StudyMed医師国家試験

レンガとモルタルで読み解く皮膚バリア―角層のすき間を埋めるセラミドの役割

第117回医師国家試験 C問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第117回 C問題 第10問

角層細胞間脂質を構成するのはどれか。

  1. a.ケラチン
  2. b.セラミド
  3. c.アミロイド
  4. d.デスモソーム
  5. e.ヘミデスモソーム

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は皮膚のいちばん外側、角層がどうやってバリアとして働いているかを問う問題だ。選択肢には皮膚にかかわる言葉が並んでいるけれど、問われているのは「細胞と細胞のすき間を埋める脂質」は何か、という点。まずは「脂質かどうか」で選択肢を分けてみよう。
医学生医学生
組織学の講義で、角層は「レンガとモルタル」にたとえられると習いました。
ドクタードクター
いいところを覚えているね。レンガに当たるのは核を失って平たくなった角層細胞で、中身はケラチン線維でぎっしり詰まっている。モルタルに当たるのが細胞のすき間を埋める角層細胞間脂質だ。このモルタルが、体の水分が外へ逃げるのも、外から異物が入ってくるのも防いでいる。
医学生医学生
じゃあケラチンもバリアの主役なので、細胞間脂質の一部なのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこは間違えやすいポイントだね。ケラチンは上皮細胞の細胞骨格をつくる中間径フィラメントの蛋白質で、角層細胞の「中身」、つまりレンガの材料だ。細胞の外のすき間にある脂質ではない。そもそも蛋白質だから「脂質」という問いには当てはまらないんだ。
医学生医学生
選択肢で脂質といえるのはセラミドだけですね。
ドクタードクター
その通り、正解はセラミドだ。セラミドはスフィンゴシンに脂肪酸がアミド結合したスフィンゴ脂質の一種で、角層細胞間脂質の重さのおよそ半分を占める。残りはコレステロールと遊離脂肪酸で、これらが何層にも規則正しく重なった層板構造をつくって、水を通しにくくしているんだ。
医学生医学生
その脂質はどこから来るんですか。角層細胞自体はもう核もないですよね。
ドクタードクター
いい疑問だね。もとは顆粒層の角化細胞の中で作られる層板顆粒、別名Odland小体だ。顆粒層から角層へ移るときに、この顆粒が中身の脂質を細胞の外へ放出して、すき間に層板構造をつくる。顆粒層にはもう一つ、プロフィラグリンを含むケラトヒアリン顆粒もあったね。
医学生医学生
病理実習でH-E染色の顆粒層を見て、紫の粒がケラトヒアリン顆粒だと教わりました。
ドクタードクター
そう、それがフィラグリンのもとで、分解されると天然保湿因子として角層細胞内で水分を保つ。細胞間脂質、天然保湿因子、そして角層細胞の膜の内側を裏打ちする周辺帯の3つがそろって角層のバリアになると整理しておこう。では残りの選択肢も確認しよう。アミロイドはどうかな。
医学生医学生
アミロイドはCongo red染色で橙赤色に染まって、偏光でアップルグリーンになる沈着物ですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。アミロイドはβシート構造をとって線維状に凝集した蛋白質の総称で、アミロイドーシスという病的な状態で沈着するものだ。正常な角層の構成成分ではない。ちなみに皮膚に限局したアミロイド苔癬などでは、ケラチン由来のアミロイドが真皮乳頭層に沈着する。
医学生医学生
デスモソームとヘミデスモソームは接着装置なので、脂質ではないですね。天疱瘡と類天疱瘡の話で出てきました。
ドクタードクター
そう、どちらも細胞をつなぎとめる構造だ。デスモソームは角化細胞どうしをつなぎ、デスモグレインに対する自己抗体で天疱瘡が起こって表皮内水疱ができる。角層ではコルネオデスモソームとして角層細胞をつなぎ、これが分解されると垢として剥がれ落ちる。ヘミデスモソームは基底細胞を基底膜に固定する構造で、BP180やBP230に対する自己抗体で水疱性類天疱瘡になり、表皮下水疱ができる。
医学生医学生
蛋白質、接着構造、病的沈着物と分けていけば、脂質はセラミドしか残らないんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床とのつながりを押さえよう。アトピー性皮膚炎では角層のセラミドが減っていて、一部の患者さんではフィラグリン遺伝子の変異もあり、バリア機能の低下が発症に関わると考えられている。だから保湿剤によるスキンケアが治療の基本の一つなんだ。
医学生医学生
皮膚科の外来で、ステロイド外用だけでなく保湿の指導にも時間をかけていた理由がわかりました。
ドクタードクター
いい観察だね。さらに重い例として、脂質を層板顆粒へ運ぶABCA12の遺伝子変異では細胞間脂質の層板構造がつくられず、重症の道化師様魚鱗癬になる。フィラグリン変異は尋常性魚鱗癬の原因になる。モルタルの材料や運び手が欠けるとバリアが崩れる、とイメージしておくと覚えやすいよ。

