手首ではなく膝を撮る―新生児クレチン症で「大腿骨遠位端」を見る理由
第119回医師国家試験 A問題 第36問
国試問題にチャレンジ
日齢12の女児。新生児マススクリーニングで異常を認めたため,両親に連れられて来院した。在胎41週,体重3,275g,Apgarスコア9点(1分),9点(5分)で出生した。完全母乳栄養である。3日前から哺乳力が低下し,排便は2日に1回の黄色顆粒便である。来院時は活気がなく,泣き声は微弱であった。身長52cm,体重3,312g。体温36.4℃。脈拍144/分,整。血圧88/42mmHg。呼吸数48/分。SpO2 97%(room air)。毛細血管再充満時間2秒。皮膚は乾燥しており,黄染を認める。大泉門は径1.5cmでやや陥凹しており,小泉門は開大している。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟。臍ヘルニアを認める。腸雑音に異常を認めない。 診断のために行うエックス線撮影の部位はどれか。
- a.頭蓋骨
- b.肋骨
- c.手根骨
- d.腰椎
- e.大腿骨遠位端
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
新生児マススクリーニング異常に遷延性黄疸、便秘、臍ヘルニア、体重増加不良、皮膚乾燥、不活発、小泉門開大がそろえば先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)を考えます。甲状腺ホルモンは骨成熟に不可欠で、胎児期からの機能低下では骨化中心の出現が遅れるため、新生児期には正期産児で出生時にほぼ必ず存在する大腿骨遠位端の骨端核を膝関節エックス線で評価し、その欠如や縮小が重症度・予後の目安となります。骨年齢評価の定番である手根骨は骨化中心の出現が生後2〜3か月以降のため、新生児期の評価には使えません。精密検査ではTSH・FT4・FT3の測定や甲状腺超音波も行い、知能・発達障害を防ぐためにレボチロキシンを可能な限り早期に開始することが重要です。骨化中心の出現時期という基礎知識が、新生児診療の検査選択に直結することを示す好例といえます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・日齢12の女児。新生児マススクリーニング(生後4〜6日に採取した濾紙血で先天性の代謝・内分泌疾患を調べる検査)で異常を指摘された。 ・在胎41週、出生体重3,275g、Apgarスコア9点/9点で、周産期の異常はない。 ・3日前から哺乳力低下。排便は2日に1回で、新生児としては回数が少なく便秘傾向である。 ・活気がなく泣き声が弱い(不活発、嗄声を思わせる)。 ・体重3,312gで、出生から12日間で約40gしか増えておらず体重増加不良がある。 ・バイタルサインはおおむね正常範囲で、毛細血管再充満時間2秒と末梢循環も保たれている。 ・皮膚乾燥、黄疸(日齢12まで続く遷延性黄疸)、小泉門開大、臍ヘルニアを認める。大泉門のやや陥凹は哺乳不良による軽度の脱水を示唆する。
診断へのプロセス
マススクリーニング異常に加え、遷延性黄疸、便秘、臍ヘルニア、体重増加不良、皮膚乾燥、不活発、小泉門開大といった症状がそろっている。これらは先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の診察で確認すべきチェック項目に多く該当し、マススクリーニングでTSH(甲状腺刺激ホルモン)高値を指摘された先天性甲状腺機能低下症が強く疑われる。甲状腺ホルモンの不足により、代謝の低下(不活発、哺乳不良、便秘、皮膚乾燥)、肝でのビリルビン抱合の遅れ(遷延性黄疸)、筋緊張の低下(臍ヘルニア)、骨の成熟遅延(小泉門開大)が起こる。
設問の考え方
甲状腺ホルモンは骨の成熟(骨端核の出現・成長)に不可欠であり、胎児期から甲状腺機能低下があると骨端核の出現が遅れる。骨成熟の評価は通常は手のエックス線で骨年齢として行うが、新生児期には手根骨の骨化中心はまだ出現していないため使えない。新生児期に評価するのは、正期産児なら出生時にほぼ必ず存在する大腿骨遠位端の骨端核である。膝関節のエックス線(正面像)を撮影し、大腿骨遠位端骨端核の有無と大きさを確認する。骨端核が欠如・小さい場合は胎児期から甲状腺機能低下が続いていたことを意味し、重症度や発達予後の目安となる。 診断にはこのほか、血清TSH・遊離T4(FT4)・遊離T3の測定、甲状腺超音波検査(甲状腺の欠損・異所性・腫大の評価)などを行う。重症例や症状がそろう例では、検査結果を待たずに速やかにレボチロキシンの投与を開始する。
