StudyMed医師国家試験

やせているのに止まらない―神経性やせ症の「過活動」が示すもの

第120回医師国家試験 C問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第120回 C問題 第21問

神経性やせ症〈神経性無食欲症〉にみられる症状はどれか。

  1. a.異食
  2. b.過活動
  3. c.被毒妄想
  4. d.不潔恐怖
  5. e.させられ体験

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は神経性やせ症にみられる症状を選ぶ問題だ。選択肢には精神科でよく出てくる症状が並んでいるから、それぞれがどの疾患に特徴的なのかを整理するのがポイントになる。まずは神経性やせ症がどんな病気か、思い出してみよう。
医学生医学生
思春期の女性に多い摂食障害で、やせているのに太ることを怖がる病気、と講義で習いました。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。DSM-5-TRでは、エネルギー摂取の制限による有意な低体重、体重増加や肥満への強い恐怖あるいは体重増加を妨げる行動、そして体重や体型の感じ方の障害、いわゆるボディイメージの障害という3点で特徴づけられる。では、これだけ低栄養なら、患者さんはどんな様子だと思う?
医学生医学生
栄養が足りないので、ぐったりして動けないのではないでしょうか。
ドクタードクター
直感的にはそう思うよね。ところが実際は逆で、著しくやせているのに本人は元気にふるまい、ランニングや長時間の散歩、過剰な家事などで体を動かし続けることが多い。これを過活動と呼び、正解はこれだ。
医学生医学生
意外です。どうしてそんなに動けるんですか。
ドクタードクター
背景にあるのは肥満恐怖ややせ願望だ。消費エネルギーを増やして体重増加を防ごうとする行動なんだね。本人は疲労感を訴えにくく、病識も乏しいから、周囲が深刻さに気づくのが遅れやすい。低栄養と活動性の高さが解離している点は、意欲や活動性が低下するうつ病による体重減少との鑑別にも役立つ。
医学生医学生
精神科の臨床実習で、入院中なのに廊下をずっと歩いている患者さんがいて、主治医の先生が活動制限の話をしていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにその場面だね。極端な低栄養下での過活動は、不整脈や突然死、骨折のリスクを高めるから、治療では活動制限も大切になる。では、ほかの選択肢も確認しよう。異食はどうかな。
医学生医学生
氷をやたら食べる氷食症は鉄欠乏性貧血で出てくると血液内科で習いました。やせ症の人もカロリーを避けて氷を食べそうですが。
ドクタードクター
いい疑問だ。異食は土や紙、髪の毛、氷など栄養価のない非食物を持続的に食べる行動で、鉄欠乏性貧血のほか、妊娠、知的発達症や自閉スペクトラム症、認知症でもみられる。神経性やせ症でカロリーを避けるために氷やガムを多くとることはあっても、異食として扱われる症状ではないんだ。
医学生医学生
被毒妄想は、食べ物に毒が入っていると思い込むので、食事を拒否してやせることもありますよね。紛らわしい気がします。
ドクタードクター
そこが引っかけになりやすいところだ。被毒妄想は被害妄想の一型で、統合失調症や認知症、妄想性障害でみられる。確かに拒食から体重が減ることはあるけれど、神経性やせ症の食事制限は肥満恐怖ややせ願望に基づくもので、妄想によるものではない。食べない理由が何かを見極めることが鑑別の鍵だよ。
医学生医学生
不潔恐怖は強迫症ですね。手洗いを何十回も繰り返す洗浄強迫とセットで覚えました。
ドクタードクター
その通り。不潔恐怖は強迫症の代表的な強迫観念だ。神経性やせ症には強迫的な性格傾向や強迫症の併存がみられることはあるけれど、不潔恐怖そのものは本症の症状ではない。最後のさせられ体験は?
医学生医学生
自分の考えや行動が誰かに操られていると感じる体験で、シュナイダーの一級症状だったので、統合失調症ですね。
ドクタードクター
正解。自我意識の障害に属する症状で、神経性やせ症ではみられない。こうして症状と疾患を対応づけておくと、似た選択肢が並んでも迷わなくなる。
医学生医学生
食べない、やせる、という表面だけでなく、その理由と行動の特徴に注目すればいいんですね。
ドクタードクター
そういうことだ。最後に臨床での注意点をまとめよう。身体面では無月経、徐脈、低血圧、低体温、うぶ毛の増加、柑皮症、骨粗鬆症などがみられ、過食や自己誘発性嘔吐、下剤乱用を伴う病型では低カリウム血症にも注意が必要だ。そして治療で特に気をつけたいのが、急に栄養を入れたときに低リン血症などを起こすリフィーディング症候群だよ。
医学生医学生
栄養を増やせばいいというわけではなく、少しずつ慎重に進める必要があるんですね。
ドクタードクター
その通り。心身両面からのアプローチが欠かせない病気だということを覚えておこう。

まとめ

神経性やせ症は思春期から青年期の女性に好発する摂食障害で、エネルギー摂取制限による低体重、肥満恐怖、ボディイメージの障害を特徴とします。著しい低栄養にもかかわらず活動性が亢進する過活動がしばしばみられ、これはやせ願望に駆動されたエネルギー消費行動であり、活動性が低下するうつ病の体重減少との鑑別点にもなります。異食は鉄欠乏性貧血や発達障害、被毒妄想とさせられ体験は統合失調症、不潔恐怖は強迫症に特徴的な症状として整理しておくと、類似の選択肢にも対応できます。臨床では過活動による不整脈や骨折のリスク、低カリウム血症、治療開始時のリフィーディング症候群に注意が必要です。症状を見たときに「なぜその行動をとるのか」まで考える姿勢は、摂食障害に限らず精神疾患の鑑別全般の基本となります。

