StudyMed医師国家試験

電柱が曲がって見える―網膜の「しわ」を断面で捉えるOCTの力

第113回医師国家試験 D問題 第59問

国試問題にチャレンジ

第113回 D問題 第59問

48歳の女性。右眼で見ると電柱が曲がって見えることと視力低下を自覚したため来院した。視力右0.05(0.6×-2.0 D),左0.1(1.2×-2.75 D)。右眼底写真を別に示す。  診断に有用な検査はどれか。

第113回 D問題 第59問の問題画像
  1. a.色覚検査
  2. b.静的視野検査
  3. c.蛍光眼底造影検査
  4. d.網膜電図検査〈ERG〉
  5. e.光干渉断層計〈OCT〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、物がゆがんで見えるという訴えから黄斑の病気を考え、その診断に最適な検査を選ぶ問題だ。注目してほしいのは「ゆがみ」という症状の意味と、眼底写真で網膜の表面に何が起きているか。まず、直線が曲がって見える症状を何と呼ぶか覚えているかな。
医学生医学生
変視症ですよね。眼科の講義で、黄斑疾患のサインだと習いました。
ドクタードクター
その通り。黄斑は視細胞が密集した網膜の中心部で、ここの形が変わると、像を受け取る視細胞の並びが乱れて線がゆがんで見えるんだ。視力の数字もヒントになる。左右とも近視だけど、左眼は矯正すれば1.2まで出るのに、右眼は矯正しても0.6にとどまる。これは何を意味すると思う?
医学生医学生
メガネで補正しきれないということは、屈折異常以外に右眼だけ器質的な病変がある、ということですね。
ドクタードクター
そう。では眼底写真の解釈だ。右眼の黄斑部には、光沢のある白っぽい薄い膜が網膜表面に張っていて、膜が縮むことで黄斑へ向かう放射状のしわができている。網膜血管も膜に引っ張られて蛇行している。一方で出血や白斑、滲出性の変化はない。
医学生医学生
出血がないので加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症は考えにくいですね。表面に膜があってしわが寄っているなら、網膜前膜でしょうか。
ドクタードクター
正解。網膜前膜、別名を黄斑上膜という。網膜の内面に線維性の膜ができ、それが収縮して黄斑にしわや肥厚を起こす病気だ。多くは特発性で中高年に多く、後部硝子体剥離のときに網膜表面に残った細胞が増殖して膜をつくると考えられている。では、この膜を証明するにはどの検査がいいかな。
医学生医学生
臨床実習の眼科外来で、ほぼ全員がOCTを撮っていたのを覚えています。光干渉断層計ですよね。
ドクタードクター
その通り。OCTは近赤外光の干渉を利用して網膜の断面像を得る検査で、造影剤も要らず、非接触で数分で終わる。網膜前膜なら、網膜表面に張り付いた高反射の線状の膜、牽引による網膜の肥厚、本来くぼんでいる中心窩陥凹の消失がはっきり写る。膜の存在と網膜への影響を同時に見られるんだ。
医学生医学生
蛍光眼底造影も眼底の検査なので、使えそうな気がしてしまいました。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。蛍光眼底造影は造影剤を静注して血管を写す検査で、蛍光漏出や無灌流領域、脈絡膜新生血管の評価に強い。だから加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症の鑑別では役立つ。でも膜そのものや網膜の断面構造は見えないし、造影剤によるアレルギーやショックのリスクもある。網膜前膜の診断で最初に選ぶ検査ではないんだ。
医学生医学生
色覚検査や静的視野検査はどうですか。黄斑なら色覚にも影響しそうですが。
ドクタードクター
黄斑には錐体が集まっているから、色覚や中心感度が多少落ちることはありうる。ただ、それは非特異的で、どの病気による低下かは区別できない。静的視野検査は緑内障や視路疾患の評価で本領を発揮する検査だね。どちらも網膜の「機能」を見る検査で、膜という「形」は示せない。
医学生医学生
網膜電図も機能検査ですよね。生理学の実習でa波とb波を記録した覚えがあります。
ドクタードクター
よく覚えているね。ERGは光刺激に対する網膜全体の電気的反応を記録するもので、網膜色素変性のような広範な網膜変性の評価に使う。網膜前膜は黄斑に限局した形態変化だから、通常の全視野ERGでは異常が出にくい。つまり、形の異常を診断したいなら形を見る検査、というのが基本なんだ。
医学生医学生
機能検査か形態検査か、そして血管を見るのか断面を見るのか、という整理ですね。
ドクタードクター
その通り。臨床での発展知識も押さえておこう。変視症の自覚的評価にはアムスラーチャートやM-CHARTSを使う。治療は、症状が軽ければ経過観察で、変視や視力低下が生活に支障をきたすなら硝子体手術で膜を鑷子で剥離する。有効な薬物療法はないんだ。
医学生医学生
OCTは手術適応の判断や術後の経過観察にも使えそうですね。
ドクタードクター
まさに。網膜厚を定量できるから、重症度評価や術後の回復の追跡にも欠かせない。さらに黄斑円孔なら中心窩の全層欠損、中心性漿液性脈絡網膜症なら網膜下液、糖尿病などによる黄斑浮腫なら網膜内の嚢胞状変化と、変視症をきたす黄斑疾患はそれぞれOCTで特徴的な像を示す。片眼のゆがみを訴える患者さんでは、片眼ずつ見え方を確認し、OCTで黄斑を評価する、という流れを身につけておこう。

