StudyMed医師国家試験

「治す」が難しくなったとき医療にできること―終末期がんケアは患者と家族の人生を支える

第113回医師国家試験 C問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第113回 C問題 第22問

終末期がん患者のケアについて正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.家族に対するケアも行う。
  2. b.死について考えるのを避けさせる。
  3. c.自然治癒の可能性や新薬発見などへの希望を改めさせる。
  4. d.患者の担っていた社会的役割に配慮したケア計画を立てる。
  5. e.家族との面会よりも医療スタッフによるケアを優先させる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、終末期がん患者のケアの基本姿勢を問う問題だ。病気の知識ではなく、緩和ケアの考え方を理解しているかが試されている。カギは「誰をケアの対象とするか」と「苦痛をどこまで広く捉えるか」の2つだよ。
医学生医学生
緩和ケアというと、痛みをモルヒネで抑えるイメージが強いです。
ドクタードクター
痛みの治療はもちろん大切な柱だ。でもWHOは緩和ケアを、生命を脅かす病気に直面する患者とその家族のQOLを、身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題に早くから対処することで改善するアプローチ、と定義している。対象に家族が入っている点、苦痛を体の痛みだけに限らない点に注目してほしい。
医学生医学生
家族もケアの対象なんですね。だとすると、家族へのケアを行うというのは正しいということですか。
ドクタードクター
その通り。家族は大切な人を失いつつある悲しみと、介護する負担を同時に抱えているから「第2の患者」とも呼ばれる。病状説明や意思決定の支援、介護負担への配慮、それに死別前から始まる予期悲嘆への対応が必要だ。亡くなった後も、遺族へのグリーフケアを続ける。
医学生医学生
緩和ケア病棟の実習で、ご家族だけで面談している場面を見ました。あれも家族ケアの一部だったんですね。
ドクタードクター
そうだね。次は苦痛の捉え方だ。Cicely Saundersが提唱した全人的苦痛(total pain)という概念を覚えているかな。
医学生医学生
身体的、精神的、社会的、スピリチュアルの4つに分ける考え方ですよね。社会的苦痛というのが少しイメージしにくいです。
ドクタードクター
社会的苦痛は、仕事や家庭での役割、経済的な問題、人間関係などに関わる苦しみだ。たとえば会社で責任ある立場だった人や、子育て中の親が、その役割を果たせなくなるのはつらいことだよね。だから、患者が担ってきた社会的役割に配慮してケア計画を立てるのは適切だ。仕事の引き継ぎや家族への思いの伝達など、本人にとって意味のある目標を計画に組み込むんだ。
医学生医学生
では、死について考えるのを避けさせるのはどうでしょう。つらいことを考えさせないほうが優しい気もしてしまいます。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だけど、それは不適切だ。死への恐怖や不安を口に出せる場をつくり、傾聴して受け止めることがスピリチュアルケアの基本になる。どこで最期を迎えたいかといった話し合いにも、死について考えることは欠かせない。ただし、話したくない人に無理に死を直視させる必要もない。大事なのは患者のペースに合わせることだよ。
医学生医学生
自然治癒や新薬への希望を改めさせる、というのも医療者の側から決めつけている感じがします。
ドクタードクター
鋭いね。希望は終末期の患者にとって生きる支えだ。病状は誠実に伝えたうえで、希望を否定せずに受け止める。そして「治すのは難しくても、苦痛を和らげ、望む過ごし方を支える方法はある」と伝え続けることが大切なんだ。
医学生医学生
家族との面会より医療スタッフのケアを優先させる、というのも逆ですよね。
ドクタードクター
その通り。家族と過ごす時間は、多くの患者が最期に大切にしたいと考えるものだ。医療処置は患者の意向に合わせて調整し、家族との時間をできるだけ確保する。誤りの選択肢はどれも、医療者の価値観を押し付けたり、患者の思いや家族との時間を制限したりしている点が共通している。
医学生医学生
患者と家族を一緒に支えて、苦痛は体だけでなく役割や生きる意味まで含めて考える、ということですね。
ドクタードクター
よくまとまっている。発展として、アドバンス・ケア・プランニングも押さえておこう。将来の医療やケアについて、本人が家族や医療チームと前もって繰り返し話し合うプロセスで、日本では「人生会議」という愛称で広められている。意思表示が難しくなった後も、本人の意向に沿ったケアを続けるための土台になる。
医学生医学生
Kübler-Rossの死の受容の5段階も、医療面接の講義で習いました。
ドクタードクター
否認、怒り、取引、抑うつ、受容だね。ただ、全員がこの順番に進むわけではなく、行きつ戻りつしたり重なったりする。どの段階にいても患者の気持ちを否定せず寄り添うこと、そして医師・看護師・薬剤師・ソーシャルワーカー・心理職などの多職種チームで支えることが、臨床ではとても大切だ。

まとめ

終末期がん患者のケアは緩和ケアの考え方に基づき、患者だけでなく家族もケアの対象とし、死別後のグリーフケアまで含めて支えます。苦痛は身体的・精神的・社会的・スピリチュアルの4側面からなる全人的苦痛として捉え、患者が担ってきた仕事や家庭での役割、生きがいにも配慮してケア計画を立てます。死について語ることを封じる、希望を否定する、家族との時間を制限するといった対応は、医療者の価値観の押し付けであり不適切です。アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)や多職種チームでの支援を通じて、患者の意思と尊厳を尊重することが求められます。終末期ケアの原則を理解することは、どの診療科に進んでも、患者と家族に向き合う医師としての基本姿勢につながります。

