検診で引っかかった23歳―細胞診は「入口」、確定するのは狙い組織診
第116回医師国家試験 D問題 第61問
国試問題にチャレンジ
23歳の女性(0妊0産)。初めて受けた子宮頸がん検診で異常を指摘された。自覚症状はない。身長158cm,体重50kg。体温36.2℃。脈拍84/分,整。血圧106/66mmHg。呼吸数16/分。内診で子宮は正常大で可動性良好。両側付属器に腫瘤を触知しない。子宮頸部擦過細胞診像(A)とコルポスコピィ像(B)とを下に示す。 診断確定のために必要な検査はどれか。

- a.子宮鏡
- b.膀胱鏡
- c.子宮内膜細胞診
- d.下部消化管内視鏡
- e.子宮頸部狙い組織診
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
子宮頸がん検診の細胞診はスクリーニング検査であり、N/C比の増大や核腫大・クロマチン増量を示すHSILなどの異常があっても、それだけでは病変の程度や浸潤の有無は確定できません。異常があればコルポスコピィで酢酸加工後の白色上皮・赤点斑・モザイク・異型血管域などを観察し、最も異常の強い部位から狙い組織診(パンチ生検)を行って、CINの程度や浸潤癌の有無を病理組織学的に確定します。子宮鏡や子宮内膜細胞診は子宮体部の検査であり、膀胱鏡や下部消化管内視鏡は浸潤癌と確定した後の進行期評価に必要に応じて用いる検査なので、頸部病変の確定診断には用いません。背景には高リスク型HPVの持続感染があり、CIN1からCIN3、浸潤癌へと段階的に進行するため、HPVワクチンと検診による予防が重要です。細胞診、コルポスコピィ、狙い組織診という検査の役割分担を理解することは、検診結果の説明や精査の進め方を判断する臨床の基本になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・23歳、未経妊・未経産の女性。初めての子宮頸がん検診(子宮頸部細胞診)で異常を指摘された。不正性器出血などの自覚症状はない。 ・バイタルサインは正常。内診で子宮は正常大・可動性良好、付属器腫瘤なし。子宮筋腫や卵巣腫瘍の合併、あるいは癌の子宮傍組織への浸潤(可動性低下)を思わせる所見はない。 ・子宮頸部擦過細胞診(A):細胞質が乏しく、核が腫大してN/C比(核と細胞質の面積比)が高く、クロマチン(核内の染色質)が増量した異型細胞が集簇している。核形は円形が主体だが一部不整である。ベセスダシステムでの高度扁平上皮内病変〈HSIL:high-grade squamous intraepithelial lesion〉を考える像である。 ・コルポスコピィ(腟拡大鏡診)(B):酢酸加工後に境界明瞭な白色上皮が広がり、その中に赤点斑(punctation)が認められる。白色上皮・赤点斑・モザイクは異常な移行帯所見であり、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)の存在を示唆する。
診断へのプロセス
子宮頸部の扁平上皮病変は、ヒトパピローマウイルス〈HPV〉、特に高リスク型(16型・18型など)の持続感染を背景に、軽度異形成(CIN1)→中等度異形成(CIN2)→高度異形成・上皮内癌(CIN3)→浸潤癌へと段階的に進行する。若年者は自覚症状のない前癌病変の段階で、検診の細胞診異常として見つかることが多い。 細胞診はあくまでスクリーニング(剥がれた細胞を見る検査)であり、病変の深さや浸潤の有無はわからない。そのため、細胞診で異常があればコルポスコピィで病変部位を観察し、最も異常の強い部位から組織を採取する「狙い組織診(パンチ生検)」を行い、病理組織学的に診断を確定する。本例はすでにコルポスコピィが行われ異常所見が確認されているので、次に必要なのは子宮頸部狙い組織診である。
設問の考え方
