StudyMed医師国家試験

医師を縛るのか、病院を縛るのか―「無診察治療の禁止」はどの法律?

第113回医師国家試験 F問題 第32問

国試問題にチャレンジ

第113回 F問題 第32問

法律とその内容の組合せで誤っているのはどれか。

  1. a.医療法 ―― 無診察治療の禁止
  2. b.労働基準法 ―― 産前産後休業
  3. c.健康増進法 ―― 受動喫煙の防止
  4. d.児童福祉法 ―― 小児慢性特定疾患の医療費助成
  5. e.労働者災害補償保険法 ―― 業務災害に関する給付

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、医療・労働・福祉の法律と、その代表的な中身の組合せを問う問題だ。「誤っているもの」を選ぶ形式だから注意しよう。コツは、それぞれの法律が「誰を、何を」規律しているのかを押さえること。そこが見えると迷いにくくなるよ。
医学生医学生
法律の問題は暗記ばかりで苦手です。公衆衛生の講義でも、法律名が多すぎて混乱しました。
ドクタードクター
丸暗記だと大変だよね。でも法律の目的から考えると整理しやすい。まず、医療法と医師法の違いは説明できるかな。
医学生医学生
医師法は医師の免許について、医療法は医療全般について……でしょうか。正直、無診察治療の禁止は医療法かなと思いました。
ドクタードクター
そこがまさに引っかけポイント。医師法は医師という「人」の資格や業務上の義務を定める法律。一方、医療法は病院・診療所・助産所といった「施設」や、医療計画、医療安全など医療提供体制を定める法律なんだ。無診察治療の禁止は、医師一人ひとりが守るべき義務だから、医師法第20条に規定されている。だから医療法との組合せが誤りで、これが正解になる。
医学生医学生
なるほど、人を縛るのが医師法、施設や体制を整えるのが医療法なんですね。無診察治療の禁止って、具体的にはどんな内容でしたっけ。
ドクタードクター
自ら診察しないで治療したり、診断書や処方箋を交付したりしてはいけない、という規定だ。出生証明書や死産証書、検案書についても同様の決まりがある。例外として、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合は、改めて診察しなくても死亡診断書を交付できるとされている。
医学生医学生
臨床実習で、指導医の先生が「死亡診断書と死体検案書の使い分けは必ず問われる」とおっしゃっていました。
ドクタードクター
国試でも臨床でも大事なところだね。では残りの組合せを確認しよう。労働基準法と産前産後休業はどうかな。
医学生医学生
労働条件の最低基準を決める法律なので、出産前後の休業もそこにありそうです。
ドクタードクター
正しい組合せだ。産前は6週間、多胎妊娠なら14週間で、本人が請求すれば休業できる。産後8週間は原則として就業させてはならないが、産後6週間を過ぎて本人が請求し、医師が支障ないと認めた業務なら就くことができる。産前は「請求」、産後は「原則強制」という違いがよく問われるよ。
医学生医学生
育児休業は別の法律でしたよね。そこも混同しそうです。
ドクタードクター
いい気づきだね。育児休業は育児・介護休業法の規定で、産前産後休業とは根拠法が違う。次に健康増進法と受動喫煙の防止。これも正しい組合せだ。2018年の改正で、学校や病院、行政機関などは原則敷地内禁煙、それ以外の多数の人が利用する施設は原則屋内禁煙となり、違反には罰則も設けられた。
医学生医学生
児童福祉法と小児慢性特定疾患の医療費助成は、小児科の実習で患者さんのご家族が申請の話をしていました。
ドクタードクター
実際の場面を見ているのは強いね。これも正しい組合せで、現在の制度上は「小児慢性特定疾病」と呼ばれ、児童福祉法に基づく医療費助成として位置づけられている。最後の労働者災害補償保険法は、業務上の負傷や疾病などの業務災害に対する保険給付を定める法律だから、これも正しい。通勤災害も給付の対象だよ。
医学生医学生
結局、医師法と医療法の区別がつけば一発で解ける問題だったんですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、医師法に定められた義務をまとめて覚えておこう。応招義務、診断書などの交付義務、無診察治療等の禁止、異状死体等の届出義務、処方箋の交付義務、療養方法等の指導義務、診療録の記載と5年間の保存義務。どれも医師個人に課される義務だ。
医学生医学生
異状死体の届出は24時間以内に警察署へ、でしたね。これも医師法なんだと改めて整理できました。
ドクタードクター
そう。逆に、病院と診療所の病床数による区別や医療事故調査制度、医療広告の規制などは医療法の守備範囲だ。研修医になると、診察せずに処方だけ頼まれる場面に出会うこともあるかもしれない。そのとき「これは医師法上の義務だ」と意識できるかどうかが、自分と患者さんを守ることにつながるんだよ。

まとめ

無診察治療の禁止は医師法第20条に定められた医師個人の義務であり、医療法との組合せは誤りです。医師法は医師という「人」の資格や業務上の義務を、医療法は病院・診療所などの「施設」と医療提供体制を規律する法律だと区別すると、混同を防げます。産前産後休業は労働基準法、受動喫煙の防止は健康増進法、小児慢性特定疾病の医療費助成は児童福祉法、業務災害の給付は労働者災害補償保険法と、他の組合せはいずれも正しいものです。応招義務や異状死体の届出、診療録の保存など医師法上の義務は、国試頻出であるだけでなく、日々の診療で医師が守るべき基本ルールでもあります。法律を「誰を何のために規律するのか」という視点で整理しておくと、公衆衛生の法規問題全般に応用できます。