まとめ

表皮の角層は、ケラチンで満たされた角層細胞(レンガ)と、そのすき間を埋める角層細胞間脂質(モルタル)からなる構造で皮膚バリアを担っています。角層細胞間脂質は顆粒層の層板顆粒に由来し、主成分はセラミドで、コレステロール・遊離脂肪酸とともに層板構造をつくって水分の蒸散を防ぎます。ケラチンは細胞骨格の蛋白質、アミロイドは病的に沈着する線維状蛋白、デスモソームとヘミデスモソームは接着装置で、それぞれ天疱瘡・水疱性類天疱瘡の標的です。アトピー性皮膚炎ではセラミド減少によるバリア低下が関与し、ABCA12変異では道化師様魚鱗癬を生じます。角層の構造を理解しておくことは、スキンケア指導や遺伝性・自己免疫性皮膚疾患の理解の土台になります。

解答・解説

正解はbです

テーマ

表皮の最外層である角層(角質層)は、体内の水分が逃げるのを防ぎ、外界からの異物や微生物の侵入を防ぐ「皮膚バリア」の主役である。角層はしばしば「レンガとモルタル」にたとえられる。レンガに当たるのが、核を失って扁平になった角層細胞(角質細胞)であり、その内部はケラチン線維で満たされている。モルタルに当たるのが、角層細胞のすき間を埋める角層細胞間脂質である。

角層細胞間脂質の成り立ち

角層細胞間脂質は、顆粒層の角化細胞(ケラチノサイト)内で作られる層板顆粒(ラメラ顆粒、Odland小体)に由来する。層板顆粒は顆粒層から角層へ移行する際に、内容物の脂質を細胞外に放出し、これが細胞間で何層にも重なった層板(ラメラ)構造をつくる。主な構成成分はセラミド(重量比でおよそ半分を占める)、コレステロール、遊離脂肪酸であり、これらが規則正しく並ぶことで水を通しにくいバリアを形成する。

正解の導き方

選択肢のうち脂質はセラミドだけである。ケラチンとアミロイドは蛋白質、デスモソームとヘミデスモソームは細胞の接着構造であり、いずれも「脂質」ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  ケラチン

    ケラチンは上皮細胞の細胞骨格をつくる中間径フィラメントを構成する蛋白質で、表皮の角化細胞にとくに豊富である。角層では角層細胞の内部を満たし、細胞に強度を与える。すなわちケラチンは角層細胞の「中身」であり、細胞と細胞の間を埋める脂質ではない。なお、ケラチン遺伝子の変異は、基底層のK5/K14であれば単純型表皮水疱症、有棘層以上のK1/K10であれば表皮融解性魚鱗癬などの遺伝性皮膚疾患の原因となる。

  2. ○b.  セラミド

    セラミドはスフィンゴシン(長鎖アミノアルコール)に脂肪酸がアミド結合したスフィンゴ脂質の一種で、角層細胞間脂質の最も主要な成分である。コレステロールや遊離脂肪酸とともに層板構造をつくり、角層からの水分の蒸散を防ぐ。アトピー性皮膚炎の皮膚では角層のセラミドが減少しており、バリア機能の低下に関与すると考えられている。また、脂質を層板顆粒へ輸送するABCA12の遺伝子変異では細胞間脂質の形成が障害され、重症の道化師様魚鱗癬を生じる。

