StudyMed医師国家試験

傷ついたのは片眼なのに、もう片方も燃え上がる―交感性眼炎と「隠された抗原」

第107回医師国家試験 B問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第107回 B問題 第20問

交感性眼炎の原因となるのはどれか。

  1. a.角膜異物
  2. b.涙小管断裂
  3. c.穿孔性眼外傷
  4. d.眼窩吹き抜け骨折
  5. e.コンタクトレンズ眼症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、交感性眼炎がどんなきっかけで起こるかを問う問題だ。ポイントは「眼球のどの部分が傷つくと、なぜ反対側の眼まで炎症を起こすのか」という病態の理解。そこがわかれば、選択肢は自然に絞れるよ。まず、交感性眼炎ってどんな病気だったか覚えているかな。
医学生医学生
片眼のケガのあとに、ケガをしていない方の眼にもぶどう膜炎が起こる病気、と眼科の講義で習いました。
ドクタードクター
その通り。両眼に肉芽腫性の汎ぶどう膜炎、つまり虹彩・毛様体・脈絡膜すべてに炎症が及ぶ自己免疫疾患だ。では、なぜケガをしていない眼まで巻き込まれると思う?
医学生医学生
感染が反対側に広がる……わけではないですよね。両眼が神経でつながっているからでしょうか。
ドクタードクター
そう考えたくなるけれど、主役は免疫なんだ。眼球の内部は血液眼関門で免疫系から隔てられていて、ぶどう膜のメラノサイトに含まれるメラニン関連蛋白などの抗原は、ふだん免疫系の目に触れない。いわば「隠された抗原」だね。眼球壁を貫く外傷でぶどう膜が露出したり脱出したりすると、これらの抗原に対して主にT細胞を介した自己免疫が成立する。その免疫は同じ抗原を持つ反対側の眼のぶどう膜も攻撃してしまう。
医学生医学生
免疫学で習った「隔絶抗原」の話ですね。精巣と同じように、免疫寛容が成立していない場所というイメージでしょうか。
ドクタードクター
いい連想だ。傷ついた眼を起交感眼、反対側の眼を被交感眼と呼ぶ。つまり原因として選ぶべきなのは、眼球壁を貫いてぶどう膜を傷つける病態。選択肢のなかでそれにあたるのはどれかな。
医学生医学生
穿孔性眼外傷ですね。刃物や飛来物が角膜や強膜を貫いて眼内に入る外傷です。
ドクタードクター
正解。特に毛様体を含む部位の損傷や、ぶどう膜が傷口にはさまり込む嵌頓があるとリスクが高いとされる。発症は受傷後おおむね2週間から数か月、多くは1年以内だけれど、何年も経ってから起こることもある。では、角膜異物はどうだろう。
医学生医学生
角膜も眼球壁の一部なので、刺さった鉄片で起こりそうな気もしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。角膜異物は角膜の表層にとどまるもので、角膜を貫いていなければぶどう膜には届かない。治療は異物除去と抗菌点眼で、鉄片なら周囲に残る錆の輪も取り除く。涙小管断裂はどうかな。
医学生医学生
眼瞼の裂傷、特に内眼角付近のケガで起こるものですよね。眼球の外の損傷なので、ぶどう膜とは関係なさそうです。
ドクタードクター
そう。涙道の損傷で、放置すると流涙の原因になるからチューブを留置して再建する。眼窩吹き抜け骨折も眼球の外の病変だ。ボールや拳で眼窩内圧が上がって薄い下壁や内側壁が折れ、上転障害や複視、眼球陥凹、頬のしびれが出るけれど、眼球壁は破れていない。
医学生医学生
救急科の実習で、殴られて上を見ると二重に見えるという患者さんのCTを見ました。あれも交感性眼炎の心配はないんですね。
ドクタードクター
その通り。最後のコンタクトレンズ眼症は、角膜上皮障害や角膜新生血管、巨大乳頭結膜炎、緑膿菌やアカントアメーバによる角膜感染症などの総称で、すべて角膜・結膜の病変だ。
医学生医学生
結局、「ぶどう膜の抗原が外に出たかどうか」で判断すればいいわけですね。眼球の表面や外側の病変では起こらない、と。
ドクタードクター
まさにそれが軸になる。発展知識も押さえておこう。外傷だけでなく、硝子体手術などの内眼手術の後にも起こりうる。症状は両眼の視力低下や羞明、霧視で、所見としては豚脂様角膜後面沈着物、漿液性網膜剥離、網膜色素上皮とBruch膜の間にできる小肉芽腫であるDalen-Fuchs結節、回復期の夕焼け状眼底などがある。
医学生医学生
夕焼け状眼底って、Vogt-小柳-原田病でも出てきた気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。両者は臨床像も病理像もよく似ていて、どちらもメラノサイトを標的とする自己免疫疾患と考えられている。感音難聴や白髪、白斑といった眼外症状を伴うこともある。外傷や手術の既往があれば交感性眼炎、なければ原田病と区別するのが基本だ。
医学生医学生
治療はステロイドでしょうか。
ドクタードクター
副腎皮質ステロイドの全身投与が中心で、効果不十分なら免疫抑制薬や生物学的製剤を使う。予防として大切なのは穿孔創の早期の適切な閉鎖。視機能回復の見込みがない高度損傷眼では、受傷後早期の眼球摘出が発症予防になりうるとされている。臨床では、片眼の外傷患者を診たら、反対側の眼の変化にも注意を払い続けることが大切だよ。

