StudyMed医師国家試験

入院翌日に足が上がらない―外旋位の臥床が招く腓骨神経麻痺

第118回医師国家試験 A問題 第50問

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第118回 A問題 第50問

An 85-year-old woman was admitted to the hospital with a left femoral neck fracture and was confined to bed rest. On admission, muscle strength and sensation in the left lower limb were normal, but the next day, she was unable to move her left foot upwards. On examination, she was unable to dorsiflex her left ankle, with decreased sensation on the dorsal aspect of her left foot. The left lower limb was externally rotated.  Select the most likely cause of her decreased ankle movement.

  1. a.Cerebral infarction
  2. b.Lumbar disc herniation
  3. c.Peroneal〈Fibular〉nerve palsy
  4. d.Deep vein thrombosis
  5. e.Achilles tendon rupture

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は英語の問題で、大腿骨頸部骨折で入院した高齢女性に、翌日になって足関節の運動障害が出たという設定だ。考えるポイントは2つ。障害が「どの神経の支配域に一致しているか」と、「なぜ入院後に新しく起きたのか」だよ。
医学生医学生
足が上がらない、つまり背屈できないということは、下垂足ですよね。
ドクタードクター
そう。では足関節を背屈させる筋と、その支配神経は何だったかな。
医学生医学生
前脛骨筋、長趾伸筋、長母趾伸筋で、深腓骨神経です。解剖学の実習で下腿前面を剖出したときに確認しました。
ドクタードクター
完璧だね。さらに足背の感覚も落ちている。足背の大部分は浅腓骨神経、第1・2趾間だけは深腓骨神経の支配だ。つまり運動も感覚も、その両方の親である総腓骨神経の領域にきれいにそろっているわけだ。
医学生医学生
でも、入院時は正常だったのに翌日に出てきたのが不思議です。骨折で神経が傷ついたのなら、最初から症状があるはずですよね。
ドクタードクター
鋭い。だから骨折そのものではなく、入院後の安静臥床中に何かが起きたと考える。ここで効いてくるのが「下肢が外旋位」という所見だ。大腿骨頸部骨折では患肢が短縮・外旋位をとるのが典型で、しかも痛みで自分では姿勢を変えられない。
医学生医学生
外旋していると、膝の外側がベッドに当たり続けますね。
ドクタードクター
その通り。総腓骨神経は膝窩から腓骨頭の後方を回り、腓骨頸部の外側を皮下のごく浅いところで通って下腿前外側に出る。骨の直上を浅く走るので、外からの圧迫にとても弱いんだ。外旋位のまま一晩押し付けられて麻痺した、と考えるのが最も自然だね。答えは腓骨神経麻痺だ。
医学生医学生
整形外科の臨床実習で、ギプスを巻いた患者さんの腓骨頭部にパッドを当てていたのも、同じ理由ですか。
ドクタードクター
まさにそう。ギプスや装具、弾性ストッキング、長時間の足組みや正座、急な体重減少で皮下脂肪が減ったときなども原因になる。では他の選択肢も確認しよう。脳梗塞はどうかな。
医学生医学生
高齢で急に麻痺が出たので、最初は脳梗塞も考えました。
ドクタードクター
急性発症という点だけなら気になるよね。ただ脳梗塞なら顔面や上肢を含む片麻痺、構音障害、半身の感覚障害などを伴うのが普通で、下肢領域に限った前大脳動脈領域の梗塞でも、下肢全体の筋力低下になることが多い。足関節背屈と足背の感覚だけが、末梢神経の支配域どおりに障害されるのは中枢性では考えにくいんだ。
医学生医学生
腰椎椎間板ヘルニアでも、L5の神経根障害なら下垂足と足背の感覚低下が出ると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。分布だけ見ると確かに似ている。ただヘルニアは腰痛や下肢への放散痛を伴うのが典型だし、好発は20〜40歳代。85歳が入院翌日に突然、というのは状況が合わない。鑑別のコツとして、L5神経根障害では中殿筋による股関節外転や、後脛骨筋による足の内反も弱くなりうる。後脛骨筋は脛骨神経支配だから、腓骨神経麻痺なら内反は保たれる。
医学生医学生
内反ができるかどうかで、根か末梢神経かを見分けられるんですね。深部静脈血栓症はどうでしょう。骨折後の臥床なのでリスクは高そうですが。
ドクタードクター
リスクが高いのは正しいし、予防も含めて重要な合併症だ。でも症状は患肢の腫脹、疼痛、圧痛、色調変化で、特定の神経支配域に一致する麻痺や感覚低下は起こさない。アキレス腱断裂は?
医学生医学生
アキレス腱は下腿三頭筋の腱なので、障害されるのは底屈ですね。背屈ができないのとは逆です。
ドクタードクター
その通り。つま先立ちができなくなり、腓腹部をつかんでも足関節が底屈しないThompsonテスト陽性が特徴だ。感覚障害も伴わないし、臥床中に受傷機転もない。
医学生医学生
症状の分布で総腓骨神経に絞って、外旋位での臥床という圧迫要因で原因を決める、という流れですね。
ドクタードクター
そう。最後に臨床の話をしておこう。圧迫による麻痺の多くは、圧迫を除けば数週から数か月で回復が期待できる。その間は尖足拘縮やつまずきを防ぐために短下肢装具を使い、足関節の可動域訓練を続ける。歩くときは足先が垂れるので、膝を高く上げる鶏歩になるよ。
医学生医学生
回復しなかったらどうするんですか。
ドクタードクター
神経伝導検査で腓骨頭部の伝導ブロックを確認したり、Tinel徴候で障害部位を見たりして評価し、回復が乏しい場合や外傷例では神経剥離術や腱移行術を検討する。でも一番大事なのは予防だ。臥床患者では枕などで下肢が外旋しないよう肢位を保ち、腓骨頭部を除圧する。病棟でこれを意識できるかどうかで、患者さんのその後の歩行が変わるんだ。

