筋肉から肝臓へ渡るバトン―アラニンで読み解く肝臓の代謝地図
第115回医師国家試験 C問題 第12問
国試問題にチャレンジ
肝臓の代謝で正しいのはどれか。
- a.アラニンは糖新生に利用される。
- b.胆汁酸は中性脂肪から合成される。
- c.非代償性肝硬変では芳香族アミノ酸が低下する。
- d.アンモニアはTCAサイクルで尿素に変換される。
- e.非抱合型ビリルビンはグルクロン酸抱合を受け脂溶性になる。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
肝臓は糖・脂質・アミノ酸・窒素・ビリルビンの代謝を担う中心臓器であり、アラニンはグルコース-アラニン回路を介して肝臓での糖新生に利用される代表的な糖原性アミノ酸です。胆汁酸の原料はコレステロール(律速酵素は7α-ヒドロキシラーゼ)、アンモニアは尿素回路で尿素に変換され、非抱合型ビリルビンはグルクロン酸抱合で水溶性となって胆汁中へ排泄されます。非代償性肝硬変では芳香族アミノ酸が増加し分岐鎖アミノ酸が低下するため、Fischer比が低下し、肝性脳症の病態に関わります。栄養管理では過度な蛋白制限を避け、必要に応じてBCAA製剤を用いるのが現在の考え方です。各代謝経路の原料・回路・性質の変化を押さえることは、肝機能検査や黄疸の鑑別、肝硬変の管理を理解する土台になります。
解答・解説
正解はaです
肝臓は糖・脂質・蛋白質(アミノ酸)・ビリルビンなど多くの物質の代謝を担う中心臓器である。本問は、その代表的な代謝経路について基本的な知識を問うている。 各選択肢がどの代謝系の話かを整理するとよい。aは糖代謝(糖新生)、bは脂質代謝(胆汁酸の原料)、cは肝不全時のアミノ酸代謝、dは窒素代謝(アンモニアの解毒)、eはビリルビン代謝である。それぞれについて「原料は何か」「どの回路で処理されるか」「処理の前後で性質がどう変わるか」を正確に押さえていれば、誤った記述を見抜くことができる。 飢餓時に筋蛋白から放出されたアラニンが肝臓でピルビン酸に変換され、グルコースの材料になる経路(グルコース-アラニン回路)を知っていれば、aが正しいと判断できる。
選択肢考察
- ○a. アラニンは糖新生に利用される。
糖新生とは、乳酸・グリセロール・アミノ酸など糖以外の物質からグルコースをつくる経路で、主に肝臓(長期の飢餓では腎臓も)で行われる。空腹時や飢餓時には筋肉の蛋白質が分解されてアミノ酸が生じ、その窒素はピルビン酸に渡されてアラニンとして血中へ放出される。アラニンは肝臓に取り込まれ、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)によるアミノ基転移でピルビン酸に戻り、糖新生の材料となる。外されたアミノ基は尿素回路で処理される。この筋肉と肝臓の間の循環をグルコース-アラニン回路と呼び、アラニンは糖原性アミノ酸の代表である。
- ×b. 胆汁酸は中性脂肪から合成される。
胆汁酸の原料はコレステロールである。肝細胞でコレステロールが7α-ヒドロキシラーゼ(CYP7A1、胆汁酸合成の律速酵素)により水酸化され、コール酸やケノデオキシコール酸(一次胆汁酸)が合成される。これらはグリシンやタウリンと抱合されて胆汁中に分泌され、腸内細菌によりデオキシコール酸やリトコール酸(二次胆汁酸)に変換される。胆汁酸合成はコレステロールを体外へ排出する主要経路でもある。中性脂肪(トリグリセリド)は胆汁酸の原料ではなく、むしろ胆汁酸によって乳化され消化・吸収される側である。
- ×c. 非代償性肝硬変では芳香族アミノ酸が低下する。
芳香族アミノ酸(AAA: aromatic amino acid。フェニルアラニン、チロシンなど)は主に肝臓で代謝されるため、肝機能が高度に低下した非代償性肝硬変では代謝されずに血中で増加する。一方、分岐鎖アミノ酸(BCAA: branched-chain amino acid。バリン、ロイシン、イソロイシン)は主に骨格筋で代謝され、肝硬変では高アンモニア血症の処理(筋肉でのグルタミン合成)やエネルギー源として消費が亢進するため低下する。その結果、BCAA/AAAのモル比であるFischer比は低下する(健常者では約3前後)。AAAの増加は肝性脳症の一因とされ、治療としてBCAA製剤が用いられる。
