抗菌薬の前に何を採る?―肺炎×敗血症で最初に押さえる血液培養とGram染色
第114回医師国家試験 D問題 第67問
国試問題にチャレンジ
79歳の男性。発熱,咳嗽および呼吸困難を主訴に来院した。3日前からの食思不振,発熱,咳嗽および喀痰が出現したため受診した。昨夜は呼吸困難も加わり眠ることができなかったという。意識は清明。体温38.5℃。脈拍108/分,整。血圧96/54mmHg。呼吸数32/分。SpO2 91%(room air)。左下側胸部にcoarse cracklesを聴取し,胸部エックス線写真で左下肺野に浸潤影を認める。酸素投与と生理食塩液の静脈内投与を開始した。 治療方針の決定のためまず行う検査はどれか。2つ選べ。
- a.血液培養
- b.喀痰Gram染色
- c.喀痰Grocott染色
- d.血中アスペルギルス抗原
- e.血中サイトメガロウイルス抗原
対話形式の解説
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ドクターまとめ
高齢者の急性発症の肺炎で、片側の浸潤影と喀痰を伴い免疫不全の背景がなければ、一般細菌による市中肺炎をまず考えます。収縮期血圧100mmHg以下と頻呼吸でqSOFA 2項目を満たす場合は敗血症を疑い、抗菌薬を速やかに開始しますが、その前に血液培養2セットと喀痰Gram染色・培養を必ず行います。血液培養は原因菌の確定と感受性判定、喀痰Gram染色は迅速な原因菌推定による初期抗菌薬選択に役立ちます。Grocott染色、アスペルギルス抗原、サイトメガロウイルス抗原は免疫不全患者の日和見感染を疑うときの検査であり、患者背景に応じて検査を選ぶ視点が重要です。「抗菌薬の前に培養」という原則は、あらゆる重症感染症の初期対応の基本となります。
解答・解説
正解はa, bです
所見の整理
・79歳男性、3日前からの食思不振・発熱・咳嗽・喀痰に、昨夜から呼吸困難が加わった:急性の下気道感染症が進行している経過である。 ・体温38.5℃、脈拍108/分(頻脈)、血圧96/54mmHg(収縮期100mmHg以下)、呼吸数32/分(頻呼吸)、SpO2 91%(室内気):全身性の炎症反応と循環・呼吸への影響がうかがえる。意識は清明。 ・左下側胸部のcoarse crackles(水泡音:気道内の分泌物を空気が通過する際に生じる粗い断続性副雑音)と、胸部エックス線写真での左下肺野の浸潤影:肺胞内に滲出物が充満した肺炎の所見である。
診断へのプロセス
病院外で発症し、特別な免疫不全や入院歴の記載がないことから、市中肺炎と考えられる。急性発症で発熱・咳嗽・喀痰を伴い、聴診でcoarse crackles、胸部エックス線写真で左下肺野に浸潤影を認める点から、肺炎球菌などによる細菌性肺炎が最も疑われる。 さらに、感染症が疑われる患者における敗血症のスクリーニング指標であるqSOFA(quick SOFA:①意識変容、②収縮期血圧100mmHg以下、③呼吸数22/分以上のうち2項目以上で陽性)を当てはめると、血圧と呼吸数の2項目を満たす。したがって敗血症を合併している可能性が高く、臓器障害の評価(SOFAスコア)と迅速な治療開始が必要な状態である。重症度については、日本の市中肺炎の重症度分類であるA-DROPでも年齢(男性70歳以上)が該当し、少なくとも中等症以上として入院治療を考える。
設問への考え方
重症の細菌性肺炎・敗血症が疑われる場合、抗菌薬はできるだけ早く(敗血症では認知から1時間以内が目標とされる)開始する必要がある。その前に、原因菌を同定し、後に適切な抗菌薬へ変更(de-escalation)するための検体を採取しておくことが治療方針の決定に重要である。具体的には、抗菌薬投与前に血液培養を2セット採取し、喀痰を採取してGram染色(および培養)を行う。Gram染色はその場で結果が得られ、初期抗菌薬の選択に直結する。なお、尿中肺炎球菌抗原・尿中レジオネラ抗原などの迅速抗原検査も補助的に有用である。真菌やサイトメガロウイルスを標的とした検査は、免疫不全の背景や画像上の特徴がある場合に考慮するもので、本例で最初に行う検査ではない。
選択肢考察
- ○a. 血液培養
qSOFA 2項目陽性で敗血症が疑われ、菌血症を伴っている可能性がある。血液培養で菌が検出されれば原因菌の確定と薬剤感受性の判定が可能となり、抗菌薬の選択・変更の根拠となる。抗菌薬投与後では検出率が大きく低下するため、必ず投与前に、異なる部位から2セット(各セット好気ボトルと嫌気ボトル)採取する。1セットのみでは感度が不十分で、皮膚常在菌の混入(コンタミネーション)との区別もつけにくい。