まとめ

大腿骨頸部骨折の患肢は短縮・外旋位をとりやすく、痛みで体位を変えられないまま臥床すると、腓骨頭部が持続的に圧迫されて総腓骨神経麻痺を生じます。深腓骨神経障害による足関節・足趾の背屈不能(下垂足)と、足背の感覚低下が特徴で、入院時は正常で翌日に出現したという経過も圧迫性麻痺を支持します。脳梗塞は片麻痺や構音障害を伴い、L5神経根障害は腰痛・放散痛や股関節外転・足内反の筋力低下を伴いうる点で区別でき、深部静脈血栓症は腫脹・疼痛、アキレス腱断裂は底屈障害で、いずれも本例の所見を説明できません。多くは除圧で回復しますが、回復までは短下肢装具と可動域訓練を行い、何より臥床患者の肢位管理と腓骨頭部の除圧による予防が重要です。神経の走行と支配域から障害部位を推定する考え方は、病棟で起こる医原性合併症を防ぐうえでも役立ちます。

解答・解説

正解はcです

問題文の要旨(和訳)

85歳の女性。左大腿骨頸部骨折で入院し、ベッド上安静となった。入院時は左下肢の筋力・感覚とも正常であったが、翌日になって左足を上に持ち上げられなくなった。診察では左足関節の背屈が不能で、左足背の感覚が低下していた。左下肢は外旋位をとっていた。足関節の運動低下の原因として最も考えられるものを選べ。

所見の整理

・高齢女性の大腿骨頸部骨折:骨折部の痛みのため患肢を自分で動かせず、同じ肢位のまま臥床が続く状況である。 ・入院時には神経学的異常なし → 翌日に急に出現:骨折そのものではなく、入院後の何らかの要因で新たに生じた障害と考えられる。 ・足関節背屈不能(下垂足)と足背の感覚低下:足関節を背屈させる前脛骨筋・長趾伸筋・長母趾伸筋は深腓骨神経、足背の大部分の皮膚感覚は浅腓骨神経(第1・2趾間は深腓骨神経)が支配する。つまり総腓骨神経領域の運動・感覚障害がそろっている。 ・下肢外旋位:大腿骨頸部骨折では患肢が短縮・外旋位をとるのが典型である。外旋位のまま臥床すると、膝の外側(腓骨頭付近)がベッド面に押し付けられる。

診断に至る考え方

総腓骨神経は膝窩から腓骨頭の後方を回って下腿前外側へ向かう。この部位では神経が骨の直上を皮下の浅い位置で走るため、外からの圧迫に非常に弱い。外旋位での臥床、ギプスや装具・弾性ストッキングによる圧迫、長時間の足組み・しゃがみ姿勢などで容易に麻痺を生じる。本例は「急性発症」「片側の腓骨神経支配域に限局した運動・感覚障害」「患肢外旋位での安静臥床」という3点がそろっており、腓骨頭部での圧迫による総腓骨神経麻痺と判断できる。 本問では、下垂足をきたす他の病態(中枢性病変、腰椎疾患)や、骨折後の臥床でよく問題となる合併症(深部静脈血栓症)との違いを、発症状況と障害の分布から見分けられるかが問われている。

選択肢考察

  1. ×a.  Cerebral infarction

    脳梗塞。高齢者で急性に麻痺が出現する点は合致しうるが、脳梗塞では通常、顔面や上肢を含む片麻痺、構音障害、半身の感覚障害などを伴い、足関節背屈と足背感覚だけに限局した障害は考えにくい(大脳皮質の下肢領域に限局する前大脳動脈領域梗塞でも、下肢全体の筋力低下となるのが普通である)。また中枢性麻痺では感覚障害が末梢神経の支配域に一致しない。本例は腓骨神経の支配域に一致した障害であり、さらに外旋位での臥床という明確な圧迫要因があるため否定的である。

  2. ×b.  Lumbar disc herniation

    腰椎椎間板ヘルニア。L4/5椎間板ヘルニアによるL5神経根障害でも足関節・足趾の背屈筋力低下(下垂足)や足背の感覚低下を生じうるため、症状の分布だけでは鑑別に含まれる。しかし、ヘルニアは典型的には腰痛や下肢への放散痛(坐骨神経痛)を伴い、神経根性の障害では中殿筋(股関節外転)などL5支配のほかの筋にも筋力低下が及ぶことが多い。また椎間板ヘルニアの好発年齢は20〜40歳代であり、85歳の高齢者で入院翌日に突然発症するのは状況的に合わない。圧迫要因が明らかな本例では第一に考えるべき原因ではない。

