しびれの犯人は「どこ」にいる?―神経伝導検査が光る肘部管症候群
第115回医師国家試験 E問題 第14問
国試問題にチャレンジ
末梢神経伝導検査が診断に有用なのはどれか。
- a.肘部管症候群
- b.Parkinson病
- c.多発性筋炎
- d.脊髄損傷
- e.脳梗塞
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
末梢神経伝導検査は末梢神経を電気刺激して反応を記録し、伝導速度・潜時・振幅から脱髄か軸索障害か、さらに局所の絞扼部位を判定する検査です。尺骨神経が肘で絞扼される肘部管症候群では、肘をはさむ区間に限局した伝導遅延や伝導ブロックが確認でき、Guyon管症候群や頸椎疾患との鑑別にも有用です。一方、Parkinson病・脳梗塞・脊髄損傷は中枢神経、多発性筋炎は筋の疾患であり、末梢神経の伝導は原則として保たれます。筋疾患には針筋電図、脳・脊髄の伝導路にはSEP・MEP、神経筋接合部には反復神経刺激試験と、評価したい部位に応じて検査を使い分けることが重要です。病変の局在を意識して検査を選ぶ考え方は、神経疾患の診療全般の基本となります。
解答・解説
正解はaです
検査の目的
末梢神経伝導検査(nerve conduction study:NCS)は、皮膚の上から末梢神経を電気刺激し、その神経が支配する筋や神経上の別の点で反応を記録する検査である。運動神経では複合筋活動電位(compound muscle action potential:CMAP)、感覚神経では感覚神経活動電位(sensory nerve action potential:SNAP)を記録し、2点間の距離と潜時の差から伝導速度を求める。
何が分かるか
・伝導速度の低下や遠位潜時の延長:髄鞘(ミエリン)の障害(脱髄)を示す。 ・振幅の低下:軸索そのものの脱落(軸索障害)を示す。 ・特定の区間だけでの伝導遅延や伝導ブロック:その部位での局所的な圧迫・絞扼を示す。 つまり、運動麻痺やしびれの原因が「末梢神経にあるかどうか」、あるとすれば「どこで、どのような種類の障害か」を判定する検査である。
考え方
選択肢のうち、病変の主座が末梢神経にあるのは、尺骨神経が肘で絞扼される肘部管症候群だけである。Parkinson病・脳梗塞は脳(中枢神経)、脊髄損傷は脊髄(中枢神経)、多発性筋炎は筋そのものの病気であり、末梢神経の伝導は原則として保たれるため、神経伝導検査は診断の決め手にならない。
選択肢考察
- ○a. 肘部管症候群
肘の内側(上腕骨内側上顆の後方)にある肘部管で尺骨神経が圧迫・牽引されて生じる絞扼性ニューロパチーである。環指尺側半分と小指のしびれ、骨間筋などの手内在筋の筋力低下・萎縮が生じ、進行するとかぎ爪変形(鷲手)やFroment徴候がみられる。神経伝導検査では尺骨神経を手関節部・肘下・肘上で順に刺激してCMAPやSNAPを記録し、肘をはさむ区間に限局した伝導速度の低下や、肘上刺激でのCMAP振幅の低下・波形の変化(伝導ブロック)を確認する。これにより障害部位を肘部に特定でき、手関節部のGuyon管症候群や頸椎疾患(頸椎症性神経根症など)との鑑別、重症度の判定にも役立つため、確定診断に有用である。
- ×b. Parkinson病
中脳黒質のドパミン神経細胞の変性による中枢神経疾患であり、末梢神経の伝導は正常である。診断は安静時振戦・筋強剛・無動などの臨床症状とL-ドパへの反応性を基本とし、補助検査としてドパミントランスポーターSPECT(DAT scan)やMIBG心筋シンチグラフィ(心臓交感神経の脱神経を反映し取り込みが低下する)が用いられる。頭部CT・MRIは他疾患の除外に用いる。表面筋電図では、主動筋と拮抗筋が交互に放電する4〜6Hz程度の規則的な群化放電として振戦が記録されるが、これは神経伝導検査ではない。
- ×c. 多発性筋炎
