「50人」の線はどこに引かれる?―長時間労働者の面接指導は規模を問わない
第116回医師国家試験 E問題 第20問
国試問題にチャレンジ
労働安全衛生法に規定される健康の保持増進のための措置について誤りはどれか。
- a.うつ病や自殺の予防が目的に含まれる。
- b.適用となるのは常時50人以上の事業場である。
- c.脳血管・心臓疾患のリスク管理として重要である。
- d.時間外労働が月80時間超の労働者は希望により面接指導が受けられる。
- e.事業者は過重労働者に対し医師による面接指導の実施が義務づけられている。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
労働安全衛生法に基づく長時間労働者の医師による面接指導は、時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合に、事業者に実施が義務づけられた制度です。目的は脳・心臓疾患(過労死)の予防と、うつ病や自殺などメンタルヘルス不調の予防であり、事業場の規模を問わず、50人未満の事業場にも適用されます。一方、「常時50人以上」が要件となるのは、産業医・衛生管理者の選任、衛生委員会の設置、ストレスチェックの実施義務などであり、両者を混同しないことが重要です。面接指導後は医師の意見に基づいて就業上の措置を講じ、記録を5年間保存します。規模要件を制度ごとに整理しておくことは、国試対策だけでなく、医師自身の働き方や産業保健に関わる際の基礎知識にもなります。
解答・解説
正解はbです
労働安全衛生法(安衛法)に基づく労働者の健康保持増進の措置、とくに長時間労働者に対する医師の面接指導制度について、「誤っているもの」を選ぶ問題である。 長時間労働は、睡眠不足や疲労の蓄積を通じて、脳血管疾患・心臓疾患(いわゆる過労死)や、うつ病などの精神障害とそれによる自殺(過労自殺)の危険を高める。これを防ぐため、2005(平成17)年の安衛法改正(2006年施行)で、長時間労働者に対する医師による面接指導が事業者の義務として定められた。その後の改正で対象が拡大され、2019(平成31)年4月からは、時間外・休日労働(週40時間を超える労働)が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合に、事業者は医師による面接指導を行わなければならない。 押さえるべきポイントは、この面接指導義務が事業場の規模にかかわらず適用されることである。当初は猶予があった常時50人未満の小規模事業場にも、2008(平成20)年4月から適用されている。一方、「常時50人以上」という線引きがあるのは、産業医・衛生管理者の選任、衛生委員会の設置、ストレスチェックの実施義務などの別の制度である。この二つを混同させるのが本問のねらいであり、「適用となるのは常時50人以上の事業場である」が誤りである。
選択肢考察
- ×a. うつ病や自殺の予防が目的に含まれる。
正しい記述であり、本問の正解(誤り)ではない。安衛法第69条は、事業者に労働者の健康の保持増進のための措置を継続的・計画的に講じるよう努めることを求めている。その中で心の健康対策は大きな柱であり、2006(平成18)年に「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」が策定され、教育研修や不調者の早期発見・対応などが示された。さらに2014(平成26)年の法改正でストレスチェック制度が設けられ、2015(平成27)年12月から施行されている。長時間労働者の面接指導でも、医師はうつ病などのメンタルヘルス面を確認する。これらはうつ病や自殺の予防を目的に含んでいる。
- ○b. 適用となるのは常時50人以上の事業場である。
誤りであり、本問の正解である。長時間労働者に対する医師の面接指導は、2008(平成20)年4月から常時50人未満の事業場にも義務づけられており、事業場の規模を問わず適用される。一般健康診断の実施義務も同様に規模にかかわらない。小規模事業場で産業医がいない場合は、地域産業保健センター(産業保健総合支援センターの地域窓口)などを利用して面接指導を行うことができる。なお、常時50人以上の事業場に義務が課されるのは、産業医・衛生管理者の選任、衛生委員会の設置、ストレスチェックの実施などである。10人以上50人未満の事業場では、衛生推進者または安全衛生推進者の選任が義務づけられている。
- ×c. 脳血管・心臓疾患のリスク管理として重要である。
