子宮を残して、診断も治療も―CIN3に円錐切除術を選ぶ理由
第120回医師国家試験 D問題 第30問
国試問題にチャレンジ
32歳の女性(0妊0産)。自宅近くの診療所で子宮頸がん検診を受けたところ,細胞診の異常を指摘されたため受診した。自覚症状はない。コルポスコピーで子宮頸部に異常所見があったため,狙い組織診を実施した。子宮頸部組織のH-E染色標本を下に示す。後日実施した骨盤部造影MRI及び胸腹部造影CTでは異常を認めなかった。 適切な治療はどれか。

- a.放射線治療
- b.広汎子宮全摘出術
- c.子宮頸部円錐切除術
- d.殺細胞性薬による治療
- e.分子標的薬による治療
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
子宮頸部の組織で異型細胞が扁平上皮のほぼ全層を占め、基底膜を越える浸潤がなければCIN3(高度異形成〜上皮内癌)と判断します。CIN3の標準治療は子宮頸部円錐切除術で、病変を取り除く治療であると同時に、画像や生検では否定しきれない微小浸潤(IA期)の有無や切除断端を病理で評価する診断の役割も担い、子宮を温存できるため若年女性に特に適しています。広汎子宮全摘出術はIB〜II期の浸潤癌、放射線治療・殺細胞性薬・分子標的薬は局所進行〜進行・再発癌が対象であり、CIN3には過剰な治療です。円錐切除後は流早産リスクのやや上昇や再発に注意が必要で、HPVワクチンと検診による予防の意義もあわせて理解しておくことが、病期に応じた適切な治療選択の基礎になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
32歳の未妊・未産婦が、子宮頸がん検診の細胞診異常を指摘されて受診した。自覚症状(不正性器出血、接触出血、帯下の増加など)はない。細胞診で異常があった場合の精密検査は、コルポスコピー(腟拡大鏡)で子宮頸部を観察し、異常所見のある部位から組織を採取する狙い組織診(生検)で行う。
組織像の読み方
提示されたH-E染色標本では、扁平上皮のほぼ全層が、核の腫大・大小不同・クロマチン増量を示し、核/細胞質比(N/C比)の高い異型細胞で置き換えられている。表層に向かう正常な成熟(分化・扁平化)がほとんどみられず、上皮の上層にも核分裂像が散見される。一方で、上皮と間質の境界(基底膜)は保たれ、異型細胞が間質へ浸潤する像はない。異型細胞が上皮の全層に及び、浸潤のない状態はCIN3(子宮頸部上皮内腫瘍グレード3:高度異形成〜上皮内癌)に相当する。
病期の評価と治療方針
造影MRIと胸腹部造影CTで異常がないことから、肉眼的な浸潤癌や転移の所見はない。ただし、ごく浅い間質浸潤(微小浸潤癌、IA期)は画像でも狙い生検でも否定しきれない。そこでCIN3では、病変を含む子宮頸部を円錐状に切除する子宮頸部円錐切除術を行う。円錐切除術は、切除標本の病理検査で浸潤の有無・深さや切除断端を評価する「診断」と、病変そのものを取り除く「治療」を兼ねる。子宮を温存できるため、本例のように妊娠・出産の可能性を残したい若年女性では特に第一選択となる。
選択肢考察
- ×a. 放射線治療
放射線治療(外照射と腔内照射の組み合わせ)は、子宮頸癌の根治的治療として、主に局所進行癌(IB3〜IVA期)で化学療法と同時に行う同時化学放射線療法(CCRT)として用いられる。また手術後の再発リスクが高い例の術後補助療法としても行われる。浸潤のないCIN3に対しては過剰な治療であり、卵巣機能の喪失や腟・直腸・膀胱の晩期障害を招くうえ、妊孕性も失われるため適応とならない。
- ×b. 広汎子宮全摘出術
広汎子宮全摘出術は、子宮に加えて基靱帯などの子宮傍組織、腟壁の一部を広く切除し、骨盤リンパ節郭清を行う術式で、子宮頸癌IB〜II期の浸潤癌(日本ではIIB期まで手術が選択されることがある)が対象である。浸潤のないCIN3に対しては過大な侵襲であり、排尿障害などの合併症も多く、妊孕性も失われる。また現段階では浸潤の有無が確定していないので、まず円錐切除で正確な診断を得る必要がある。
- ○c. 子宮頸部円錐切除術
