検査の点数ではなく「暮らしの手助け」で測る―認知症高齢者の日常生活自立度を読み解く
第118回医師国家試験 F問題 第45問
国試問題にチャレンジ
84歳の女性。要介護認定の申請にあたって,主治医意見書を作成するために来院した。20年前から高血圧症の治療中である。3か月前から物忘れや薬の飲み忘れが多くありAlzheimer型認知症と診断された。認知症の周辺症状および問題行動はない。ゆっくり会話をすれば意思疎通はできる。長男夫婦との3人暮らしで,日中はほとんどの時間を自宅で過ごしている。着替え,食事,排泄および入浴は自立している。薬と金銭の管理は家族の助けが必要である。改訂長谷川式簡易知能評価スケールは16点(30点満点)である。認知症高齢者の日常生活自立度判断基準を以下に示す。 ランク 判定基準 Ⅰ 何らかの認知症を有するが,日常生活は家庭内及び社会的にはほぼ自立している。 Ⅱ 日常生活に支障を来すような症状・行動や意志疎通の困難さが多少見られても,誰かが注意していれば自立できる。 Ⅲ 日常生活に支障を来すような症状・行動や意志疎通の困難さがときどき見られ,介護を必要とする。 Ⅳ 日常生活に支障を来すような症状・行動や意志疎通の困難さが頻繁に見られ,常に介護を必要とする。 M 著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ,専門医療を必要とする。 (出版部註:表中「意志」は「意思」の誤記と思われる) この患者の認知症高齢者の日常生活自立度ランクはどれか。
- a.Ⅰ
- b.Ⅱ
- c.Ⅲ
- d.Ⅳ
- e.M
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
認知症高齢者の日常生活自立度は、HDS-Rなどの検査の点数ではなく、日常生活上の支障の程度と必要な手助けの種類(見守りか介護か)で判定します。BADLが自立し、服薬・金銭管理などのIADLに家族の見守りや手助けを要する本例は、「誰かが注意していれば自立できる」ランクⅡに当たり、家庭内での支障が中心であることからⅡbと考えられます。身体的な介護が必要ならⅢ、常時介護ならⅣ、著しい精神症状や重篤な身体疾患で専門医療を要するならMと区別します。主治医意見書では身体機能を評価する障害高齢者の日常生活自立度(J・A・B・C)とも混同しないよう注意が必要です。家族から具体的な生活状況を聞き取って判定する姿勢は、要介護認定を通じて患者さんに適切な介護サービスを届けるための基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・84歳女性。要介護認定の申請に必要な主治医意見書の作成目的で受診している。主治医意見書には「認知症高齢者の日常生活自立度」を記載する欄があり、本問はその判定を問うている。 ・3か月前からの物忘れ・服薬忘れでAlzheimer型認知症と診断。改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は16点で、カットオフ(20点以下で認知症の疑い)を下回り、認知機能低下は明らかである。 ・認知症の行動・心理症状(BPSD:behavioral and psychological symptoms of dementia、いわゆる周辺症状)や問題行動はない。 ・ゆっくり話せば意思疎通は可能。 ・着替え・食事・排泄・入浴といった基本的日常生活動作(BADL)は自立している。 ・一方、服薬管理・金銭管理という手段的日常生活動作(IADL)には家族の手助けが必要である。
判定の考え方
この判定基準は、認知症の診断名や検査の点数ではなく、「日常生活にどの程度支障があり、どの程度の手助け(見守りか、介護か)が必要か」で区分する。 ・身の回りのことは自分でできており、「介護」(身体的な介助)は必要としていない → ランクⅢ・Ⅳには届かない。 ・しかし服薬や金銭管理に家族の関与が必要であり、「日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立」とはいえない → ランクⅠでもない。 ・著しい精神症状や問題行動、専門医療を要する重篤な身体疾患はない → ランクMでもない。 したがって「多少の支障はあるが、誰かが注意(見守り・声かけ)していれば自立できる」ランクⅡが該当する。さらに細分すると、服薬管理ができないといった家庭内での支障が中心であるため、ランクⅡb(家庭内でも上記の状態が見られる)に相当すると考えられる。