  3. ×c.  アミロイド

    アミロイドは、免疫グロブリン軽鎖、トランスサイレチン、β2-ミクログロブリン、血清アミロイドA蛋白、ケラチンなど様々な前駆蛋白が、βシート構造をとって線維状に凝集・沈着したものの総称である。光学顕微鏡ではヘマトキシリン・エオジン(HE)染色で好酸性の無構造物質として見え、Congo red染色で橙赤色に染まり、偏光顕微鏡で緑色の複屈折(アップルグリーン)を示す。病的な状態(アミロイドーシス)で沈着する蛋白質であり、正常な角層の細胞間脂質の構成成分ではない。なお、皮膚限局性アミロイドーシス(アミロイド苔癬など)ではケラチン由来のアミロイドが真皮乳頭層に沈着する。

  4. ×d.  デスモソーム

    デスモソームは隣り合う角化細胞どうしをつなぐ細胞間接着装置である。カドヘリン型の接着分子であるデスモグレインやデスモコリンが細胞外で結合し、細胞内ではデスモプラキンなどを介してケラチン線維につながる。角層では角層デスモソーム(コルネオデスモソーム)として角層細胞どうしをつなぎ止め、これが分解されることで角層細胞が垢として剥がれ落ちる。接着構造であって脂質ではない。デスモグレインに対する自己抗体により天疱瘡(尋常性天疱瘡ではデスモグレイン3、落葉状天疱瘡ではデスモグレイン1)が生じる。

  5. ×e.  ヘミデスモソーム

    ヘミデスモソームは表皮最下層の基底細胞を基底膜に固定する接着装置で、デスモソームの「半分」のような形をしていることから名づけられた。BP180(ⅩⅦ型コラーゲン)、BP230、インテグリンα6β4などから構成される。表皮と真皮の境界に存在する構造であり、角層の細胞間脂質とは関係しない。BP180やBP230に対する自己抗体により水疱性類天疱瘡が生じ、表皮下水疱を形成する。

表皮の構造(深部から順に)

・基底層:1層の基底細胞からなり、細胞分裂により角化細胞を供給する。ヘミデスモソームで基底膜に固定されている。メラノサイトやMerkel細胞も存在する。 ・有棘層:数層〜十数層。細胞間をデスモソームが多数つなぎ、光学顕微鏡では棘のように見える。Langerhans細胞が存在する。 ・顆粒層:ケラトヒアリン顆粒(プロフィラグリンを含む)と層板顆粒をもつ。 ・角層:核を失った角層細胞が積み重なる。基底層で生まれた細胞が角層を経て剥がれ落ちるまで約45日(ターンオーバー)とされる。 (手掌・足底など角層の厚い部位では、顆粒層と角層の間に淡明層がみられる。)

角層のバリアを支える3要素

・角層細胞間脂質:セラミド、コレステロール、遊離脂肪酸が層板構造をつくり、水分の蒸散を防ぐ。 ・天然保湿因子(natural moisturizing factor:NMF):フィラグリンが分解されてできるアミノ酸などで、角層細胞内で水分を保持する。 ・周辺帯(cornified envelope):角層細胞の細胞膜の内側に裏打ちされた強固な蛋白質の膜で、ロリクリンやインボルクリンなどから構成される。

皮膚バリア障害と疾患

・アトピー性皮膚炎:角層セラミドの減少、フィラグリン遺伝子変異(一部の患者)によるバリア機能低下が発症に関与する。保湿剤によるスキンケアが治療の基本の一つである。 ・尋常性魚鱗癬:フィラグリン遺伝子変異により生じる。 ・道化師様魚鱗癬:ABCA12遺伝子変異による脂質輸送障害で生じる重症型。

接着構造と自己免疫性水疱症

・デスモソーム(デスモグレイン)の障害:天疱瘡 → 表皮内水疱、Nikolsky現象陽性。 ・ヘミデスモソーム(BP180、BP230)の障害:水疱性類天疱瘡 → 表皮下水疱。

POINT

・角層は「レンガ(角層細胞=中身はケラチン)とモルタル(細胞間脂質)」の構造でバリア機能を担う。 ・角層細胞間脂質の主成分はセラミドで、ほかにコレステロール、遊離脂肪酸を含む。顆粒層の層板顆粒に由来する。 ・セラミド減少はアトピー性皮膚炎のバリア機能低下に関与する。 ・ケラチン=細胞骨格の中間径フィラメント、デスモソーム=細胞どうしの接着(天疱瘡)、ヘミデスモソーム=基底細胞と基底膜の接着(水疱性類天疱瘡)。 ・アミロイドは病的に沈着する線維状蛋白で、Congo red染色で同定する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。