数字の「山」が語る流行史―表から風疹を見抜く公衆衛生の読み方
第117回医師国家試験 C問題 第9問
国試問題にチャレンジ
感染症法上の五類感染症のうち,全数把握対象疾患である梅毒,風疹,麻疹,後天性免疫不全症候群,薬剤耐性アシネトバクター感染症について,発生動向調査によるそれぞれの患者数の年次推移を示す。 年 A B C D E 2011 827 1,535 378 439 - 2012 875 1,438 2,386 283 - 2013 1,228 1,586 14,344 229 - 2014 1,661 1,538 319 462 15 2015 2,690 1,431 163 35 38 2016 4,575 1,443 126 165 33 2017 5,826 1,395 91 186 28 2018 7,007 1,301 2,941 279 24 2019 6,642 1,231 2,298 744 24 2020 5,867 1,094 101 10 10 風疹はどれか。
- a.A
- b.B
- c.C
- d.D
- e.E
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
感染症発生動向調査の推移表は、疾患ごとの「流行の形」を手がかりに読み解けます。風疹は数年ごとに大流行し、2012〜2013年と2018〜2019年に大きな山をつくりましたが、背景には定期接種の機会がなかった成人男性の世代の存在があり、妊婦への感染による先天性風疹症候群が問題となるため第5期定期接種が行われています。梅毒は持続的に急増、HIV/AIDSは年間1,000人超で横ばい〜緩やかな減少、麻疹は2015年の排除状態認定以降は輸入例中心、薬剤耐性アシネトバクター感染症は2014年9月から全数把握という特徴があり、2020年以降はCOVID-19対策で飛沫感染症が激減しました。麻疹・風疹は直ちに届出が必要な点も含め、流行の背景を予防接種制度の歴史と結びつけて理解することが、臨床と公衆衛生の両面で役立ちます。
解答・解説
正解はcです
問われていること
感染症法に基づく感染症発生動向調査(全国の医療機関からの届出を集計する制度)で、五類全数把握疾患である梅毒・風疹・麻疹・後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)・薬剤耐性アシネトバクター感染症の患者数の推移を見分ける問題である。各疾患の「流行の形」を知っていれば、表の数字の動きから特定できる。
表の数字の特徴
・A:2011年の800人台から年々増え続け、2018年には7,000人を超えている。右肩上がりの持続的増加。 ・B:毎年1,100〜1,600人程度で大きな変動がなく、2013年頃を山として緩やかに減少している。 ・C:普段は数十〜数百人程度だが、2012〜2013年(2013年は14,344人)と2018〜2019年に数千〜1万人を超える爆発的な流行が見られ、2020年に激減している。 ・D:数十〜数百人程度で推移し、2019年に744人とやや増えたが、2020年には10人まで減っている。 ・E:2013年までは「-」(届出対象外)で、2014年から数十人規模の報告が始まっている。
考え方
周期的に大流行を起こし、とくに2013年と2018〜2019年に大きな山をもつのは風疹の特徴である。これは定期予防接種の制度の変遷により、抗体をもたない成人男性の世代が存在することが背景にある。2020年以降の激減は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下でのマスク着用・人の移動の制限などにより、飛沫で広がる感染症全般が減少したためと考えられる。以上から風疹はCである。
選択肢考察
- ×a. A
Aは梅毒である。梅毒はTreponema pallidumによる性感染症で、2010年代前半から報告数が増え始め、表のように2018年には7,000人を超えた。2020年に一時やや減少したものの、2021年以降は再び急増し、2022年には1万人を超えて現行の届出制度開始以降で最多を更新するなど、社会的な問題となっている。若年女性や異性間性的接触による感染の増加が指摘されている。持続的な右肩上がりの推移は風疹の周期的な流行パターンとは異なる。
- ×b. B
Bは後天性免疫不全症候群(HIV感染症を含む)である。新規のHIV感染者とAIDS患者を合わせた報告数は毎年1,000人を超える水準で推移し、2013年頃をピークとして緩やかな減少傾向にある。感染経路は性的接触が大部分を占め、なかでも男性同性間の性的接触が多い。2020年の減少には、COVID-19流行の影響で保健所などでのHIV検査件数が減ったことも関与していると考えられている。年ごとの変動が小さい点で、爆発的流行を起こす風疹とは異なる。
