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守秘義務はどこに書いてある?―医師法と刑法の境界線を整理する

第115回医師国家試験 B問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第115回 B問題 第3問

医師法に規定されないのはどれか。

  1. a.応召義務
  2. b.守秘義務
  3. c.臨床研修
  4. d.処方箋の交付
  5. e.診療録の記載

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医事法規の問題だ。医師にはたくさんの義務があるけれど、そのすべてが医師法に書かれているわけではない。それぞれの義務の根拠となる法律を区別できるかがポイントだよ。しかも「規定されないのはどれか」という否定形の問いなので、読み違えに注意しよう。
医学生医学生
医師の義務なら全部医師法に書いてあると思っていました。どれも医師なら当然守るべきことばかりですし。
ドクタードクター
そう思うのは自然だね。でも医師法がどんな法律なのか考えると整理しやすい。医師法は、医師免許・国家試験・臨床研修といった「医師という資格」に関する事項と、診療に従事する医師の業務上の義務を定めた法律なんだ。まず臨床研修はどうかな。
医学生医学生
2年間の初期研修ですよね。医師になるための制度だから、医師法にありそうです。
ドクタードクター
その通り。診療に従事しようとする医師は、2年以上、大学病院または厚生労働大臣の指定する病院で臨床研修を受けなければならないと医師法に定められている。2004年から必修化されたものだ。次に応召義務は?
医学生医学生
公衆衛生の講義で医師法第19条と習いました。正当な事由がなければ診療を拒んではいけない、という義務ですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。正当な事由の有無は、緊急性や診療時間内かどうか、医療機関の体制などを踏まえて判断される。同じ条文には、診断書や出生証明書などの交付を求められたら正当な事由なく拒めない、という規定もある。では処方箋の交付と診療録の記載は?
医学生医学生
カルテは5年保存、というのを覚えた記憶があります。これも医師法でしたっけ。
ドクタードクター
そう、診療録の記載と5年間の保存は医師法第24条だ。処方箋の交付も第22条に規定されていて、薬剤を投与する必要があると認めたら原則として処方箋を交付しなければならない。ただし、患者さん側が不要と申し出た場合や、暗示的効果を期待する場合など、例外も定められている。
医学生医学生
そうなると、残る守秘義務が医師法に規定されないもの、ということですか。でも、守秘義務こそ医師の一番基本的な義務という気がして意外です。
ドクタードクター
そこがこの問題の狙いだね。医師の守秘義務は医師法には条文がなく、刑法第134条の秘密漏示罪によって定められている。医師が正当な理由なく業務上知り得た人の秘密を漏らすと処罰の対象になる。この条文は医師だけでなく、薬剤師、助産師、弁護士なども対象にしているんだ。
医学生医学生
看護師さんも刑法なんでしょうか。
ドクタードクター
いい質問だ。保健師・看護師・准看護師の守秘義務は保健師助産師看護師法に、診療放射線技師や臨床検査技師などはそれぞれの資格法に規定されている。助産師は刑法の対象になっているから、同じ看護職でも根拠法が違う点は混乱しやすいところだね。
医学生医学生
職種によって根拠法がばらばらなんですね。CBTの公衆衛生の範囲でも一覧表で覚えるのに苦労しました。
ドクタードクター
そうだね。ここで医師法の他の重要条文も押さえておこう。自ら診察しないで治療や診断書・処方箋の交付をしてはならないという無診察治療等の禁止、死体や妊娠4月以上の死産児を検案して異状を認めたら24時間以内に所轄警察署へ届け出る異状死体等の届出、そして診療をしたら療養の方法などを指導する保健指導の義務。これらも医師法だ。
医学生医学生
逆に、医師法以外に根拠がある義務にはほかに何がありますか。
ドクタードクター
代表的なのは、感染症の届出が感染症法、個人情報の取り扱いが個人情報保護法、病院の諸記録の保存は医療法関係だ。そして臨床で大事なのが守秘義務と届出の関係。感染症法に基づく届出や異状死体の届出、児童虐待の通告など、法令に基づいて情報を提供する場合は「正当な理由」があるとされ、秘密漏示罪には当たらないんだ。
医学生医学生
届出をためらう必要はない、ということですね。小児科の実習で虐待が疑われる子を見たとき、通告が守秘義務違反にならないか気になっていたので、すっきりしました。
ドクタードクター
その理解は臨床でとても大切だよ。守秘義務を理由に必要な届出や通告をためらってはいけない。どの法律に何が書かれているかを知っておくことが、患者さんを守り、自分自身を守ることにもつながるんだ。

まとめ

医師法は、医師免許・国家試験・臨床研修といった資格に関する事項と、応召義務、無診察治療等の禁止、異状死体等の届出、処方箋の交付、保健指導、診療録の記載と5年保存など、医師の業務上の義務を定めています。一方、医師の守秘義務は医師法ではなく刑法第134条の秘密漏示罪に規定されており、看護師などは保健師助産師看護師法、その他の医療職はそれぞれの資格法と、職種によって根拠法が異なります。感染症法に基づく届出や異状死体の届出、児童虐待の通告など法令に基づく情報提供は正当な理由にあたり、守秘義務違反にはなりません。各義務の根拠法を正しく区別しておくことは、国家試験対策だけでなく、臨床現場で迷わず適切に行動するための土台になります。

