抗菌薬が効かない熱と飛蚊症―中心静脈栄養の患者で眼底を見る理由
第120回医師国家試験 D問題 第31問
国試問題にチャレンジ
83歳の男性。発熱のため入院中である。短腸症候群で自宅近くの医療機関で中心静脈栄養を行われていた。39℃の発熱を認めたため,中心静脈カテーテルは抜去した。血液培養の結果はまだ出ておらず,抗菌薬の全身投与を2日間行っても,発熱は続いている。本日から両眼で飛蚊症を訴えている。両眼の眼底写真を下に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.Behçet病
- b.高血圧網膜症
- c.真菌性眼内炎
- d.サルコイドーシス
- e.サイトメガロウイルス網膜炎
対話形式の解説
ドクター
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医学生まとめ
中心静脈栄養を受けている患者で、抗菌薬に反応しない発熱に両眼の飛蚊症が加わった場合は、カンジダ血症から血行性に生じる内因性真菌性眼内炎を考えます。眼底では網脈絡膜に境界不明瞭な白色〜黄白色の円形(綿球状)病変が多発し、硝子体の綿毛状・雪玉状混濁を伴うのが特徴で、両眼性が多くみられます。Behçet病は前房蓄膿と閉塞性網膜血管炎、高血圧網膜症は血管変化と綿花様白斑、サルコイドーシスは肉芽腫性ぶどう膜炎とBHL、サイトメガロウイルス網膜炎は高度免疫不全下の血管に沿う壊死病変と出血が鑑別の要点です。診断には血液培養と血中β-D-グルカンを用い、治療はカテーテル抜去と眼内移行のよいアゾール系やリポソーム化アムホテリシンBが基本となります。症状を訴えにくい重症患者でも視機能を守るため、カンジダ血症では眼底検査を必ず行うという姿勢が臨床で重要です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
83歳の高齢男性で、短腸症候群のため中心静脈栄養(TPN:total parenteral nutrition)を受けていた。39℃の発熱が出現し、中心静脈カテーテルが感染源と疑われて抜去されている。抗菌薬を2日間全身投与しても解熱しない。そこへ両眼の飛蚊症が新たに出現した。
診断のプロセス
中心静脈カテーテル留置中の発熱では、カテーテル関連血流感染症(CRBSI)をまず考える。原因菌はブドウ球菌などの細菌のほか、カンジダ属などの真菌も重要である。特に高カロリー輸液はブドウ糖濃度が高く、カンジダが増殖しやすい。抗菌薬を投与しても発熱が続く場合、抗菌薬が効かない病原体、すなわち真菌(カンジダ血症)の可能性を考える必要がある(もちろん、2日間では細菌感染を否定できるわけではなく、耐性菌やスペクトラム外の菌、膿瘍などの可能性も残る)。 飛蚊症は、硝子体中の混濁(炎症細胞や病原体の塊)が網膜に影を落として、虫や糸くずのようなものが見える症状である。血流に乗ったカンジダは脈絡膜・網膜に病巣をつくり、さらに硝子体へ進展する。眼底写真では、両眼の網膜に境界が不鮮明な白色〜黄白色の円形・綿球状の病変が多発し、硝子体混濁を伴っている。両眼性であることも血行性播種に合致する。 以上より、中心静脈カテーテル感染によるカンジダ血症から生じた内因性(転移性)真菌性眼内炎が最も考えられる。
設問の考え方
「中心静脈栄養(カテーテル留置)」「抗菌薬で改善しない発熱」「両眼の飛蚊症」「網膜の白色円形病変と硝子体混濁」という組み合わせがそろえば、真菌性眼内炎を想起できる。他の選択肢は、それぞれ特徴的な背景と眼底所見をもつため、それとの違いを押さえておく。
選択肢考察
- ×a. Behçet病
Behçet病のぶどう膜炎は、前房蓄膿を伴う虹彩毛様体炎や、網膜血管炎(閉塞性の血管炎による網膜出血・滲出斑・浮腫)を特徴とし、発作的に再燃と寛解を繰り返す。口腔内アフタ、外陰部潰瘍、結節性紅斑などの皮膚症状を伴い、20〜40歳代に好発する。本例は83歳でこれらの症状がなく、中心静脈栄養中の感染症という経過からも考えにくい。
- ×b. 高血圧網膜症
高血圧網膜症では、網膜細動脈の狭細化・口径不同、動静脈交叉現象、火炎状出血、軟性白斑(綿花様白斑:神経線維層の虚血による)、硬性白斑、重症例では乳頭浮腫がみられる(Keith-Wagener分類やScheie分類で評価する)。硝子体混濁は生じず、飛蚊症や発熱とも結びつかない。本例では高血圧の情報もなく、白色円形病変と硝子体混濁の説明にならない。
- ○c. 真菌性眼内炎
