StudyMed医師国家試験

2cmから17cmへ―急に目を覚ます巨大腫瘤、乳腺葉状腫瘍を見抜く

第113回医師国家試験 D問題 第58問

国試問題にチャレンジ

第113回 D問題 第58問

50歳の女性。右乳房のしこりを主訴に来院した。2年前から右乳房の2cm大の腫瘤に気付いていたが,あまり変化がないため医療機関を受診していなかった。4か月前から増大し痛みを伴ってきたため心配になり受診した。右乳房腫瘤は長径17cmで,弾性軟,胸壁への固定を認めない。皮膚には発赤や腫瘤の浸潤を認めない。腋窩リンパ節を触知しない。胸部CTを別に示す。  最も可能性が高いのはどれか。

第113回 D問題 第58問の問題画像
  1. a.乳腺炎
  2. b.乳腺症
  3. c.乳腺線維腺腫
  4. d.乳腺葉状腫瘍
  5. e.乳管内乳頭腫

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は乳房の腫瘤を鑑別する問題だ。注目してほしいのは3つ。腫瘤の性状、増大のしかた、そして大きさ。乳房腫瘤というとまず乳癌を心配するけれど、この症例は「癌らしい所見」がどれだけそろっているかを確認するところから始めよう。
医学生医学生
50歳の女性の乳房腫瘤なので、真っ先に乳癌を考えてしまいました。
ドクタードクター
年齢を考えれば自然な発想だね。40歳代以降は乳癌の頻度が高くなる。では、浸潤性乳癌に典型的な触診所見は何だったかな。
医学生医学生
硬くて境界が不明瞭、可動性が悪くて、えくぼ徴候や皮膚浸潤、胸壁固定、腋窩リンパ節の腫大を伴うことがある、です。OSCEの乳房診察の練習で確認しました。
ドクタードクター
よく覚えているね。今回はそのどれもない。腫瘤は弾性軟で胸壁に固定されず、皮膚浸潤もリンパ節腫大もない。胸部CTでも、右乳房の大部分を占める巨大な充実性腫瘤があるけれど、輪郭は明瞭で、背側の大胸筋や押しやられた正常乳腺を圧排しているだけで、浸潤を思わせる像はないんだ。
医学生医学生
周りに染み込むのではなく、押しのけて大きくなっているということですね。それなら良性腫瘍でしょうか。
ドクタードクター
良性、あるいは良悪性の境界にある病変がまず考えられる。次は経過だ。2年間ほとんど変わらなかった腫瘤が、この4か月で急に大きくなって17cmに達した。乳房全体を置き換えるほどの大きさだね。
医学生医学生
境界明瞭で動く充実性腫瘤というと、線維腺腫が思い浮かびます。
ドクタードクター
そこがこの問題の最大のひっかけだね。線維腺腫は境界明瞭・表面平滑で可動性の良い腫瘤として触れるから、臨床的には葉状腫瘍とよく似ている。でも線維腺腫は10歳代後半から30歳代の若い女性に多く、通常は2〜3cm程度にとどまり、増大しても緩やかだ。閉経前後からはむしろ退縮したり石灰化したりする傾向がある。
医学生医学生
50歳で数か月のうちに17cmまで大きくなるのは、線維腺腫としては合わないということですね。
ドクタードクター
その通り。「境界明瞭な腫瘤が急速に増大して10cmを超える巨大腫瘤になる」という組み合わせは、乳腺葉状腫瘍の典型像なんだ。好発年齢も40歳代前後で、今回の年齢とも矛盾しない。CTで内部が不均一に見えるのは、葉状腫瘍で起こりやすい嚢胞変性や出血・壊死、間質成分の多様さを反映していると考えられる。急な増大による被膜の伸展や内部出血は痛みの原因にもなりうるよ。
医学生医学生
葉状腫瘍は名前のとおり、組織が葉っぱのように見えるんですか。
ドクタードクター
そうなんだ。線維腺腫と同じく上皮と間質からなる線維上皮性腫瘍だけど、間質の増殖がずっと強い。増えた間質が上皮を押して、葉っぱのような裂隙をつくる組織像からこの名前がついた。病理の講義で線維腺腫と並べて見た人も多いんじゃないかな。
医学生医学生
病理実習で、線維腺腫の管内型と比べて間質の細胞密度が全然違うと教わりました。乳腺炎はどう否定すればいいですか。
ドクタードクター
乳腺炎は授乳期の乳汁うっ滞に細菌感染が加わるものが代表で、発赤・熱感・腫脹・圧痛といった局所の炎症所見や発熱を伴う。今回は皮膚の発赤もなく、2年来の腫瘤が巨大な充実性腫瘤に育つという経過も炎症では説明できないね。
医学生医学生
乳腺症は、月経周期で痛みが変わる病気でしたよね。
ドクタードクター
そう。乳腺症は30〜40歳代に多い非腫瘍性の変化で、卵巣ホルモンの不均衡が関与すると考えられている。周期的な乳房痛と、境界のはっきりしない板状・顆粒状の硬結が特徴で、境界明瞭な巨大腫瘤はつくらない。乳管内乳頭腫は乳頭近くの太い乳管に生じることが多い良性腫瘍で、片側・単孔性の血性または漿液性の乳頭分泌が代表的な症状だ。腫瘤は触れないか触れても1cm前後で、17cmになることはない。
医学生医学生
炎症所見なら乳腺炎、周期性の痛みなら乳腺症、血性乳頭分泌なら乳管内乳頭腫、急速増大する巨大な境界明瞭腫瘤なら葉状腫瘍、と整理できますね。
ドクタードクター
完璧な整理だ。最後に発展知識をまとめよう。葉状腫瘍は間質の細胞密度、異型、核分裂像、境界部の性状などから良性・境界悪性・悪性の3群に分けられ、臨床所見だけでは区別できない。針生検で推定し、切除標本の病理で確定する。治療は正常組織を含めて断端を確保した切除が基本で、大きければ乳房切除になることもある。
医学生医学生
乳癌のように腋窩リンパ節郭清やホルモン療法もするんでしょうか。
ドクタードクター
そこは乳癌との大きな違いだ。悪性型の転移は主に血行性で肺や骨に起こり、リンパ節転移はまれなので、腋窩リンパ節郭清は通常行わない。内分泌療法の適応にもならない。そして臨床で特に注意したいのは、断端陽性だと局所再発しやすく、再発のたびに悪性度が上がることがある点だ。小さな病変は針生検で線維腺腫と区別しにくいこともあるから、「線維腺腫」と言われていた腫瘤が増大してきたら、葉状腫瘍を疑って再評価する姿勢が大切だよ。

