StudyMed医師国家試験

「この病気の人はこういう人」が烙印を生む―医療者がスティグマを断ち切る4つの行動

第118回医師国家試験 C問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第118回 C問題 第27問

ある疾患への偏見・スティグマを軽減する医療者のアプローチで誤っているのはどれか。

  1. a.患者の話を傾聴する。
  2. b.疾患に関する最新の知見を調べる。
  3. c.患者の特徴を社会通念に従って類型化する。
  4. d.自分が持っているかもしれない偏見に注意を向ける。
  5. e.患者が排除されず社会に参画するための支援を検討する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、疾患に対する偏見やスティグマを医療者がどう減らしていくか、という問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式なので、どの行動がスティグマを和らげ、どの行動が逆に強めてしまうのかを見分けることがポイントになる。まず、スティグマという言葉をどう理解しているかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で「烙印」という意味だと習いました。偏見とほぼ同じ意味だと思っていたんですが、違うんでしょうか。
ドクタードクター
近いけれど少し整理しておこう。スティグマは、ある疾患や障害などの属性をもつ人に社会が貼る否定的なレッテルのこと。そこから否定的な思い込みである偏見が生まれ、偏見が不当な扱い、つまり差別として行動に表れる。ハンセン病やHIV感染症、精神疾患、結核、それに新型コロナウイルス感染症でも、スティグマが受診の遅れや治療中断、就労上の不利益、孤立を招いてきたんだ。
医学生医学生
スティグマがあると、病気そのものの経過まで悪くなりかねないんですね。
ドクタードクター
その通り。だから医療者が意識的に取り組む必要がある。スティグマは「正確な知識の欠如」から「個人を見ずに集団のイメージで判断するステレオタイプ化」へ進み、最終的に「排除」に至る、という流れで考えるとわかりやすい。この流れのどこかを断ち切る行動が適切なアプローチだ。では、選択肢を見て誤っているのはどれだと思う?
医学生医学生
社会通念に従って患者を類型化する、というのが引っかかります。でも、典型的な患者像を知っておくのは診断にも役立つので、一概に悪いとも言い切れない気がして……。
ドクタードクター
いい疑問だね。疫学的な特徴や好発年齢を医学的根拠に基づいて知っておくことと、「世間一般の思い込み」で患者を型にはめることはまったく別物なんだ。社会通念には古い誤った情報や差別的な見方が含まれていることがある。それを医療者が無批判に当てはめれば、まさにステレオタイプ化そのもので、偏見を再生産・強化してしまう。だからこれが誤り、つまり正解になる。
医学生医学生
根拠のある知識で考えるのと、世間のイメージで決めつけるのは違う、ということですね。
ドクタードクター
そう。では残りの選択肢がなぜ適切かも確認しよう。まず患者の話を傾聴することはどうかな。
医学生医学生
OSCEの医療面接で、開放型質問から始めて解釈モデルを聴くように練習しました。患者さんがどう困っているかを知るためでしょうか。
ドクタードクター
まさにそれ。傾聴によって、その人が病気をどう捉え、どんな偏見や不利益を経験しているかがわかる。「〇〇病の人」という集団の一員ではなく、固有の一人の人として理解することが、偏見を解く出発点なんだ。
医学生医学生
疾患の最新の知見を調べるのは、知識の欠如という最初の段階を断ち切るためですね。
ドクタードクター
そうだね。偏見の多くは、感染経路や予後、遺伝性についての古い知識や誤解に基づいている。たとえばHIV感染症は治療の進歩で長期生存が可能な慢性疾患になり、治療でウイルス量が検出限界未満に抑えられていれば性行為で感染しない、いわゆるU=Uも示されている。医療者が最新の情報をもち、患者や家族、社会に伝えることがスティグマの軽減に直結するんだ。
医学生医学生
自分の偏見に注意を向けるというのは、医療者でも偏見を持っている可能性がある、ということですか。
ドクタードクター
その通り。医療者も社会の一員だから、自覚しないうちに偏見、いわゆるアンコンシャス・バイアスを抱いていることがある。何気ない言葉や、診察の扱いのちょっとした差が患者を傷つけ、スティグマを強めることもある。自分を省みる姿勢が欠かせない。
医学生医学生
臨床実習の精神科で、指導医の先生が「患者さんの前で病名だけで呼ばないように」と注意していたのを思い出しました。
ドクタードクター
大事な指導だね。最後に、患者が排除されず社会に参画するための支援は、流れの最終段階である「排除」に対抗するものだ。福祉制度の活用、職場や学校との調整、地域への啓発などを検討するのは、社会的包摂の観点から医療者に求められる役割なんだ。
医学生医学生
4つの適切な行動が、知識、個人の理解、自己省察、社会参加の支援と、それぞれ違う段階を担っているんですね。
ドクタードクター
よく整理できたね。発展として、スティグマには種類があることも押さえておこう。社会が向ける公的スティグマ、患者自身が偏見を取り込んで自分を否定的に捉えるセルフスティグマ、そして法律や制度に組み込まれた構造的スティグマだ。セルフスティグマは受診や治療継続をためらわせる原因になる。
医学生医学生
構造的スティグマというと、ハンセン病の隔離政策が思い浮かびます。
ドクタードクター
まさに日本の重い教訓だ。らい予防法による強制隔離は、有効な治療法が確立した後も続き、1996年の廃止まで患者と家族に深刻な人権侵害と差別をもたらした。2001年には隔離政策の違憲性を認める判決が出ている。正しい医学的知見が政策や社会通念に反映されないとどうなるかを示す例だ。ジュネーブ宣言も、疾病や障害、社会的地位などが医師と患者の間に介入することを許さないと定めている。スティグマの軽減には、知識の普及に加えて、当事者と実際に接して一人の人として知ることが効果的とされているよ。

