前ぶれなく崩れ落ちる―病歴で見抜くAdams-Stokes症候群
第116回医師国家試験 E問題 第21問
国試問題にチャレンジ
一過性の意識障害が生じた場合,Adams-Stokes症候群を疑う病歴はどれか。
- a.排尿後に意識消失した。
- b.突然,意識を失い倒れこんだ。
- c.意識が回復した後,上下肢の麻痺を認めた。
- d.舌を嚙んでいて口腔内からの出血を認めた。
- e.意識が回復した後,意識がもうろうとしていた。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
Adams-Stokes症候群は、高度・完全房室ブロックや洞不全症候群などの徐脈性不整脈、あるいは心室頻拍・心室細動などの頻脈性不整脈により心拍出量が急激に低下し、脳血流が途絶えて起こる失神です。前駆症状がほとんどなく突然倒れ込み、外傷を伴いやすいことが病歴上の最大の特徴です。排尿・排便・咳嗽などの状況で起こる失神は反射性(状況)失神、舌咬傷や回復後の朦朧状態はてんかん発作、回復後に麻痺が残る場合は脳血管障害やTodd麻痺を考えます。失神は本来、急速に起こり短時間で完全に回復するものであり、そこから外れる病歴は失神以外の病態を示唆します。心原性失神は予後不良で突然死につながりうるため、病歴から見抜き、心電図検査やペースメーカ・ICDなどの適切な治療につなげる力が求められます。
解答・解説
正解はbです
一過性の意識障害を診たとき、病歴からAdams-Stokes症候群(不整脈による失神)を見抜けるかを問う問題である。 Adams-Stokes症候群とは、不整脈によって心拍出量が急激に低下し、脳血流が途絶えることで、めまい、失神、痙攣などをきたす病態である。原因としては、完全房室ブロックなどの高度房室ブロックや洞不全症候群(洞停止など)の徐脈性不整脈、心室頻拍・心室細動などの頻脈性不整脈が代表的である。脳の血流は数秒途絶えるだけで意識が失われるため、前ぶれ(前駆症状)がほとんどないまま突然倒れ込むのが特徴である。体位や状況に関係なく起こり、臥位や運動中でも生じうる。外傷を伴いやすく、突然死の前ぶれとなることもあるため、見逃してはならない失神である。 一過性意識障害の鑑別では、次の3点を病歴で確認する。 1. 発症の状況と前駆症状:排尿・排便・咳嗽・長時間の立位などの誘因、および悪心・冷汗・眼前暗黒感などの前駆症状があれば神経調節性(反射性)失神を考える。誘因や前駆症状がなく突然倒れる場合は心原性失神を疑う。 2. 発作中の様子:舌咬傷(とくに舌の側面)や、長く続く強直間代性の痙攣、尿失禁などがあれば、てんかん発作を考える。ただし、失神でも短時間のぴくつき(痙攣様の動き)や尿失禁はみられうる。 3. 回復後の状態:失神は一過性の脳全体の低灌流によるため、意識はすみやかに完全に戻る。回復後にもうろう状態が続けばてんかん発作後や代謝性疾患を、麻痺などの神経脱落症状が残れば脳血管障害などの中枢神経疾患を考える。 これに照らすと、Adams-Stokes症候群を最も示唆するのは「突然、意識を失い倒れこんだ」という病歴である。
選択肢考察
- ×a. 排尿後に意識消失した。
排尿失神(状況失神)を示唆し、神経調節性(反射性)失神に分類される。夜間に起きて立位で排尿すると、膀胱が急に空になることで迷走神経反射による徐脈と末梢血管拡張が起こる。これに起立による静脈還流の減少や飲酒の影響が加わって血圧が下がり、失神に至る。中高年男性に多い。排便、咳嗽、嚥下などを誘因とする状況失神も同じ機序である。特定の状況で起こる失神は、不整脈よりも反射性失神をまず考える。
- ○b. 突然,意識を失い倒れこんだ。