選択肢考察
- ×a. 頭蓋骨
頭蓋骨のエックス線撮影は、頭蓋縫合早期癒合症や頭蓋骨骨折などの評価に用いられる。先天性甲状腺機能低下症では骨化の遅れにより小泉門開大や大泉門の拡大がみられるが、これは触診で評価でき、正常新生児でも小泉門が開いていることがあるため、頭蓋骨のエックス線で診断の根拠を得ることはできない。
- ×b. 肋骨
肋骨のエックス線撮影は、骨折(虐待による肋骨骨折など)やくる病(肋骨念珠)の評価などで行われる。先天性甲状腺機能低下症の診断において肋骨を評価する意義はない。
- ×c. 手根骨
手(手根骨を含む)のエックス線は小児の骨年齢評価の標準的な方法であり、乳児期以降の甲状腺機能低下症や成長障害の評価に用いられる。しかし最初に出現する手根骨(有頭骨・有鈎骨)の骨化中心が現れるのは生後2〜3か月頃であり、正常な新生児でも手根骨は描出されない。そのため新生児期には異常の有無を判断できず、診断に役立たない。
- ×d. 腰椎
腰椎のエックス線撮影は、二分脊椎などの脊椎奇形や骨系統疾患の評価に用いられる。新生児の先天性甲状腺機能低下症の評価部位ではない(乳幼児期以降に椎体の形態異常がみられることはあるが、診断目的に新生児期に撮影するものではない)。
- ○e. 大腿骨遠位端
大腿骨遠位端の骨端核は在胎36週頃から出現し、正期産の新生児ではほぼ全例で認められる。胎児期から甲状腺機能低下があると骨成熟が遅れ、この骨端核が欠如したり小さかったりする。在胎41週で出生した本児で骨端核がみられなければ、胎児期からの甲状腺機能低下を示す所見となる。膝関節正面像で撮影し、骨端核の有無と大きさから重症度や予後を推定する。
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)
・新生児マススクリーニングの対象疾患の一つで、およそ数千人に1人の頻度で見つかる。濾紙血のTSH(施設によりFT4も)を測定して発見する。 ・原因の多くは甲状腺の形成異常(無形成・低形成・異所性甲状腺)やホルモン合成障害である。中枢性(視床下部・下垂体性)はTSHが上昇しないため、TSHのみのスクリーニングでは見逃されうる。 ・一過性の高TSH血症として、母体の抗TSH受容体抗体の移行、母体や新生児へのヨウ素の過剰曝露(ヨード造影剤、消毒薬、ヨウ素を多く含む食品の過剰摂取)、母体の抗甲状腺薬内服などがある。問診で家族歴や妊娠中のヨウ素摂取・使用歴を確認する。
診察で確認する主な症状(チェック項目)
遷延性黄疸、便秘、臍ヘルニア、体重増加不良、皮膚乾燥、不活発、巨舌、嗄声、四肢冷感、浮腫、小泉門開大、甲状腺腫。 ※新生児期には症状に乏しい例も多いため、マススクリーニングによる早期発見が重要である。
精密検査
・血清TSH、FT4、FT3(必要に応じてサイログロブリン)。 ・膝関節エックス線:大腿骨遠位端骨端核の有無と大きさ。 ・甲状腺超音波検査:甲状腺の有無、位置、大きさ。
治療
・レボチロキシン(合成T4製剤)の内服を速やかに開始する。治療開始が遅れると不可逆的な知能障害・発達障害(かつてクレチン症と呼ばれた病態)や低身長を残すため、生後早期(できれば生後2週間以内)の治療開始が目標とされる。 ・TSHとFT4を定期的に測定して投与量を調整し、成長と発達を追跡する。
主な骨化中心の出現時期
・大腿骨遠位端:在胎36週頃(正期産児では出生時に存在) ・脛骨近位端:在胎末期〜出生時頃 ・手根骨(有頭骨・有鈎骨):生後2〜3か月頃
POINT
・新生児マススクリーニング異常+遷延性黄疸・便秘・臍ヘルニア・体重増加不良・皮膚乾燥・不活発・小泉門開大 → 先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)。 ・新生児期の骨成熟評価は膝関節エックス線で大腿骨遠位端骨端核を見る(正期産児では出生時に存在)。 ・手根骨の骨化は生後2〜3か月以降であり、新生児期の評価には使えない。 ・治療はレボチロキシンの早期内服で、遅れると不可逆的な発達障害を残す。
