写真に写りきらない空気―若年女性の突然の胸痛で次の一手は胸部CT
第114回医師国家試験 D問題 第44問
国試問題にチャレンジ
20歳の女性。右胸痛を主訴に来院した。昨日夕方,急に右胸痛と呼吸困難を自覚し本日増悪したため受診した。呼吸数22/分。SpO2 95%(room air)。右胸部の呼吸音が対側と比べ減弱している。胸部エックス線写真を別に示す。 次に行うべき検査はどれか。

- a.胸部CT
- b.喀痰細胞診
- c.負荷心電図
- d.気管支鏡検査
- e.呼吸機能検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
若年者の突然の胸痛・呼吸困難に患側の呼吸音減弱を伴えば自然気胸を疑いますが、虚脱が軽い気胸は胸部単純エックス線写真で臓側胸膜線が明瞭に見えず見逃されやすいため、次に行うべき検査は胸部CTです。CTは少量の気胸も確実に検出し、虚脱の程度による治療方針の判断や、ブラ・ブレブの評価、さらに女性で考慮すべき月経随伴性気胸、リンパ脈管筋腫症、Birt-Hogg-Dubé症候群などの多発嚢胞性疾患の検索にも役立ちます。喀痰細胞診や気管支鏡は気胸の診断に役立たず、原因不明の急性胸痛での負荷心電図や気胸急性期の呼吸機能検査はむしろ危険です。一方で緊張性気胸は画像を待たず臨床診断で直ちに脱気が必要であり、患者の重症度に応じて検査の優先順位を判断することが重要です。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・20歳女性。前日夕方に突然右胸痛と呼吸困難が出現し、翌日に増悪した。 ・呼吸数22/分と頻呼吸。SpO2 95%(室内気)は基準範囲内だが、健康な若年者としてはやや低めである。 ・右胸部の呼吸音が左に比べて減弱している。呼吸音の減弱は、胸腔内の空気や液体、無気肺などで肺の音が胸壁まで伝わりにくい状態を示す。 ・胸部X線写真:右上肺野の透過性がやや亢進し、肺紋理が乏しく見えるが、虚脱した肺の辺縁(臓側胸膜線)ははっきりとは確認しにくく、所見は明瞭とはいえない。縦隔の偏位や大量の胸水はみられない。
診断へのプロセス
突然発症の胸痛と呼吸困難では、気胸、肺血栓塞栓症、急性冠症候群、急性大動脈解離、特発性食道破裂など、見逃すと危険な疾患をまず考える。本例は若年で、片側の呼吸音減弱を伴い、X線で同側の透過性亢進が疑われることから、右の自然気胸が最も考えられる。ただし胸部単純X線では、虚脱が軽度の気胸や前胸部に空気がたまる気胸は描出されにくく、本例も所見がはっきりしない。
次に行うべき検査
気胸の有無と程度を確実に評価するには胸部CTが最も鋭敏である。CTではわずかな胸腔内の空気も明瞭に描出でき、虚脱の程度(治療方針の決定に必要)だけでなく、原因となるブラ(肺表面の嚢胞状の気腔)の有無や位置、さらに女性の気胸で考慮すべき基礎疾患(リンパ脈管筋腫症などによる多発嚢胞)の評価もできる。
選択肢考察
- ○a. 胸部CT
正しい。単純X線で判断しにくい軽度・少量の気胸もCTなら確実に検出できる。肺の虚脱の程度を評価して経過観察か胸腔ドレナージかを判断する材料になり、ブラ・ブレブの分布(再発リスクや手術適応の判断に役立つ)や、リンパ脈管筋腫症・Birt-Hogg-Dubé症候群などの多発肺嚢胞の有無も同時に評価できる。
- ×b. 喀痰細胞診
