痛くない、機能も正常―超音波の「微細な点」が告げる甲状腺乳頭癌と次の一手
第120回医師国家試験 D問題 第32問
国試問題にチャレンジ
35歳の女性。結節性甲状腺腫を指摘され来院した。身長164cm,体重45kg。脈拍72/分,整。血圧120/76mmHg。甲状腺左葉に小結節を触知し,圧痛を認めない。血液生化学所見:TSH 2.8μU/mL(基準0.2~4.0),FT3 3.4pg/mL(基準2.3~4.3),FT4 1.4ng/dL(基準0.8~2.2)。免疫血清学所見:抗サイログロブリン抗体0.3U/mL未満(基準0.3以下),抗甲状腺ペルオキシダーゼ〈TPO〉抗体0.3U/mL未満(基準0.3以下)。頸部超音波像を下に示す。 頸部病変で正しいのはどれか。

- a.病変部位が移動する。
- b.頸部リンパ節転移を生じない。
- c.高カルシウム血症を合併する。
- d.穿刺吸引細胞診が必要である。
- e.A群β溶連菌感染が原因となる。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクター
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ドクター
医学生
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ドクターまとめ
無痛性で甲状腺機能正常・自己抗体陰性の孤立性結節では、良性結節と甲状腺癌の鑑別が中心となります。超音波で低エコー、境界不整・不明瞭、微細石灰化(砂粒体に対応)を伴う充実性結節は乳頭癌を強く疑い、超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診で確定してから切除範囲やリンパ節郭清を決定します。乳頭癌は甲状腺悪性腫瘍の約9割を占め、若年〜中年女性に多く、頸部リンパ節転移が多いものの予後は良好で、すりガラス状核や核溝などの核所見により細胞診での診断精度が高いのが特徴です。疼痛部位の移動は亜急性甲状腺炎、頸部腫瘤と高カルシウム血症は副甲状腺疾患、細菌感染は急性化膿性甲状腺炎と結びつけて整理しておくと、甲状腺疾患全体の鑑別が明確になります。結節を見たら「機能・超音波・細胞診」の順に評価する流れは、日常診療で最もよく使う考え方の一つです。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・35歳女性で、結節性甲状腺腫(甲状腺の一部が結節状に腫れたもの)を指摘されて受診している。 ・甲状腺左葉に小結節を触れるが圧痛はない。痛みを伴う甲状腺疾患(亜急性甲状腺炎、急性化膿性甲状腺炎など)は考えにくい。 ・TSH(甲状腺刺激ホルモン)、FT3、FT4(遊離トリヨードサイロニン、遊離サイロキシン)はいずれも基準範囲内で、甲状腺機能は正常である。甲状腺ホルモンを自律的に過剰産生する結節(Plummer病)は否定的である。 ・抗サイログロブリン抗体、抗TPO(甲状腺ペルオキシダーゼ)抗体はともに陰性で、橋本病(慢性甲状腺炎)など自己免疫性甲状腺疾患を示唆する所見はない。 ・頸部超音波像では、甲状腺左葉に内部が低エコーで境界が不整・不明瞭な充実性結節がみられ、内部に点状の高エコー(微細石灰化、病理学的には砂粒体に対応)を伴う。
診断へのプロセス
甲状腺機能正常・自己抗体陰性・無痛性の孤立性結節であり、まず考えるべきは「良性結節(腺腫様結節、濾胞腺腫など)か悪性腫瘍か」の鑑別である。超音波所見のうち、充実性、低エコー、境界不整・不明瞭、微細石灰化、縦横比(前後径/横径)が大きい形状などは悪性を示唆する。本例はこれらの悪性所見を備えており、若年~壮年女性に多く、甲状腺悪性腫瘍の大部分を占める甲状腺乳頭癌が最も考えられる。
設問の考え方
乳頭癌が疑われる結節に対して次に何が必要か、また乳頭癌の臨床的特徴(リンパ節転移の起こしやすさなど)を問う問題である。超音波で悪性が疑われた結節は、穿刺吸引細胞診で組織型を確認してから治療方針(手術範囲、リンパ節郭清の範囲)を決定する。乳頭癌は核所見(すりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体)が特徴的で、細胞診での診断精度が高い。
選択肢考察
- ×a. 病変部位が移動する。
疼痛・圧痛のある部位が甲状腺の片葉から対側へ移っていく現象(クリーピング〈creeping〉現象)は亜急性甲状腺炎に特徴的な所見である。本例は圧痛がなく、甲状腺機能も正常で炎症を示唆する所見を欠くため該当しない。また悪性腫瘍は周囲組織に浸潤すると可動性がむしろ低下し、硬く固定した結節として触れる傾向がある。