まとめ

直線がゆがんで見える変視症は黄斑の形態変化を示す症状で、矯正視力が出ない片眼性の変視症に、眼底で黄斑表面の光沢のある膜と放射状のしわ、血管の蛇行を認め、出血や滲出がなければ網膜前膜(黄斑上膜)を考えます。診断には網膜の断面像を非侵襲的に得られる光干渉断層計(OCT)が最も有用で、網膜表面の高反射の膜、網膜肥厚、中心窩陥凹の消失を確認できます。色覚検査・静的視野検査・網膜電図は網膜の機能を見る検査、蛍光眼底造影は血管や漏出を見る侵襲的な検査であり、膜そのものは証明できません。治療は症状に応じた硝子体手術による膜剥離で、OCTは重症度評価や手術適応、術後経過の判断にも用いられます。黄斑円孔や黄斑浮腫など他の黄斑疾患もOCTで特徴的な像を示すため、「形の異常は形を見る検査で捉える」という考え方は眼科診療の基本となります。

解答・解説

正解はeです

所見の整理

・48歳の女性。右眼のみで「電柱が曲がって見える」と訴えている。直線がゆがんで見えるこの症状を変視症(歪視)といい、網膜の中心部である黄斑の形が変わったときに生じる代表的な症状である。 ・視力は右0.05(矯正0.6)、左0.1(矯正1.2)。左眼は近視を矯正すれば1.2まで見えるのに対し、右眼は矯正しても0.6にとどまる。つまり右眼には屈折異常(近視)だけでは説明できない病変があり、片眼性の器質的疾患が疑われる。 ・右眼底写真では、黄斑部の網膜表面に光沢のある白っぽい薄い膜がみられ、その膜が縮むことで網膜表面に黄斑へ向かう放射状・不規則なしわ(皺襞)が生じている。網膜血管も膜に引っ張られて蛇行している。出血・硬性白斑・網膜下の滲出などはみられない。

診断へのプロセス

変視症と視力低下を起こす黄斑疾患として、網膜前膜、黄斑円孔、加齢黄斑変性、中心性漿液性脈絡網膜症、網膜静脈閉塞症や糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫などを鑑別する。加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症・糖尿病網膜症では通常、眼底出血・白斑・滲出性変化を伴うが、本例ではそれらがなく、網膜表面の膜としわが目立つ。以上から網膜前膜(黄斑上膜)と診断できる。

設問の考え方

網膜前膜は網膜の表面(内境界膜の上)に張った薄い線維性の膜であり、その存在と、膜の牽引によって網膜がどの程度厚く・変形しているかを直接確認できる検査が診断に役立つ。網膜の断面像を非侵襲的に描出できる光干渉断層計(OCT)がその役割を担う。色覚・視野・網膜電図は網膜の「機能」をみる検査、蛍光眼底造影は血管や漏出をみる検査であり、膜そのものを示すことはできない。

選択肢考察

  1. ×a.  色覚検査

    色の見分けの能力を調べる検査で、先天色覚異常のスクリーニングや、視神経疾患・黄斑疾患による後天色覚異常の評価に用いられる。黄斑部には色覚を担う錐体細胞が密集しているため、黄斑疾患で色覚が多少障害されることはありうるが、異常が出ても非特異的であり、網膜表面の膜を証明することはできない。網膜前膜の診断には役立たない。

