StudyMed医師国家試験

医師なら誰でもできるわけじゃない―母体保護法指定医が担う「人工妊娠中絶」

第115回医師国家試験 C問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第115回 C問題 第11問

母体保護法指定医の資格が必要な医療行為はどれか。

  1. a.人工授精
  2. b.体外受精
  3. c.不妊手術
  4. d.出生前診断
  5. e.人工妊娠中絶

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、母体保護法指定医という資格が何のために存在するのかを問う問題だ。ポイントは、母体保護法がそもそもどんな医療行為を対象にしている法律なのかを押さえること。そこがわかれば答えは自然に絞れるよ。
医学生医学生
名前に「母体」とあるので、妊娠や出産、不妊治療に関わる行為はみんな対象になりそうな気がします。
ドクタードクター
そう感じるのも無理はないね。でも母体保護法が定めているのは、実は「不妊手術」と「人工妊娠中絶」の2つだけなんだ。目的は、この2つについて定めることで母性の生命と健康を守ること。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、もともとは優生保護法という名前だったと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。1948年に制定された優生保護法から、1996年に遺伝性疾患などを理由とした不妊手術や中絶といった優生思想に基づく規定を削除して、母体保護法に改正・改称された。この歴史的経緯は医療倫理の観点からも大事だよ。さて、対象の2つのうち、指定医でなければできないのはどちらだと思う?
医学生医学生
不妊手術も人工妊娠中絶も法律で決められているなら、両方とも指定医が必要なのではないでしょうか。
ドクタードクター
そこが一番の引っかけポイントだ。不妊手術、つまり卵管結紮や精管切除のように生殖腺を残したまま生殖を不能にする手術は、法の要件を満たせば「医師」が実施できる。指定医である必要はないんだ。一方、人工妊娠中絶は、都道府県の医師会が指定した医師、つまり母体保護法指定医でなければ実施できない。
医学生医学生
同じ法律の中で実施者の条件が違うんですね。中絶だけ特別扱いなのはなぜですか。
ドクタードクター
刑法との関係を考えるとわかりやすい。刑法には堕胎罪があるけれど、母体保護法の要件を満たして指定医が行う人工妊娠中絶は違法性が阻却される。だから、技能や設備を備え、所定の研修を受けた医師に限定して、適正に行われる仕組みにしているんだ。
医学生医学生
法医学の講義で出てきた違法性阻却の話がここでつながりました。では、人工授精や体外受精はどうなりますか。産婦人科の実習で生殖医療の外来も見学しました。
ドクタードクター
人工授精は処理した精液を子宮内に注入する方法、体外受精は採取した卵子と精子を体外で受精させて胚を移植する生殖補助医療だね。どちらも母体保護法の対象外だから、指定医の資格は関係ない。体外受精には日本産科婦人科学会の会告に基づく施設登録の仕組みがあるけれど、それは指定医とは別物だよ。
医学生医学生
出生前診断も対象外ですか。中絶と結びつけて考えてしまいそうです。
ドクタードクター
出生前診断は、超音波検査や母体血清マーカー、NIPT、絨毛検査、羊水検査などで胎児の状態を調べるもので、これも母体保護法の対象ではない。むしろ大事なのは検査前後の十分な遺伝カウンセリングで、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーの関与が推奨されている。それから、母体保護法には胎児の異常を理由とする中絶、いわゆる胎児条項は含まれていない点も覚えておこう。
医学生医学生
つまり、母体保護法の対象は不妊手術と中絶の2つ、そのうち指定医が必要なのは人工妊娠中絶だけ、という整理ですね。
ドクタードクター
完璧だ。では中絶が認められる要件も確認しておこう。妊娠の継続や分娩が身体的または経済的理由で母体の健康を著しく害するおそれがある場合と、暴行や脅迫などによって妊娠した場合の2つ。時期は胎児が母体外で生命を保てない時期で、現在は妊娠22週未満とされている。
医学生医学生
同意は本人だけでよいのでしょうか。
ドクタードクター
原則は本人と配偶者の同意が必要だ。ただし配偶者がわからないとき、意思を表示できないとき、妊娠後に配偶者が亡くなったときは本人の同意だけでよい。そして実施後は、不妊手術も中絶も、その月の結果をまとめて翌月10日までに都道府県知事に届け出る。この届出が衛生行政報告例として人工妊娠中絶件数の統計の基礎になるんだ。
医学生医学生
国試では中絶件数の推移も出るので、その数字の出どころまで知っておくと理解が深まりますね。
ドクタードクター
その通り。法律の条文を丸暗記するより、「誰が、どんな要件で、どう届け出るか」を一つの流れで理解すると、臨床でも国試でも迷わなくなるよ。

まとめ

母体保護法は、1948年制定の優生保護法から優生思想に基づく規定を削除して1996年に改正・改称された法律で、対象は「不妊手術」と「人工妊娠中絶」の2つです。このうち人工妊娠中絶は都道府県医師会が指定した母体保護法指定医でなければ実施できず、不妊手術は要件を満たせば医師であれば実施できます。人工授精、体外受精、出生前診断は同法の対象外であり、指定医の資格は求められません。人工妊娠中絶は妊娠22週未満に、身体的・経済的理由や暴行等による妊娠の場合に限って、原則として本人と配偶者の同意のもとで行われ、実施後は都道府県知事への届出が必要で、胎児の異常は法的要件に含まれません。刑法の堕胎罪との関係や届出が統計の基礎となる点まで含めて理解しておくことは、生殖医療に関わる法と倫理を正しく扱ううえでの土台になります。