  3. ○c.  Peroneal〈Fibular〉nerve palsy

    腓骨神経麻痺。総腓骨神経は腓骨頭(腓骨頸部)の外側を皮下の浅い位置で回り込むため、圧迫を受けやすい。大腿骨頸部骨折では患肢が外旋位をとり、痛みのため自分で肢位を変えられないので、膝外側の腓骨頭部がベッドに押し付けられ続ける。その結果、深腓骨神経の障害による足関節・足趾の背屈不能(下垂足)と、浅腓骨神経などの障害による足背の感覚低下が出現する。入院時は正常で翌日に発症したという経過も、安静臥床中の圧迫で生じたことを裏付けており、最も考えられる原因である。

  4. ×d.  Deep vein thrombosis

    深部静脈血栓症(DVT)。大腿骨近位部骨折と術前後の臥床はDVTの高リスク状況であり、予防や早期発見が重要な合併症である。ただしDVTの症状は患肢の腫脹、疼痛、圧痛、皮膚色調変化などであり、特定の末梢神経支配域に一致した筋力低下や感覚低下は通常生じない。本例の下垂足と足背感覚低下は説明できない。

  5. ×e.  Achilles tendon rupture

    アキレス腱断裂。アキレス腱は下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)の腱で、足関節の底屈に働く。断裂すると底屈力が低下し、つま先立ちができなくなり、Thompson(トンプソン)テスト(腓腹部をつかんでも足関節が底屈しない)が陽性となる。一方、背屈は前脛骨筋などの働きで可能なままである。また感覚障害も伴わない。臥床中に受傷機転もなく、本例の所見とは合わない。

総腓骨神経の走行と支配

・坐骨神経は大腿後面を下行し、膝窩の上方で脛骨神経と総腓骨神経に分かれる。 ・総腓骨神経は大腿二頭筋腱の内側に沿って下外側へ走り、腓骨頭の後方から腓骨頸部の外側を回って下腿前外側に出たのち、深腓骨神経と浅腓骨神経に分かれる。 ・深腓骨神経:前脛骨筋、長趾伸筋、長母趾伸筋など(足関節・足趾の背屈)を支配。感覚は第1・2趾間の足背のみ。 ・浅腓骨神経:長腓骨筋・短腓骨筋(足の外反)を支配。感覚は下腿外側〜足背の大部分。 ・したがって総腓骨神経麻痺では、足関節・足趾の背屈不能(下垂足)、足の外反力低下、下腿外側〜足背の感覚低下がみられる。歩行時は足先が垂れるため膝を高く上げて歩く鶏歩(steppage gait)となる。

腓骨神経麻痺の主な原因

・外的圧迫:下肢外旋位での臥床(術後・骨折・意識障害)、ギプスや装具・弾性包帯の圧迫、長時間の足組み、正座やしゃがみ姿勢、急激な体重減少による皮下脂肪の減少など。 ・外傷:腓骨頭・腓骨頸部骨折、膝関節の脱臼や靱帯損傷。 ・その他:ガングリオンなどの腫瘤による圧迫。

鑑別のポイント

・L5神経根障害:腰痛・下肢痛を伴い、中殿筋(股関節外転)や後脛骨筋(足の内反)の筋力低下も生じうる。腓骨神経麻痺では後脛骨筋(脛骨神経支配)は保たれ、足の内反は可能である。 ・中枢性病変:腱反射亢進や病的反射、障害の分布が末梢神経支配に一致しないことなどで区別する。 ・腓骨頭部での神経伝導検査の伝導ブロックや、腓骨頭部でのTinel徴候も局在診断に役立つ。

治療と予防

・圧迫による麻痺は多くの場合、圧迫を除けば数週〜数か月で自然回復が期待できる。 ・回復までは尖足拘縮や歩行時のつまずきを防ぐため、短下肢装具を用い、足関節の可動域訓練を行う。 ・予防として、臥床患者では下肢が外旋しないよう枕などで肢位を保持し、腓骨頭部への圧迫を避ける。ギプス・装具装着時も腓骨頭部の除圧に注意する。 ・回復しない場合や外傷例では、神経剥離術や腱移行術などが検討される。

POINT

・総腓骨神経は腓骨頭(腓骨頸部)の外側を浅く走行し、外からの圧迫で麻痺しやすい。 ・下肢外旋位での臥床(大腿骨頸部骨折、術後など)やギプス・装具の圧迫が典型的な原因である。 ・症状は足関節・足趾の背屈不能(下垂足)、足背〜下腿外側の感覚低下、鶏歩。 ・アキレス腱断裂は底屈障害、DVTは腫脹・疼痛であり、背屈障害と感覚低下は説明できない。 ・予防は肢位管理による腓骨頭部の除圧、治療は除圧と短下肢装具が基本。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。