StudyMed医師国家試験

臍から右下腹部へ―「移動する痛み」を見たら次の一手は腹部CT

第119回医師国家試験 B問題 第35問

国試問題にチャレンジ

第119回 B問題 第35問

A 25-year-old man presented with abdominal pain which started two days ago. Yesterday, the pain was periodic and located around the periumbilical area. Today, the pain is persistent and localized in the right lower abdomen. His body temperature is 37.7℃, pulse rate 90/min, blood pressure 120/62mmHg, and respiratory rate 16/min. Physical examination shows rebound tenderness at the right lower abdomen.  Which one of the following should be performed next?

  1. a.Abdominal CT
  2. b.Central venous (CV) catheterization
  3. c.Gastrointestinal endoscopy
  4. d.Magnetic resonance cholangiopancreatography (MRCP)
  5. e.Nasogastric tube insertion

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は英語の症例問題だけど、内容は急性腹痛の王道だ。注目してほしいのは「痛みの場所が時間とともにどう変わったか」と、「疑った病気を確かめるために次に何をするか」の2点。まず、痛みの経過からどんな病気が浮かぶかな。
医学生医学生
最初は臍のまわり、翌日に右下腹部へ移っているので、急性虫垂炎の典型的な経過だと思います。
ドクタードクター
その通り。では、なぜ痛みが移動するのか説明できるかな。
医学生医学生
えっと……炎症が虫垂から臍のほうへ広がって、それから戻ってくる、とかでしょうか。
ドクタードクター
惜しいけど、炎症自体が動くわけではないんだ。初期は虫垂の内腔が糞石やリンパ濾胞の腫大で閉塞し、内圧が上がって内臓痛が起こる。内臓痛は局在がはっきりせず、虫垂は中腸由来だから、T10の皮膚分節にあたる臍周囲に感じる。その後、炎症が虫垂の外に及んで壁側腹膜を刺激すると、体性神経の支配で病変の真上、つまり右下腹部に鋭い痛みが限局するんだ。
医学生医学生
生理学の講義で習った内臓痛と体性痛の違いが、そのまま症状の経過に出ているんですね。
ドクタードクター
そういうこと。さらに微熱と右下腹部の反跳痛、いわゆるBlumberg徴候がある。これは炎症が壁側腹膜まで達した、限局性腹膜炎を示す所見だ。一方でバイタルは大きく崩れておらず、ショックや汎発性腹膜炎を思わせる状況ではない。
医学生医学生
ここまで典型的なら、すぐ手術でもいいような気もしてしまいます。
ドクタードクター
気持ちはわかるけど、まずは診断の確定と重症度の評価が必要だ。穿孔や膿瘍があるか、糞石があるかで、手術のタイミングや抗菌薬中心でいくかといった方針が変わる。そこで成人で標準的に行うのが腹部CTだ。虫垂の腫大や壁肥厚、周囲脂肪織の濃度上昇、糞石、膿瘍などを高い感度・特異度で評価できるし、憩室炎や尿路結石など他の右下腹部痛の鑑別にも役立つ。
医学生医学生
消化器外科の実習で、CTで虫垂の周りの脂肪が白っぽく濁って見えるのを指導医に教わりました。あれが炎症の波及なんですね。
ドクタードクター
まさにそれが脂肪織濃度上昇だ。では他の選択肢も見ていこう。消化管内視鏡はどうだろう。
医学生医学生
大腸内視鏡で虫垂の開口部を見れば何かわかりそうですが……。
ドクタードクター
開口部を見ても虫垂炎の診断はできないんだ。むしろ腹膜炎のある急性期に前処置や送気をすると、腸管内圧が上がって穿孔を誘発・悪化させるおそれがある。急性期には避けるべき検査だね。MRCPはどうかな。
医学生医学生
MRCPは胆管や膵管を見る検査なので、総胆管結石や膵胆道系の病気を疑うときですね。黄疸も右季肋部痛もないので合いません。
ドクタードクター
正解。残りの2つ、中心静脈カテーテルと経鼻胃管は検査ではなく処置だ。それぞれどんなときに使うか言えるかな。
医学生医学生
CVカテーテルは長期の高カロリー輸液や昇圧薬の投与、経鼻胃管は腸閉塞で嘔吐を繰り返すときの減圧、でしょうか。
ドクタードクター
よく整理できている。この患者は循環が安定していて輸液や抗菌薬は末梢ルートで十分だし、気胸や感染といった合併症のあるCVを診断前に入れる理由はない。嘔吐や腹部膨満など腸閉塞を示す所見もないから、経鼻胃管も今は不要だ。
医学生医学生
虫垂炎を疑ったら、診断と重症度評価のために画像を撮る、というのが次の一手なんですね。
ドクタードクター
そう。発展として押さえておきたいのは、小児や妊婦では被曝を避けるため、まず超音波検査を行うこと。妊婦で超音波でもはっきりしなければMRIも使う。治療は絶食・輸液と、グラム陰性桿菌と嫌気性菌をカバーする抗菌薬を開始し、標準は腹腔鏡下虫垂切除術だ。糞石のない単純性虫垂炎では抗菌薬による保存的治療も選択肢になるけれど、再発の可能性は説明しておく必要がある。
医学生医学生
穿孔して膿瘍ができていたらどうするんですか。
ドクタードクター
緊急手術のほか、抗菌薬と経皮的ドレナージで炎症を落ち着かせてから、待機的に虫垂を切除するinterval appendectomyという方法もある。それから、女性の右下腹部痛では異所性妊娠や卵巣茎捻転などの婦人科疾患を必ず鑑別に入れること。CBTでも臨床実習でも繰り返し問われるポイントだよ。
医学生医学生
痛みの移動で虫垂炎を疑って、CTで確かめて重症度まで評価する。英語でも考える流れは同じですね。
ドクタードクター
その通り。英語問題は単語に戸惑わず、いつもの臨床推論に落とし込めば怖くないよ。