解答・解説

正解はaです

医療・保健・労働・福祉に関わる法律と、その法律が定める代表的な内容とを正しく対応させられるかを問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、組合せが正しくないものを一つ選ぶ。 考え方のコツは、法律が「誰(何)を規律しているか」を押さえることである。 ・医師法:医師という「人(資格者)」について、免許や業務上の義務を定める。 ・医療法:病院・診療所などの「施設」と医療提供体制について定める。 ・労働基準法:労働条件の最低基準を定める。 ・健康増進法:国民の健康づくりの基盤を定める。 ・児童福祉法:児童の福祉を保障する。 ・労働者災害補償保険法:労働災害に対する保険給付を定める。 無診察治療の禁止は、個々の医師が守るべき業務上の義務であるから、施設や医療体制を規律する医療法ではなく、医師法に規定されている。この区別がつけば誤りの組合せを特定できる。

選択肢考察

  1. ○a.  医療法 ―― 無診察治療の禁止

    誤った組合せであり、これが正解である。無診察治療の禁止は医師法第20条に定められている。医師は自ら診察しないで治療をしたり、診断書や処方箋を交付したりしてはならず、自ら出産に立ち会わずに出生証明書・死産証書を、自ら検案せずに検案書を交付してもならない。ただし、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合の死亡診断書の交付は例外とされている。医療法は病院・診療所・助産所の定義や開設、医療計画、医療安全などを定める法律であり、医師個人の診療上の義務は規定していない。

  2. ×b.  労働基準法 ―― 産前産後休業

    正しい組合せである。労働基準法第65条により、使用者は、6週間(多胎妊娠では14週間)以内に出産予定の女性が請求した場合は就業させてはならない(産前休業)。また産後8週間を経過しない女性は原則として就業させてはならない(産後休業)。ただし産後6週間を過ぎた女性が請求し、医師が支障ないと認めた業務に就かせることは可能である。産前は本人の請求が条件、産後は請求の有無にかかわらず強制である点が異なる。

  3. ×c.  健康増進法 ―― 受動喫煙の防止

    正しい組合せである。健康増進法は2002年の制定当初から受動喫煙防止を努力義務として規定していた。2018年の改正(2020年4月全面施行)で「望まない受動喫煙」を防止するため、学校・病院・行政機関などは原則敷地内禁煙、それ以外の多数の者が利用する施設は原則屋内禁煙とされ、違反には罰則も設けられた。

  4. ×d.  児童福祉法 ―― 小児慢性特定疾患の医療費助成

    正しい組合せである。小児慢性特定疾患の医療費助成は、かつては予算事業として実施されていたが、2005年に児童福祉法に位置づけられた。さらに2014年の同法改正(2015年1月施行)で「小児慢性特定疾病医療費」として公平で安定的な制度に再編され、対象疾病も拡大された。現在の法令上の名称は「疾病」である。

  5. ×e.  労働者災害補償保険法 ―― 業務災害に関する給付

    正しい組合せである。労働者災害補償保険法(労災保険法)は、業務上の事由による負傷・疾病・障害・死亡(業務災害)に対する保険給付を定めている。このほか通勤災害や、複数の事業場で働く労働者の負荷を総合して評価する複数業務要因災害についても給付が行われる。保険料は原則として事業主が全額負担する。

医師法に定められた主な医師の義務

・応招義務(診療の求めがあった場合、正当な事由がなければ拒んではならない) ・診断書・検案書・出生証明書などの交付義務 ・無診察治療等の禁止 ・異状死体等の届出義務(検案して異状を認めた場合、24時間以内に所轄警察署へ届け出る) ・処方箋の交付義務 ・療養方法等の指導義務 ・診療録の記載と5年間の保存義務

医療法の主な内容

・病院(20床以上)、診療所(19床以下または無床)、助産所の定義と開設・管理 ・医療計画(都道府県が策定) ・医療安全の確保、医療事故調査制度 ・医療に関する情報提供、広告規制

労働基準法による母性保護

産前産後休業のほか、妊産婦の危険有害業務の就業制限、妊産婦が請求した場合の時間外・休日・深夜労働の制限、生後満1年に達しない子を育てる女性の育児時間(1日2回各少なくとも30分)、生理日の就業が著しく困難な女性の休暇などが定められている。

労災保険の主な給付

療養(補償)給付、休業(補償)給付(休業4日目から支給)、障害(補償)給付、遺族(補償)給付、葬祭料、傷病(補償)年金、介護(補償)給付など。

POINT

・無診察治療の禁止は医師法第20条(医療法ではない)。 ・医師法=医師個人の資格と義務、医療法=医療施設と医療提供体制。 ・産前産後休業は労働基準法第65条(産前6週・多胎14週は請求により、産後8週は強制)。 ・受動喫煙防止は健康増進法、小児慢性特定疾病の医療費助成は児童福祉法、業務災害の給付は労災保険法。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。