- ○b. 喀痰Gram染色
喀痰Gram染色は短時間で結果が得られ、原因菌を推定して初期抗菌薬を選ぶうえで重要な検査である。例えば、ランセット形のグラム陽性双球菌なら肺炎球菌、小型のグラム陰性短桿菌ならインフルエンザ菌、グラム陰性双球菌ならモラクセラ・カタラーリス、ブドウの房状のグラム陽性球菌なら黄色ブドウ球菌を考える。検体の質の評価も重要で、扁平上皮細胞が少なく好中球が多い良質な喀痰(Geckler分類4・5群など)を用いる。同時に喀痰培養も提出し、菌種と感受性を確認する。
- ×c. 喀痰Grocott染色
Grocott染色(グロコット染色、メセナミン銀染色)は真菌の細胞壁を黒く染め出す染色法で、ニューモシスチス肺炎やアスペルギルス症などの真菌感染症の診断に用いる。ニューモシスチス肺炎はHIV感染症や副腎皮質ステロイド・免疫抑制薬使用中などの細胞性免疫不全患者で両側びまん性のすりガラス影を呈することが多く、本例の経過・画像とは合わない。最初に行う検査ではない。
- ×d. 血中アスペルギルス抗原
血中アスペルギルス抗原(ガラクトマンナン抗原)は、好中球減少や造血幹細胞移植後など高度の免疫不全患者に生じる侵襲性肺アスペルギルス症の診断補助に用いる。本例には免疫不全を示す背景がなく、数日の経過で急性に発症し左下肺野に浸潤影を認める臨床像は一般細菌による市中肺炎として典型的であり、初期に行う検査ではない。
- ×e. 血中サイトメガロウイルス抗原
血中サイトメガロウイルス抗原(CMVアンチゲネミア:白血球中のpp65抗原を検出する検査)は、臓器移植後、造血幹細胞移植後、HIV感染症などの免疫不全患者でのサイトメガロウイルス感染症の診断・モニタリングに用いる。サイトメガロウイルス肺炎は免疫不全者に両側性の間質性陰影として生じることが多く、免疫正常者の市中肺炎の原因としてはまれである。本例で最初に行う検査ではない。
敗血症の定義と評価(Sepsis-3)
敗血症は「感染症に対する生体反応の調節不全により、生命を脅かす臓器障害が生じた状態」と定義される。感染症が疑われ、SOFAスコアが2点以上急上昇した場合に敗血症と判断する。敗血症性ショックは、十分な輸液を行っても平均血圧65mmHg以上を保つために血管収縮薬を要し、かつ血中乳酸値が2mmol/Lを超える状態である。qSOFAは集中治療室外で敗血症の可能性を拾い上げる簡便な指標だが、単独でのスクリーニング感度は高くないため、陰性でも敗血症を否定しない点に注意する。
敗血症・重症肺炎の初期対応
・血液培養2セットなど必要な培養検体を採取した後、速やかに経験的抗菌薬を開始する。 ・低血圧や組織低灌流があれば、細胞外液(晶質液)の輸液で循環を立て直し、血中乳酸値を測定する。輸液に反応しない低血圧にはノルアドレナリンを用いる。 ・低酸素血症には酸素投与を行う。
市中肺炎の重症度評価
・A-DROP(日本):A(Age:男性70歳以上、女性75歳以上)、D(Dehydration:BUN 21mg/dL以上または脱水あり)、R(Respiration:SpO2 90%以下またはPaO2 60Torr以下)、O(Orientation:意識変容)、P(Pressure:収縮期血圧90mmHg以下)。0項目は軽症で外来治療、1〜2項目は中等症で外来または入院、3項目は重症で入院、4〜5項目またはショックでは超重症でICU管理を考慮する。 ・CURB-65(英国):意識障害、BUN上昇、呼吸数30/分以上、低血圧、65歳以上の5項目で評価する。
市中肺炎の主な原因微生物と喀痰Gram染色像
・肺炎球菌:グラム陽性双球菌(莢膜による周囲の抜け像)。市中肺炎で最も頻度が高い。 ・インフルエンザ菌:グラム陰性小桿菌。 ・モラクセラ・カタラーリス:グラム陰性双球菌。 ・黄色ブドウ球菌:ブドウの房状のグラム陽性球菌。インフルエンザ後の二次性肺炎で重要。 ・クレブシエラ:太いグラム陰性桿菌。アルコール多飲者や高齢者。 ・マイコプラズマ、クラミジア(クラミドフィラ)、レジオネラなどの非定型病原体はGram染色で検出しにくく、尿中抗原・遺伝子検査・血清学的検査などを用いる。
POINT
・感染症が疑われる患者でqSOFA(意識変容、収縮期血圧100mmHg以下、呼吸数22/分以上)2項目以上なら敗血症を疑い、臓器障害を評価する。 ・重症肺炎・敗血症では抗菌薬投与前に血液培養2セットと喀痰Gram染色・培養を行い、その後速やかに経験的抗菌薬を開始する。 ・喀痰Gram染色は迅速に原因菌を推定でき、初期抗菌薬選択に直結する。 ・Grocott染色、アスペルギルス抗原、CMV抗原は免疫不全患者の日和見感染を疑う場合の検査である。
