StudyMed医師国家試験

丸・はさみ・ケンケン・ごっこ遊び、そして「みぎ・ひだり」―発達の物差しで最後に来るのはどれ?

第116回医師国家試験 F問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第116回 F問題 第14問

精神運動発達において,可能になる時期が最も遅いのはどれか。

  1. a.円をえがく。
  2. b.はさみを使う。
  3. c.左右が分かる。
  4. d.片足立ちをする。
  5. e.ごっこ遊びをする。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は幼児期の精神運動発達のマイルストーン、つまり「何歳ごろに何ができるようになるか」を比べる問題だ。ポイントは、選択肢を粗大運動・微細運動・言語や認知・社会性という領域に分けたうえで、それぞれのおおよその獲得年齢を並べてみること。まずは直感でいいから、一番遅そうなものを挙げてみて。
医学生医学生
はさみを使うのは手先の器用さがかなり要りそうなので、一番遅いように感じます。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でも、はさみで紙を「切る」こと自体は3歳前後でできるようになるんだ。線に沿ってきれいに切れるのは4歳ごろだけど、それでも今回の比較では早いほうに入る。
医学生医学生
小児科の講義で遠城寺式の発達検査表を見ましたが、項目が細かくて年齢までは覚えきれていませんでした。
ドクタードクター
全部を暗記する必要はないよ。大事なのは「3歳でできること」のイメージをつかむこと。3歳児健診を思い浮かべるといい。母子健康手帳の3歳の確認項目には、クレヨンで丸を描く、手を使わずに階段をのぼる、といったものが並んでいる。
医学生医学生
じゃあ円を描くのは3歳ごろですね。図形の模写は順番があったような……。
ドクタードクター
そう、円が3歳、十字が4歳、四角が4〜5歳、三角が5〜6歳と、線の組み合わせが複雑になるほど遅くなる。円は一番最初に来る図形なんだ。では片足立ちはどうかな。
医学生医学生
ケンケンが4歳と習った気がするので、片足立ちも4歳くらいでしょうか。
ドクタードクター
惜しい。片足で2〜3秒立つだけなら3歳ごろにできる。そこから片足跳びのケンケンが4歳ごろ、片足で5〜10秒立てるのが5〜6歳ごろ、と段階的に伸びていく。「片足立ち」と「ケンケン」は別物として整理しておこう。
医学生医学生
ごっこ遊びは、ままごとみたいに役割を演じる遊びですよね。これも3歳くらいですか。
ドクタードクター
その通り。2歳後半〜3歳ごろに見られるようになる。土台にあるのは、積木を車に見立てるような「象徴機能」で、これは1歳後半〜2歳ごろから芽生えてくる。見立て遊びからごっこ遊びへ、と社会性と認知が一緒に育っていくんだ。
医学生医学生
ということは、円・はさみ・片足立ち・ごっこ遊びはどれも3歳前後で、左右が分かるのだけが残りますね。
ドクタードクター
そう、正解は「左右が分かる」。自分の体の右と左を区別して言えるのは4歳半〜5歳ごろで、遠城寺式でも最上位の年齢帯、4歳4か月〜4歳8か月の項目に置かれている。ほかの4つより1年以上遅いんだ。
医学生医学生
左右って単純そうなのに、どうしてそんなに遅いんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。左右の区別には、自分の身体を基準にした身体図式と、それを言葉で空間概念として表す力の両方が必要になる。上下は重力で直感的に分かるけれど、左右は対称な体のどちらかに「名前」をつける抽象的な作業なんだ。だから認知課題としては難度が高い。ちなみに向かい合った相手の左右が分かるのはさらに後になる。
医学生医学生
精神科の実習で、高次脳機能の評価に左右失認の項目があったのを思い出しました。成人でも障害されうる高度な機能なんですね。
ドクタードクター
よくつなげたね。Gerstmann症候群の一つとして左右失認があるように、左右の認識は脳の高次機能に支えられている。最後に臨床での注意点だ。発達の目安には個人差が大きく、一項目ができないだけで異常とは言えない。複数の領域にまたがる遅れや、獲得したことができなくなる退行があれば、精査を考えるきっかけになる。
医学生医学生
健診では一つひとつの項目より、領域ごとのバランスや経過を見るということですね。
ドクタードクター
その通り。遠城寺式も、移動運動・手の運動・基本的習慣・対人関係・発語・言語理解の6領域をグラフにしてバランスを見る検査なんだ。年齢の物差しと領域の視点、この2つを持って健診に臨もう。

まとめ

幼児期の発達では、円を描く、はさみで紙を切る、片足で数秒立つ、ごっこ遊びをする、といった項目はいずれも3歳前後で獲得されます。これに対して自分の体の左右を区別できるのは4歳半〜5歳ごろで、身体図式と言語による空間概念の両方を要する高度な認知課題のため獲得が遅くなります。図形模写は円3歳→十字4歳→四角4〜5歳→三角5〜6歳、片足立ちは数秒が3歳・ケンケンが4歳・5〜10秒が5〜6歳と段階的に進むことも合わせて押さえておきましょう。発達の目安には個人差があるため、乳幼児健診では単一項目ではなく領域ごとのバランスや退行の有無に注目することが、発達障害などの早期発見につながります。

