傷ついたのは片眼なのに、もう片方も燃え上がる―交感性眼炎と「隠された抗原」
第107回医師国家試験 B問題 第20問
国試問題にチャレンジ
交感性眼炎の原因となるのはどれか。
- a.角膜異物
- b.涙小管断裂
- c.穿孔性眼外傷
- d.眼窩吹き抜け骨折
- e.コンタクトレンズ眼症
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
交感性眼炎は、穿孔性眼外傷や内眼手術でぶどう膜が損傷・露出したことをきっかけに、両眼に肉芽腫性汎ぶどう膜炎が起こる自己免疫疾患です。血液眼関門で隔てられていたメラノサイト由来の抗原に対してT細胞性の免疫が成立し、受傷していない反対側の眼まで炎症が及ぶことが特徴です。角膜異物、涙小管断裂、眼窩吹き抜け骨折、コンタクトレンズ眼症は、いずれも眼球表面や眼球外の病変でぶどう膜抗原が露出しないため原因になりません。臨床像はVogt-小柳-原田病に似ており、治療はステロイド全身投与が中心で、穿孔創の早期閉鎖が予防の基本です。「ぶどう膜が傷ついたか」という病態の軸で考えることが、眼外傷診療で両眼を守る視点につながります。
解答・解説
正解はcです
交感性眼炎は、片眼のぶどう膜が傷ついたことをきっかけに、両眼に肉芽腫性の汎ぶどう膜炎が起こる自己免疫疾患である。汎ぶどう膜炎とは、虹彩・毛様体・脈絡膜のすべてに炎症が及ぶものをいう。 眼球の内部は血液眼関門によって免疫系から隔てられており、ぶどう膜のメラノサイトに含まれる抗原(メラニン関連蛋白など)は、ふだん免疫系の目に触れていない。眼球壁を貫く外傷で眼内組織が露出したり脱出したりすると、これらの抗原に対して主にT細胞を介した自己免疫反応が成立する。その結果、傷ついた眼(起交感眼)だけでなく、傷ついていない反対側の眼(被交感眼)にもぶどう膜炎が起こる。 したがって原因として選ぶべきなのは、眼球壁を貫いてぶどう膜を傷つける病態である。選択肢の中では穿孔性眼外傷がこれにあたる。ほかの選択肢は、眼球表面の角膜にとどまる病変か、眼球の外(涙道・眼窩)の病変であり、ぶどう膜の抗原が露出することはない。
選択肢考察
- ×a. 角膜異物
角膜異物は、鉄片や砂などが角膜表層に刺さったり付着したりしたものである。角膜を貫いていなければ眼内のぶどう膜は傷つかないため、交感性眼炎の原因にはならない。治療は異物の除去と、感染予防のための抗菌点眼である。鉄片では周囲に錆(さび)の輪が残ることがあり、これも除去する。
- ×b. 涙小管断裂
涙小管断裂は、眼瞼の裂傷(とくに内眼角付近)に伴って涙道の一部である涙小管が切れるものである。眼球の外の損傷であり、ぶどう膜の抗原は露出しないため、交感性眼炎は起こらない。放置すると流涙の原因になるため、チューブを留置して断端を縫合し再建する。
- ○c. 穿孔性眼外傷
穿孔性眼外傷では、刃物や飛来物などが角膜や強膜を貫いて眼内に達し、虹彩・毛様体・脈絡膜が損傷したり脱出したりする。特に毛様体を含む部位の損傷やぶどう膜の嵌頓(傷口にはさまり込むこと)があると、隠れていたぶどう膜の抗原に対して自己免疫反応が起こる。その結果、受傷後おおむね2週間から数か月(多くは1年以内)に、受傷していない反対側の眼にも肉芽腫性ぶどう膜炎が起こる。これが交感性眼炎であり、代表的な原因である。外傷のほか、硝子体手術などの内眼手術の後に起こることもある。
- ×d. 眼窩吹き抜け骨折
眼窩吹き抜け骨折は、ボールや拳などの鈍的外力で眼窩内圧が急に上がり、薄い眼窩下壁や内側壁が骨折するものである。外眼筋や眼窩内の組織が骨折部にはさまり、眼球運動障害(とくに上転障害)・複視・眼球陥凹・頬部のしびれ(眼窩下神経の障害)を起こす。眼球壁は破れておらずぶどう膜の抗原は露出しないため、交感性眼炎の原因にはならない。
- ×e. コンタクトレンズ眼症
コンタクトレンズ眼症は、コンタクトレンズの装用に伴う眼の障害の総称である。角膜上皮障害、角膜の酸素不足による角膜新生血管、巨大乳頭結膜炎、角膜感染症(緑膿菌やアカントアメーバなど)などが含まれる。いずれも角膜・結膜の病変であり、ぶどう膜の抗原が露出して自己免疫を起こすことはないため、交感性眼炎とは関係がない。
交感性眼炎の要点
・病態: ぶどう膜のメラノサイトに由来する抗原に対する自己免疫反応であり、T細胞が主役を担う。両眼に肉芽腫性の汎ぶどう膜炎を起こす。 ・誘因: 穿孔性眼外傷、内眼手術(硝子体手術、眼球破裂の修復術など)。 ・発症時期: 受傷や手術から2週間〜数か月後が多い。何年も経ってから発症することもある。 ・症状: 両眼の視力低下、羞明、霧視などである。Vogt-小柳-原田病と同様に、感音難聴・耳鳴、頭髪の白髪化・脱毛、皮膚の白斑といった眼以外の症状を伴うことがある。 ・所見: 前房の炎症、豚脂様角膜後面沈着物、脈絡膜の肥厚、漿液性網膜剥離、Dalen-Fuchs結節(網膜色素上皮と Bruch 膜の間にできる小さな肉芽腫)。回復期には夕焼け状眼底となる。 ・治療: 副腎皮質ステロイドの全身投与が中心である。効果が不十分なときは免疫抑制薬(シクロスポリンなど)や生物学的製剤を用いる。 ・予防: 穿孔創を早く適切に閉鎖する。視機能が回復する見込みのない高度損傷眼では、受傷後早期(目安として2週間以内)の眼球摘出が発症予防になりうるとされる。
Vogt-小柳-原田病との関係
臨床像も病理像も交感性眼炎とよく似ており、どちらもメラノサイトを標的とする自己免疫疾患と考えられている。外傷や手術の既往があれば交感性眼炎、なければ原田病と区別する。原田病はHLA-DR4との関連が強い。
POINT
・交感性眼炎は、穿孔性眼外傷や内眼手術の後に起こる両眼性の肉芽腫性汎ぶどう膜炎である。 ・発症の鍵はぶどう膜の損傷であり、隠れていたメラノサイト抗原に対する自己免疫が起こる。 ・受傷していない反対側の眼にも炎症が起こることが特徴である。 ・臨床像は Vogt-小柳-原田病に似ており、治療はステロイド全身投与が中心である。