正しい記述であり、本問の正解(誤り)ではない。長時間労働は脳出血、脳梗塞、心筋梗塞などの脳・心臓疾患の発症リスクを高めることが知られている。過労死の労災認定基準でも、発症前1か月間に時間外労働がおおむね100時間を超える場合や、発症前2〜6か月間の平均がおおむね80時間を超える場合は、業務との関連性が強いと評価される。面接指導は、このような脳・心臓疾患を予防するための重要なリスク管理である。また、定期健康診断で血圧、血中脂質、血糖、腹囲(またはBMI)のすべてに異常所見がある労働者には、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく二次健康診断等給付(二次健康診断と特定保健指導)が行われ、同様に脳・心臓疾患の予防を目的としている。
- ×d. 時間外労働が月80時間超の労働者は希望により面接指導が受けられる。
正しい記述であり、本問の正解(誤り)ではない。時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合、事業者は医師による面接指導を行わなければならない(2019年4月の改正で、それまでの月100時間超から80時間超に引き下げられた)。事業者は、月80時間を超えた労働者に、その労働時間の情報を速やかに通知する義務がある。申し出がない場合や基準に満たない場合でも、健康への配慮が必要な労働者に面接指導またはそれに準じる措置を講じることは努力義務とされている。
- ×e. 事業者は過重労働者に対し医師による面接指導の実施が義務づけられている。
正しい記述であり、本問の正解(誤り)ではない。2005年の法改正で、過重労働による健康障害を防ぐため、長時間労働者に対する医師の面接指導が事業者の義務とされた。面接指導では、医師が勤務の状況、疲労の蓄積の状況、心身の状況を確認して指導を行う。事業者は面接指導の結果について医師の意見を聴き、必要があれば就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの就業上の措置を講じる。結果の記録は5年間保存する。さらに、研究開発業務に従事する労働者で月100時間を超えて時間外・休日労働をした者には、申し出がなくても面接指導を行う義務がある。
長時間労働者に対する医師の面接指導(安衛法第66条の8など)
・対象:時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者で、本人の申し出がある者(義務) ・研究開発業務従事者:月100時間超なら申し出がなくても実施(義務) ・高度プロフェッショナル制度の対象者:健康管理時間が一定基準(週40時間を超える時間が月100時間)を超えた場合に実施(義務) ・事業場の規模:問わない(50人未満にも2008年4月から適用) ・事後措置:医師の意見を聴き、必要に応じて就業上の措置を講じる
事業場の規模によって変わる主な義務
・常時10人以上50人未満:衛生推進者(業種により安全衛生推進者)の選任 ・常時50人以上:産業医・衛生管理者の選任、衛生委員会の設置、ストレスチェックの実施、定期健康診断結果報告書の労働基準監督署長への提出 ・常時1,000人以上(一定の有害業務では500人以上):専属の産業医の選任 ・規模を問わない:一般健康診断の実施、長時間労働者の面接指導 ※ストレスチェックは、50人未満の事業場では現在努力義務である。2025(令和7)年の法改正で全事業場に義務化されることになった(施行は公布後3年以内)。
健康保持増進のための措置(安衛法第69条)
事業者は、健康教育、健康相談などの労働者の健康保持増進のための措置を継続的・計画的に講じるよう努める。これを具体化したものが「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」であり、トータル・ヘルスプロモーション・プラン(THP)と呼ばれる。運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、保健指導などを含む。
働き方改革関連法(2018年成立)
・時間外労働の上限規制(原則として月45時間・年360時間) ・面接指導の対象拡大(月100時間超から80時間超へ)と、労働時間の客観的な把握の義務化 ・産業医・産業保健機能の強化 ・雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金)
POINT
・長時間労働者の医師による面接指導は、事業場の規模を問わず事業者の義務である(50人未満にも適用)。 ・対象は、時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労が蓄積し、本人が申し出た労働者である。 ・「常時50人以上」が要件となるのは、産業医・衛生管理者の選任、衛生委員会の設置、ストレスチェックの実施などである。 ・面接指導の目的は、脳・心臓疾患の予防と、うつ病・自殺などメンタルヘルス不調の予防である。
