StudyMed医師国家試験

「どこで発症したか」が予後を分ける―院内肺炎の定義・原因菌・患者背景

第116回医師国家試験 F問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第116回 F問題 第13問

院内肺炎について正しいのはどれか。

  1. a.主要な検出菌は肺炎球菌である。
  2. b.人工呼吸器関連肺炎は含まれない。
  3. c.入院当日に発症した肺炎も含まれる。
  4. d.死亡率は医療・介護関連肺炎より低い。
  5. e.免疫能低下の患者に生じることが多い。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は院内肺炎の基本を問う問題だ。肺炎は「どこで発症したか」で市中肺炎、医療・介護関連肺炎、院内肺炎に分けて考える。それぞれで患者背景も原因菌も予後も違うから、その対比を整理しておけば選択肢はすっきり判断できるよ。
医学生医学生
呼吸器内科の講義で3分類は習いました。でも、なぜわざわざ場所で分けるんでしたっけ。
ドクタードクター
いい質問だね。分ける最大の理由は、想定すべき原因菌、特に薬剤耐性菌の可能性が変わり、初期にどの抗菌薬を選ぶかが変わるからなんだ。まず院内肺炎の定義から。入院時には感染しておらず潜伏期でもなく、入院後48時間以上たってから新たに発症した肺炎をいう。
医学生医学生
じゃあ、入院当日に肺炎を発症した人は院内肺炎ではないんですね。
ドクタードクター
その通り。48時間以内の発症は、入院前にすでに感染していたと考えられるから、患者背景に応じて市中肺炎か医療・介護関連肺炎として扱う。では人工呼吸器関連肺炎、いわゆるVAPはどうだろう。
医学生医学生
ICUの特殊な肺炎として別枠のイメージがありました。院内肺炎とは別なのでは。
ドクタードクター
そこはひっかかりやすいところだ。VAPは気管挿管・人工呼吸の開始から48時間以降に発症する肺炎で、入院中に病院内で起こるから院内肺炎の一型として扱われる。チューブを伝う口腔・咽頭分泌物の垂れ込みや、チューブ表面のバイオフィルムが原因になり、院内肺炎の中でも重症化しやすいんだ。
医学生医学生
原因菌はどうですか。肺炎といえばまず肺炎球菌と覚えていました。
ドクタードクター
肺炎球菌は市中肺炎で最も多い原因菌だね。院内肺炎では、緑膿菌などのブドウ糖非発酵菌、MRSA、クレブシエラなどの腸内細菌目細菌、アシネトバクターといった菌が主体になり、耐性菌の割合が高いのが特徴だ。入院早期の発症なら肺炎球菌が関わることもあるけれど、主要な検出菌とはいえない。
医学生医学生
病院内では抗菌薬がたくさん使われるので、耐性菌が選択されて残っている、ということですね。
ドクタードクター
まさにそう。そしてもう一つ大切なのが患者側の要因だ。院内肺炎を起こすのは、そもそも何らかの病気で入院している人だよね。どんな人が多いと思う?
医学生医学生
臨床実習で外科を回ったとき、術後肺炎の患者さんを担当しました。手術の後や、化学療法中の人が多そうです。
ドクタードクター
よく結びつけたね。手術後、悪性腫瘍と化学療法、ステロイドや免疫抑制薬、糖尿病、低栄養、高齢など、感染防御能が落ちた状態の人が多い。さらに意識障害や嚥下障害、気管挿管、経鼻胃管は気道の防御を損ない誤嚥を起こしやすくする。だから「免疫能低下の患者に生じることが多い」が正しい選択肢だ。健常者では病原性の弱い緑膿菌などが日和見的に肺炎を起こすのも、この背景があるからなんだ。
医学生医学生
そうなると、死亡率も一番高くなりそうですね。
ドクタードクター
その通り。基礎疾患の重さと耐性菌の関与が重なるので、一般に死亡率は市中肺炎、医療・介護関連肺炎、院内肺炎の順に高くなる。院内肺炎の死亡率が医療・介護関連肺炎より低い、という選択肢は逆だね。
医学生医学生
整理すると、入院48時間以降の発症で、VAPも含み、免疫能が落ちた人に耐性菌で起こりやすく、予後が最も悪い、ということですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。最後に臨床での注意点も。日本のガイドラインでは、まず終末期や老衰ではないか、誤嚥を繰り返していないかを評価し、本人の意思やQOLを踏まえて治療方針を考える。そのうえで重症度と耐性菌リスクを評価し、重症や耐性菌リスクがあれば緑膿菌もカバーする広域抗菌薬で始め、培養結果が出たら狭域に切り替えるデ・エスカレーションを行う。
医学生医学生
予防として、ICUでベッドの頭側を上げていたのはVAP対策だったんですね。
ドクタードクター
そう。30〜45度の頭側挙上、口腔ケア、手指衛生、鎮静を最小限にして毎日抜管を検討すること、声門下吸引付きの気管チューブなどが代表的な予防策だ。院内肺炎は防げる部分も多いから、治療と同じくらい予防の意識が大切だよ。

