StudyMed医師国家試験

「ご自分では何が原因だと思われますか?」―解釈モデルが拓く患者中心の医療面接

第115回医師国家試験 B問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第115回 B問題 第2問

医療面接において解釈モデルを尋ねる目的として正しいのはどれか。

  1. a.患者の取り違えを防ぐ。
  2. b.患者の訴えの信憑性を評価する。
  3. c.精神疾患をスクリーニングする。
  4. d.医療機関に対する不満を把握する。
  5. e.疾患や診療に対する患者の考えを把握する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医療面接の基本概念、解釈モデルについての問題だ。用語の定義を知っているかどうかだけでなく、「なぜそれを聞くのか」という目的まで理解できているかが問われている。まず、解釈モデルという言葉からどんなイメージを持つかな。
医学生医学生
OSCEの医療面接の練習で「ご自分では何が原因だとお考えですか」と聞くように習いました。でも、正直なところ評価項目だから聞いている感覚でした。
ドクタードクター
そう感じる学生は多いね。解釈モデルは医療人類学者のKleinmanが提唱した概念で、患者さんが自分の症状や病気について抱いている「患者なりの理解」のことなんだ。何が原因だと思っているか、どのくらい重いと思っているか、今後どうなると予想しているか、どんな検査や治療を望んでいるか、といった内容が含まれる。
医学生医学生
患者さんの考えが医学的に間違っていた場合は、訂正するために聞くんでしょうか。
ドクタードクター
そこが大事なポイントだよ。解釈モデルは医学的に正しいかどうかを問わない。医師が診断する生物学的な異常としての「疾患(disease)」と、患者さんが体験し、生活の中で意味づけている「病い(illness)」の間にはずれが生じやすい。そのずれを知るために、まずは否定せずに受け止めるんだ。
医学生医学生
なるほど。だとすると、目的は疾患や診療に対する患者さんの考えを把握すること、ということになりますね。
ドクタードクター
正解。考えを把握できれば、不安の正体や受診の本当の理由、期待していることがわかる。説明の焦点を合わせられるし、誤解も解きやすくなる。結果として納得と満足が高まり、治療への主体的な参加、つまりアドヒアランスの向上や良好な医師-患者関係につながるわけだ。では、ほかの選択肢も確認しよう。患者の取り違え防止についてはどうかな。
医学生医学生
それは医療安全の話ですよね。病棟実習で、採血の前にフルネームと生年月日を名乗ってもらうよう指導されました。
ドクタードクター
その通り。取り違え防止は、患者さん自身に名乗ってもらうことや、リストバンドとの照合など複数の識別子で確認する手順で行う。病気についての考えを聞く解釈モデルとは目的がまったく違う。では、訴えの信憑性を評価する、というのは?
医学生医学生
詐病を見抜くために聞く……というのは、ちょっと違和感があります。
ドクタードクター
その違和感は正しい。解釈モデルは患者さんの見方を受容的に理解するためのもので、訴えを疑って確かめる道具ではないんだ。考えが医学的に誤っていても、それ自体が「この人は何を心配しているのか」を知る重要な情報になる。
医学生医学生
精神疾患のスクリーニングとも違いますよね。精神科の実習では、うつ病の二質問法やPHQ-9を使っていました。
ドクタードクター
よく覚えているね。精神疾患のスクリーニングには、うつ病なら二質問法やPHQ-9、認知機能ならHDS-RやMMSEといった目的に応じた評価尺度を使う。解釈モデルの聴取は診療科を問わず、どの患者さんにも行うものだ。最後に、医療機関への不満を把握する、はどうだろう。
医学生医学生
解釈モデルの対象は「自分の病気や診療」であって、病院そのものへの評価ではない、ということですね。
ドクタードクター
その通り。病院への不満や要望は、患者満足度調査や相談窓口などで把握するものだ。さて、発展知識として、医療面接で把握したい患者側の要素を整理しておこう。英語圏ではideas(考え)、concerns(心配)、expectations(期待)の頭文字をとってICEと呼ぶことがある。これに受診動機、感情、生活への影響を加えると、患者さんの全体像が見えてくる。
医学生医学生
ICEは総合診療科の実習で指導医の先生が口癖のように言っていました。たとえば頭痛の患者さんが「脳腫瘍じゃないか」と心配していたら、それを聞かないと安心してもらえませんよね。
ドクタードクター
まさにそういう場面だ。診断が緊張型頭痛でも、患者さんが脳腫瘍を心配していると知らなければ、「異常ありません」の一言では不安が残る。心配に直接応える説明ができてこそ、納得してもらえるんだ。
医学生医学生
聞き方で気をつけることはありますか。
ドクタードクター
はい・いいえで答えられる閉じた質問ではなく、「どんなことが心配ですか」のような開かれた質問で尋ねること。そして答えを頭ごなしに否定しないこと。誤解を一方的に正そうとすると信頼関係を損ねやすいから、まず受け止め、共感したうえで医学的な説明につなげていこう。

