味がしない、爪が反る、夜が見えない―欠乏症は「働き」から結びつける
第114回医師国家試験 A問題 第5問
国試問題にチャレンジ
病態や疾患と欠乏が疑われる微量元素やビタミンとの組合せで正しいのはどれか。
- a.匙状爪 ―― 銅
- b.味覚異常 ―― 亜鉛
- c.出血傾向 ―― ビタミンA
- d.ペラグラ ―― ビタミンB2
- e.骨軟化症 ―― ビタミンC
対話形式の解説
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ドクターまとめ
微量元素やビタミンの欠乏症は、各栄養素が何の材料で、どの酵素の働きを支えているかを理解すると理屈で結びつけられます。亜鉛は細胞増殖の盛んな組織で重要で、味蕾の味細胞の新生が滞るため欠乏で味覚障害を来し、皮膚炎・脱毛・創傷治癒遅延も伴います。匙状爪は鉄欠乏、出血傾向はビタミンK欠乏やビタミンC欠乏(壊血病)、ペラグラはナイアシン(ビタミンB3)欠乏、骨軟化症・くる病はビタミンD欠乏や低リン血症によるもので、ビタミンA欠乏は夜盲症、ビタミンB2欠乏は口角炎・舌炎、銅欠乏は鉄剤不応性の貧血や好中球減少を来します。亜鉛の過剰補充が銅欠乏を招くことや、長期静脈栄養・吸収不良・薬剤が欠乏の背景となることも臨床上重要です。栄養素の働きから欠乏症状を整理しておくことは、国家試験だけでなく、高齢者や栄養管理中の患者を診る日常診療でも役立ちます。
解答・解説
正解はbです
テーマ
微量元素(鉄・亜鉛・銅など)やビタミンが不足したときに現れる代表的な症候を問う問題である。各栄養素が体内でどのような働きをしているか(どの酵素の補因子か、どの物質の材料か)を理解しておくと、欠乏症状を暗記ではなく理屈で結びつけられる。
整理の仕方
・鉄:ヘモグロビンの材料 → 欠乏で小球性低色素性貧血、匙状爪、舌炎、異食症 ・亜鉛:多くの酵素の構成成分で、細胞増殖が盛んな組織(味蕾、皮膚、毛髪)で重要 → 欠乏で味覚障害、皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延 ・銅:鉄の利用や造血に関わる酵素の構成成分 → 欠乏で鉄剤に反応しない貧血、好中球減少 ・ビタミンK:凝固因子の活性化に必要 → 欠乏で出血傾向 ・ビタミンC:コラーゲン合成に必要 → 欠乏で壊血病(出血傾向) ・ビタミンA:網膜の視物質ロドプシンの材料、上皮の維持 → 欠乏で夜盲症、角膜乾燥 ・ナイアシン(ビタミンB3):補酵素NAD・NADPの材料 → 欠乏でペラグラ ・ビタミンD:カルシウム・リンの吸収と骨の石灰化 → 欠乏で骨軟化症・くる病 この対応に照らすと、組合せが正しいのは味覚異常と亜鉛である。
選択肢考察
- ×a. 匙状爪 ―― 銅
誤り。匙状爪(さじじょうそう、spoon nail)は爪の中央がくぼみ、先端が反り返った状態で、鉄欠乏の徴候として有名である。爪は指先にかかる力を受け止めているが、鉄欠乏で爪が薄く柔らかくなると圧に耐えられず反り返る。爪の切りすぎや指先に力がかかる職業でも生じうる。銅欠乏では、鉄剤を投与しても改善しない貧血や好中球減少がみられるのが特徴で、匙状爪の原因ではない。
- ○b. 味覚異常 ―― 亜鉛
正しい組合せである。亜鉛は数多くの酵素の活性に必要で、細胞分裂や蛋白合成に深く関わる。舌の味蕾の味細胞は約10日前後という短い周期で入れ替わっており、亜鉛が不足すると味細胞の新生が滞って味覚が低下・変化する。亜鉛欠乏は味覚障害の代表的な原因であり、高齢者、偏食、吸収不良、慢性肝疾患、腎疾患、亜鉛とキレートを形成する薬剤の長期服用、亜鉛を補充しない長期の静脈栄養などで起こりやすい。
- ×c. 出血傾向 ―― ビタミンA
誤り。出血傾向を来すビタミン欠乏はビタミンKとビタミンCである。ビタミンKは凝固因子(第II・VII・IX・X因子)などが働くために必要な修飾(γ-カルボキシ化)に不可欠で、欠乏するとPT(プロトロンビン時間)が延長して出血しやすくなる。ビタミンCはコラーゲン合成に必要で、欠乏すると血管壁が脆弱になり、歯肉出血や皮下出血を来す(壊血病)。ビタミンA欠乏では、網膜のロドプシン合成が障害されて夜盲症が生じるほか、角膜乾燥症や皮膚・粘膜上皮の角化異常がみられる。
