皮膚の基礎を一気に整理―メラニンを生む鍵、チロシナーゼ
第119回医師国家試験 F問題 第14問
国試問題にチャレンジ
皮膚の構造や機能で正しいのはどれか。
- a.Merkel細胞は免疫担当細胞である。
- b.皮脂の主成分はコレステロールである。
- c.チロシナーゼはメラニン生成に必須である。
- d.アポクリン汗腺の導管は表皮に直接開口する。
- e.ヘミデスモソームは表皮細胞間の接着に関わる。
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
メラニン合成ではチロシナーゼがチロシンからドーパ、ドーパキノンへの初期段階を触媒しており、この酵素が欠損すると眼皮膚白皮症1型のようにメラニンがほとんど作られなくなります。表皮の免疫を担うのはLangerhans細胞で、Merkel細胞は神経終末と接する触圧覚の受容細胞です。皮脂の主成分はトリグリセリドであり、表皮に直接開口するのはエクリン汗腺、アポクリン汗腺は毛包に開口します。細胞間接着はデスモソーム(標的抗原の異常で天疱瘡)、基底細胞と基底膜の接着はヘミデスモソーム(水疱性類天疱瘡)が担い、障害部位が水疱の位置を決めます。構造・分子・疾患を対応づけて理解することで、皮膚疾患の病態や臨床像を論理的に読み解けるようになります。
解答・解説
正解はcです
皮膚の構成細胞、付属器(脂腺・汗腺)、接着装置、メラニン合成という皮膚の基礎知識を横断的に問う問題である。 表皮を構成する細胞は、大部分を占めるケラチノサイト(角化細胞)のほか、メラニンを産生するメラノサイト、抗原提示を担うLangerhans細胞、触覚の受容に関わるMerkel細胞の4種類に整理できる。どの細胞が何を担うのかを対応づけて覚えておくと、aのような「役割のすり替え」に気づきやすい。 付属器については、脂腺・アポクリン汗腺は毛包に付属して開口し、エクリン汗腺は毛包と無関係に表皮表面へ直接開口する、という開口部位の違いが頻出である。皮脂の組成は「中性脂肪(トリグリセリド)が主体で、コレステロールはむしろ少ない」点が要点となる。 接着装置は、細胞どうしをつなぐデスモソームと、基底細胞を基底膜につなぎとめるヘミデスモソームを区別することが重要である。 メラニン合成ではチロシンを出発点とする代謝経路の最初の段階をチロシナーゼが触媒しており、この酵素なしではメラニンが作られない。これが正解の根拠となる。
選択肢考察
- ×a. Merkel細胞は免疫担当細胞である。
誤り。Merkel細胞は表皮の基底層に散在し、知覚神経終末と接して「Merkel盤(Merkel細胞-神経複合体)」をつくる触圧覚の受容細胞である。持続的な圧刺激に反応する遅順応型の機械受容器で、指尖・口唇・口腔粘膜など触覚の鋭敏な部位に多い。神経内分泌細胞としての性質ももち、悪性化したものがMerkel細胞癌である。表皮で免疫を担当するのは、骨髄由来の樹状細胞であるLangerhans細胞であり、皮膚に侵入した抗原を取り込んで所属リンパ節へ運び、T細胞に提示する。
- ×b. 皮脂の主成分はコレステロールである。
誤り。脂腺から分泌される皮脂は、トリグリセリド(中性脂肪)が最も多く(およそ4割前後)、次いでワックスエステル、スクアレンの順に多い。コレステロールやコレステロールエステルはごく少量にすぎない。皮膚表面ではトリグリセリドが常在菌(Cutibacterium acnesなど)のリパーゼで分解されて遊離脂肪酸が生じ、これがざ瘡の炎症に関与する。なお、角層の細胞間脂質はセラミドを主体にコレステロール・遊離脂肪酸から構成され、皮脂とは別物である点も区別しておく。
- ○c. チロシナーゼはメラニン生成に必須である。
正しい。メラノサイト内のメラノソームでは、アミノ酸のチロシンがチロシナーゼの作用でドーパ(DOPA)へ水酸化され、さらに同じくチロシナーゼによってドーパキノンへ酸化される。ドーパキノンからは、そのまま進めば黒褐色のユーメラニンが、システインが結合すると黄赤色のフェオメラニンがつくられる。経路の律速となる初期2段階をチロシナーゼが担うため、この酵素が欠損・機能低下するとメラニンはほとんど合成されない。チロシナーゼ遺伝子(TYR)の変異で生じる眼皮膚白皮症1型(OCA1)がその代表例である。