まとめ

解釈モデルとは、患者が自分の症状や病気について抱いている原因・重症度・経過・希望する治療などの「患者なりの理解」であり、医学的な正誤は問いません。これを尋ねる目的は疾患や診療に対する患者の考えを把握することで、医師の見る疾患(disease)と患者が体験する病い(illness)のずれを埋め、説明の焦点を合わせることで納得やアドヒアランス、良好な医師-患者関係につなげます。患者の取り違え防止、訴えの信憑性の評価、精神疾患のスクリーニング、医療機関への不満把握は、それぞれ別の手順や評価尺度、窓口で扱うもので、解釈モデルの目的ではありません。ideas・concerns・expectations(ICE)を意識し、開かれた質問で尋ねて否定せず受け止める姿勢は、OSCEだけでなく実際の診療で患者中心の医療を実践する土台になります。

解答・解説

正解はeです

解釈モデルとは

解釈モデル(explanatory model)は、医療人類学者Kleinmanが提唱した概念で、患者が自分の症状や病気について抱いている「患者なりの理解」を指す。具体的には、何が原因だと思っているか、なぜ今この症状が起きたと考えているか、どのくらい重い病気だと思っているか、どのような経過をたどると予想しているか、どんな検査や治療を望んでいるか(あるいは望んでいないか)、といった内容である。患者自身の見方・言葉・価値観に基づく考えなので、医学的に正しいかどうかは問わない。

尋ねる目的

医師の診断(疾患:disease)と、患者が体験し意味づけている病い(illness)との間にはずれが生じやすい。解釈モデルを聞くことで、患者の不安や受診の本当の理由、期待を把握でき、説明の焦点を合わせたり誤解を解いたりしやすくなる。その結果、患者の納得と満足、治療への主体的な参加(アドヒアランス)が高まり、良好な医師-患者関係の構築につながる。したがって、目的は「疾患や診療に対する患者の考えを把握する」ことである。患者の訴えを疑ったり、他の目的(本人確認、精神疾患の検出、施設への苦情収集)に用いたりするものではない。

選択肢考察

  1. ×a.  患者の取り違えを防ぐ。

    誤り。患者の取り違え防止は医療安全上の手順であり、患者自身にフルネーム(必要に応じて生年月日)を名乗ってもらう、リストバンドやIDで照合するなど、複数の識別子で確認することで行う。病気についての患者の考えを尋ねる解釈モデルとは目的が異なる。

  2. ×b.  患者の訴えの信憑性を評価する。

    誤り。解釈モデルは、患者が自分の病気をどう捉えているかを受容的に理解するために聞くものであり、訴えが本当かどうかを疑って確かめたり、詐病を見抜いたりする目的のものではない。患者の考えが医学的に誤っていても、それ自体が重要な情報として扱われる。

  3. ×c.  精神疾患をスクリーニングする。

    誤り。精神疾患のスクリーニングには、うつ病に対する二質問法やPHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)、認知機能に対する改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)やMMSE(Mini-Mental State Examination)など、目的に応じた質問票・評価尺度を用いる。解釈モデルの聴取はどの診療科・どの患者に対しても行うもので、精神疾患の有無を選別するための手段ではない。

  4. ×d.  医療機関に対する不満を把握する。

    誤り。解釈モデルの対象は、患者が「自分の病気」や受ける診療をどう考えているかであり、医療機関そのものへの評価や不満ではない。医療機関への不満や要望は、患者満足度調査や相談窓口(意見箱など)を通じて把握する。

  5. ○e.  疾患や診療に対する患者の考えを把握する。

    正しい。解釈モデルを尋ねる目的そのものである。「ご自身では何が原因だとお考えですか」「どんな病気を心配されていますか」「どのような検査や治療を希望されますか」などと開かれた質問で尋ね、患者の考え・不安・期待を把握する。これにより、医師の説明を患者の理解に沿って行えるようになり、納得と治療への協力が得られやすくなる。

医療面接で把握する患者側の要素

・解釈モデル:病気の原因、重症度、経過、必要な治療についての患者自身の考え。 ・受診動機:なぜ今日受診したのか(症状の悪化、家族の勧め、特定の病気への不安など)。 ・感情:不安、恐れ、怒りなど。 ・期待:検査や薬、説明、診断書など、患者が受診に何を求めているか。 ・生活への影響:症状や病気が仕事・家庭生活にどう影響しているか。 これらは患者中心の医療の考え方で重視され、英語圏ではideas(考え)、concerns(心配)、expectations(期待)の頭文字をとってICEとしてまとめられることもある。

疾患(disease)と病い(illness)

疾患は医学的・生物学的な異常としての病気、病いは患者が主観的に体験し、生活の中で意味づける病気を指す。同じ診断名でも、患者ごとに病いの体験は異なる。解釈モデルを尋ねることは、病いの側面を理解する方法の一つである。

医療面接での聞き方

解釈モデルは、はい・いいえで答えられる閉じた質問ではなく、開かれた質問で尋ねる。患者の答えを否定せずに受け止め(受容・共感)、そのうえで医学的な説明を行う。患者の誤解を頭ごなしに否定すると信頼関係を損ねやすい。

POINT

・解釈モデル=患者が自分の病気をどう考えているか(原因・重症度・経過・希望する治療など)。 ・目的は疾患や診療に対する患者の考えを把握し、患者に合った説明と良好な医師-患者関係、アドヒアランス向上につなげること。 ・訴えの真偽の判定、患者確認、精神疾患スクリーニング、医療機関への不満把握は目的ではない。 ・開かれた質問で尋ね、患者の考えを否定せずに受け止める。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。