術後に震える指先―甲状腺全摘後テタニーで「直ちに」打つべき一手
第114回医師国家試験 A問題 第6問
国試問題にチャレンジ
甲状腺全摘術後に発症したテタニーに対し,直ちに投与すべきなのはどれか。
- a.抗甲状腺薬
- b.抗けいれん薬
- c.カルシウム製剤
- d.ビスホスホネート製剤
- e.活性型ビタミンD製剤
対話形式の解説
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ドクターまとめ
甲状腺全摘術後のテタニーは、副甲状腺の損傷・血流障害・誤切除によるPTH不足(術後副甲状腺機能低下症)や、Basedow病術後の飢餓骨症候群によって生じる低カルシウム血症が原因です。テタニーは喉頭痙攣やQT延長による不整脈に進展しうるため、直ちにグルコン酸カルシウムを心電図モニター下でゆっくり静注して補正します。活性型ビタミンD製剤は効果発現が遅く、維持期に経口カルシウムと併用する薬であり、血中カルシウムを下げるビスホスホネート製剤は投与してはなりません。補正に難渋する場合は低マグネシウム血症を確認し、低アルブミン血症では補正カルシウム値で評価します。「急性期は即効性のある治療、維持期は持続的な治療」という使い分けは、電解質異常全般の対応に通じる考え方です。
解答・解説
正解はcです
テーマ
甲状腺全摘術の代表的な術後合併症である低カルシウム血症と、それによるテタニーへの緊急対応を問う問題である。
なぜ甲状腺全摘術後にテタニーが起こるのか
副甲状腺(上皮小体)は甲状腺の背面に通常左右2対、計4腺ある米粒大の臓器で、副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌して血中カルシウム濃度を保っている。甲状腺全摘術では副甲状腺を温存するよう努めるが、甲状腺に密着しているため、手術操作による損傷、血流障害、あるいは誤って一緒に切除されることにより、PTHの分泌が低下することがある(術後副甲状腺機能低下症)。PTHが不足すると、骨からのカルシウム放出や腎でのカルシウム再吸収、活性型ビタミンDの産生が低下し、低カルシウム血症と高リン血症をきたす。多くは一過性であるが、永続性となることもある。 また、Basedow病(バセドウ病)などで甲状腺機能亢進状態が続いていた患者では、骨代謝が亢進して骨からカルシウムが失われている。手術で甲状腺ホルモン過剰が急に解消されると、骨がカルシウムを急速に取り込むため、副甲状腺機能が保たれていても低カルシウム血症が起こりうる(飢餓骨症候群〈hungry bone syndrome〉)。
テタニーとは
血中のイオン化カルシウムが低下すると神経や筋の興奮性が高まり、口唇周囲や手指のしびれ、筋のこわばり、手指が特有の形に屈曲する助産師手位(手根攣縮)などの筋痙攣が生じる。これをテタニーという。重症では喉頭痙攣による気道狭窄や全身けいれん、不整脈(QT延長)をきたし、生命に関わることがある。誘発試験として、顔面神経を叩くと口角がぴくつくChvostek(クボステック)徴候や、上腕をマンシェットで圧迫すると助産師手位が現れるTrousseau(トルソー)徴候が知られる。
正解を導く考え方
テタニーは低カルシウム血症の症状が出ている状態であり、「直ちに」行うべきことは原因である低カルシウム血症をすばやく補正することである。そのためには、効果がすぐに現れるカルシウム製剤(グルコン酸カルシウム)の静脈内投与が第一選択となる。活性型ビタミンD製剤は長期管理には重要であるが、効果が出るまで時間がかかるため、急性期の第一手段にはならない。
選択肢考察
- ×a. 抗甲状腺薬
誤り。抗甲状腺薬(チアマゾール、プロピルチオウラシル)は甲状腺ホルモンの合成を抑える薬で、Basedow病などの甲状腺機能亢進症に用いる。甲状腺を全摘した後は甲状腺ホルモンを作る組織がなくなるため使う意味がなく、むしろ甲状腺ホルモン製剤(レボチロキシン)の補充が必要になる。また、低カルシウム血症によるテタニーには全く効果がない。
- ×b. 抗けいれん薬
誤り。テタニーの原因は低カルシウム血症による神経・筋の興奮性の亢進であり、治療の基本はカルシウムを補ってその原因を取り除くことである。抗けいれん薬を投与しても低カルシウム血症は改善せず、喉頭痙攣や不整脈の危険も残る。重いけいれんを一時的に抑える効果はあっても、直ちに投与すべき薬剤とはいえない。