まとめ

境界明瞭で可動性のある乳房腫瘤が、長期間の安定ののち数か月で急速に増大し10cmを超える巨大腫瘤となった場合は、乳腺葉状腫瘍を第一に考えます。葉状腫瘍は線維腺腫と同じ線維上皮性腫瘍ですが、間質増殖が強く、好発年齢は40歳代前後と線維腺腫より高く、はるかに大きくなりうる点が鑑別の決め手です。皮膚浸潤・胸壁固定・腋窩リンパ節腫大を欠くことは浸潤性乳癌らしくない所見であり、炎症所見なら乳腺炎、周期性の痛みと境界不明瞭な硬結なら乳腺症、血性乳頭分泌なら乳管内乳頭腫と整理すると鑑別が明快になります。葉状腫瘍は良性・境界悪性・悪性に分類され、治療は断端を確保した切除で、悪性型は血行性転移が主でリンパ節転移はまれです。年齢・触診所見・経過・大きさを組み合わせて乳房腫瘤を読み解く力は、乳腺診療の基本となります。

解答・解説

正解はdです

所見の整理

・50歳の女性。2年前から右乳房に2cm大の腫瘤があったが、その間ほとんど大きさが変わらなかった。 ・4か月前から急に大きくなり、痛みも出てきた。受診時の腫瘤は長径17cmと非常に大きい。 ・腫瘤は弾性軟で、胸壁に固定されていない。皮膚の発赤や皮膚への浸潤はなく、腋窩リンパ節も触れない。 ・胸部CTでは、右乳房の大部分を占める巨大な充実性腫瘤があり、内部の濃度は不均一である。腫瘤の輪郭は明瞭で、背側の大胸筋や周囲に押しやられた正常乳腺との間に浸潤を思わせる所見はない。