選択肢考察
- ×a. Ⅰ
ランクⅠは、認知症はあるものの家庭内・社会的にほぼ自立しており、一人暮らしも可能な程度を指す。本例は服薬と金銭の管理に家族の助けを要しており、日常生活に認知症による支障が現に生じているため、「ほぼ自立」とはいえない。
- ○b. Ⅱ
ランクⅡは、日常生活に支障を来す症状・行動や意思疎通の困難さが多少みられても、誰かが注意していれば自立できる状態である。本例はBADL(着替え・食事・排泄・入浴)が自立しており身体的な介護は不要だが、服薬や金銭管理には家族の見守り・手助けが必要であり、まさにこの状態に合致する。意思疎通もゆっくり話せば可能である。判定基準の具体例では、服薬管理ができない、電話応対や訪問者への対応ができず一人で留守番ができない、といった家庭内での支障がⅡb、道に迷う、買い物・事務・金銭管理でミスが目立つといった家庭外での支障がⅡaとされ、在宅中心で服薬管理に支障のある本例はⅡbに当たると考えられる。
- ×c. Ⅲ
ランクⅢは、日常生活に支障を来す症状・行動がときどきみられ、「介護」を必要とする状態である。具体例としては、着替え・食事・排泄が上手にできない、時間がかかる、失禁、徘徊、大声・奇声、不潔行為などが挙げられる。本例はBADLが自立しBPSDもないため、介護を要する段階には至っていない。
- ×d. Ⅳ
ランクⅣは、ランクⅢの状態が頻繁にみられ、常に目を離すことができず常時介護を要する状態である。BADLが自立している本例とは大きくかけ離れている。
- ×e. M
ランクMは、せん妄・妄想・興奮・自傷他害などの著しい精神症状や問題行動、あるいは重篤な身体疾患がみられ、専門医療を必要とする状態である。本例にはBPSDや問題行動がなく、高血圧症も長期に治療中で安定しているため、該当しない。
認知症高齢者の日常生活自立度判定基準
厚生労働省が定めた基準で、要介護認定の主治医意見書や認定調査票に記載され、介護の必要度を判断する資料として用いられる。 ・Ⅰ:何らかの認知症はあるが、家庭内・社会的にほぼ自立。 ・Ⅱ:多少の支障があっても誰かが注意していれば自立(見守りレベル)。 Ⅱa:家庭外で支障(道に迷う、買い物・事務・金銭管理などでミスが目立つ)。 Ⅱb:家庭内でも支障(服薬管理ができない、電話・訪問者の対応ができず一人で留守番ができない)。 ・Ⅲ:ときどき支障があり介護を要する(着替え・食事・排泄がうまくできない、徘徊、失禁、不潔行為など)。 Ⅲa:主に日中に見られる。Ⅲb:夜間にも見られる。 ・Ⅳ:頻繁に支障があり常に介護を要する。 ・M:著しい精神症状・問題行動、重篤な身体疾患があり専門医療を要する。
障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)との区別
主治医意見書には、身体機能面を評価する「障害高齢者の日常生活自立度」(ランクJ・A・B・C)もあり、混同しないよう注意する。Jは生活自立、Aは準寝たきり(屋内生活は概ね自立だが介助なしに外出しない)、Bは寝たきり(屋内でも介助を要し日中もベッド上が主体だが座位は保てる)、Cは終日ベッド上で過ごし生活全般に介助を要する。
BADLとIADL
・基本的日常生活動作(BADL):食事、更衣、排泄、入浴、移動など身の回りの動作。Barthel indexなどで評価。 ・手段的日常生活動作(IADL):服薬管理、金銭管理、買い物、調理、電話、交通機関の利用など、より複雑な動作。Lawtonの尺度などで評価。 Alzheimer型認知症では一般にIADLが先に障害され、進行に伴ってBADLも障害される。本例はIADLのみ障害された比較的早期の段階である。
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
30点満点で、20点以下を認知症の疑いとする。点数は重症度の目安にはなるが、日常生活自立度の判定は点数ではなく実際の生活状況で行う。
POINT
・認知症高齢者の日常生活自立度は、検査の点数ではなく生活上の支障と必要な手助けの程度で判定する。 ・BADL自立+IADL(服薬・金銭管理)に見守り・手助けが必要 → ランクⅡ(家庭内の支障ならⅡb)。 ・「介護」が必要ならⅢ、常時介護ならⅣ、著しいBPSDや専門医療が必要ならM。 ・身体機能を評価する障害高齢者の日常生活自立度(J・A・B・C)と区別する。
