酢酸で浮かび上がる白―検診異常からたどる子宮頸部上皮内腫瘍
第118回医師国家試験 D問題 第51問
国試問題にチャレンジ
26歳の女性(0妊0産)。子宮頸がん検診で異常を指摘され来院した。4年前の子宮頸がん検診では異常がなかった。既往歴と家族歴に特記すべきことはない。喫煙歴は20本/日を20歳から5年間。飲酒は機会飲酒。内診および経腟超音波検査で子宮と卵巣に異常を認めない。腟鏡診では,子宮腟部に肉眼的異常を認めない。酢酸加工後のコルポスコピー写真を示す。 診断はどれか。

- a.Behçet病
- b.Bowen病
- c.慢性頸管炎
- d.子宮頸部腺癌
- e.子宮頸部上皮内腫瘍〈CIN〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
子宮頸がん検診で細胞診異常を指摘された場合は、コルポスコピーで病変を観察し、異常部位から狙い組織診を行って確定診断します。酢酸加工で白く変化する境界明瞭な白色上皮は、異型細胞が密に増殖した上皮を示す所見で、肉眼的に腫瘤や潰瘍がなければ子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)を考えます。CINは高リスク型HPVの持続感染による扁平上皮の前癌病変で、移行帯に好発し、喫煙もリスク因子です。CIN1は経過観察が基本で、CIN3などでは円錐切除術などを検討しますが、若年者では妊孕性や早産リスクにも配慮が必要です。検診から精査・治療までの流れを理解することは、浸潤癌への進行を防ぐ予防医療の要となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・26歳、未経妊・未経産の女性で、性活動期にあたる年代である。 ・子宮頸がん検診(細胞診による一次検診)で異常を指摘され、精密検査(二次検診)目的で受診した。4年前の検診は正常であったので、この数年の間に新たに生じた変化と考えられる。 ・1日20本を5年間吸っており、喫煙は子宮頸部の扁平上皮系病変のリスク因子である。 ・内診と経腟超音波検査で子宮・卵巣に異常はなく、骨盤内の腫瘤や炎症の波及を示す所見はない。 ・腟鏡診で子宮腟部に肉眼的な異常はなく、腫瘤・潰瘍・易出血性のびらんなど浸潤癌を思わせる所見はない。 ・酢酸加工後のコルポスコピーで、子宮腟部の移行帯付近に周囲より白く変化した境界の明瞭な領域(白色上皮、acetowhite epithelium)を認める。
診断へのプロセス
子宮頸がん検診で細胞診異常がみられた場合、次の段階ではコルポスコピー(腟拡大鏡診)で病変の部位と程度を評価し、異常所見の部位から狙い組織診(生検)を行って確定診断する。コルポスコピーでは3〜5%酢酸を子宮腟部に塗布する。異型細胞が密に並ぶ上皮は核の密度が高く、酢酸によって細胞内の蛋白が凝固するため光を通しにくくなり、白く見える。これが白色上皮であり、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN:cervical intraepithelial neoplasia)を示唆する代表的な所見である。 本例は肉眼的に浸潤癌を疑う病変がなく、コルポスコピーで白色上皮のみを認めることから、子宮頸部上皮内腫瘍〈CIN〉と診断するのが最も妥当である。若年で、性交経験によるヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染と喫煙というリスク因子をもつ点も合致する。
設問の考え方
「検診異常+肉眼的に正常な子宮腟部+酢酸加工で白色上皮」という組み合わせを見たら、まずCINを考える。浸潤癌であれば腫瘤・潰瘍・異型血管などが加わり、炎症であれば分泌物増加や発赤・易出血性が前面に出る。
選択肢考察
- ×a. Behçet病
Behçet病は口腔内アフタ、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状(ぶどう膜炎)を主症状とする全身性の炎症性疾患である。女性の陰部病変は大陰唇・小陰唇などの外陰部に生じる、痛みを伴い再発を繰り返す潰瘍が典型であり、子宮腟部に酢酸で白くなる平坦な病変をつくる疾患ではない。本例には口腔内アフタなど他の主症状の記載もなく、合致しない。
