全員が報告するとは限らない―おたふくかぜで学ぶ「定点」と「全数」の違い
第115回医師国家試験 C問題 第13問
国試問題にチャレンジ
Choose the disease that is under sentinel surveillance in Japan, and does not require reports from all medical institutions.
- a.Measles
- b.Mumps
- c.Pertussis
- d.Rubella
- e.Syphilis
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
感染症法に基づく感染症発生動向調査では、1〜4類感染症はすべて全数把握、5類感染症は全数把握と定点把握に分かれ、定点把握(sentinel surveillance)では指定された定点医療機関のみが週単位・月単位で患者数を報告します。流行性耳下腺炎は小児科定点の対象であり、ワクチンが任意接種のため流行を繰り返すことから、その動向把握を目的に定点サーベイランスが行われています。一方、麻疹・風疹は排除を目指して2008年に、百日咳は成人例を含む正確な把握のため2018年に全数把握へ移行し、梅毒は他の性感染症と異なり以前から全数把握です。水痘の入院例やCOVID-19の定点移行など例外や改正も多いため、移行の理由とあわせて理解しておくことが、国家試験だけでなく臨床での適切な届出にも役立ちます。
解答・解説
正解はbです
設問の意味
「日本で定点把握(sentinel surveillance)の対象となっており、すべての医療機関からの届出(全数報告)を必要としない疾患を選べ」という英語問題である。sentinel surveillanceは「定点(サーベイランス)」、reports from all medical institutionsは「全数把握」を指している。
考え方
感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)に基づく感染症発生動向調査では、1〜4類感染症はすべて全数把握、5類感染症は「全数把握」と「定点把握」に分かれる。定点把握とは、都道府県が指定した一部の医療機関(定点医療機関:小児科定点、インフルエンザ定点、眼科定点、性感染症定点、基幹定点など)だけが、患者数を週単位または月単位で報告する方式である。患者数が多く流行の傾向をつかむことが主目的の疾患が対象となる。 選択肢はすべて5類感染症であるため、「5類の中でどれが全数把握に移されたか」を知っているかが鍵となる。麻疹と風疹は排除(エリミネーション)を目指して2008年に、百日咳は成人例を含めた正確な疫学把握のため2018年に、それぞれ定点把握から全数把握へ変更された。梅毒は以前から全数把握である。現在も定点把握にとどまっているのは流行性耳下腺炎(mumps)である。
選択肢考察
- ×a. Measles
麻疹(はしか)は5類感染症の全数把握疾患である。かつては小児科定点による定点把握であったが、2007年の10〜20歳代を中心とする大流行を受け、麻疹排除計画の一環として2008年から全数把握となった。感染力が極めて強く、1例でも迅速な接触者調査や緊急接種などの対応が必要なため、診断した医師はすべての患者を「直ちに」保健所へ届け出る。なお日本は2015年にWHO西太平洋地域事務局から麻疹排除状態にあると認定されている。
- ○b. Mumps
流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)は5類感染症の定点把握疾患であり、小児科定点医療機関が週単位で患者数を報告する。すべての医療機関に届出義務があるわけではないため、設問の条件に合致する。日本ではムンプスワクチンが任意接種にとどまっているため数年おきに流行を繰り返しており、流行の動向を把握する目的で定点サーベイランスが行われている。合併症として無菌性髄膜炎、難聴(ムンプス難聴、多くは片側性で回復しにくい)、精巣炎、膵炎などがある。
- ×c. Pertussis
百日咳は5類感染症の全数把握疾患であり、診断した医師は7日以内に届け出る。以前は小児科定点の報告対象であったが、思春期・成人例の増加や、それらが乳児への感染源となることを踏まえ、年齢を問わず正確に把握するために2018年1月から全数把握に変更された。届出には検査診断(培養、遺伝子検査、抗体検査など)による確認が必要である。
- ×d. Rubella
風疹は5類感染症の全数把握疾患である。麻疹と同様に2008年から全数把握となり、2018年からは「直ちに」届け出ることとされた。妊娠初期の感染で先天性風疹症候群(白内障、先天性心疾患、感音難聴など)を起こすため、流行の早期探知と封じ込めが重要である。先天性風疹症候群も別に全数把握の対象となっている。
- ×e. Syphilis
梅毒は5類感染症の全数把握疾患であり、診断した医師は7日以内に届け出る。無症状病原体保有者(血清反応のみ陽性で治療が必要と判断されるもの)も届出対象となる。性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症などの性感染症は性感染症定点による定点把握であるが、梅毒はこれらと異なり全数把握である点に注意する。近年、日本では梅毒の報告数が急増している。
感染症法による届出の概要
・1〜4類感染症、指定感染症、新型インフルエンザ等感染症: 全数把握。診断後直ちに届け出る。 ・5類感染症(全数把握): 原則7日以内に届け出る。ただし麻疹、風疹、侵襲性髄膜炎菌感染症は直ちに届け出る。 ・5類感染症(定点把握): 指定届出機関(定点医療機関)が週単位または月単位で報告する。
5類全数把握の主な疾患
麻疹、風疹、先天性風疹症候群、百日咳、梅毒、後天性免疫不全症候群(AIDS)、ウイルス性肝炎(A型・E型を除く)、急性脳炎、アメーバ赤痢、クリプトスポリジウム症、ジアルジア症、クロイツフェルト・ヤコブ病、劇症型溶血性レンサ球菌感染症、破傷風、侵襲性インフルエンザ菌感染症、侵襲性肺炎球菌感染症、侵襲性髄膜炎菌感染症、水痘(入院例に限る)、播種性クリプトコックス症、急性弛緩性麻痺(急性灰白髄炎を除く)、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌感染症、薬剤耐性アシネトバクター感染症、バンコマイシン耐性腸球菌感染症・バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌感染症など。
5類定点把握の主な疾患
・小児科定点(週報): 流行性耳下腺炎、水痘、RSウイルス感染症、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、感染性胃腸炎、手足口病、ヘルパンギーナ、伝染性紅斑、突発性発疹。 ・インフルエンザ定点(週報): インフルエンザ(鳥インフルエンザおよび新型インフルエンザ等感染症を除く)。2023年5月からは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も5類の定点把握となった。 ・眼科定点(週報): 流行性角結膜炎、急性出血性結膜炎。 ・性感染症定点(月報): 性器クラミジア感染症、性器ヘルペスウイルス感染症、尖圭コンジローマ、淋菌感染症。 ・基幹定点: マイコプラズマ肺炎、細菌性髄膜炎、無菌性髄膜炎、MRSA感染症、ペニシリン耐性肺炎球菌感染症など。
全数把握に移行した疾患
水痘は定点把握のままだが、入院例に限っては2014年から全数把握の対象となっている。麻疹・風疹(2008年)、百日咳(2018年)のように、定点から全数へ移行した疾患は出題されやすい。
POINT
・sentinel surveillance=定点把握。指定された定点医療機関のみが週単位・月単位で報告する。 ・流行性耳下腺炎(mumps)は小児科定点の定点把握疾患。 ・麻疹・風疹は2008年から全数把握で、直ちに届出。 ・百日咳は2018年から全数把握で、7日以内に届出。 ・梅毒は全数把握(他の性感染症4疾患は性感染症定点)。