子宮頸部円錐切除術は、扁平円柱上皮境界(SCJ)と移行帯を含む頸部の病変を円錐状に切除する術式で、高周波電流ループ(LEEP)、レーザー、メスなどで行われる。CIN3に対する標準治療であり、病変を切除する治療的意義と、標本の病理検査で間質浸潤の有無・深さや切除断端の状態を確認する診断的意義をあわせもつ。子宮を温存できるため妊孕性を保てる点で、0妊0産の32歳の本例に最も適する。術後は流早産のリスクがやや上昇するため妊娠時には注意を要する。切除断端に病変が残る場合や、病理で浸潤癌と判明した場合は、追加治療を検討する。
- ×d. 殺細胞性薬による治療
シスプラチンやパクリタキセルなどの殺細胞性抗癌薬は、局所進行子宮頸癌に対する同時化学放射線療法の放射線増感目的や、遠隔転移を伴うIVB期・再発癌に対する全身療法として用いられる。上皮内にとどまるCIN3に対して全身化学療法を行う意義はなく、適応とならない。
- ×e. 分子標的薬による治療
子宮頸癌では、血管新生を阻害する抗VEGF抗体(ベバシズマブ)や免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体のペムブロリズマブなど)、組織因子を標的とした抗体薬物複合体などが、進行・再発癌に対して殺細胞性抗癌薬と併用したり単独で使用されたりする。いずれも進行・再発例を対象とした治療であり、局所の前癌病変であるCIN3の治療には用いない。
子宮頸癌とHPV
子宮頸癌の大部分は、高リスク型ヒトパピローマウイルス(HPV、特に16型・18型)の持続感染が原因である。HPVは子宮頸部の扁平円柱上皮境界(SCJ)付近の移行帯に感染し、多くは自然に排除されるが、持続感染すると数年〜十数年かけてCIN1→CIN2→CIN3→浸潤癌へと進行することがある。若年層の罹患が増えており、HPVワクチンによる一次予防と検診による二次予防が重要である。
CIN分類
・CIN1(軽度異形成):異型細胞が上皮の下1/3にとどまる。自然消退が多く、原則として経過観察。 ・CIN2(中等度異形成):異型細胞が上皮の下2/3まで。経過観察または治療(円錐切除やレーザー蒸散など)を個別に判断する。 ・CIN3(高度異形成・上皮内癌):異型細胞が上皮の全層またはほぼ全層に及ぶが、基底膜を越えた浸潤はない。円錐切除術が基本。 近年はLSIL(CIN1相当)、HSIL(CIN2・CIN3相当)という2段階の用語も用いられる。
検診から診断への流れ
細胞診はベセスダシステムで報告される(NILM、ASC-US、ASC-H、LSIL、HSIL、SCCなど)。ASC-US(意義不明な異型扁平上皮細胞)の場合は高リスクHPV検査を行い、陽性ならコルポスコピー、陰性なら1年後に細胞診を再検する。ASC-H、LSIL以上の場合は直接コルポスコピーと狙い組織診を行う。コルポスコピーでは、酢酸加工後の白色上皮、赤点斑(punctation)、モザイク、異常血管などの異常所見の部位を生検する。
子宮頸癌の病期と治療の目安(FIGO 2018)
・IA1期(間質浸潤の深さ3mm以下):円錐切除術(断端陰性で妊孕性温存希望があれば経過観察可)、または単純子宮全摘出術。 ・IA2期(3mmを超え5mm以下):準広汎子宮全摘出術+骨盤リンパ節郭清など。 ・IB〜II期:広汎子宮全摘出術、または根治的放射線治療(CCRT)。腫瘍径の大きい例では術後補助療法を要することが多い。 ・III〜IVA期:同時化学放射線療法が中心。 ・IVB期・再発:殺細胞性薬に分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた全身療法。 IA期は肉眼的に病変を認めず顕微鏡的にのみ診断できる浸潤癌であり、その診断には円錐切除標本の病理検査が必要である。
POINT
・異型細胞が上皮全層に及び、基底膜を越える浸潤がない→CIN3(高度異形成〜上皮内癌)。 ・CIN3の治療は子宮頸部円錐切除術。診断(浸潤の有無・深さ、断端)と治療を兼ね、子宮を温存できる。 ・微小浸潤(IA期)の診断は円錐切除標本で行う。生検や画像だけでは否定できない。 ・広汎子宮全摘出術はIB〜II期、放射線治療・化学療法・分子標的薬は局所進行〜進行・再発癌が対象。 ・細胞診ASC-USはHPV検査でトリアージ、ASC-H・LSIL以上はコルポスコピー+狙い組織診。