- ×d. ペラグラ ―― ビタミンB2
誤り。ペラグラはナイアシン(ビタミンB3、ニコチン酸)の欠乏症である。ナイアシンは酸化還元反応の補酵素NAD・NADPの材料であり、不足するとエネルギー代謝が障害される。皮膚炎(日光の当たる部位の紅斑・色素沈着)、下痢、認知機能障害などの精神神経症状が三徴で、進行すると死に至る。ナイアシンは必須アミノ酸のトリプトファンからも体内で合成されるため、トウモロコシを主食とする食生活、アルコール依存症、カルチノイド症候群(トリプトファンがセロトニン合成に消費される)、Hartnup病(トリプトファンの吸収障害)などで起こりやすい。ビタミンB2(リボフラビン)は補酵素FAD・FMNの材料で、欠乏すると口角炎、口内炎、舌炎、脂漏性皮膚炎、角膜炎などの皮膚・粘膜症状が生じる。
- ×e. 骨軟化症 ―― ビタミンC
誤り。骨軟化症は骨の基質(類骨)にカルシウムやリンが沈着する石灰化が障害される病気で、ビタミンD欠乏や低リン血症が原因となる。成長期(骨端線が閉じる前)に生じたものはくる病と呼ぶ。骨量そのものが減る骨粗鬆症とは異なり、骨量は保たれていても石灰化が不十分なため骨が軟らかく変形しやすい。ビタミンC欠乏ではコラーゲン合成障害による壊血病が起こり、出血傾向、歯肉腫脹、創傷治癒遅延などがみられる。小児では骨膜下出血による骨の痛みを伴うこともあるが、骨軟化症の原因ではない。
亜鉛欠乏症のまとめ
・主な症状:味覚障害、皮膚炎(口や肛門などの開口部周囲・四肢末端に好発)、脱毛、口内炎、創傷治癒遅延、食欲低下、易感染性、小児では成長障害、男性では性腺機能低下 ・原因:摂取不足(高齢者、偏食)、吸収不良(炎症性腸疾患、短腸症候群)、需要増大、排泄増加(腎疾患、糖尿病)、慢性肝疾患、薬剤(亜鉛とキレートを形成する薬剤)、亜鉛を含まない長期の静脈栄養など ・診断:血清亜鉛値の低下と症状の組合せで判断する。血清亜鉛値は日内変動があり、早朝空腹時に測定するのが望ましい。 ・治療:亜鉛製剤の内服で補充する。過剰投与は銅の吸収を妨げ、銅欠乏(貧血・好中球減少)を来すことがあるため注意する。
腸性肢端皮膚炎
亜鉛の吸収に関わる輸送体の遺伝的異常による先天性の亜鉛欠乏症で、乳児期に開口部(口、鼻孔、眼、耳、肛門、外陰)周囲と四肢末端に紅斑・びらん・小水疱を生じ、脱毛や下痢を伴う。母乳栄養中の早産児などでみられる後天性の亜鉛欠乏でも同様の皮膚症状がみられる。
主なビタミン欠乏症の一覧
・ビタミンA:夜盲症、角膜乾燥症、皮膚・粘膜の角化 ・ビタミンB1(チアミン):脚気(末梢神経障害、心不全)、Wernicke脳症 ・ビタミンB2(リボフラビン):口角炎、口内炎、舌炎、脂漏性皮膚炎 ・ナイアシン(B3):ペラグラ(皮膚炎、下痢、認知症状) ・ビタミンB6:末梢神経障害、口角炎、けいれん(乳児) ・ビタミンB12・葉酸:巨赤芽球性貧血(B12欠乏では亜急性連合性脊髄変性症も) ・ビタミンC:壊血病(出血傾向、歯肉出血) ・ビタミンD:くる病、骨軟化症 ・ビタミンK:出血傾向(新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症)
主な微量元素欠乏症
・鉄:小球性低色素性貧血、匙状爪、舌炎、異食症 ・亜鉛:味覚障害、皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延 ・銅:鉄剤不応性の貧血、好中球減少、骨病変(先天性の銅輸送障害ではMenkes病) ・セレン:心筋症(克山病)、筋力低下 ・ヨウ素:甲状腺腫、甲状腺機能低下症
POINT
・味覚障害 → 亜鉛欠乏(味蕾の細胞の新生に亜鉛が必要) ・匙状爪 → 鉄欠乏 ・出血傾向 → ビタミンK欠乏、ビタミンC欠乏(壊血病) ・夜盲症 → ビタミンA欠乏 ・ペラグラ → ナイアシン(ビタミンB3)欠乏、口角炎・舌炎 → ビタミンB2欠乏 ・骨軟化症・くる病 → ビタミンD欠乏(または低リン血症) ・銅欠乏 → 鉄剤不応性の貧血、好中球減少(亜鉛の過剰投与でも起こる)