  2. ×b.  静的視野検査

    視野内の各点で光の明るさを変えて感度(閾値)を測る検査で、緑内障や視神経・視路疾患の評価に重要である。黄斑疾患では中心部の感度低下が検出されることはあるが、どの疾患による低下かは区別できず、網膜前膜という形態的な異常(膜の存在や網膜のしわ)を示すことはできない。

  3. ×c.  蛍光眼底造影検査

    フルオレセインなどの造影剤を静脈注射し、網膜・脈絡膜の血管を撮影する検査である。血管の走行異常、無灌流領域、蛍光漏出、脈絡膜新生血管などがわかるため、加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症などの鑑別には役立つ。網膜前膜でも牽引による血管の蛇行や軽い漏出が写ることはあるが、膜そのものや網膜の断面構造は評価できない。さらに造影剤によるアレルギー・ショックの危険があり侵襲的であるため、網膜前膜の診断で最初に選ぶ検査ではない。

  4. ×d.  網膜電図検査〈ERG〉

    光刺激に対する網膜の電気的反応を記録し、視細胞をはじめとする網膜全体の機能を評価する検査である。網膜色素変性などの網膜変性疾患、網膜の広範な機能障害の評価、他覚的な網膜機能評価などに用いる。網膜前膜は黄斑部に限局した形態的変化であり、通常の全視野ERGでは異常が出にくく、膜を描出することもできないため診断には用いない。

  5. ○e.  光干渉断層計〈OCT〉

    近赤外光の干渉を利用して網膜の断層像(断面写真)を得る検査で、造影剤が不要、短時間、非接触で患者の負担が小さい。網膜前膜では、網膜表面に張り付いた高反射の線状の膜、その牽引による網膜の肥厚、黄斑の正常な陥凹(中心窩陥凹)の消失、網膜表面のしわが明瞭に描出される。黄斑円孔や黄斑浮腫など他の黄斑疾患との鑑別、網膜厚の定量による重症度評価、手術適応の判断や術後経過の観察にも用いられるため、本症の診断に最も有用である。

網膜前膜(黄斑上膜)の概要

・網膜の内面(内境界膜上)に線維性の膜が形成され、その収縮によって黄斑部の網膜にしわや肥厚が生じる疾患である。 ・多くは特発性で、中高年に多い。後部硝子体剥離が起こる際に網膜表面に残った硝子体の細胞などが増殖して膜をつくると考えられている。網膜裂孔・網膜剥離の術後、ぶどう膜炎、網膜血管疾患などに続発するものもある。 ・症状は変視症(物がゆがんで見える)、視力低下、物の大きさが違って見えること(大視症が多い)など。膜が薄い初期には無症状のこともある。 ・眼底所見は黄斑部の光沢のある膜(セロファン様反射)、網膜のしわ、血管の蛇行など。 ・検査はOCTが診断・評価の中心となる。変視症の自覚的評価にはアムスラーチャート(格子模様の図で、線のゆがみや欠けを確認する)やM-CHARTSが用いられる。 ・治療は、症状が軽ければ経過観察。変視症や視力低下が生活に支障をきたす場合は、硝子体手術を行い、膜を鑷子で剥離する(必要に応じて内境界膜も剥離する)。有効な薬物治療はない。

変視症をきたす主な黄斑疾患とOCTでの特徴

・網膜前膜:網膜表面の高反射の膜、網膜肥厚、中心窩陥凹の消失。 ・黄斑円孔:中心窩の網膜全層の欠損。 ・加齢黄斑変性:網膜色素上皮の隆起や脈絡膜新生血管、網膜下・網膜内の滲出液。 ・中心性漿液性脈絡網膜症:黄斑部の漿液性網膜剥離(網膜下液)。 ・黄斑浮腫(糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症など):網膜内の嚢胞状の液体貯留、網膜肥厚。 いずれもOCTで形態が把握でき、黄斑疾患の鑑別ではOCTが欠かせない。

POINT

・変視症(直線がゆがんで見える)は黄斑疾患を示唆する。 ・矯正しても視力が出ない片眼の変視症+網膜表面の膜としわ → 網膜前膜。 ・網膜前膜の診断・重症度評価・経過観察にはOCT(非侵襲的な網膜断層像)が最も有用。 ・色覚・視野・ERGは機能検査、蛍光眼底造影は血管評価の検査で、膜の証明には向かない。 ・治療は症状に応じて硝子体手術による膜剥離。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。