診断へのプロセス

①腫瘤の性状をみる: 弾性軟で可動性があり、皮膚浸潤・胸壁固定・腋窩リンパ節腫大といった浸潤性乳癌に典型的な所見を欠く。CTでも周囲組織を圧排するだけで浸潤像がない。したがって、通常の浸潤性乳癌よりも、良性腫瘍あるいは良悪性の境界にある病変(境界病変)がまず考えられる。 ②経過をみる: 長い間小さいまま安定していた腫瘤が、数か月という短い期間で急速に大きくなっている。 ③大きさをみる: 17cmという、乳房全体を置き換えるほどの巨大な腫瘤である。 境界明瞭で可動性のある充実性腫瘤という点では乳腺線維腺腫も候補になるが、線維腺腫がここまで大きくなることはまれである。「境界明瞭な腫瘤が急速に増大し、10cmを超えるような巨大腫瘤となる」という組み合わせは乳腺葉状腫瘍の典型像であり、最も可能性が高い。年齢(40歳代を中心とする中年)も葉状腫瘍の好発年齢と合致する。CTで内部濃度が不均一なのは、葉状腫瘍で生じやすい内部の嚢胞変性・出血・壊死や、間質成分の多様性を反映していると考えられる。急な増大に伴う被膜の伸展や内部の出血・壊死が痛みの原因になりうる。 なお、葉状腫瘍は組織学的に良性・境界悪性・悪性に分けられ、臨床所見だけではいずれかを区別できない。最終的な診断は針生検や切除標本の病理検査で行う。

選択肢考察

  1. ×a.  乳腺炎

    乳腺炎は乳腺の炎症であり、授乳期にうっ滞した乳汁へ細菌が感染して起こるものが代表的である。乳房の発赤・熱感・腫脹・圧痛といった局所の炎症所見を伴い、発熱を伴うことも多い。膿瘍を形成すれば硬結や波動を触れるが、本例のように2年来存在した腫瘤が17cmの充実性腫瘤へ成長することはない。本例では皮膚の発赤がなく、炎症を示す所見に乏しいことからも否定的である。

  2. ×b.  乳腺症

    乳腺症は30〜40歳代を中心とする女性に多い、乳腺の増殖性・退行性変化が混在した非腫瘍性の病態で、卵巣ホルモンの不均衡が関与すると考えられている。月経周期に連動して強くなる乳房痛や、境界がはっきりしない硬結(板状・顆粒状)、ときに乳頭分泌を示す。両側性のことも多く、境界明瞭な腫瘤をつくる病変ではないため、巨大な充実性腫瘤を形成することはない。閉経後には症状が軽くなるのが一般的である。

  3. ×c.  乳腺線維腺腫

    線維腺腫は乳管上皮と間質の両方が増殖する良性腫瘍で、10歳代後半〜30歳代の若い女性に多い。境界明瞭・表面平滑で可動性の良い弾性硬の腫瘤として触れ、この点では葉状腫瘍と臨床的によく似ている。しかし通常は2〜3cm程度までにとどまり、増大しても緩やかで、閉経後はむしろ退縮・石灰化する傾向がある。思春期などに5cmを超える巨大線維腺腫(若年性線維腺腫)がみられることはあるが、50歳で数か月のうちに17cmへ急速に増大するという経過は線維腺腫としては非典型的であり、葉状腫瘍をまず考えるべきである。

  4. ○d.  乳腺葉状腫瘍

    葉状腫瘍は線維上皮性腫瘍の一つで、線維腺腫よりも間質成分の増殖が強く、間質が上皮を押して葉っぱ状の裂隙をつくる組織像からこの名がある。40歳代前後に多く、境界明瞭で可動性のある分葉状の腫瘤として触れる。最大の特徴は急速に増大して10cmを超えるような巨大腫瘤となりうることで、内部に嚢胞変性や出血を伴い画像で不均一に見えることも多い。本例の、長く安定していた腫瘤が数か月で17cmに急増大し、皮膚浸潤・胸壁固定・リンパ節腫大がなく、CTで周囲を圧排するだけの巨大腫瘤という所見はこれに最もよく合致する。