- ×d. アンモニアはTCAサイクルで尿素に変換される。
アンモニアを尿素に変換するのは尿素回路(オルニチン回路)であり、TCAサイクル(クエン酸回路)ではない。尿素回路は肝細胞のミトコンドリアと細胞質にまたがって進み、アンモニアと二酸化炭素からカルバモイルリン酸がつくられ(律速酵素はカルバモイルリン酸合成酵素I)、オルニチン→シトルリン→アルギニノコハク酸→アルギニンを経て、アルギナーゼにより尿素が切り出される。生じた尿素は水溶性で腎臓から排泄される。TCAサイクルは、糖や脂肪酸のβ酸化に由来するアセチルCoAを二酸化炭素にまで酸化し、電子伝達系にNADHやFADH2を供給するエネルギー産生の経路である。なお両回路はフマル酸を介してつながっている(アスパラギン酸-アルギニノコハク酸シャント)が、尿素を生成するのはあくまで尿素回路である。
- ×e. 非抱合型ビリルビンはグルクロン酸抱合を受け脂溶性になる。
グルクロン酸抱合は脂溶性物質を水溶性にして排泄しやすくする反応であり、記述は逆である。老化赤血球のヘモグロビンから生じた非抱合型(間接)ビリルビンは脂溶性で水に溶けにくく、血中ではアルブミンに結合して運ばれる。肝細胞に取り込まれるとUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT1A1)によりグルクロン酸抱合を受けて抱合型(直接)ビリルビンとなり、水溶性となって胆汁中へ排泄される。抱合型ビリルビンは水溶性のため、血中で増加すると尿中に出現する(ビリルビン尿)が、非抱合型ビリルビンは尿中に出ない。
肝臓の主な代謝機能の整理
・糖代謝: グリコーゲンの合成・分解、糖新生(原料は乳酸、グリセロール、アラニンなどの糖原性アミノ酸)。肝不全では空腹時低血糖や耐糖能異常を起こしうる。 ・脂質代謝: コレステロール・リポ蛋白の合成、脂肪酸のβ酸化、ケトン体の産生。コレステロールから胆汁酸を合成する。 ・蛋白・アミノ酸代謝: アルブミンや凝固因子の合成、アミノ酸の代謝、尿素回路によるアンモニアの解毒。 ・ビリルビン代謝: 非抱合型ビリルビンの取り込み、グルクロン酸抱合、胆汁への排泄。
肝硬変とアミノ酸インバランス
肝硬変ではBCAAが低下しAAAが増加するため、Fischer比(BCAA/AAA)が低下する。AAAは脳内に入って偽性神経伝達物質の産生などに関与し、肝性脳症の病態に関わると考えられている。栄養管理では、蛋白制限は原則として行わず(過度の制限は骨格筋量の減少=サルコペニアを招き、筋肉でのアンモニア処理能も落ちてかえって肝性脳症を悪化させうる)、適切なエネルギー・蛋白質摂取を保ったうえで、必要に応じてBCAA製剤や肝不全用経腸栄養剤で栄養状態を補う。かつては肝性脳症予防のため一律に蛋白制限が行われたが、現在は顕性脳症の急性期などに一時的に調整するにとどめる。薬物治療では、ラクツロース(合成二糖類)やリファキシミン(難吸収性抗菌薬)で腸管でのアンモニア産生・吸収を抑える。
ビリルビンの性質
非抱合型(間接): 脂溶性、アルブミン結合、尿中に出ない。溶血や体質性黄疸(Gilbert症候群、Crigler-Najjar症候群)で増加する。 抱合型(直接): 水溶性、尿中に出る。閉塞性黄疸や肝細胞障害、Dubin-Johnson症候群・Rotor症候群で増加する。
POINT
・アラニンは代表的な糖原性アミノ酸で、グルコース-アラニン回路を介して肝臓での糖新生に利用される。 ・胆汁酸の原料はコレステロール(律速酵素は7α-ヒドロキシラーゼ)。 ・肝硬変ではBCAA低下、AAA増加により、Fischer比が低下する。 ・アンモニアは肝臓の尿素回路(オルニチン回路)で尿素に変換される。TCAサイクルではない。 ・グルクロン酸抱合でビリルビンは脂溶性から水溶性になる。