解答・解説

正解はeです

母体保護法は、不妊手術と人工妊娠中絶について定めることにより、母性の生命・健康を保護することを目的とした法律である。1948年に制定された優生保護法が、1996年に優生思想に基づく規定を削除して改正・改称されたものである。 この法律が対象とする医療行為は「不妊手術」と「人工妊娠中絶」の2つであるが、実施できる医師の要件が異なる点が本問のポイントである。 ・不妊手術:法の定める要件を満たす者に対し、医師であれば実施できる(指定医の資格は不要)。 ・人工妊娠中絶:都道府県の医師会が指定した医師(母体保護法指定医)でなければ実施できない。 人工授精、体外受精、出生前診断は母体保護法の規定する医療行為ではなく、同法に基づく指定医の資格は求められない。したがって、指定医の資格が必要なのは人工妊娠中絶のみである。

選択肢考察

  1. ×a.  人工授精

    誤り。人工授精は、採取・処理した精液をカテーテルで子宮内などに注入する不妊治療である。母体保護法の対象となる行為ではなく、母体保護法指定医の資格は不要である。

  2. ×b.  体外受精

    誤り。体外受精は、卵巣から採取した卵子と精子を体外で受精させ、得られた胚を子宮内に移植する生殖補助医療である。日本産科婦人科学会の会告に基づく施設登録などの仕組みはあるが、母体保護法の対象ではなく、指定医の資格は不要である。

  3. ×c.  不妊手術

    誤り。不妊手術は、生殖腺を除去せずに生殖を不能にする手術(卵管結紮、精管切除など)で、母体保護法に規定されている。ただし実施者は「医師」とされており、指定医である必要はない。妊娠・分娩が母体の生命に危険を及ぼすおそれがある場合などの要件と、本人および配偶者の同意が必要で、実施後は都道府県知事への届出が義務づけられている。

  4. ×d.  出生前診断

    誤り。出生前診断は、超音波検査、母体血清マーカー検査、非侵襲性出生前遺伝学的検査〈NIPT〉、絨毛検査、羊水検査などにより、出生前に胎児の形態異常や染色体異常などを調べるものである。母体保護法の対象ではなく指定医の資格は不要である。ただし、検査の前後には十分な遺伝カウンセリングが必要であり、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーの関与が推奨される。

  5. ○e.  人工妊娠中絶

    正しい。人工妊娠中絶は、胎児が母体外で生命を維持できない時期(現在は妊娠22週未満)に、人工的に胎児とその付属物を母体外へ排出することである。母体保護法により、都道府県の医師会が指定した医師(母体保護法指定医)だけが、法の定める要件を満たす場合に、原則として本人および配偶者の同意を得て行うことができる。実施した指定医は都道府県知事に届け出なければならない。

母体保護法の概要

・目的:不妊手術と人工妊娠中絶に関する事項を定め、母性の生命・健康を保護すること。 ・沿革:1948年制定の優生保護法を、1996年に優生思想に基づく部分(遺伝性疾患などを理由とする不妊手術・中絶の規定)を削除して改正・改称した。

人工妊娠中絶が認められる場合

1. 妊娠の継続または分娩が、身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの 2. 暴行もしくは脅迫によって、または抵抗・拒絶できない間に姦淫されて妊娠したもの ・胎児の異常を理由とする中絶(いわゆる胎児条項)は法律上の要件に含まれていない。 ・実施できる時期は「胎児が母体外において生命を保続することのできない時期」で、厚生労働省の通知により妊娠22週未満とされている。 ・同意:本人と配偶者の同意が原則である。配偶者が知れないとき、意思表示ができないとき、妊娠後に配偶者が亡くなったときは本人の同意だけでよい。

母体保護法指定医

・都道府県の医師会が、所定の研修を受けた医師のうち、人工妊娠中絶を適切に行える技能・設備などを有する者を指定する。

届出

・不妊手術・人工妊娠中絶を行った医師は、その月中の手術結果を取りまとめて翌月10日までに都道府県知事に届け出る。この届出が衛生行政報告例として人工妊娠中絶件数などの統計の基礎になる。

刑法との関係

・刑法には堕胎罪が規定されているが、母体保護法の要件を満たして指定医が行う人工妊娠中絶は違法性が阻却される。

POINT

・母体保護法の対象は「不妊手術」と「人工妊娠中絶」の2つ ・人工妊娠中絶は母体保護法指定医(都道府県医師会が指定)のみが実施できる ・不妊手術は医師であれば実施可能(指定医の資格は不要) ・人工妊娠中絶は妊娠22週未満、原則として本人と配偶者の同意が必要 ・実施後は都道府県知事への届出が必要 ・胎児の異常は人工妊娠中絶の法的要件に含まれない

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。