まとめ

交感性眼炎は、穿孔性眼外傷や内眼手術でぶどう膜が損傷・露出したことをきっかけに、両眼に肉芽腫性汎ぶどう膜炎が起こる自己免疫疾患です。血液眼関門で隔てられていたメラノサイト由来の抗原に対してT細胞性の免疫が成立し、受傷していない反対側の眼まで炎症が及ぶことが特徴です。角膜異物、涙小管断裂、眼窩吹き抜け骨折、コンタクトレンズ眼症は、いずれも眼球表面や眼球外の病変でぶどう膜抗原が露出しないため原因になりません。臨床像はVogt-小柳-原田病に似ており、治療はステロイド全身投与が中心で、穿孔創の早期閉鎖が予防の基本です。「ぶどう膜が傷ついたか」という病態の軸で考えることが、眼外傷診療で両眼を守る視点につながります。

解答・解説

正解はcです

交感性眼炎は、片眼のぶどう膜が傷ついたことをきっかけに、両眼に肉芽腫性の汎ぶどう膜炎が起こる自己免疫疾患である。汎ぶどう膜炎とは、虹彩・毛様体・脈絡膜のすべてに炎症が及ぶものをいう。 眼球の内部は血液眼関門によって免疫系から隔てられており、ぶどう膜のメラノサイトに含まれる抗原(メラニン関連蛋白など)は、ふだん免疫系の目に触れていない。眼球壁を貫く外傷で眼内組織が露出したり脱出したりすると、これらの抗原に対して主にT細胞を介した自己免疫反応が成立する。その結果、傷ついた眼(起交感眼)だけでなく、傷ついていない反対側の眼(被交感眼)にもぶどう膜炎が起こる。 したがって原因として選ぶべきなのは、眼球壁を貫いてぶどう膜を傷つける病態である。選択肢の中では穿孔性眼外傷がこれにあたる。ほかの選択肢は、眼球表面の角膜にとどまる病変か、眼球の外(涙道・眼窩)の病変であり、ぶどう膜の抗原が露出することはない。

選択肢考察

  1. ×a.  角膜異物

    角膜異物は、鉄片や砂などが角膜表層に刺さったり付着したりしたものである。角膜を貫いていなければ眼内のぶどう膜は傷つかないため、交感性眼炎の原因にはならない。治療は異物の除去と、感染予防のための抗菌点眼である。鉄片では周囲に錆(さび)の輪が残ることがあり、これも除去する。