まとめ

スティグマは、知識の欠如からステレオタイプ化を経て社会的排除に至る流れで生じ、受診の遅れや治療中断、孤立を招きます。医療者に求められるのは、傾聴して患者を一人の個人として理解すること、最新の正しい知見を得ること、自らの無意識の偏見に気づくこと、そして患者の社会参加を支援することです。一方、社会通念に従って患者を類型化することはステレオタイプ化そのものであり、偏見を減らすどころか強めてしまう誤ったアプローチです。スティグマには公的・セルフ・構造的の種類があり、ハンセン病の隔離政策は誤った知識が制度化されたときの深刻な害を示す歴史的教訓です。医学的根拠に基づく知識と世間のイメージを区別し、目の前の患者を個人として見る姿勢は、あらゆる診療の基盤となります。

解答・解説

正解はcです

スティグマとは、ある属性(疾患、障害、出自など)をもつ人に対して社会が貼る否定的な「烙印」であり、それが偏見(否定的な思い込み)や差別(不当な扱い)につながる。ハンセン病、HIV感染症、精神疾患、結核、新型コロナウイルス感染症などで、スティグマが受診の遅れや治療中断、就労・就学の不利益、社会的孤立を招いてきた歴史がある。 スティグマの根底には、①正確な知識の欠如(古い誤った情報や恐怖)、②個人を見ずに集団のイメージで判断するステレオタイプ化、③それに基づく排除、という流れがある。したがって医療者に求められるのは、この流れの各段階を断ち切る行動である。すなわち、最新の正しい知識を身につけること、目の前の患者を一人の個人として理解すること(傾聴)、自分の中にある無意識の偏見を自覚すること、そして患者が社会から排除されないよう支援することである。 本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。社会通念に基づいて患者を類型化することは、まさにステレオタイプ化そのものであり、スティグマを軽減するどころか生み出し強める行為である。

選択肢考察

  1. ×a.  患者の話を傾聴する。

    適切なアプローチである。傾聴により、患者が自分の病気をどう捉え、何に困り、どのような偏見や不利益を経験しているか(解釈モデルや生活上の困難)を知ることができる。患者を「○○病の人」という集団の一員ではなく固有の個人として理解することが、偏見を解消する出発点となる。

  2. ×b.  疾患に関する最新の知見を調べる。

    適切なアプローチである。偏見の多くは、感染経路や予後、遺伝性などについての古い知見や誤解に基づいている。例えばHIV感染症は治療の進歩により長期生存が可能な慢性疾患となり、治療でウイルス量が検出限界未満に抑えられていれば性行為で感染しない(U=U)ことが示されている。医療者が正確な最新情報をもち、患者・家族・社会に伝えることはスティグマの軽減に直結する。

  3. ○c.  患者の特徴を社会通念に従って類型化する。

    誤ったアプローチであり、これが正解である。社会通念(世間一般の思い込み)に基づいて「この病気の人はこういう人だ」と患者を型にはめることはステレオタイプ化であり、偏見・スティグマの温床そのものである。社会通念には誤った知識や差別的な見方が含まれていることがあり、それを医療者が無批判に適用すれば、偏見を再生産・強化してしまう。医療者は患者一人ひとりの個別性に目を向けるべきである。

  4. ×d.  自分が持っているかもしれない偏見に注意を向ける。

    適切なアプローチである。医療者も社会の一員であり、自覚しないうちに偏見(無意識のバイアス、アンコンシャス・バイアス)を抱いていることがある。医療者の何気ない言動や診療上の扱いの差が患者を傷つけ、スティグマを強めることもあるため、自らの偏見を客観的に省みる姿勢が重要である。

  5. ×e.  患者が排除されず社会に参画するための支援を検討する。

    適切なアプローチである。スティグマの結果として生じるのは、就労・就学・地域生活などからの排除である。患者が社会の一員として参加できるよう、福祉制度の活用、職場や学校との調整、地域への正しい知識の啓発などを検討することは、社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)の観点から医療者に求められる役割である。

スティグマの種類

・公的スティグマ(社会的スティグマ): 社会や周囲の人々が特定の疾患の患者に向ける偏見・差別 ・セルフスティグマ(内在化されたスティグマ): 患者自身が社会の偏見を取り込み、自分を否定的に捉えること。受診や治療継続をためらう原因となる ・構造的スティグマ: 法律・制度・組織の慣行に組み込まれた差別

日本における歴史的教訓

ハンセン病では、らい予防法(1996年廃止)に基づく強制隔離政策が長く続き、有効な治療法が確立した後も隔離が維持されたことで、患者と家族に深刻な人権侵害と差別をもたらした。2001年には国の隔離政策の違憲性を認める判決が出され、その後家族への補償も行われている。正しい医学的知見が政策や社会通念に反映されないことの危険性を示す例である。

医の倫理との関連

世界医師会(WMA)のジュネーブ宣言は、医師の義務と患者との間に、年齢、疾病や障害、信条、民族的起源、性別、国籍、政治的所属、人種、性的指向、社会的地位などの要素が介入することを許さないと定めており、患者に対する差別をしないことは医療倫理の基本原則である。

スティグマ軽減の主な方策

・正しい知識の普及(教育・啓発) ・当事者との接触(実際に患者と接し個人として知ることは偏見軽減に効果的とされる) ・差別を禁止・是正する法制度の整備

POINT

・スティグマは「知識の欠如→ステレオタイプ化(類型化)→排除」の流れで生じる ・医療者のスティグマ軽減策: 傾聴して個人として理解する、最新の正しい知見を得る、自らの無意識の偏見に気づく、社会参加を支援する ・社会通念に従って患者を類型化することはステレオタイプ化であり、偏見を生む側の行為である

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。