解答・解説

正解はcです

幼児期の精神運動発達の目安となる獲得時期を比較する問題である。 小児の発達は「粗大運動(全身を使う動き)」「微細運動(手指の細かな動き)」「言語・認知」「社会性(対人関係・遊び)」の領域に分けて評価する。わが国で広く用いられる遠城寺式乳幼児分析的発達検査や、母子健康手帳の発達確認項目では、各項目にだいたいの獲得年齢が示されている。 選択肢を年齢の目安で並べると次のようになる。 ・円をえがく(微細運動):2歳半~3歳ごろ ・はさみを使って紙を切る(微細運動):3歳ごろ ・片足立ちを数秒する(粗大運動):3歳ごろ ・ごっこ遊び(社会性):2歳後半~3歳ごろ ・左右が分かる(認知):4歳半~5歳ごろ このうち4つは「3歳前後」でできるようになる項目であり、「左右が分かる」だけが4歳後半以降と明らかに遅い。左右の区別は、自分の身体を基準に空間を言葉で概念化する必要がある抽象度の高い認知課題であるため、獲得が遅れるのである。よって最も遅いのは「左右が分かる」である。

選択肢考察

  1. ×a.  円をえがく。

    円(丸)を描けるようになるのは2歳半~3歳ごろで、遠城寺式ではおよそ2歳6か月~2歳9か月の項目に置かれている。母子健康手帳でも3歳児の確認項目として「クレヨンなどで丸を書くか」が挙げられている。なお図形模写は円(3歳)→十字(4歳)→四角(4~5歳)→三角(5~6歳)の順に難しくなる。左右の理解より早い。

  2. ×b.  はさみを使う。

    はさみで紙を切ること自体は3歳前後(遠城寺式でおよそ2歳9か月~3歳)で可能になる。紙に引いた直線に沿って正確に切れるのは4歳ごろである。いずれにしても左右の理解よりは早く獲得される微細運動の項目である。

  3. ○c.  左右が分かる。

    自分の身体の右と左を区別して言えるようになるのは4歳半~5歳ごろで、遠城寺式ではおよそ4歳4か月~4歳8か月の項目に位置する。他の4項目がいずれも3歳前後で獲得されるのに対して明らかに遅く、本問の正解である。左右の区別は身体図式と言語による空間概念の両方が育って初めて可能になる高次の認知機能である。

  4. ×d.  片足立ちをする。

    片足で2~3秒立つことは3歳ごろ(遠城寺式でおよそ2歳9か月~3歳)にできるようになる。その後、片足跳び(ケンケン)が4歳ごろ、片足で5~10秒立つことが5~6歳ごろと、持続時間や難度が上がっていく。設問の「片足立ち」は数秒程度を想定すると3歳ごろの項目であり、左右の理解より早い。

  5. ×e.  ごっこ遊びをする。

    ままごとなどで役割を演じるごっこ遊びは2歳後半~3歳ごろ(遠城寺式でおよそ2歳9か月~3歳)に見られるようになる。ものを別のものに見立てる象徴機能(1歳後半~2歳ごろから芽生える)が基盤となる社会性・遊びの発達項目であり、左右の理解より早い。

母子健康手帳に記載される主な発達確認項目

・3~4か月:首がすわる ・6~7か月:寝返り、ひとりすわり ・9~10か月:はいはい、つかまり立ち ・1歳:つたい歩き ・1歳6か月:ひとり歩き ・2歳:走る、積木を積む・並べて見立て遊びをする ・3歳:手を使わずに階段をのぼる、丸(円)を描く ・4歳:階段の2~3段目から跳び降りる、ケンケン(片足跳び)、手本を見て十字を描く ・5歳:でんぐり返し ・6歳:片足で5~10秒立つ、四角を模写する

遠城寺式乳幼児分析的発達検査

0か月~4歳8か月までを対象とし、移動運動・手の運動(運動領域)、基本的習慣・対人関係(社会性領域)、発語・言語理解(言語領域)の6領域について、各月齢に対応した項目の通過の有無から発達のバランスをグラフ化する検査である。「左右が分かる」はこの検査の最上位年齢帯(4歳4か月~4歳8か月)の項目であることからも、獲得が遅い項目と理解できる。

図形模写の発達順序

円(3歳)→十字(4歳)→四角(4~5歳)→三角(5~6歳)→菱形(7歳ごろ)。

POINT

・円を描く、はさみで切る、片足で数秒立つ、ごっこ遊びはいずれも3歳前後で獲得される。 ・左右の区別は4歳半~5歳ごろと遅い。 ・図形模写は円3歳→十字4歳→四角4~5歳→三角5~6歳。 ・片足立ちは数秒が3歳、ケンケンが4歳、5~10秒が5~6歳と段階的に伸びる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。