- ○c. C
Cは風疹である。風疹は風疹ウイルスによる飛沫感染症で、数年おきに大きな流行を起こす。2012〜2013年には2013年だけで1万4千人を超える大流行となり、その影響で先天性風疹症候群(妊娠初期の母体感染による胎児の白内障・心疾患・難聴など)の児が多数報告された。2018〜2019年にも再び流行し、いずれも定期接種の機会がなかった、あるいは接種率の低かった30〜50歳代の男性が流行の中心であった。2020年以降はCOVID-19対策による飛沫感染の減少で患者数が激減している。この大きな周期的変動がCの推移と一致する。
- ×d. D
Dは麻疹である。日本では2007〜2008年に10〜20歳代を中心とした大流行(2008年は1万人以上)があり、これを受けて中学1年生・高校3年生相当への追加接種(2008〜2012年度)などの対策が行われた。2006年度からは麻疹風疹混合(MR)ワクチンの2回接種が定期接種となっている。その結果、2015年に世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局から、土着の麻疹ウイルスによる伝播が12か月以上確認されない「排除状態」にあると認定された。現在の発生は海外からの輸入例と、それを発端とする国内での散発的な感染に限られる。2019年の増加(744人)もそうした輸入例を起点とする集団発生によるもので、2020年以降は入国者の減少などにより激減した。
- ×e. E
Eは薬剤耐性アシネトバクター感染症である。2011年2月に五類定点把握疾患となり、2014年9月から五類全数把握疾患に変更されたため、表では2014年から数値が記載されている。カルバペネム系、アミノグリコシド系、フルオロキノロン系の3系統に耐性を示すアシネトバクター属菌による感染症が届出対象で、主に免疫力の低下した入院患者に日和見感染・医療関連感染として発症する。報告数は年間数十人程度と少なく、風疹の推移とは明らかに異なる。
感染症法の五類感染症と把握方法
五類感染症は、国が発生動向を調査し、その結果を国民や医療関係者に提供・公開することで発生や拡大を防ぐべき感染症である。把握方法には、すべての医師が全例を届け出る「全数把握」と、指定された医療機関(定点)のみが報告する「定点把握」がある。全数把握の五類感染症は、診断後7日以内(麻疹・風疹・侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに)に届け出る。本問の5疾患はいずれも全数把握対象である。
風疹の流行と予防接種制度の歴史
・1977年8月〜1995年3月:女子中学生のみを対象に風疹ワクチンを集団接種していた。そのため、この時期に中学生だった世代の男性は定期接種の機会がなかった。 ・1995年4月以降:男女ともに幼児期の接種が定期接種となったが、制度移行期に個別接種となった世代では接種率が低かった。 ・2006年度以降:MRワクチンによる2回接種(1歳時と小学校就学前1年間)が定期接種となった。 ・2019年度から:抗体保有率が低い1962年4月2日〜1979年4月1日生まれの男性を対象に、抗体検査と予防接種を公費で行う追加的対策(風疹の第5期定期接種)が開始された。 成人男性の間で流行が起こると、職場や家庭を介して妊婦が感染するおそれがある。妊娠初期(とくに妊娠12週頃まで)の感染では先天性風疹症候群の頻度が高く、2012〜2014年の流行では40例以上が報告された。
麻疹の排除状態
世界保健機関(WHO)の定義では、「排除状態」とは、質の高いサーベイランス(発生監視)体制のもとで、その国に土着する麻疹ウイルス株による伝播が12か月以上確認されない状態をいう。日本は2015年3月にWHO西太平洋地域事務局から排除状態にあると認定された。排除後も、海外からの輸入例を起点とした集団発生がときに起こるため、排除状態を保つには1期・2期それぞれの接種率95%以上の維持が求められている。
POINT
・風疹:数年ごとに大流行(2012〜2013年、2018〜2019年)。流行の中心は予防接種の機会がなかった成人男性。妊婦への感染による先天性風疹症候群が問題。 ・梅毒:2010年代以降急増し、近年も過去最多を更新している。 ・HIV/AIDS:年間1,000人以上で比較的横ばい〜緩やかな減少。 ・麻疹:日本は2015年に排除状態と認定。現在の発生は輸入例とその関連例。 ・薬剤耐性アシネトバクター感染症:2014年9月から五類全数把握。 ・2020年以降、COVID-19対策の影響で飛沫感染症(風疹・麻疹など)の報告数は大きく減少した。