解答・解説

正解はbです

問われていること

医師の義務の多くは医師法に定められているが、すべてが医師法に書かれているわけではない。それぞれの義務がどの法律を根拠としているかを区別できるかを問う問題である。「規定されないのはどれか」と否定形で問われている点に注意する。

考え方

医師法は、医師免許・国家試験・臨床研修といった「医師という資格」に関する事項と、診療に従事する医師の業務上の義務(応召義務、無診察治療等の禁止、異状死体等の届出、処方箋の交付、保健指導、診療録の記載・保存など)を定めている。一方、医師の守秘義務は医師法には条文がなく、刑法第134条(秘密漏示罪)によって定められている。ここが本問の要点であり、守秘義務が「医師法に規定されないもの」にあたる。

選択肢考察

  1. ×a.  応召義務

    医師法に規定されている(第19条第1項)。診療に従事する医師は、診察や治療を求められた場合、正当な事由がなければ拒んではならない。正当な事由の有無は、緊急性、診療時間内か否か、医師の専門性や医療機関の体制などを踏まえて判断される。なお、同条第2項には、診察・検案・出産に立ち会った医師が診断書や出生証明書などの交付を求められた場合、正当な事由がなければ拒めないことも定められている。

  2. ○b.  守秘義務

    医師法には規定されていないため、これが正解である。医師の守秘義務は刑法第134条第1項(秘密漏示罪)に定められており、医師が正当な理由なく、業務上知り得た人の秘密を漏らした場合は、6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金に処される(2025年の刑法改正以前は「懲役」と規定されていた)。同条は医師のほか薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士なども対象とする。なお、保健師・看護師・准看護師の守秘義務は保健師助産師看護師法に、診療放射線技師や臨床検査技師などはそれぞれの資格法に規定されており、職種によって根拠法が異なる。

  3. ×c.  臨床研修

    医師法に規定されている(第16条の2以下)。診療に従事しようとする医師は、2年以上、大学病院または厚生労働大臣の指定する病院において臨床研修を受けなければならない。2004年から必修化された。臨床研修を修了した医師は、申請により医籍にその旨が登録される。

  4. ×d.  処方箋の交付

    医師法に規定されている(第22条)。医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、原則として患者または看護に当たっている者に処方箋を交付しなければならない。ただし、患者側が交付不要を申し出た場合や、処方箋の交付が診療・治療に支障を及ぼす場合(暗示的効果を期待する場合、病名を知らせることが不安を与える場合、応急措置として投与する場合など)は例外として認められている。

  5. ×e.  診療録の記載

    医師法に規定されている(第24条第1項)。医師は診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録(カルテ)に記載しなければならない。同条第2項により、診療録は5年間保存しなければならない(病院・診療所に勤務する医師の診療録はその管理者が、それ以外はその医師自身が保存する)。

医師法に規定される主な事項

・医師免許・医籍、欠格事由、行政処分(戒告、3年以内の医業停止、免許取消し)と再教育研修 ・医師国家試験 ・臨床研修(第16条の2以下) ・医師でない者の医業の禁止(第17条)、名称の使用制限(第18条) ・応召義務、診断書等の交付義務(第19条) ・無診察治療等の禁止(第20条):自ら診察しないで治療や診断書・処方箋の交付をしてはならない。自ら検案しないで死体検案書を交付してはならない。 ・異状死体等の届出義務(第21条):死体や妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄の警察署に届け出る。 ・処方箋の交付義務(第22条) ・保健指導の義務(第23条):診療をしたときは、本人またはその保護者に療養の方法その他保健の向上に必要な事項を指導しなければならない。 ・診療録の記載と5年間の保存(第24条)

医師法以外に根拠のある医師の主な義務

・守秘義務:刑法第134条(秘密漏示罪) ・感染症の届出:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法) ・死亡診断書・死体検案書の様式など:医師法施行規則、死亡届は戸籍法 ・個人情報の適正な取扱い:個人情報の保護に関する法律 ・病院の諸記録(処方箋は病院では2年保存など):医療法・医療法施行規則

守秘義務と届出義務の関係

感染症法に基づく届出、異状死体の届出、児童虐待の通告など、法令に基づいて情報を提供する場合は「正当な理由」があるとされ、秘密漏示罪には当たらない。

POINT

・医師の守秘義務は医師法ではなく刑法第134条(秘密漏示罪)に規定される。 ・医師法に規定:臨床研修(第16条の2)、応召義務(第19条)、無診察治療等の禁止(第20条)、異状死体等の届出(第21条、24時間以内)、処方箋の交付(第22条)、保健指導(第23条)、診療録の記載と5年保存(第24条)。 ・法令に基づく届出は守秘義務違反にならない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。