やせているのに止まらない―神経性やせ症の「過活動」が示すもの
第120回医師国家試験 C問題 第21問
国試問題にチャレンジ
神経性やせ症〈神経性無食欲症〉にみられる症状はどれか。
- a.異食
- b.過活動
- c.被毒妄想
- d.不潔恐怖
- e.させられ体験
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
神経性やせ症は思春期から青年期の女性に好発する摂食障害で、エネルギー摂取制限による低体重、肥満恐怖、ボディイメージの障害を特徴とします。著しい低栄養にもかかわらず活動性が亢進する過活動がしばしばみられ、これはやせ願望に駆動されたエネルギー消費行動であり、活動性が低下するうつ病の体重減少との鑑別点にもなります。異食は鉄欠乏性貧血や発達障害、被毒妄想とさせられ体験は統合失調症、不潔恐怖は強迫症に特徴的な症状として整理しておくと、類似の選択肢にも対応できます。臨床では過活動による不整脈や骨折のリスク、低カリウム血症、治療開始時のリフィーディング症候群に注意が必要です。症状を見たときに「なぜその行動をとるのか」まで考える姿勢は、摂食障害に限らず精神疾患の鑑別全般の基本となります。
解答・解説
正解はbです
神経性やせ症(神経性無食欲症、anorexia nervosa)は、思春期から青年期の女性に好発する摂食障害で、DSM-5-TRでは次の3点で特徴づけられる。 (1) 必要量に比べてエネルギー摂取を制限し、年齢・性別・発達段階・身体的健康状態に対して有意に低い体重に至る (2) 低体重であるにもかかわらず、体重増加や肥満に対する強い恐怖、または体重増加を妨げる持続的な行動がある (3) 自分の体重や体型の体験の仕方の障害(ボディイメージの障害)、自己評価が体重・体型に過度に影響される、または低体重の深刻さを認識しない 本症では、著しくやせているにもかかわらず本人は元気にふるまい、ランニングや長時間の歩行、過剰な家事などで体を動かし続ける「過活動」がしばしばみられる。これは消費エネルギーを増やして体重増加を防ごうとする行動であり、やせ願望・肥満恐怖に駆動されたものである。低栄養状態と活動性の高さの解離は、うつ病などによる体重減少(意欲低下・活動性低下を伴う)との鑑別点にもなる。 その他の選択肢は、統合失調症の陽性症状(被毒妄想、させられ体験)、強迫症の強迫観念(不潔恐怖)、鉄欠乏や発達障害などでみられる異食であり、各症状がどの疾患に特徴的かを整理しておくことが求められる。
選択肢考察
- ×a. 異食
誤り。異食(pica)は、土・紙・髪の毛・氷など栄養価のない非食物を持続的に食べる行動である。鉄欠乏性貧血で氷を無性に食べたくなる氷食症が代表例で、妊娠、知的発達症や自閉スペクトラム症などの発達障害、認知症でもみられる。神経性やせ症の特徴的症状ではない。なお神経性やせ症では、カロリーを避けるために氷やガムなどを過剰に摂ることはあるが、異食として扱われる症状ではない。
- ○b. 過活動
正しい。神経性やせ症では、高度の低体重にもかかわらず活動性が亢進することが多い。肥満恐怖ややせ願望から、エネルギーを消費しようと過度の運動、休まず歩き回る、立ち続けるといった行動がみられる。本人は疲労感を訴えにくく、病識が乏しいことと相まって周囲が病状の深刻さに気づきにくい要因となる。極端な低栄養下での過活動は、不整脈や突然死、骨折などのリスクを高めるため、治療上は活動制限も重要となる。
- ×c. 被毒妄想
誤り。被毒妄想は「食べ物に毒を入れられている」などと根拠なく確信する妄想で、被害妄想の一型である。統合失調症のほか、認知症や妄想性障害などでみられる。被毒妄想から食事を拒否して体重が減少することはあるが、神経性やせ症の食事制限は肥満恐怖ややせ願望によるもので、妄想に基づくものではない。
- ×d. 不潔恐怖
誤り。不潔恐怖は、細菌や汚れによって自分や周囲が汚染されることへの過剰な恐怖で、強迫症(強迫性障害)の代表的な強迫観念である。これに対する強迫行為として、手洗いや入浴を何度も繰り返す洗浄強迫がみられる。神経性やせ症には強迫的な性格傾向や強迫症の併存がみられることはあるが、不潔恐怖は本症の症状そのものではない。
- ×e. させられ体験
誤り。させられ体験(作為体験)は、自分の考えや行動が外部の何者かによって操られていると感じる体験で、自我意識の障害(自他の境界の障害)に属する。シュナイダーの一級症状の一つであり、統合失調症に特徴的である。神経性やせ症ではみられない。
神経性やせ症の主な臨床像
・好発:10〜20歳代の女性(男性にもみられる) ・病型:摂食制限型と、過食・排出型(過食や自己誘発性嘔吐、下剤・利尿薬の乱用を伴う)がある ・精神面:肥満恐怖、やせ願望、ボディイメージの障害、病識の乏しさ、過活動、食物へのこだわり(カロリー計算、他人に食べさせたがるなど) ・身体面:無月経、徐脈、低血圧、低体温、うぶ毛の増加、皮膚の乾燥、柑皮症(カロテン血症による手掌の黄染)、骨粗鬆症 ・検査:低カリウム血症(嘔吐・下剤乱用時)、低T3症候群、低血糖、白血球減少、肝酵素上昇、高コレステロール血症など ・治療上の注意:急速な栄養補給で低リン血症などを来すリフィーディング症候群
各症状と代表的疾患の対応
・過活動:神経性やせ症 ・異食:鉄欠乏性貧血(氷食症)、妊娠、知的発達症・自閉スペクトラム症、認知症 ・被毒妄想:統合失調症、認知症、妄想性障害 ・不潔恐怖:強迫症 ・させられ体験:統合失調症(シュナイダーの一級症状)
POINT
・神経性やせ症では、低体重にもかかわらず活動性が亢進する(過活動) ・過活動は肥満恐怖・やせ願望に基づくエネルギー消費行動であり、病識の乏しさと結びつく ・被毒妄想・させられ体験は統合失調症、不潔恐怖は強迫症、異食は鉄欠乏性貧血や発達障害で典型的にみられる