解答・解説

正解はa, dです

終末期がん患者のケアは、緩和ケアの考え方に基づいて行われる。WHO(世界保健機関)は緩和ケアを「生命を脅かす疾患に直面する患者とその家族のQOL(生活の質)を、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題の早期発見と的確な評価・対処によって改善するアプローチ」と定義している。この定義から、本問を解くための原則は次の3点に整理できる。 1. ケアの対象は患者本人だけでなく家族を含む(死別後の遺族ケアも含む)。 2. 苦痛は身体的苦痛だけでなく、精神的苦痛、社会的苦痛(仕事・家庭内の役割・経済面など)、スピリチュアルペイン(生きる意味や死への恐れなど)を合わせた「全人的苦痛(total pain)」として捉え、それぞれに対応する。 3. 患者の価値観・意思・尊厳を尊重し、患者が望む生き方・過ごし方を支える。死を早めることも遅らせることも意図せず、死を人生の自然な過程として受け止める。 この原則に沿う選択肢が正解であり、医療者側の価値観を押し付けたり、患者の思いや家族との時間を制限したりする選択肢は誤りとなる。

選択肢考察

  1. ○a.  家族に対するケアも行う。

    緩和ケアの対象には家族が明確に含まれる。家族は、大切な人を失いつつある当事者としての悲しみと、患者を支え介護する役割の負担を同時に抱えるため、心身の負担が大きく「第2の患者」とも呼ばれる。病状説明や意思決定への参加支援、介護負担への配慮、予期悲嘆(死別前から始まる悲しみ)への対応を行い、死別後も悲嘆のケア(グリーフケア)を続けることが重要である。

  2. ×b.  死について考えるのを避けさせる。

    死をどう受け止めるかは患者ごとの死生観によって異なり、医療者が考えること自体を禁じるべきものではない。死への恐怖や不安を口にできる場をつくり、傾聴して受け止めることがスピリチュアルケアの基本である。また、残された時間をどう過ごすか、どこで最期を迎えたいかといった話し合い(アドバンス・ケア・プランニング)を進めるうえでも、死について考えることを避けさせるのは不適切である。もちろん、話題にしたくない患者に無理に死を直視させる必要もなく、患者のペースに合わせることが大切である。

  3. ×c.  自然治癒の可能性や新薬発見などへの希望を改めさせる。

    希望は終末期の患者が生きる支えとなるものであり、医療者がそれを否定して改めさせるべきではない。予想以上に病状が安定することや新しい治療が登場することも、可能性としてゼロではない。病状は誠実に伝えたうえで、患者の希望を否定せずに受け止め、「治癒は難しくても、苦痛を和らげ、望む過ごし方を支える手段はある」と伝えて支え続けることが求められる。

  4. ○d.  患者の担っていた社会的役割に配慮したケア計画を立てる。

    仕事、家庭での親・配偶者としての役割、地域での立場などを失うことは、全人的苦痛のうちの社会的苦痛にあたる。患者がそれまで担ってきた役割や生きがいを理解し、仕事の引き継ぎ、家族への思いの伝達、やり残したことの実現など、患者にとって意味のある目標を実現可能な形で盛り込んだケア計画を、患者とともに立てることは適切である。

  5. ×e.  家族との面会よりも医療スタッフによるケアを優先させる。

    終末期において家族と過ごす時間は、患者にとってかけがえのないものであり、多くの患者が大切にしたいことの一つに挙げる。医療処置やケアは患者の意向に沿う形で調整し、面会を制限するのではなく、家族と過ごす時間をできる限り確保できるよう配慮すべきである。

全人的苦痛(total pain)

近代ホスピスの創始者とされるCicely Saundersが提唱した概念で、終末期患者の苦痛を次の4つの側面から捉える。 ・身体的苦痛:痛み、呼吸困難、倦怠感、悪心・嘔吐、日常生活動作の障害など ・精神的苦痛:不安、いらだち、抑うつ、恐れ、孤独感など ・社会的苦痛:仕事上の問題、経済的問題、家庭内の役割・人間関係、相続など ・スピリチュアルペイン:生きる意味や価値への問い、死への恐怖、罪の意識、死生観の揺らぎなど これらは互いに影響し合うため、医師・看護師・薬剤師・医療ソーシャルワーカー・心理職などの多職種チームで対応する。

家族ケアと悲嘆

・予期悲嘆:死別が予想される段階で家族に生じる悲嘆。死別前から気持ちを受け止める支援を行う。 ・グリーフケア:死別後の遺族の悲嘆に対する支援。正常な悲嘆の過程を見守り、長引く強い悲嘆(遷延性悲嘆)に注意する。

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)

将来の医療・ケアについて、患者本人が家族や医療・ケアチームと前もって繰り返し話し合い、意思決定を支援するプロセスである。日本では「人生会議」という愛称で普及が図られている。患者の価値観や希望を共有しておくことで、意思表示が困難になった後も本人の意向に沿ったケアが可能になる。

死の受容過程

Kübler-Rossは、死にゆく患者の心理を否認、怒り、取引、抑うつ、受容の5段階として記述した。ただし、すべての患者がこの順に進むわけではなく、段階を行き来したり重なったりする。医療者は患者がどのような心理状態にあっても、それを否定せず寄り添う姿勢が求められる。

POINT

・緩和ケアの対象は患者と家族。家族は「第2の患者」であり、死別後のグリーフケアまで含む。 ・苦痛は身体的・精神的・社会的・スピリチュアルの全人的苦痛として捉え、社会的役割や生きがいにも配慮する。 ・患者の希望を否定しない、死について語ることを封じない、家族との時間を大切にする。 ・医療者の価値観を押し付けず、患者の意思と尊厳を尊重する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。