中心静脈カテーテル留置(高カロリー輸液)は真菌血症、とりわけカンジダ血症の代表的な危険因子である。血行性に眼へ到達したカンジダは網膜・脈絡膜に境界不明瞭な白色〜黄白色の円形病変(綿球状病変)を形成し、進行すると硝子体中に白色の綿毛状・雪玉状の混濁が広がる。その結果として飛蚊症や霧視が出現し、両眼性に起こることが多い。抗菌薬が無効な発熱、両眼の飛蚊症、眼底の白色病変という本例の所見はすべて内因性真菌性眼内炎に合致する。血中β-D-グルカン測定や血液培養で真菌血症を確認し、眼内移行のよい抗真菌薬で治療する。
- ×d. サルコイドーシス
サルコイドーシスは非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を形成する全身性疾患で、眼では肉芽腫性ぶどう膜炎を起こす。豚脂様角膜後面沈着物、虹彩結節、隅角結節、雪玉状・真珠の首飾り状の硝子体混濁、網膜静脈周囲炎(結節状の静脈周囲炎)、多発する蝋様の網脈絡膜滲出斑などが特徴的である。両側肺門リンパ節腫脹(BHL)や血清ACE・リゾチームの上昇を伴う。中心静脈カテーテル感染に続発した急性の高熱と眼症状という本例の経過には合わない。
- ×e. サイトメガロウイルス網膜炎
サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎は、AIDS(CD4陽性T細胞が著しく低下した状態)や臓器移植後などの高度な細胞性免疫不全で生じる。網膜血管に沿って広がる黄白色の壊死性滲出斑と網膜出血が混在する所見(チーズに例えた白色病変とケチャップに例えた出血の組み合わせ)や、周辺部から扇状に広がる顆粒状病変が典型的である。免疫が保たれた患者には通常みられず、硝子体の炎症も軽いことが多い。本例は高度免疫不全の情報がなく、眼底所見も一致しない。
内因性真菌性眼内炎
眼内炎は、眼外から病原体が入る外因性(白内障手術後、眼外傷後など)と、血流を介して眼内に病原体が到達する内因性(転移性)とに分けられる。内因性真菌性眼内炎の原因菌の大部分はカンジダ属(特にCandida albicans)である。
危険因子
中心静脈カテーテル留置・高カロリー輸液、広域抗菌薬の長期使用、消化管手術後、悪性腫瘍、糖尿病、ステロイド・免疫抑制薬の使用、好中球減少、静注薬物使用など。
症状・眼所見
飛蚊症、霧視、視力低下。初期は網膜・脈絡膜に境界不明瞭な白色〜黄白色の円形病変が出現し(網脈絡膜炎期)、進行すると硝子体中に綿毛状・雪玉状の混濁が広がる(硝子体炎期)。後極部に病巣があると視力が大きく低下する。全身状態の悪い患者では自覚症状を訴えにくいため、所見が見逃されやすい。
診断
血液培養(カンジダは陽性化に時間がかかり、陽性率も高くない)、血中β-D-グルカンの上昇、眼底検査が中心となる。必要に応じて硝子体液の培養・PCRを行う。カンジダ血症と診断された患者では、自覚症状がなくても眼科医による散瞳下眼底検査を行うことが推奨されている。
治療
・感染源である中心静脈カテーテルの抜去。 ・抗真菌薬の全身投与:眼内移行のよいアゾール系(フルコナゾール、ボリコナゾール)や、リポソーム化アムホテリシンBを用いる。キャンディン系(ミカファンギンなど)はカンジダ血症の初期治療に用いられるが、眼内移行が不良であるため眼内炎の治療としては不十分とされる。 ・硝子体混濁が強い例や黄斑部に病変が及ぶ例では、抗真菌薬の硝子体内注射や硝子体手術を考慮する。
ぶどう膜炎・網膜炎の鑑別の要点
・Behçet病:前房蓄膿、閉塞性網膜血管炎、発作性の再燃寛解。 ・サルコイドーシス:肉芽腫性ぶどう膜炎、雪玉状・真珠の首飾り状硝子体混濁、網膜静脈周囲炎、BHL。 ・原田病(Vogt-小柳-原田病):両眼の漿液性網膜剥離、夕焼け状眼底、髄膜刺激症状・難聴。 ・CMV網膜炎:高度免疫不全、血管に沿った壊死性白色病変と出血。 ・真菌性眼内炎:中心静脈カテーテル、抗菌薬無効の発熱、網脈絡膜の白色円形病変と硝子体混濁。
POINT
・中心静脈栄養中の患者で、抗菌薬が効かない発熱と飛蚊症→カンジダ血症による内因性真菌性眼内炎を疑う。 ・眼底では網脈絡膜の境界不明瞭な白色円形(綿球状)病変と、硝子体の綿毛状・雪玉状混濁が特徴。両眼性が多い。 ・診断の補助に血中β-D-グルカン。カンジダ血症では全例で眼底検査を行う。 ・治療はカテーテル抜去と、眼内移行のよい抗真菌薬(アゾール系、リポソーム化アムホテリシンB)。重症例では硝子体手術。 ・CMV網膜炎は高度免疫不全で血管に沿う壊死病変と出血、Behçet病は網膜血管炎と前房蓄膿、サルコイドーシスは肉芽腫性ぶどう膜炎。