誤り。喀痰細胞診は痰の中にがん細胞(異型細胞)が含まれていないかを調べる検査で、主に中枢気道に発生する肺癌のスクリーニングや診断に用いる。突然発症の胸痛・呼吸困難をきたした若年者の気胸の診断には役立たない。
- ×c. 負荷心電図
誤り。運動負荷心電図は運動で心筋虚血を誘発し、労作性狭心症などを診断する検査である。本例は呼吸音の左右差など胸腔内病変を示す所見があり、心疾患を疑う根拠に乏しい。そもそも急性胸痛の原因が確定していない状態で運動負荷をかけることは危険である(急性冠症候群が疑われる場合には安静時の12誘導心電図を行い、負荷心電図は禁忌である)。
- ×d. 気管支鏡検査
誤り。気管支鏡検査は気管・気管支の内腔を直接観察し、生検(経気管支肺生検:TBLB)や気管支肺胞洗浄(BAL)を行う検査で、肺癌、間質性肺疾患、感染症などの診断に用いる。胸膜腔の病変である気胸の診断には役立たず、気胸がある状態で行えば悪化させるおそれもある。
- ×e. 呼吸機能検査
誤り。スパイロメトリーなどの呼吸機能検査は、肺活量や1秒量・1秒率などから拘束性・閉塞性換気障害を評価する検査で、気胸の存在診断には使えない。また最大努力での吸気・呼気を繰り返すため胸腔内圧が大きく変動し、気胸を増悪させる危険があるので、気胸の急性期には行わない。
気胸の分類
・自然気胸:原発性(基礎疾患なし。肺尖部のブラ・ブレブの破裂による。10〜20歳代のやせ型・長身の男性に多く、喫煙で増加)と続発性(COPD、間質性肺炎、肺癌、感染症などの基礎疾患に伴う)に分けられる。 ・外傷性気胸、医原性気胸(中心静脈穿刺、経皮肺生検、人工呼吸など)。 ・緊張性気胸:一方向弁機構で胸腔内圧が上昇し、縦隔偏位、静脈還流障害、ショックをきたす。画像を待たず直ちに脱気が必要である。
女性の気胸で考慮する疾患
・月経随伴性気胸:子宮内膜症の胸腔内病変による。月経開始前後に起こり、右側に多い。 ・リンパ脈管筋腫症(LAM):生殖年齢の女性に多く、CTで両肺にびまん性の薄壁嚢胞を認める。 ・Birt-Hogg-Dubé症候群:FLCN遺伝子変異による常染色体顕性遺伝の疾患で、下肺野・縦隔側の多発肺嚢胞、皮膚の線維毛包腫、腎腫瘍を伴う。 ・Marfan症候群などの結合組織疾患。
診断
・身体所見:患側の呼吸音減弱、打診での鼓音、声音振盪の減弱。 ・胸部X線:臓側胸膜線と、その外側の肺紋理のない領域。軽度の場合は見逃されやすい。 ・胸部CT:少量の気胸も検出可能で、ブラの評価にも有用。 ・胸部超音波:lung sliding(呼吸に伴う胸膜の滑走)の消失やlung pointの確認により、ベッドサイドで迅速に評価できる。
治療の概略
虚脱が軽度で症状が乏しければ安静・経過観察、中等度以上や症状が強い場合は胸腔ドレナージ(または穿刺脱気)を行う。持続する空気漏れや再発例、両側例などでは胸腔鏡下のブラ切除術を検討する。
POINT
・若年者の突然の胸痛・呼吸困難と片側の呼吸音減弱は自然気胸を疑う。 ・単純X線で判断しにくい軽度の気胸は胸部CTで確認し、虚脱の程度やブラの有無を評価する。 ・女性の気胸では月経随伴性気胸、リンパ脈管筋腫症、Birt-Hogg-Dubé症候群などの基礎疾患を念頭に置く。 ・急性胸痛の原因が不明な段階での負荷心電図、気胸急性期の呼吸機能検査は危険であり行わない。 ・緊張性気胸は臨床診断で直ちに脱気する。
