「気が遠くなる」めまいは耳ではなく循環を疑え―起立時の前失神を見抜く診察の優先順位
第114回医師国家試験 A問題 第23問
国試問題にチャレンジ
48歳の女性。めまいを主訴に来院した。今朝,庭仕事中にしゃがんだ姿勢から立ち上がったところ,一瞬,気が遠くなるようなめまいが出現し転倒したため受診した。意識消失はなかった。このようなめまいは4,5日前から時々あり,すべて立ち上がる時に出現していたという。 診断のために確認する優先度が最も低いのはどれか。
- a.心雑音
- b.低血圧
- c.頸部血管雑音
- d.聴力の左右差
- e.眼瞼結膜の貧血
対話形式の解説
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ドクターまとめ
「立ち上がった瞬間に一瞬気が遠くなる」めまいは前失神であり、起立時の脳灌流低下という循環器系の原因を第一に考えます。確認すべきは、起立性低血圧(起立後3分以内に収縮期20mmHg以上または拡張期10mmHg以上の低下)、大動脈弁狭窄症などを示す心雑音、頸動脈狭窄を示す頸部血管雑音、そして出血などを示唆する眼瞼結膜の貧血です。一方、聴力の左右差はメニエール病や聴神経腫瘍など、蝸牛症状を伴う回転性めまいの評価に用いる所見であり、本例での優先度は低くなります。心原性失神は突然死につながりうるため、心電図を含めた早期評価が重要です。めまいを「回転性・浮動性・前失神」に分けて性状から原因を絞り込む姿勢は、外来や救急でのめまい診療の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・48歳女性。しゃがんだ姿勢から立ち上がった直後に、一瞬「気が遠くなる」ようなめまいが起こり転倒した。 ・意識消失はない。 ・同様のめまいが4、5日前から繰り返しており、いずれも立ち上がる動作のときに限って出現している。
めまいの性状からの考え方
めまいは大きく、①回転性めまい(vertigo:周囲がぐるぐる回る感覚。内耳や前庭神経、脳幹・小脳の障害で起こる)、②浮動性めまい(ふわふわする感覚)、③前失神(presyncope:目の前が暗くなる、気が遠くなる感覚)に分けて考えると整理しやすい。本例の「気が遠くなるような」「一瞬の」めまいは前失神に当たり、脳全体への血流(脳灌流)が一過性に不足したことを示唆する。 立ち上がると重力によって血液が下半身へ移動し、静脈還流と心拍出量が一時的に減る。健常者では圧受容体反射によって心拍数と末梢血管抵抗が速やかに上がり、脳灌流は保たれる。しかし、①血圧がもともと低い・起立時に血圧が大きく下がる(起立性低血圧)、②心臓から十分に血液を送り出せない(大動脈弁狭窄症などの弁膜症、不整脈)、③脳へ向かう血管が狭い(頸動脈狭窄)、④血液の酸素運搬能が低い(貧血)といった状態があると、この代償が追いつかずに前失神を生じやすい。数日前から毎回同じ状況で症状が出ていることから、背景にこうした何らかの病態が新たに生じている、あるいは進行している可能性を考えて原因を探す必要がある(例えば消化管出血などによる貧血・循環血液量減少の進行は、見逃してはならない原因である)。
設問の考え方
本問では、起立時の脳灌流低下(循環器系の原因)を念頭に置き、それに関わる所見の優先度が高い。一方、聴力の左右差は内耳疾患(メニエール病、突発性難聴など)や聴神経腫瘍といった「回転性めまい+蝸牛症状」を呈する病態を評価するための所見であり、体位変換の瞬間にだけ起こる一瞬の前失神とは結びつきにくい。したがって確認の優先度が最も低いのは聴力の左右差である。
選択肢考察
- ×a. 心雑音
大動脈弁狭窄症や閉塞性肥大型心筋症などでは、心拍出量を十分に増やせないため、起立や労作時に脳灌流が低下して前失神・失神を起こしうる。これらは聴診で収縮期雑音として捉えられることが多く、心原性の原因は生命にかかわることもあるため、聴診で心雑音の有無を確認する意義は大きい。あわせて脈の不整(不整脈)も確認する。優先度は高い。
- ×b. 低血圧
立ち上がるたびに症状が出るという病歴は起立性低血圧に典型的である。安静時の血圧に加え、臥位(または座位)から立位へ変えたときの血圧と脈拍の変化を測定して評価する。起立後3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上、または拡張期血圧が10mmHg以上低下すれば起立性低血圧と判断する。診断の中心となる所見であり、優先度は高い。
- ×c. 頸部血管雑音
頸部血管雑音(bruit)は頸動脈狭窄を示唆する所見である。頸動脈に狭窄があると、起立時に血圧が少し下がっただけでも脳への血流が不足しやすくなり、めまいの原因・増悪因子となりうる。また大動脈弁狭窄症の雑音が頸部へ放散して聴取されることもある。脳循環の評価として確認する意義があり、優先度は高い。
- ○d. 聴力の左右差
聴力の左右差は、メニエール病、突発性難聴、聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)など、内耳や聴神経の障害によるめまいを評価する際に重要な所見である。これらは主に回転性めまいを呈し、難聴・耳鳴・耳閉感といった蝸牛症状を伴い、めまいは数十分から数時間以上続くことが多い。本例は起立した瞬間だけに起こる一瞬の前失神であり、蝸牛症状の訴えもないため、内耳性めまいの可能性は低い。よって診断のために確認する優先度は最も低い。
- ×e. 眼瞼結膜の貧血
貧血があると血液の酸素運搬能が低下し、起立時のわずかな脳血流の減少でも脳が酸素不足になりやすく、立ちくらみの原因となる。特に出血による貧血では循環血液量も減っており、起立性低血圧を伴いやすい。48歳女性では過多月経などによる鉄欠乏性貧血や消化管出血も考慮すべきであり、眼瞼結膜の蒼白を確認する意義は大きい。優先度は高い。
めまいの分類と主な原因
・回転性めまい:良性発作性頭位めまい症(頭位変換で数十秒の回転性めまい)、メニエール病(難聴・耳鳴を伴い反復)、前庭神経炎(蝸牛症状なし、数日続く)、突発性難聴に伴うめまい、小脳・脳幹の梗塞や出血など。 ・浮動性めまい:中枢神経疾患、薬剤性、心因性など。 ・前失神(立ちくらみ、気が遠くなる):起立性低血圧、不整脈、弁膜症などの器質的心疾患、貧血、脱水、血管迷走神経反射など。
起立性低血圧の主な原因
・循環血液量減少:脱水、出血 ・薬剤:降圧薬(α遮断薬、利尿薬など)、硝酸薬、抗うつ薬など ・自律神経障害:糖尿病性神経障害、パーキンソン病、多系統萎縮症など ・長期臥床、高齢
前失神・失神の診療で重要な点
心原性(不整脈、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症など)の原因は突然死につながりうるため、問診・身体診察(心雑音、脈の不整、血圧)・心電図で早期に評価することが重要である。
POINT
・「気が遠くなる」「一瞬」「起立時」のめまいは前失神であり、脳灌流低下(循環器系の原因)を考える。 ・確認すべき所見:起立時の血圧変化(起立性低血圧)、心雑音・不整脈、頸部血管雑音、貧血。 ・聴力の左右差などの蝸牛症状は、回転性めまいを呈する内耳性めまいの評価に用いる。 ・起立性低血圧の基準:起立後3分以内に収縮期血圧20mmHg以上または拡張期血圧10mmHg以上の低下。
