものと考えるのが通常である。

医原病の主な例

・薬剤の副作用:グルココルチコイドによる骨粗鬆症・糖尿病・感染症・消化性潰瘍・大腿骨頭壊死、アミノグリコシド系抗菌薬による聴器毒性・腎障害、抗菌薬投与後のClostridioides difficile感染症、薬剤性間質性肺炎など ・検査・処置に伴うもの:造影剤腎症・造影剤アレルギー、内視鏡検査時の穿孔、カテーテル関連血流感染症 ・治療に伴うもの:手術合併症、放射線治療による放射線肺臓炎や二次がん、抗癌薬による二次性白血病 ・その他:輸血後感染症、院内感染、薬害(スモン、薬害エイズ、薬害肝炎など)

グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症

続発性骨粗鬆症の中で最も頻度が高い。骨形成の低下が主体で、投与開始後早期から骨量が減少し、椎体骨折のリスクが高まる。投与量が多いほど、また期間が長いほどリスクが高い。わが国のガイドラインでは、経口グルココルチコイドを3か月以上使用中または使用予定の患者で、既存骨折、年齢、投与量、骨密度をもとに薬物療法の開始を判断し、第一選択はビスホスホネート薬とされている。

POINT

・医原病=医療行為(診断・治療・予防)が原因で生じた疾病・障害。過誤の有無は問わない ・薬剤の副作用は医原病の代表例(例:グルココルチコイド長期投与による骨粗鬆症) ・原疾患の自然経過、感染症、自己判断で摂取した健康食品による被害、一般市民による救命処置は医原病に含まれない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。