StudyMed医師国家試験

耐性菌と闘う6本の柱―AMR対策アクションプランに「ないもの」を見抜く

第114回医師国家試験 F問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第114回 F問題 第3問

日本の薬剤耐性〈AMR〉対策アクションプラン(2016-2020)に含まれない内容はどれか。

  1. a.薬剤耐性の動向調査
  2. b.抗微生物剤の適正使用
  3. c.適切な感染予防と管理
  4. d.薬剤耐性に関する知識や理解の普及
  5. e.薬剤耐性菌を保菌する医療従事者の就業停止

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の問題で、日本の薬剤耐性、いわゆるAMR対策アクションプランの中身を問うている。「含まれないもの」を選ぶ否定型だから、プランの骨組みを思い出せるかが勝負だ。そもそもこのプランができた経緯は知っているかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、WHOのグローバル・アクションプランを受けて各国が作ったと習った気がします。
ドクタードクター
その通り。2015年の世界保健総会でグローバル・アクションプランが採択され、加盟国に国家行動計画の策定が求められた。それを受けて日本は2016年に初めてのプランを決定した。土台になっている考え方は「ワンヘルス・アプローチ」だ。
医学生医学生
ヒトだけでなく、動物や環境もまとめて考えるという意味ですよね。
ドクタードクター
そう。耐性菌は家畜や養殖魚、ペット、河川などの環境とヒトの間を行き来するから、医療・獣医療・農畜水産・環境が連携して取り組む。そのうえでプランは6つの分野を柱にしている。普及啓発・教育、動向調査・監視、感染予防・管理、抗微生物剤の適正使用、研究開発・創薬、国際協力だ。
医学生医学生
そうすると、動向調査は「動向調査・監視」、適正使用はそのまま、感染予防と管理も柱で、知識や理解の普及は「普及啓発・教育」に当たりますね。
ドクタードクター
完璧な対応づけだ。動向調査では、ヒト医療の院内感染対策サーベイランス(JANIS)や動物分野のJVARMといった仕組みで耐性菌の検出状況や抗菌薬使用量を把握し、分野をまたいで統合して評価することが目標とされた。
医学生医学生
残るのは、耐性菌を保菌する医療従事者の就業停止です。院内感染を防ぐためなら、ありそうな気もしてしまいますが……。
ドクタードクター
そこがひっかけどころだね。この施策は6分野のどれにも当てはまらず、プランには含まれていない。だからこれが正解だ。そもそも症状のない保菌、つまり定着しているだけの状態で一律に就業を制限することには科学的根拠が乏しい。院内伝播を防ぐ基本は、患者か職員かを問わず標準予防策や接触予防策を徹底することなんだ。
医学生医学生
臨床実習で感染制御部の先生に、手指衛生こそが一番の対策だと何度も言われました。MRSAの患者さんの部屋に入るときは手袋とガウンを着けていました。
ドクタードクター
まさにそれが「感染予防・管理」の中身だ。ICTの活動やワクチン接種による感染症そのものの予防もここに入る。感染症自体が減れば抗菌薬を使う場面も減るから、適正使用とは表裏一体なんだよ。
医学生医学生
適正使用のほうには、具体的な数値目標もあったんですか。
ドクタードクター
あった。2020年までに人口当たりの抗菌薬使用量を2013年比で33%減らし、経口セファロスポリン系、フルオロキノロン系、マクロライド系はそれぞれ50%減らす、といった目標だ。耐性率でも、黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率を20%以下にするなどの指標が掲げられた。
医学生医学生
経口薬が名指しされているのは、外来でかぜに対して不要な処方が多かったからでしょうか。
ドクタードクター
そう考えてよい。ウイルス性のかぜに抗菌薬は効かないのに、処方されてきた背景がある。病院ではAST、つまり抗菌薬適正使用支援チームが薬剤の選択・用量・期間を支援し、啓発面では毎年11月をAMR対策推進月間としている。
医学生医学生
患者さんに「抗菌薬はウイルスには効かない」「処方された分は指示どおりに飲み切る」と説明するのも、医師の大事な役割なんですね。
ドクタードクター
その通り。補足すると、2016-2020のプランは期間延長を経て、2023年に新たなプラン(2023-2027)が策定され、同じ6分野の枠組みが引き継がれている。対策を講じなければ2050年にはAMRによる死者が世界で年間1,000万人に達するという試算もあり、一人ひとりの処方行動と感染対策が問われているんだ。

まとめ

日本のAMR対策アクションプラン(2016-2020)は、WHOのグローバル・アクションプランを受けて策定され、ヒト・動物・環境を一体として捉えるワンヘルス・アプローチに基づいています。柱は普及啓発・教育、動向調査・監視、感染予防・管理、抗微生物剤の適正使用、研究開発・創薬、国際協力の6分野で、薬剤耐性菌を保菌する医療従事者の就業停止のような個人を対象とした規制は含まれません。院内伝播の防止は、保菌の有無にかかわらず標準予防策・接触予防策の徹底が基本です。プランでは抗菌薬使用量を2013年比で33%減らすなどの数値目標も掲げられ、2023年からは同じ枠組みで新プランが続いています。「適正に使う」と「広げない」を両輪とする考え方は、日常診療での処方や感染対策に直結する知識です。

解答・解説

正解はeです

問われていること

薬剤耐性〈AMR:antimicrobial resistance〉対策アクションプラン(2016-2020)の柱となる分野を知っているかを問う一般問題である。「含まれない」ものを選ぶ否定型であることに注意する。