  2. ×b.  涙小管断裂

    涙小管断裂は、眼瞼の裂傷(とくに内眼角付近)に伴って涙道の一部である涙小管が切れるものである。眼球の外の損傷であり、ぶどう膜の抗原は露出しないため、交感性眼炎は起こらない。放置すると流涙の原因になるため、チューブを留置して断端を縫合し再建する。

  3. ○c.  穿孔性眼外傷

    穿孔性眼外傷では、刃物や飛来物などが角膜や強膜を貫いて眼内に達し、虹彩・毛様体・脈絡膜が損傷したり脱出したりする。特に毛様体を含む部位の損傷やぶどう膜の嵌頓(傷口にはさまり込むこと)があると、隠れていたぶどう膜の抗原に対して自己免疫反応が起こる。その結果、受傷後おおむね2週間から数か月(多くは1年以内)に、受傷していない反対側の眼にも肉芽腫性ぶどう膜炎が起こる。これが交感性眼炎であり、代表的な原因である。外傷のほか、硝子体手術などの内眼手術の後に起こることもある。

  4. ×d.  眼窩吹き抜け骨折

    眼窩吹き抜け骨折は、ボールや拳などの鈍的外力で眼窩内圧が急に上がり、薄い眼窩下壁や内側壁が骨折するものである。外眼筋や眼窩内の組織が骨折部にはさまり、眼球運動障害(とくに上転障害)・複視・眼球陥凹・頬部のしびれ(眼窩下神経の障害)を起こす。眼球壁は破れておらずぶどう膜の抗原は露出しないため、交感性眼炎の原因にはならない。

  5. ×e.  コンタクトレンズ眼症

    コンタクトレンズ眼症は、コンタクトレンズの装用に伴う眼の障害の総称である。角膜上皮障害、角膜の酸素不足による角膜新生血管、巨大乳頭結膜炎、角膜感染症(緑膿菌やアカントアメーバなど)などが含まれる。いずれも角膜・結膜の病変であり、ぶどう膜の抗原が露出して自己免疫を起こすことはないため、交感性眼炎とは関係がない。

交感性眼炎の要点

・病態: ぶどう膜のメラノサイトに由来する抗原に対する自己免疫反応であり、T細胞が主役を担う。両眼に肉芽腫性の汎ぶどう膜炎を起こす。 ・誘因: 穿孔性眼外傷、内眼手術(硝子体手術、眼球破裂の修復術など)。 ・発症時期: 受傷や手術から2週間〜数か月後が多い。何年も経ってから発症することもある。 ・症状: 両眼の視力低下、羞明、霧視などである。Vogt-小柳-原田病と同様に、感音難聴・耳鳴、頭髪の白髪化・脱毛、皮膚の白斑といった眼以外の症状を伴うことがある。 ・所見: 前房の炎症、豚脂様角膜後面沈着物、脈絡膜の肥厚、漿液性網膜剥離、Dalen-Fuchs結節(網膜色素上皮と Bruch 膜の間にできる小さな肉芽腫)。回復期には夕焼け状眼底となる。 ・治療: 副腎皮質ステロイドの全身投与が中心である。効果が不十分なときは免疫抑制薬(シクロスポリンなど)や生物学的製剤を用いる。 ・予防: 穿孔創を早く適切に閉鎖する。視機能が回復する見込みのない高度損傷眼では、受傷後早期(目安として2週間以内)の眼球摘出が発症予防になりうるとされる。

Vogt-小柳-原田病との関係

臨床像も病理像も交感性眼炎とよく似ており、どちらもメラノサイトを標的とする自己免疫疾患と考えられている。外傷や手術の既往があれば交感性眼炎、なければ原田病と区別する。原田病はHLA-DR4との関連が強い。

POINT

・交感性眼炎は、穿孔性眼外傷や内眼手術の後に起こる両眼性の肉芽腫性汎ぶどう膜炎である。 ・発症の鍵はぶどう膜の損傷であり、隠れていたメラノサイト抗原に対する自己免疫が起こる。 ・受傷していない反対側の眼にも炎症が起こることが特徴である。 ・臨床像は Vogt-小柳-原田病に似ており、治療はステロイド全身投与が中心である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。