- ×d. アポクリン汗腺の導管は表皮に直接開口する。
誤り。アポクリン汗腺の導管は毛包に開口し、その位置は脂腺の開口部より上方(皮膚表面寄り)である。腋窩・外陰部・乳輪・外耳道などに限局して分布し、思春期以降に発達する。分泌物はタンパク質や脂質を含み、皮膚常在菌に分解されて特有のにおいを生じる(腋臭症の原因)。一方、表皮に直接開口するのはエクリン汗腺で、ほぼ全身に分布して体温調節のための水様の汗を分泌する。
- ×e. ヘミデスモソームは表皮細胞間の接着に関わる。
誤り。ヘミデスモソームは表皮基底細胞の下面にあり、基底細胞を基底膜(表皮と真皮の境界)に固定する接着装置である。構成分子にはBP180(ⅩⅦ型コラーゲン)、BP230、インテグリンα6β4などがあり、BP180・BP230に対する自己抗体で生じるのが水疱性類天疱瘡(表皮下水疱)である。表皮細胞(ケラチノサイト)どうしの接着を担う主な装置はデスモソームで、構成分子のデスモグレイン3・1に対する自己抗体で尋常性天疱瘡・落葉状天疱瘡(表皮内水疱)が起こる。
表皮を構成する細胞
・ケラチノサイト(角化細胞):表皮細胞の大部分。基底層で分裂し、有棘層→顆粒層→角層へと分化しながら上行し、最終的に角層として剥がれ落ちる。 ・メラノサイト:基底層に存在し、メラニンを合成してメラノソームごと周囲のケラチノサイトへ受け渡す。神経堤由来。 ・Langerhans細胞:主に有棘層に存在する樹状細胞で、抗原提示を担う。電子顕微鏡でBirbeck顆粒をもち、CD1aが陽性。 ・Merkel細胞:基底層に存在し、神経終末と接して触圧覚を受容する。
接着装置と自己免疫性水疱症
・デスモソーム(ケラチノサイト間):デスモグレイン3・1が標的→天疱瘡(表皮内水疱) ・ヘミデスモソーム(基底細胞-基底膜間):BP180・BP230が標的→水疱性類天疱瘡(表皮下水疱) ・係留線維(基底膜-真皮間):Ⅶ型コラーゲンが標的→後天性表皮水疱症 ・タイト結合(密着結合):主に顆粒層に存在し、角層とともに皮膚のバリア機能を担う。
皮膚付属器の比較
・脂腺:毛包上部に開口(口唇・乳輪などには毛と無関係な独立脂腺もある)。分泌物は皮脂(トリグリセリド主体)。アンドロゲンで発達する。 ・エクリン汗腺:全身(特に手掌・足底・前額)に分布し、表皮へ直接開口。体温調節・精神性発汗を担う。交感神経支配だが、節後線維の伝達物質はアセチルコリンである。 ・アポクリン汗腺:腋窩・外陰部・乳輪などに分布し、毛包の脂腺開口部より上方に開口。思春期以降に機能する。
メラニン合成経路
チロシン →(チロシナーゼ)→ ドーパ →(チロシナーゼ)→ ドーパキノン → ユーメラニン(黒褐色) ドーパキノン + システイン → フェオメラニン(黄赤色) メラニンは紫外線を吸収・散乱し、表皮基底層の細胞核を紫外線による損傷から守る。
皮膚の感覚受容器
・Merkel細胞(表皮基底層):持続的な触圧覚 ・Meissner小体(真皮乳頭):触覚(振動・軽い触刺激) ・Pacini小体(真皮深層〜皮下組織):振動覚 ・Ruffini小体(真皮):皮膚の伸展 ・自由神経終末:痛覚・温度覚・かゆみ
POINT
・Merkel細胞は触圧覚の受容細胞、表皮の免疫(抗原提示)担当はLangerhans細胞。 ・皮脂の主成分はトリグリセリド(次いでワックスエステル、スクアレン)で、コレステロールは少ない。 ・メラニン合成はチロシン→ドーパ→ドーパキノンの段階をチロシナーゼが触媒し、欠損すると眼皮膚白皮症(OCA1)となる。 ・表皮に直接開口するのはエクリン汗腺、アポクリン汗腺は毛包(脂腺開口部の上方)に開口する。 ・細胞間接着はデスモソーム(天疱瘡)、基底細胞-基底膜接着はヘミデスモソーム(水疱性類天疱瘡)。