まとめ

院内肺炎は、入院後48時間以上経過してから新たに発症した肺炎で、入院当日の発症は含まず、挿管後48時間以降に生じる人工呼吸器関連肺炎も含まれます。手術後、悪性腫瘍、免疫抑制薬の使用、低栄養、高齢、嚥下障害などにより免疫能や気道防御が低下した患者に多く、原因菌は肺炎球菌ではなく緑膿菌、MRSA、腸内細菌目細菌、アシネトバクターなど耐性菌を含むグラム陰性桿菌が主体です。死亡率は一般に市中肺炎、医療・介護関連肺炎、院内肺炎の順に高く、重症度と耐性菌リスクに応じて広域抗菌薬で開始し、培養結果をもとにデ・エスカレーションを行います。頭側挙上や口腔ケアなどの予防策も含め、発症場所による分類を理解することは、適切な初期治療と院内感染対策の両方に直結します。

解答・解説

正解はeです

本問は、肺炎の発症場所による分類のうち、院内肺炎の定義・原因菌・患者背景・予後を問う問題である。

肺炎の発症場所による分類

日本の成人肺炎診療ガイドラインでは、肺炎を次の3つに分けて扱う。 ・市中肺炎(CAP):病院外で日常生活を送っている人に発症する肺炎。 ・医療・介護関連肺炎(NHCAP):介護施設入所者、最近退院した人、介護を要する高齢者、外来で血液透析・抗菌薬・抗癌剤・免疫抑制薬などの治療を受けている人に発症する肺炎。誤嚥性肺炎の頻度が高い。 ・院内肺炎(HAP):入院時には感染しておらず(潜伏期にもなく)、入院後48時間以上経過してから新たに発症した肺炎。気管挿管・人工呼吸開始後48時間以降に発症する人工呼吸器関連肺炎(VAP)も院内肺炎に含めて扱う。 略語はそれぞれ英語名の頭文字(CAP=community-acquired、NHCAPは介護・医療ケアに関連する肺炎、HAP=hospital-acquired、VAP=ventilator-associated)に由来する。このように分類するのは、患者背景、想定すべき原因菌(特に薬剤耐性菌の可能性)、重症度と予後がそれぞれ異なり、初期治療の抗菌薬選択が変わるためである。

院内肺炎の特徴

院内肺炎を発症するのは、そもそも何らかの疾患で入院している人である。手術後、悪性腫瘍や化学療法中、糖尿病、ステロイド・免疫抑制薬の使用、低栄養、高齢、意識障害や嚥下障害、気管挿管など、感染防御能(免疫能)が低下した状態にあることが多い。また病院内には抗菌薬の使用によって選択された耐性菌が存在するため、緑膿菌やメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などが原因となりやすい。基礎疾患の重さと耐性菌の関与から、3分類の中で死亡率が最も高い。 これらを踏まえて各選択肢を検討する。

選択肢考察

  1. ×a.  主要な検出菌は肺炎球菌である。

    肺炎球菌は市中肺炎で最も多い原因菌である。院内肺炎では、緑膿菌などのブドウ糖非発酵菌、MRSAに代表される黄色ブドウ球菌、クレブシエラ属・エンテロバクター属・大腸菌などの腸内細菌目細菌、アシネトバクター属などのグラム陰性桿菌が主体となり、薬剤耐性菌の割合が高いことが特徴である(入院早期の発症例では肺炎球菌やインフルエンザ菌なども原因となりうる)。よって主要な検出菌を肺炎球菌とするのは誤りである。

