右下腹部を押して、離して、横にする―虫垂炎の徴候を胆膵の徴候と見分ける
第113回医師国家試験 C問題 第21問
国試問題にチャレンジ
急性虫垂炎でみられるのはどれか。2つ選べ。
- a.Blumberg徴候
- b.Courvoisier徴候
- c.Grey-Turner徴候
- d.Murphy徴候
- e.Rosenstein徴候
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
急性虫垂炎では、心窩部や臍周囲の痛みが右下腹部へ移り、診察では虫垂の位置に関係する圧痛と腹膜刺激徴候を確認します。Rosenstein徴候は左側臥位でMcBurney点の圧痛が強くなる虫垂炎の徴候で、Blumberg徴候(反跳痛)は炎症が腹膜に広がったことを示す腹膜刺激徴候です。Murphy徴候は急性胆嚢炎、Courvoisier徴候は膵頭部癌など悪性腫瘍による遠位胆管閉塞、Grey-Turner徴候は重症急性膵炎などによる後腹膜出血の所見であり、虫垂炎とは結びつきません。Rovsing徴候、腸腰筋徴候、閉鎖筋徴候もあわせて覚えると、虫垂の位置まで推定できるようになります。人名つきの徴候は「どの臓器のどんな病態を見ているのか」と結びつけて理解することが、ベッドサイドの身体診察を活かす近道です。
解答・解説
正解はa, eです
腹部診察で得られる「徴候(sign)」は、人名が付いたものが多く、それぞれどの疾患・どの病態に結びつくかを整理して覚えておく必要がある。本問は、急性虫垂炎の診察で確認する徴候を、胆道・膵疾患の徴候と区別できるかを問うている。
急性虫垂炎の腹部所見の考え方
急性虫垂炎では、初期に心窩部〜臍周囲の漠然とした痛み(内臓痛)が起こり、炎症が虫垂周囲の壁側腹膜に及ぶと右下腹部に限局した鋭い痛み(体性痛)へ移動する。診察では次の2系統の所見を確認する。 1. 虫垂の位置に一致する圧痛点や、体位・操作で圧痛が強まる徴候(McBurney点、Lanz点、Rosenstein徴候、Rovsing徴候など) 2. 炎症が腹膜に波及したことを示す腹膜刺激徴候(Blumberg徴候=反跳痛、筋性防御など) 選択肢のうち、1に該当するのがRosenstein徴候、2に該当するのがBlumberg徴候である。残りのCourvoisier徴候・Murphy徴候は胆道系、Grey-Turner徴候は膵炎などの後腹膜出血を示す所見であり、虫垂炎の診察所見ではない。
選択肢考察
- ○a. Blumberg徴候
腹壁をゆっくり圧迫したのち、手を急に離したときに痛みが増強する現象で、反跳痛(rebound tenderness)とも呼ばれる。圧迫を急に解除すると炎症のある壁側腹膜が急に動いて刺激されるため痛みが生じるもので、腹膜炎の存在を示す腹膜刺激徴候の代表である。急性虫垂炎では炎症が虫垂周囲の腹膜に及ぶと右下腹部に陽性となるため、虫垂炎でみられる所見として正しい。なお虫垂炎に特異的な徴候ではなく、腹膜炎を起こす疾患全般で陽性になりうる。
- ×b. Courvoisier徴候
閉塞性黄疸の患者で、圧痛のない緊満した胆嚢を右季肋部に触知する所見である。膵頭部癌、遠位胆管癌、乳頭部癌など、胆嚢管合流部より下流(十二指腸側)の胆管が悪性腫瘍で徐々に閉塞した場合にみられる。胆石による閉塞では慢性炎症で胆嚢壁が線維化・萎縮していることが多く、胆嚢は腫大しにくい。虫垂炎とは関係しない。
- ×c. Grey-Turner徴候