「診断確定のために必要な検査」が問われている。浸潤癌と確定した後の進行期診断(膀胱・直腸浸潤の評価など)に用いる検査や、子宮体部の病変を調べる検査は、頸部病変の確定診断には必要ない。
選択肢考察
- ×a. 子宮鏡
子宮鏡は子宮腔内を観察する内視鏡で、不正性器出血の原因検索や、子宮内膜ポリープ・粘膜下筋腫の診断と切除などに用いる。子宮腟部(頸部表面)の扁平上皮病変の確定診断には用いない。
- ×b. 膀胱鏡
膀胱鏡は血尿の精査のほか、子宮頸癌と確定した後に膀胱粘膜への浸潤の有無を調べ、進行期を決める目的で行われることがある。頸部病変そのものの確定診断に必要な検査ではなく、本例の段階では不要である。
- ×c. 子宮内膜細胞診
子宮内膜細胞診は子宮体癌(子宮内膜癌)のスクリーニングに用いる検査で、不正性器出血のある中高年女性などで行う。本例の異常は子宮頸部の扁平上皮病変であり、内膜細胞診では診断できない。
- ×d. 下部消化管内視鏡
下部消化管内視鏡は下部消化管疾患の精査に用いる。子宮頸癌で直腸粘膜への浸潤が疑われる場合には進行期決定のために行うことがあるが、頸部病変の確定診断には不要である。
- ○e. 子宮頸部狙い組織診
細胞診でHSILが疑われ、コルポスコピィで白色上皮・赤点斑などの異常所見が認められている。コルポスコピィ下に最も異常の強い部位を生検鉗子(パンチ)で採取し病理組織検査を行う狙い組織診によって、CINの程度や浸潤癌の有無が確定する。診断確定のために必要なのはこの検査である。
子宮頸癌検診から確定診断までの流れ
1. 子宮頸部細胞診(スクリーニング):結果はベセスダシステムで報告される。 ・扁平上皮系:NILM(陰性)、ASC-US(意義不明な異型扁平上皮細胞)、ASC-H(HSILを除外できない異型扁平上皮細胞)、LSIL(軽度扁平上皮内病変)、HSIL(高度扁平上皮内病変)、SCC(扁平上皮癌) ・ASC-USではHPV検査を行い、高リスク型HPV陽性ならコルポスコピィへ進む方法が一般的。LSIL以上はコルポスコピィの適応となる。 2. コルポスコピィ:酢酸加工で異常部位を可視化する。異常所見として白色上皮、赤点斑、モザイク、異型血管域(浸潤癌を示唆)などがある。 3. 狙い組織診(パンチ生検):最も異常な部位から組織を採取し、CIN1~3や浸潤癌を病理学的に確定する。 4. 必要に応じて円錐切除術:CIN3(高度異形成・上皮内癌)の治療や、微小浸潤癌の有無の診断を兼ねて行う。
CINの扱いの概略
・CIN1:自然消退が多く、経過観察が基本。 ・CIN2:経過観察または治療。 ・CIN3:円錐切除術(LEEPなど)などの治療を行う。妊孕性温存を希望する若年者では、円錐切除の範囲や早産リスクも考慮する。
子宮頸癌の疫学
・好発年齢は30~60歳代だが、20~30歳代の若年層で罹患が増加しており、25~34歳の女性に生じる悪性腫瘍の中では頻度が高い。前癌病変(高度異形成・上皮内癌)は20歳代半ばから多く見つかる。 ・ほとんどが高リスク型HPVの持続感染による。HPVワクチン接種(一次予防)と検診(二次予防)が予防の柱である。わが国の頸がん検診は20歳以上が対象。
確定診断後の進行期評価
・浸潤癌と確定したら、内診・直腸診、画像検査(MRI、CTなど)、必要に応じて膀胱鏡・直腸鏡などで浸潤範囲や転移を評価し、進行期(FIGO分類)を決定して治療法(手術・放射線治療など)を選択する。
POINT
・子宮頸がん検診の細胞診は「スクリーニング」。確定診断は組織診で行う。 ・細胞診異常 → コルポスコピィ(白色上皮・赤点斑・モザイク・異型血管域) → 最強病変部の狙い組織診(パンチ生検)で確定。 ・HSIL=N/C比増大、核腫大、クロマチン増量。HPV持続感染が原因。 ・膀胱鏡・下部消化管内視鏡は浸潤癌確定後の進行期評価、子宮内膜細胞診・子宮鏡は子宮体部の検査であり、頸部病変の確定診断には用いない。