Adams-Stokes症候群を疑う病歴である。不整脈による心停止に近い状態や著しい徐脈・頻脈では、心拍出量が一気に低下し、数秒で意識を失う。神経調節性失神のような悪心・冷汗・眼前暗黒感などの前駆症状がほとんどなく、身を守る動作ができずに突然倒れ込むため、顔面や頭部の外傷を伴いやすい。前駆症状のない失神、臥位や運動中の失神、動悸に続く失神、突然死の家族歴、基礎心疾患の存在などは心原性失神を強く疑わせる所見であり、心電図、ホルター心電図、植込み型ループレコーダーなどで原因の不整脈を検索する。
- ×c. 意識が回復した後,上下肢の麻痺を認めた。
意識回復後に麻痺が残る場合は、脳血管障害(脳梗塞・脳出血など)や頭蓋内病変といった中枢神経の局所病変を考える。また、てんかん発作の後に一過性の片麻痺がみられることがあり(Todd麻痺)、これも鑑別に挙がる。Adams-Stokes症候群を含む失神は脳全体の一過性の低灌流によるもので、血流が戻れば神経症状を残さずに回復するのが原則であり、局所的な神経脱落症状は説明できない。
- ×d. 舌を嚙んでいて口腔内からの出血を認めた。
舌咬傷は強直間代発作などの痙攣があったことを示唆し、まずてんかん発作を考える所見である。とくに舌の側面の咬傷は、てんかん発作に特異性が高い。失神でも脳虚血に伴って短時間のぴくつきがみられることはあるが、舌を噛んで出血するほどの咬傷はまれである。したがって、Adams-Stokes症候群を積極的に疑う病歴ではない。
- ×e. 意識が回復した後,意識がもうろうとしていた。
意識回復後のもうろう状態(発作後朦朧状態)は、てんかん発作の後によくみられる。また、低血糖などの代謝性疾患、中毒、頭部外傷なども考える。失神は脳の一過性低灌流による短時間の意識消失であり、血流が戻れば意識はすみやかに清明に戻る。Adams-Stokes症候群でも、回復後に意識障害が遷延しないのが典型である。
失神の定義
失神とは、脳全体の一過性の低灌流によって起こる意識消失で、①急速に発症し、②持続が短く、③自然に完全に回復する、という特徴をもつ。てんかん、低血糖、脳血管障害、心因性などによる意識障害は、一過性であっても失神とは区別して扱う。
失神の分類
1. 神経調節性(反射性)失神:最も多い。 ・血管迷走神経性失神:長時間の立位、痛み、恐怖などが誘因となる。 ・状況失神:排尿・排便・咳嗽・嚥下などが誘因となる。 ・頸動脈洞症候群:首を回す、きついネクタイなどが誘因となる。 2. 起立性低血圧による失神:脱水、出血、薬剤(降圧薬・利尿薬など)、自律神経障害(糖尿病、Parkinson病など)が原因となる。 3. 心原性(心血管性)失神:予後が最も悪い。 ・不整脈によるもの(Adams-Stokes症候群):洞不全症候群、高度房室ブロック、心室頻拍、QT延長症候群、Brugada症候群など ・器質的心疾患によるもの:大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症(閉塞性)、急性心筋梗塞、肺塞栓症、大動脈解離など
心原性失神を疑う手がかり
・前駆症状がなく突然起こる ・臥位や運動中に起こる ・直前に動悸がある ・器質的心疾患や心不全の既往がある ・若年での突然死の家族歴がある ・心電図異常(高度房室ブロック、二束ブロック、QT延長、Brugada型心電図、デルタ波、陳旧性心筋梗塞など)がある
Adams-Stokes症候群の治療
徐脈性不整脈(洞不全症候群、高度・完全房室ブロック)が原因であれば、恒久的ペースメーカ植込みの適応となる。心室頻拍・心室細動などの致死性不整脈が原因であれば、植込み型除細動器(ICD)やカテーテルアブレーションなどを検討する。
POINT
・Adams-Stokes症候群は不整脈による急激な脳血流低下で起こる失神であり、前駆症状なく突然倒れ込むのが特徴である。 ・排尿・排便・咳嗽などの状況で起こる失神は、神経調節性(状況)失神を考える。 ・舌咬傷や回復後の朦朧状態は、てんかん発作を示唆する。 ・回復後に麻痺が残る場合は、脳血管障害などの中枢神経病変(またはTodd麻痺)を考える。 ・失神は意識がすみやかに完全に戻り、神経症状を残さない。