  2. ×b.  人工呼吸器関連肺炎は含まれない。

    人工呼吸器関連肺炎(VAP)は、気管挿管による人工呼吸管理を開始してから48時間以降に発症する肺炎であり、入院患者に病院内で発症する肺炎であるため、院内肺炎の一型として扱われる。気管チューブを伝った口腔・咽頭分泌物の垂れ込み(不顕性誤嚥)や、チューブ表面のバイオフィルムが主な原因とされ、院内肺炎の中でも重症化しやすい。よって「含まれない」は誤りである。

  3. ×c.  入院当日に発症した肺炎も含まれる。

    院内肺炎は「入院後48時間以上経過してから新たに発症した肺炎」と定義される。入院当日(48時間以内)に発症した肺炎は、入院前にすでに感染していた(潜伏期にあった)と考えられるため、院内肺炎には含めず、患者背景に応じて市中肺炎または医療・介護関連肺炎として扱う。よって誤りである。

  4. ×d.  死亡率は医療・介護関連肺炎より低い。

    院内肺炎の患者は、入院の原因となった基礎疾患を持ち、免疫能が低下していることが多く、さらに緑膿菌やMRSAなどの耐性菌が関与しやすいため治療も難しい。そのため死亡率は市中肺炎、医療・介護関連肺炎のいずれよりも高い(一般に、市中肺炎<医療・介護関連肺炎<院内肺炎の順に死亡率が高くなる)。よって誤りである。

  5. ○e.  免疫能低下の患者に生じることが多い。

    入院患者は、手術や侵襲的処置の後、悪性腫瘍とその化学療法、ステロイドや免疫抑制薬の使用、糖尿病、低栄養、高齢などにより、感染に対する防御能が低下していることが多い。さらに意識障害や嚥下機能低下、気管挿管、経鼻胃管などは気道の防御機構を損ない、誤嚥を起こしやすくする。このような宿主側の要因を背景に、健常者では病原性の弱い菌(緑膿菌など)による日和見感染としても肺炎が生じる。したがって、院内肺炎は免疫能が低下した患者に生じることが多く、正しい。

3分類の比較(概略)

・市中肺炎(CAP):比較的健康な人にも発症。主な原因菌は肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマ、クラミドフィラ(クラミジア)、レジオネラ、モラクセラ・カタラーリスなど。死亡率は3分類で最も低い。 ・医療・介護関連肺炎(NHCAP):高齢者・要介護者に多く、誤嚥性肺炎が多い。原因菌は肺炎球菌などの市中肺炎の菌に加え、口腔内嫌気性菌や、耐性菌リスクがある場合は緑膿菌・MRSAなども考慮する。死亡率は市中肺炎より高い。 ・院内肺炎(HAP、VAPを含む):入院後48時間以降に発症。免疫能低下・基礎疾患を背景とし、緑膿菌、MRSA、腸内細菌目細菌、アシネトバクターなどの耐性菌が多い。死亡率は最も高い。

院内肺炎・医療・介護関連肺炎の診療の流れ(日本のガイドラインの考え方)

・まず、終末期や老衰の状態ではないか、誤嚥を繰り返していないかを評価し、患者本人の意思や生活の質(QOL)を考慮した治療方針を決める。 ・次に重症度(院内肺炎ではI-ROADなどのスコアを用いる)と、耐性菌リスク(過去90日以内の抗菌薬の使用、経管栄養、低栄養、免疫抑制状態、過去の耐性菌検出歴など)を評価する。 ・重症または耐性菌リスクがある場合は、緑膿菌などをカバーする広域抗菌薬(エスカレーション治療ではなく、初期から広くカバーする治療)を選び、培養結果が判明したら狭域の抗菌薬に切り替える(デ・エスカレーション)。

院内肺炎・VAPの予防

・手指衛生、口腔ケア、ベッドの頭側挙上(30〜45度)による誤嚥予防。 ・人工呼吸の必要性を毎日評価し、鎮静を最小限にして早期抜管を目指す。 ・声門下吸引機能付き気管チューブの使用など。

POINT

・院内肺炎=入院後48時間以降に新たに発症した肺炎。入院当日(48時間以内)の発症は含まない。 ・人工呼吸器関連肺炎(VAP、挿管後48時間以降の発症)も院内肺炎に含まれる。 ・免疫能が低下した患者に多く、原因菌は緑膿菌・MRSAなどの耐性菌やグラム陰性桿菌が主体。肺炎球菌は市中肺炎の最多原因菌である。 ・死亡率:市中肺炎<医療・介護関連肺炎<院内肺炎。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。