側腹部(主に左側腹部)の皮膚に現れる青紫〜暗赤色の皮下出血斑である。重症急性膵炎(出血性膵炎)などで後腹膜に広がった出血や滲出液が皮下に及ぶことで生じる。臍周囲に同様の着色が現れるものはCullen徴候と呼ばれる。いずれも膵炎に特異的ではなく、腹部大動脈瘤破裂や異所性妊娠破裂など腹腔内・後腹膜出血でもみられる。虫垂炎の所見ではない。
- ×d. Murphy徴候
検者が右季肋部(胆嚢の位置)を指で圧迫したまま患者に深く息を吸わせると、下降してきた炎症胆嚢が指に当たって痛み、吸気が途中で止まる現象である。急性胆嚢炎に特徴的な所見で、超音波プローブで胆嚢を圧迫して同様の圧痛を確かめるものはsonographic Murphy徴候という。虫垂炎の所見ではない。
- ○e. Rosenstein徴候
McBurney点付近の圧痛が、仰臥位よりも左側臥位で強くなる現象である。左側臥位になると盲腸・虫垂が腸間膜ごと内側(左)へ移動し、炎症部位が腹壁側から圧迫されやすくなる、あるいは腸間膜が牽引されることで痛みが増すと説明される。急性虫垂炎の診察で用いられる徴候であり、正しい。
急性虫垂炎の主な圧痛点と徴候
・McBurney点:臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外側1/3の点。虫垂炎で最もよく知られた圧痛点。 ・Lanz点:左右の上前腸骨棘を結ぶ線の右1/3の点。 ・Kümmell点:臍の右下1〜2cmの点。 ・Rosenstein徴候:左側臥位でMcBurney点の圧痛が増強する。 ・Rovsing徴候:左下腹部を圧迫すると、腸管内ガスが逆行性に盲腸側へ押されて右下腹部に痛みが生じる。 ・Blumberg徴候(反跳痛)、筋性防御:腹膜刺激徴候。炎症が壁側腹膜に及んだことを示す。 ・腸腰筋徴候(psoas sign):左側臥位で右股関節を伸展させると右下腹部痛が誘発される。後腹膜側(盲腸後位)の虫垂炎で陽性になりやすい。 ・閉鎖筋徴候(obturator sign):右股関節・膝関節を屈曲させ股関節を内旋させると下腹部痛が誘発される。骨盤内に垂れ下がった虫垂の炎症で陽性になりやすい。 ・Heel drop sign(踵落とし試験):つま先立ちから踵を落とすと右下腹部に響く痛みが生じる。腹膜刺激を反映する。
胆道・膵疾患でみられる徴候
・Murphy徴候:急性胆嚢炎。 ・Courvoisier徴候:悪性腫瘍による遠位胆管閉塞(膵頭部癌、遠位胆管癌、乳頭部癌など)。 ・Grey-Turner徴候(側腹部)・Cullen徴候(臍周囲):重症急性膵炎などによる後腹膜・腹腔内出血。
急性虫垂炎の典型的な経過
心窩部・臍周囲痛で始まり、食欲不振・悪心嘔吐を伴い、数時間〜半日ほどで右下腹部痛へ移動する(痛みの移動)。発熱は通常38℃前後までの微熱で、白血球増多を伴う。診断にはAlvarado scoreなどの臨床スコアや、腹部超音波・CTによる腫大虫垂(短径6mm以上が目安)や周囲脂肪織濃度上昇の確認が用いられる。
POINT
・急性虫垂炎の徴候:McBurney点・Lanz点の圧痛、Rosenstein徴候(左側臥位で圧痛増強)、Rovsing徴候、腸腰筋徴候、閉鎖筋徴候。 ・Blumberg徴候(反跳痛)は腹膜刺激徴候で、虫垂炎による限局性腹膜炎で陽性となる。 ・Murphy徴候=急性胆嚢炎、Courvoisier徴候=悪性の遠位胆管閉塞(膵頭部癌など)、Grey-Turner徴候/Cullen徴候=重症急性膵炎などの出血。