- ○c. カルシウム製剤
正しい。甲状腺全摘術後のテタニーは、術後副甲状腺機能低下症によるPTH不足、または飢餓骨症候群により生じた低カルシウム血症が原因である。カルシウム製剤(通常はグルコン酸カルシウム)を静脈内に投与すれば血中カルシウム濃度はすぐに上昇し、テタニー症状は速やかに改善する。急速に注入すると不整脈などを起こすことがあるため、心電図をみながらゆっくり投与し、必要に応じて持続点滴で血中カルシウム濃度を維持する。血管外に漏れると組織障害を起こす点にも注意する。
- ×d. ビスホスホネート製剤
誤り。ビスホスホネート製剤は破骨細胞による骨吸収を強く抑える薬で、骨粗鬆症や高カルシウム血症(悪性腫瘍に伴うものなど)の治療に用いられる。骨からのカルシウム放出を抑えて血中カルシウム濃度を下げる方向に働くため、低カルシウム血症によるテタニーに投与すると症状を悪化させる。本問では投与してはならない薬剤である。
- ×e. 活性型ビタミンD製剤
誤り。活性型ビタミンD製剤(アルファカルシドール、カルシトリオール)は、腸管からのカルシウム吸収を促して血中カルシウム濃度を上げる。PTHが不足すると腎での活性型ビタミンDの産生も低下するため、副甲状腺機能低下症の維持療法の中心となる薬剤であり、術後の低カルシウム血症が続く場合にも用いられる。しかし効果が現れるまでに時間がかかるため、テタニーという急性症状に対して「直ちに」投与すべき薬剤はカルシウム製剤の静注である。
カルシウム調節の基本
・PTH:骨吸収を促進して骨からカルシウムを放出させ、腎遠位尿細管でのカルシウム再吸収を増やし、リンの再吸収を抑えて尿中排泄を増やす。さらに腎で活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシビタミンD)の産生を促す。 ・活性型ビタミンD:腸管からのカルシウム・リンの吸収を増やす。 ・PTHが不足すると、低カルシウム血症と高リン血症が生じる。
甲状腺全摘術の主な術後合併症
・術後出血:頸部の血腫が気道を圧迫し、呼吸困難をきたすことがある。緊急の対応(創の開放・血腫除去)が必要である。 ・反回神経麻痺:嗄声。両側が麻痺すると声帯が正中で固定されて呼吸困難をきたす。 ・副甲状腺機能低下症:低カルシウム血症によるテタニー。多くは一過性である。 ・甲状腺機能低下症:全摘後は甲状腺ホルモン製剤(レボチロキシン)の生涯にわたる補充が必要である。 ・甲状腺クリーゼ:コントロール不良のBasedow病に手術を行った場合などに起こりうる。
低カルシウム血症への対応
・急性期(テタニー、喉頭痙攣、けいれん、QT延長などの症状がある場合):グルコン酸カルシウムを心電図モニター下にゆっくり静注し、その後必要に応じて持続点滴する。 ・維持期:経口カルシウム製剤と活性型ビタミンD製剤を併用する。高カルシウム尿症や腎結石を避けるため、血中カルシウム濃度は基準範囲の下限付近を目標に調整する。 ・評価の際の注意:血清カルシウム値は血清アルブミン値の影響を受けるため、低アルブミン血症があれば補正カルシウム値で判断する。
テタニーをきたすほかの病態
・低マグネシウム血症:PTHの分泌や作用を障害して低カルシウム血症を招くとともに、それ自体も神経・筋の興奮性を高める。低カルシウム血症の補正がうまくいかないときは、マグネシウムを確認して補う。 ・アルカローシス(過換気症候群など):血液がアルカリ性に傾くとカルシウムがアルブミンに結合しやすくなり、総カルシウム値は変わらなくてもイオン化カルシウムが低下してテタニーが起こる。
POINT
・甲状腺全摘術後のテタニーは、副甲状腺の損傷・血流障害・誤切除による術後副甲状腺機能低下症(PTH不足)が主な原因である。Basedow病術後では飢餓骨症候群も原因となる。 ・PTH不足では低カルシウム血症と高リン血症をきたす。 ・テタニーなどの症状がある急性期は、カルシウム製剤(グルコン酸カルシウム)を心電図モニター下にゆっくり静注する。 ・活性型ビタミンD製剤は効果発現が遅く、維持療法に用いる。 ・ビスホスホネート製剤は血中カルシウムを下げるため、低カルシウム血症には投与してはならない。 ・Chvostek徴候・Trousseau徴候は低カルシウム血症によるテタニーの誘発徴候である。 ・テタニーの原因として、低カルシウム血症のほか低マグネシウム血症やアルカローシスも押さえる。