骨格筋に炎症が起こる自己免疫性の筋疾患であり、障害の主座は筋そのものにあるため、神経伝導検査は原則として正常である。診断には血清クレアチンキナーゼ(CK)上昇などの血液検査、抗Jo-1抗体などの筋炎特異的自己抗体、筋MRI(炎症筋のT2強調像・STIR像での高信号)、針筋電図、筋生検が用いられる。針筋電図では安静時の線維自発電位・陽性鋭波、随意収縮時の低振幅・短持続・多相性の運動単位電位と早期動員といった筋原性変化がみられる。電気生理学的に有用なのは神経伝導検査ではなく針筋電図である。
- ×d. 脊髄損傷
脊髄は中枢神経であり、末梢神経伝導検査の対象外である。損傷の部位・程度の評価にはCT(骨折や脱臼の評価)とMRI(脊髄実質の浮腫・出血・圧迫の評価)が中心となり、神経学的高位や重症度は徒手筋力検査・感覚検査に基づくASIA(米国脊髄損傷協会)の評価法などで判定する。電気生理学的に脊髄の伝導路を評価するには、体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potential:SEP)や運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)が用いられる。
- ×e. 脳梗塞
脳血管の閉塞により脳組織が壊死する中枢神経疾患であり、麻痺は錐体路(皮質脊髄路)など上位運動ニューロンの障害で生じるため、末梢神経の伝導は正常である。診断には頭部CT(出血の除外)と頭部MRI、特に拡散強調像(発症早期から梗塞巣が高信号を示す)が有用であり、MRA・頸動脈超音波・心電図などで病型(アテローム血栓性・心原性塞栓・ラクナ梗塞など)を評価する。
電気生理学的検査の使い分け
・末梢神経伝導検査:末梢神経(運動・感覚)の障害の有無、部位、脱髄か軸索障害かを評価する。手根管症候群・肘部管症候群などの絞扼性ニューロパチー、Guillain-Barré症候群、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)、糖尿病性ニューロパチー、Charcot-Marie-Tooth病などで有用である。 ・F波:運動神経を刺激して脊髄前角細胞で反転して戻る波で、神経根を含む近位部の伝導を評価する。Guillain-Barré症候群の早期に出現率低下や潜時延長がみられる。 ・反復神経刺激試験:神経筋接合部の評価に用いる。重症筋無力症では低頻度刺激で漸減現象(waning)、Lambert-Eaton筋無力症候群では高頻度刺激で漸増現象(waxing)がみられる。 ・針筋電図:筋原性変化(多発性筋炎、筋ジストロフィーなど)と神経原性変化(筋萎縮性側索硬化症など)の鑑別に用いる。 ・体性感覚誘発電位(SEP)・運動誘発電位(MEP):脊髄や脳の伝導路(中枢神経)の評価に用いる。 ・表面筋電図:振戦などの不随意運動の周波数や、主動筋・拮抗筋の放電パターンの評価に用いる。
肘部管症候群の要点
・原因:変形性肘関節症、小児期の上腕骨外側顆骨折後の外反肘(遅発性尺骨神経麻痺)、ガングリオン、尺骨神経の脱臼など。 ・症状:環指尺側・小指のしびれ、手内在筋の萎縮(第1背側骨間筋が目立つ)、鷲手、Froment徴候。肘部管でのTinel徴候や肘屈曲テストが陽性となる。 ・治療:保存療法(肘の屈曲を避ける)、無効例や麻痺進行例では尺骨神経の除圧術・前方移行術。
POINT
・末梢神経伝導検査は「末梢神経」の障害を調べる検査であり、中枢神経疾患(脳梗塞、Parkinson病、脊髄損傷)や筋疾患(多発性筋炎)では原則として異常を示さない。 ・絞扼性ニューロパチー(肘部管症候群、手根管症候群など)では、絞扼部をはさむ区間の局所的な伝導遅延・伝導ブロックが診断の決め手となる。 ・筋疾患には針筋電図、脊髄・脳の伝導路の評価にはSEP・MEP、神経筋接合部疾患には反復神経刺激試験を用いる。
