川崎病のあとの予防接種、待つべきか?―免疫グロブリンが生ワクチンを打ち消す仕組み
第118回医師国家試験 C問題 第30問
国試問題にチャレンジ
小児に対する免疫グロブリン大量療法後に接種を延期しなくてよいのはどれか。2つ選べ。
- a.MRワクチン
- b.水痘ワクチン
- c.4種混合ワクチン
- d.おたふくかぜワクチン
- e.インフルエンザ桿菌ワクチン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
免疫グロブリン製剤には献血者由来の麻疹・風疹・ムンプス・水痘などへの抗体が高濃度に含まれ、投与後は体内に残った抗体が注射生ワクチンのウイルスを中和して免疫獲得を妨げます。そのため川崎病や免疫性血小板減少症などで大量療法を行った後は、MR・水痘・おたふくかぜなどの注射生ワクチンを一般に6か月以上延期します。一方、4種混合(トキソイド・精製抗原・不活化ポリオ)やHibの結合型ワクチンなどの不活化ワクチンは増殖を必要としないため、延期せず接種できます。BCGやロタウイルスワクチンは生ワクチンでも影響を受けにくく延期不要とされる点も重要です。ワクチンを「生か不活化か」「抗体の影響を受けるか」で整理しておくことは、IVIG後の家族への説明や接種計画の立案に直結します。
解答・解説
正解はc, eです
問われていること
免疫グロブリン製剤(とくに大量療法)を投与された小児に対し、その後どのワクチンなら予定どおり接種してよいか、という予防接種の実務知識を問う問題である。
考え方
免疫グロブリン製剤は多数の献血者の血漿から精製されたIgGであり、麻疹・風疹・ムンプス・水痘など一般的なウイルスに対する抗体を高濃度に含んでいる。小児で免疫グロブリン大量療法(IVIG:intravenous immunoglobulin)が行われる代表的な疾患は、川崎病(2g/kgを投与)や免疫性血小板減少症(ITP)である。 IVIG後の体内には受動的に移入された抗体がしばらく残る。注射で接種する弱毒生ワクチンは、ワクチンウイルスが体内で増殖することで免疫を誘導するが、移入された抗体がワクチンウイルスを中和してしまうと増殖できず、十分な免疫が得られない(ワクチンの効果が落ちる)。そのため、注射生ワクチンはIVIG後に一定期間(大量療法後では一般に6か月以上)間隔をあけて接種する。 一方、不活化ワクチンやトキソイドは病原体の増殖を必要とせず、抗原そのものを投与して免疫を誘導するので、受動抗体の影響はほとんど問題にならない。したがって延期の必要はない。 よって、選択肢を「注射生ワクチンか、不活化ワクチン(トキソイドを含む)か」に分類すれば答えが決まる。生ワクチンであるMR・水痘・おたふくかぜは延期が必要で、不活化ワクチンである4種混合とHibワクチンは延期しなくてよい。
選択肢考察
- ×a. MRワクチン
麻疹(measles)と風疹(rubella)の混合ワクチンで、皮下注射で接種する弱毒生ワクチンである。免疫グロブリン製剤には麻疹・風疹に対する抗体が含まれるため、ワクチンウイルスが中和されて増殖できず、免疫が十分につかない。大量療法後は少なくとも6か月以上あけて接種する必要があり、延期の対象である。
- ×b. 水痘ワクチン
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の弱毒株(岡株)を用いた皮下注射の生ワクチンである。成人の大半はVZV抗体を持つため、献血由来の免疫グロブリン製剤には抗VZV抗体が豊富に含まれる。投与後はワクチンウイルスが中和されて効果が落ちるので、接種を延期する必要がある。
- ○c. 4種混合ワクチン
ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオの混合ワクチン(DPT-IPV)である。ジフテリアと破傷風はトキソイド、百日咳は精製抗原(無細胞型)、ポリオは不活化ウイルスであり、いずれも体内で増殖しない成分からなる不活化ワクチンである。受動抗体による中和の影響をほとんど受けないため、免疫グロブリン大量療法後でも延期せず接種してよい。なお2024年度からは、4種混合にHibを加えた5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)が定期接種に導入されているが、これも不活化ワクチンである。
- ×d. おたふくかぜワクチン
流行性耳下腺炎(ムンプス)の弱毒生ワクチンで、皮下注射で接種する(日本では任意接種)。免疫グロブリン製剤中の抗ムンプス抗体によりワクチンウイルスが中和されるため、大量療法後は接種を延期する必要がある。
- ○e. インフルエンザ桿菌ワクチン
インフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b:Hib)の莢膜多糖体を破傷風トキソイドなどのキャリア蛋白に結合させた結合型(コンジュゲート)ワクチンであり、不活化ワクチンに分類される。生きた菌を含まず増殖を必要としないので、免疫グロブリン投与後でも延期せずに接種できる。なお名称は「インフルエンザ」だが、インフルエンザウイルスとは無関係の細菌に対するワクチンである。
ワクチンの分類(小児の主なもの)
・注射生ワクチン:MR(麻疹風疹混合)、麻疹、風疹、水痘、おたふくかぜ、黄熱 ・経口生ワクチン:ロタウイルス ・経皮生ワクチン:BCG ・不活化ワクチン(トキソイド・組換え・結合型を含む):4種混合(DPT-IPV)、5種混合(DPT-IPV-Hib)、Hib、小児用肺炎球菌、B型肝炎、日本脳炎、インフルエンザ、HPV など
免疫グロブリン投与と生ワクチン
・影響を受けるのは主に注射生ワクチン(麻疹・風疹・ムンプス・水痘)である。献血者の多くがこれらに対する抗体を保有しているため、製剤中の抗体価が高い。 ・BCGやロタウイルスワクチンは、免疫グロブリン投与後でも延期の必要はないとされる(BCGは細胞性免疫が中心であり、ロタウイルスワクチンは腸管で増殖する経口ワクチンで血中抗体の影響を受けにくい)。 ・接種間隔は免疫グロブリンの投与量が多いほど長くなる。大量療法(川崎病やITPの治療など)の後は6か月以上、投与量によってはそれ以上あけることが推奨されている。 ・逆に、生ワクチン接種直後に免疫グロブリンを投与した場合も、ワクチンの効果が減弱する可能性があり、必要に応じて再接種を検討する。
小児で免疫グロブリン大量療法を行う代表疾患
・川崎病:急性期に大量IVIG(2g/kg)とアスピリンを用い、冠動脈瘤の形成を防ぐ。 ・免疫性血小板減少症(ITP):出血症状が強い場合などに血小板数を速やかに上げる目的で用いる。 ・その他、ギラン・バレー症候群など免疫介在性疾患。
妊娠とワクチン(関連事項)
・生ワクチンは妊婦には禁忌である。風疹ワクチン・MRワクチンを接種する女性は、接種前約1か月間と接種後2か月間の避妊が勧められている。ただしワクチン接種によって先天性風疹症候群が生じたという報告はない。 ・不活化ワクチンは原則として妊娠中も接種可能であり(インフルエンザワクチンは妊婦への接種が推奨される)、授乳中は生ワクチン・不活化ワクチンとも特に制限はない。
POINT
・免疫グロブリン(特に大量療法)投与後は、注射生ワクチン(MR・麻疹・風疹・水痘・おたふくかぜ)の接種を延期する(大量療法後は6か月以上)。 ・理由は、製剤中の抗体がワクチンウイルスを中和し、免疫が十分に獲得できないため。 ・不活化ワクチン(4種・5種混合、Hib、肺炎球菌、B型肝炎、日本脳炎など)は延期不要。 ・BCG・ロタウイルスワクチンは生ワクチンだが、免疫グロブリンの影響を受けにくく延期不要とされる。 ・小児のIVIG大量療法の代表は川崎病とITP。