- ×b. Bowen病
Bowen病は皮膚の表皮内に限局した扁平上皮癌(上皮内癌)であり、中高年以降の体幹・四肢などに、鱗屑や痂皮を伴う境界明瞭な紅褐色の局面としてみられる。外陰部の皮膚に生じることはあるが、子宮腟部の病変をBowen病とは呼ばない。子宮頸部の上皮内病変はCINとして扱うため誤りである。
- ×c. 慢性頸管炎
慢性頸管炎はクラミジア・トラコマティスや淋菌などの感染に続いて、あるいは非感染性の刺激によって頸管に炎症が持続する状態である。帯下の増加、接触出血、頸管の発赤や易出血性、粘液膿性の分泌物などが特徴で、炎症が骨盤内に及べば下腹部痛や内診時の痛みが出る。本例ではこうした症状・所見がなく、コルポスコピーでみられた境界明瞭な白色上皮は炎症ではなく上皮の異型を反映する所見であるため、合致しない。
- ×d. 子宮頸部腺癌
子宮頸部腺癌は頸管の円柱上皮(腺上皮)から発生する浸潤癌である。頸管内の深い部位に発生しやすく、子宮腟部表面に所見が乏しいこともあるが、進行すれば頸部の腫大や腫瘤、不正性器出血、水様帯下などを伴う。本例は肉眼的に異常がなく、コルポスコピー所見も浸潤を示唆する異型血管や腫瘤ではなく白色上皮にとどまる。また喫煙は主に扁平上皮系の病変(CINや扁平上皮癌)のリスク因子として知られており、腺癌を第一に考える根拠はない。
- ○e. 子宮頸部上皮内腫瘍〈CIN〉
検診で細胞診異常を指摘され、肉眼的には子宮腟部に異常がない一方、酢酸加工後のコルポスコピーで移行帯付近に境界明瞭な白色上皮を認める。これは異型細胞が増殖した上皮の典型的なコルポスコピー所見であり、子宮頸部上皮内腫瘍〈CIN〉と診断できる。HPV感染が起こりうる年代であること、喫煙歴があることもリスク因子として矛盾しない。確定診断には、白色上皮の部位からの狙い組織診を行い、CIN1〜3のいずれかを病理学的に判定する。
子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)とは
子宮頸部の扁平上皮内に異型細胞が増殖しているが、基底膜を越えた浸潤はない前癌病変である。主な原因は高リスク型HPV(16型、18型など)の持続感染であり、喫煙、多数の性交渉相手、免疫抑制などがリスクを高める。病変は扁平上皮と円柱上皮の境界である扁平円柱上皮境界(SCJ)付近の移行帯に好発する。
CINの分類
・CIN1(軽度異形成):異型細胞が上皮の下1/3にとどまる。多くは自然に消退するため、通常は経過観察とする。 ・CIN2(中等度異形成):異型細胞が上皮の下2/3まで及ぶ。 ・CIN3(高度異形成・上皮内癌):異型細胞が上皮のほぼ全層に及ぶ。 現在の組織分類では、CIN1を低異型度扁平上皮内病変(LSIL)、CIN2・CIN3を高異型度扁平上皮内病変(HSIL)とまとめる。細胞診の判定にはベセスダシステム(NILM、ASC-US、ASC-H、LSIL、HSIL、SCCなど)が用いられる。
精査と治療の流れ
細胞診異常 → コルポスコピーと狙い組織診で病変の程度を確定する。CIN1や多くのCIN2は経過観察が基本であり、CIN3(および持続するCIN2など)では子宮頸部円錐切除術やレーザー蒸散術などの治療を検討する。妊孕性温存を希望する若年者では、切除範囲や早産リスクも考慮して方針を決める。
コルポスコピーの主な異常所見
・白色上皮:酢酸加工で白く変化する上皮。異型が強いほど白さが強く厚みがあり、境界が明瞭で、隆起したように見える。 ・モザイク、赤点斑:上皮内に入り込んだ血管が網目状または点状に見えるもの。 ・異型血管域:不規則に走行する血管で、浸潤癌を疑う所見である。 なお、正常な円柱上皮も酢酸でわずかに白くなることがあり、所見の判定には部位や白さの程度を合わせて評価する。
POINT
・子宮頸がん検診で異常 → コルポスコピー+狙い組織診で精査する。 ・酢酸加工で白く変化する境界明瞭な上皮(白色上皮)はCINを示唆する。 ・CINはHPV持続感染による扁平上皮の前癌病変で、移行帯に好発する。喫煙はリスク因子である。 ・肉眼的に腫瘤・潰瘍・異型血管がなければ浸潤癌は考えにくい。 ・CIN1は経過観察が基本、CIN3では円錐切除術などの治療を考える。