解答・解説

正解はbです

神経性やせ症(神経性無食欲症、anorexia nervosa)は、思春期から青年期の女性に好発する摂食障害で、DSM-5-TRでは次の3点で特徴づけられる。 (1) 必要量に比べてエネルギー摂取を制限し、年齢・性別・発達段階・身体的健康状態に対して有意に低い体重に至る (2) 低体重であるにもかかわらず、体重増加や肥満に対する強い恐怖、または体重増加を妨げる持続的な行動がある (3) 自分の体重や体型の体験の仕方の障害(ボディイメージの障害)、自己評価が体重・体型に過度に影響される、または低体重の深刻さを認識しない 本症では、著しくやせているにもかかわらず本人は元気にふるまい、ランニングや長時間の歩行、過剰な家事などで体を動かし続ける「過活動」がしばしばみられる。これは消費エネルギーを増やして体重増加を防ごうとする行動であり、やせ願望・肥満恐怖に駆動されたものである。低栄養状態と活動性の高さの解離は、うつ病などによる体重減少(意欲低下・活動性低下を伴う)との鑑別点にもなる。 その他の選択肢は、統合失調症の陽性症状(被毒妄想、させられ体験)、強迫症の強迫観念(不潔恐怖)、鉄欠乏や発達障害などでみられる異食であり、各症状がどの疾患に特徴的かを整理しておくことが求められる。

選択肢考察

  1. ×a.  異食

    誤り。異食(pica)は、土・紙・髪の毛・氷など栄養価のない非食物を持続的に食べる行動である。鉄欠乏性貧血で氷を無性に食べたくなる氷食症が代表例で、妊娠、知的発達症や自閉スペクトラム症などの発達障害、認知症でもみられる。神経性やせ症の特徴的症状ではない。なお神経性やせ症では、カロリーを避けるために氷やガムなどを過剰に摂ることはあるが、異食として扱われる症状ではない。

  2. ○b.  過活動

    正しい。神経性やせ症では、高度の低体重にもかかわらず活動性が亢進することが多い。肥満恐怖ややせ願望から、エネルギーを消費しようと過度の運動、休まず歩き回る、立ち続けるといった行動がみられる。本人は疲労感を訴えにくく、病識が乏しいことと相まって周囲が病状の深刻さに気づきにくい要因となる。極端な低栄養下での過活動は、不整脈や突然死、骨折などのリスクを高めるため、治療上は活動制限も重要となる。

  3. ×c.  被毒妄想

    誤り。被毒妄想は「食べ物に毒を入れられている」などと根拠なく確信する妄想で、被害妄想の一型である。統合失調症のほか、認知症や妄想性障害などでみられる。被毒妄想から食事を拒否して体重が減少することはあるが、神経性やせ症の食事制限は肥満恐怖ややせ願望によるもので、妄想に基づくものではない。

  4. ×d.  不潔恐怖

    誤り。不潔恐怖は、細菌や汚れによって自分や周囲が汚染されることへの過剰な恐怖で、強迫症(強迫性障害)の代表的な強迫観念である。これに対する強迫行為として、手洗いや入浴を何度も繰り返す洗浄強迫がみられる。神経性やせ症には強迫的な性格傾向や強迫症の併存がみられることはあるが、不潔恐怖は本症の症状そのものではない。

  5. ×e.  させられ体験

    誤り。させられ体験(作為体験)は、自分の考えや行動が外部の何者かによって操られていると感じる体験で、自我意識の障害(自他の境界の障害)に属する。シュナイダーの一級症状の一つであり、統合失調症に特徴的である。神経性やせ症ではみられない。

神経性やせ症の主な臨床像

・好発:10〜20歳代の女性(男性にもみられる) ・病型:摂食制限型と、過食・排出型(過食や自己誘発性嘔吐、下剤・利尿薬の乱用を伴う)がある ・精神面:肥満恐怖、やせ願望、ボディイメージの障害、病識の乏しさ、過活動、食物へのこだわり(カロリー計算、他人に食べさせたがるなど) ・身体面:無月経、徐脈、低血圧、低体温、うぶ毛の増加、皮膚の乾燥、柑皮症(カロテン血症による手掌の黄染)、骨粗鬆症 ・検査:低カリウム血症(嘔吐・下剤乱用時)、低T3症候群、低血糖、白血球減少、肝酵素上昇、高コレステロール血症など ・治療上の注意:急速な栄養補給で低リン血症などを来すリフィーディング症候群

各症状と代表的疾患の対応

・過活動:神経性やせ症 ・異食:鉄欠乏性貧血(氷食症)、妊娠、知的発達症・自閉スペクトラム症、認知症 ・被毒妄想:統合失調症、認知症、妄想性障害 ・不潔恐怖:強迫症 ・させられ体験:統合失調症(シュナイダーの一級症状)

POINT

・神経性やせ症では、低体重にもかかわらず活動性が亢進する(過活動) ・過活動は肥満恐怖・やせ願望に基づくエネルギー消費行動であり、病識の乏しさと結びつく ・被毒妄想・させられ体験は統合失調症、不潔恐怖は強迫症、異食は鉄欠乏性貧血や発達障害で典型的にみられる

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。