  5. ×e.  乳管内乳頭腫

    乳管内乳頭腫は乳管上皮が乳管の内腔に向かって乳頭状に増殖する良性腫瘍で、乳頭近くの太い乳管に単発で生じるものが多い(末梢の乳管に多発するタイプもある)。代表的な症状は片側・単孔性の血性または漿液性の乳頭分泌で、腫瘤は触れないか、触れても1cm前後の小さなものが一般的である。17cmの巨大腫瘤を形成することはなく、本例の乳頭分泌のない巨大腫瘤とは合わない。

乳腺葉状腫瘍(phyllodes tumor)の概要

・乳腺腫瘍全体に占める割合は1%未満とまれである。線維腺腫と同じく上皮と間質からなる線維上皮性腫瘍に分類されるが、間質細胞の密度・異型・核分裂像が多い。 ・WHO分類では、間質の細胞密度、異型度、核分裂像、境界部の性状(圧排性か浸潤性か)、間質の過剰増殖などをもとに、良性・境界悪性・悪性の3群に分ける。悪性のものは以前「葉状肉腫」とも呼ばれた。 ・好発年齢は40歳代前後で、線維腺腫(10歳代後半〜30歳代)より高い。 ・臨床像: 境界明瞭・可動性良好な分葉状腫瘤。急速増大して巨大化しやすく、表面の皮膚が菲薄化して静脈が透見されたり、圧迫により皮膚潰瘍を生じることもある。 ・画像: 超音波では境界明瞭な分葉状の低エコー腫瘤で、内部にスリット状・嚢胞状の無エコー域を伴うことがある。 ・診断: 針生検で推定し、切除標本で確定する。小さいものは針生検で線維腺腫と区別しにくい。 ・治療: 切除が基本で、正常組織を含めて断端を確保する切除(腫瘍の大きさによっては乳房切除)を行う。断端陽性では局所再発しやすく、再発時に悪性度が上がることもある。 ・転移: 悪性型は主に血行性に肺・骨などへ転移しうる。リンパ節転移はまれであり、腋窩リンパ節郭清は通常行わない。乳癌とは性格が異なり、内分泌療法の適応にはならない。

乳房腫瘤の鑑別の考え方

・年齢: 若年者では線維腺腫が多く、40歳代以降では乳癌の頻度が高まる。 ・触診: 乳癌は硬く、境界不明瞭で可動性が悪く、えくぼ徴候(Delle)や皮膚浸潤、胸壁固定、腋窩リンパ節腫大を伴いうる。良性腫瘍は境界明瞭で可動性が良い。 ・経過: 急速に増大する境界明瞭な巨大腫瘤では葉状腫瘍を考える。 ・付随症状: 発赤・熱感・疼痛は乳腺炎、周期的な乳房痛と境界不明瞭な硬結は乳腺症、血性乳頭分泌は乳管内乳頭腫(および乳癌)を示唆する。

POINT

・境界明瞭で可動性のある腫瘤が急速に増大し、10cmを超える巨大腫瘤となった場合は乳腺葉状腫瘍を考える。 ・葉状腫瘍は40歳代前後に多く、線維腺腫(若年者に多く通常2〜3cmまで)より年齢層が高く、はるかに大きくなりうる。 ・皮膚浸潤・胸壁固定・腋窩リンパ節腫大がないことは、浸潤性乳癌に典型的な所見を欠くことを示す。 ・葉状腫瘍は良性・境界悪性・悪性に分類され、治療は断端を確保した切除。悪性型の転移は血行性が主で、リンパ節転移はまれである。 ・乳腺炎は炎症所見、乳腺症は周期性の痛みと境界不明瞭な硬結、乳管内乳頭腫は血性乳頭分泌が特徴。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。