背景

2015年の世界保健総会で、WHO(世界保健機関)は「薬剤耐性に関するグローバル・アクションプラン」を採択し、加盟国に2年以内の国家行動計画の策定を求めた。これを受けて日本は2016年4月に初の国家行動計画を決定した。このプランは、ヒト・動物(家畜・水産・ペット)・環境を一体のものとして捉える「ワンヘルス・アプローチ」に立ち、次の6分野について目標と戦略を定めている。 ①普及啓発・教育 ②動向調査・監視 ③感染予防・管理 ④抗微生物剤の適正使用 ⑤研究開発・創薬 ⑥国際協力

解き方

選択肢a〜dはそれぞれ②・④・③・①に対応しており、プランの柱そのものである。一方、eの「保菌する医療従事者の就業停止」は、6分野のいずれにも該当せず、プランで定められた施策ではない。耐性菌の保菌(症状のない定着)だけで就業を制限することは、科学的根拠にも乏しい。したがってeが正解となる。

選択肢考察

  1. ×a.  薬剤耐性の動向調査

    「動向調査・監視」はプランの6分野の一つ(目標2)であり、含まれる。ヒト医療における耐性菌の検出状況や抗微生物剤の使用量を継続的に把握するとともに、家畜・水産・食品・環境の分野でも同様の監視を行い、それらを統合して評価する体制を整えることが目標とされた。ヒト医療では院内感染対策サーベイランス(JANIS)、動物分野では動物由来薬剤耐性菌モニタリング(JVARM)などが基盤となっている。

  2. ×b.  抗微生物剤の適正使用

    「抗微生物剤の適正使用」もプランの柱の一つ(目標4)であり、含まれる。不要な処方(例:ウイルス性のかぜに対する抗菌薬)を減らし、必要な場合も適切な薬剤・用量・期間で用いることで、耐性菌が選択されて増える圧力を下げることを狙う。医療機関での抗菌薬適正使用支援(AST:antimicrobial stewardship team)の活動や、畜水産分野での慎重な使用もこの分野に含まれる。プランでは、2020年までに人口当たりの抗菌薬使用量を2013年の水準から3分の1減らす(3分の2にする)ことなどが数値目標として掲げられた。

  3. ×c.  適切な感染予防と管理

    「感染予防・管理」もプランの柱の一つ(目標3)であり、含まれる。手指衛生などの標準予防策、接触予防策、院内感染対策チーム(ICT:infection control team)の活動、ワクチン接種による感染症そのものの予防、畜産分野での衛生管理などにより、耐性微生物が広がるのを防ぐ。感染症の発生そのものが減れば、抗菌薬を使う機会も減るという点で、適正使用と表裏一体の施策である。

  4. ×d.  薬剤耐性に関する知識や理解の普及

    「普及啓発・教育」はプランの第一の柱(目標1)であり、含まれる。「抗菌薬はウイルスには効かない」「処方された分は指示どおりに飲み切る」といった知識を国民に広めることや、医師・薬剤師・獣医師などの専門職に対する教育・研修の充実が目標とされた。毎年11月を「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」とするなどの啓発活動もこの分野に位置づけられる。

  5. ○e.  薬剤耐性菌を保菌する医療従事者の就業停止

    プランの6分野(普及啓発・教育、動向調査・監視、感染予防・管理、抗微生物剤の適正使用、研究開発・創薬、国際協力)のどれにも該当せず、プランにこのような施策は盛り込まれていない。したがって「含まれない内容」として正解である。院内での伝播を防ぐ基本は、患者・職員を問わず標準予防策や接触予防策を徹底することであり、症状のない保菌者である医療従事者を一律に就業停止させる規定は存在しない。

薬剤耐性(AMR)とは

細菌などの微生物が、本来効くはずの抗微生物剤(抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬など)に対して抵抗性を獲得した状態をいう。代表的な耐性菌として、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)などがある。抗微生物剤を使うほど耐性菌が選択されやすくなるため、使用量と耐性率は密接に関連する。対策を講じなければ、2050年には世界でAMRによる死者が年間1,000万人に達するとの試算も示され、国際的な課題となった。

ワンヘルス・アプローチ

耐性菌はヒトだけでなく、家畜・養殖魚・ペットや環境(河川など)にも存在し、相互に行き来する。このため、医療・獣医療・農畜水産・環境の各分野が連携して取り組むという考え方がとられている。

アクションプランの成果指標(2020年目標)の例

抗菌薬使用量について:人口千人あたりの1日抗菌薬使用量を2013年比で33%減、経口セファロスポリン系・フルオロキノロン系・マクロライド系をそれぞれ50%減、静注抗菌薬を20%減。 耐性率について:肺炎球菌のペニシリン耐性率を15%以下、黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性率を20%以下、大腸菌のフルオロキノロン耐性率を25%以下、緑膿菌のカルバペネム耐性率を10%以下とすることなど。

その後

2016-2020のプランは期間が延長されたのち、2023年に新たなアクションプラン(2023-2027)が策定され、同じ6分野の枠組みが引き継がれている。

POINT

・日本のAMR対策アクションプランはワンヘルス・アプローチに基づき、6分野で構成される。 ・6分野:普及啓発・教育/動向調査・監視/感染予防・管理/抗微生物剤の適正使用/研究開発・創薬/国際協力。 ・「保菌する医療従事者の就業停止」のような個人を対象とした規制はプランに含まれない。 ・耐性菌対策の基本は「使い方を適正にする」と「広げない(感染対策)」の両輪である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。