- ×b. 頸部リンパ節転移を生じない。
甲状腺乳頭癌はリンパ行性転移を起こしやすく、頸部リンパ節転移は高頻度に認められる(微小転移を含めると手術例の半数前後に及ぶ)。頸部リンパ節腫大が初発症状となることもある。そのため術前に頸部リンパ節の評価を行い、手術ではリンパ節郭清(少なくとも気管周囲の中央区域)を併せて行うのが一般的である。一方、血行性の遠隔転移は濾胞癌のほうが起こしやすい。
- ×c. 高カルシウム血症を合併する。
甲状腺乳頭癌そのものは高カルシウム血症を起こさない。頸部腫瘤と高カルシウム血症の組み合わせでは、副甲状腺腺腫・副甲状腺癌による原発性副甲状腺機能亢進症を考える。なお、甲状腺髄様癌はカルシトニンを産生するが、それによって高カルシウム血症が起こるわけではない。髄様癌に高カルシウム血症がみられるのは、多発性内分泌腫瘍症2A型(MEN2A)で副甲状腺機能亢進症を合併する場合である。
- ○d. 穿刺吸引細胞診が必要である。
超音波で悪性を疑う所見(低エコー、境界不整、微細石灰化)を伴う結節であり、良悪性の判定と組織型の推定のために超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診を行う。乳頭癌は特徴的な核所見(すりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体)を示し、細胞診での正診率が高い。細胞診で乳頭癌と判明すれば、腫瘍径やリンパ節転移・遠隔転移の有無に応じて甲状腺切除の範囲とリンパ節郭清を決める。腫大した頸部リンパ節があれば、そのリンパ節の細胞診や穿刺液中サイログロブリン測定も転移の診断に有用である。
- ×e. A群β溶連菌感染が原因となる。
甲状腺乳頭癌の発生と細菌感染は無関係である。乳頭癌の危険因子として確立しているのは小児期の放射線被曝であり、分子レベルではBRAF遺伝子変異やRET/PTC再構成が知られている。なお、細菌感染による甲状腺疾患には急性化膿性甲状腺炎があり、小児で下咽頭梨状窩瘻を介して左葉に生じやすい(起因菌はレンサ球菌、ブドウ球菌など)。強い疼痛と発熱を伴う点で本例とは全く異なる。また亜急性甲状腺炎はウイルス感染が先行することが多いとされる。
甲状腺悪性腫瘍の分類と特徴
・乳頭癌:甲状腺悪性腫瘍の約90%を占める。女性に多く、30~50歳代に好発。発育は緩徐で予後良好(10年生存率90%以上)。頸部リンパ節転移が多い。超音波で微細石灰化(砂粒体)、病理で砂粒体・すりガラス状核・核溝・核内細胞質封入体が特徴。 ・濾胞癌:約5%。血行性転移(肺・骨)を起こしやすい。細胞診では濾胞腺腫との区別が困難で、被膜浸潤・脈管侵襲の有無を手術標本の病理で判定して初めて診断される。 ・髄様癌:1~2%。傍濾胞細胞(C細胞)由来で、カルシトニンとCEAが腫瘍マーカーとなる。約1/3が遺伝性(RET遺伝子変異、MEN2A・MEN2B・家族性髄様癌)であり、褐色細胞腫の合併に注意する。 ・未分化癌:1~2%。高齢者に多く、急速に増大する硬い腫瘤として現れ、極めて予後不良。 ・悪性リンパ腫:橋本病を背景に発生することが多い(MALTリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)。
甲状腺結節の診療の流れ
①問診・触診(急速な増大、嗄声、硬く可動性不良な結節、頸部リンパ節腫大、放射線被曝歴、家族歴) ②甲状腺機能・自己抗体の測定(TSH低値なら機能性結節を考えシンチグラフィを検討) ③頸部超音波検査で悪性所見を評価 ④悪性が疑われる結節や一定以上の大きさの結節に対し穿刺吸引細胞診 ⑤細胞診結果に基づき経過観察か手術かを決定 なお、サイログロブリンは良性疾患でも上昇するため良悪性の鑑別には使えず、乳頭癌・濾胞癌の甲状腺全摘後の再発マーカーとして用いる。
超音波で悪性を疑う所見
形状不整、境界不明瞭・粗雑、内部低エコー、微細高エコー(微細石灰化)、縦横比が大きい(縦長)、境界部低エコー帯(halo)の欠如、内部血流の増加など。
POINT
・圧痛のない甲状腺機能正常の孤立性結節では、良性結節と甲状腺癌の鑑別が中心となる。 ・超音波で低エコー、境界不整、微細石灰化を伴う結節は乳頭癌を疑い、穿刺吸引細胞診で確定する。 ・乳頭癌は甲状腺癌の大部分を占め、若年~中年女性に多く、頸部リンパ節転移が多いが予後は良好。 ・クリーピング現象(疼痛部位の移動)は亜急性甲状腺炎の特徴。 ・頸部腫瘤+高カルシウム血症は副甲状腺疾患(MEN2Aでは髄様癌に副甲状腺機能亢進症が合併)を考える。