まとめ

臍周囲から右下腹部へ移動する痛み、右下腹部の反跳痛、微熱は急性虫垂炎の典型像で、痛みの移動は内臓痛から壁側腹膜刺激による体性痛への変化として説明できます。虫垂炎を疑ったら、成人では腹部CTで虫垂の腫大や周囲脂肪織濃度上昇、糞石、穿孔・膿瘍の有無を評価し、診断の確定と治療方針の決定につなげます。小児や妊婦では被曝を避けるため超音波検査を優先し、必要に応じてMRIを用います。腹膜炎のある急性期の消化管内視鏡は穿孔のリスクがあり、MRCPは胆道・膵疾患の検査、CVカテーテルや経鼻胃管は栄養管理や腸閉塞の減圧のための処置で、いずれも診断前の次の一手ではありません。典型的な症状から疾患を想定し、適切な画像検査で確かめるという流れは、急性腹痛診療全般の基本となる考え方です。

解答・解説

正解はaです

問題文の和訳

25歳の男性。2日前に始まった腹痛を主訴に来院した。昨日の痛みは間欠的で、臍の周りにあった。今日は痛みが持続的になり、右下腹部に限局している。体温37.7℃、脈拍90/分、血圧120/62mmHg、呼吸数16/分。身体診察で右下腹部に反跳痛を認める。 次に行うべきものはどれか。 a 腹部CT b 中心静脈(CV)カテーテル留置 c 消化管内視鏡検査 d 磁気共鳴胆管膵管撮影(MRCP) e 経鼻胃管挿入

所見の整理

・若年男性の急性腹痛で、発症から2日経っている。 ・痛みが、はじめは臍周囲の周期的な痛みで、その後、右下腹部の持続痛へ移っている(migrating pain:疼痛の移動)。初めの臍周囲痛は、虫垂の内圧上昇による内臓痛(局在がはっきりしない鈍い痛みで、中腸由来の臓器では臍周囲に感じる)である。炎症が虫垂の外側に及んで壁側腹膜を刺激すると、体性痛として右下腹部(McBurney点付近)に限局した鋭い痛みになる。急性虫垂炎に典型的な経過である。 ・37.7℃の微熱と右下腹部の反跳痛(Blumberg徴候)があり、炎症が壁側腹膜に及んでいる(限局性腹膜炎)ことを示す。 ・バイタルサインはおおむね安定しており、ショックや汎発性腹膜炎を示す所見はない。

診断と鑑別

疼痛の移動、右下腹部の圧痛、反跳痛、発熱を伴い、急性虫垂炎がもっとも疑われる。なお、白血球増多・左方移動、食欲不振、悪心・嘔吐の有無なども合わせて評価するとよい(Alvarado scoreなど)。右下腹部痛の鑑別としては、回盲部に病変をつくる疾患(右側結腸憩室炎、Crohn病、腸結核、エルシニアなどによる感染性腸炎・腸間膜リンパ節炎、悪性リンパ腫、虫垂腫瘍)や尿路結石が挙がる。女性であれば、異所性妊娠や卵巣茎捻転、骨盤内炎症性疾患などの婦人科疾患も重要な鑑別となるが、本例は男性なので考えなくてよい。若年者なので、悪性腫瘍の可能性は低い。

設問への考え方

急性虫垂炎を疑ったら、次に行うのは診断の確定と重症度の評価のための画像検査である。腹部CTは虫垂の腫大や壁肥厚、周囲脂肪織の濃度上昇、糞石、穿孔・膿瘍形成の有無を高い感度・特異度で評価でき、鑑別診断にも役立つ。また、手術か保存的治療かの方針決定にも直結する。したがって「次に行う」のは腹部CTである。

選択肢考察

  1. ○a.  Abdominal CT

    腹部CTは、急性虫垂炎の診断で感度・特異度ともに90%以上と高く、成人の虫垂炎を疑ったときの標準的な画像検査である。虫垂の腫大(径6mmを超える)、壁肥厚・造影効果、周囲脂肪織の濃度上昇、糞石、腹水を確認でき、穿孔や膿瘍形成など複雑性虫垂炎かどうかも判定できる。これらの所見は、手術を行うか抗菌薬による保存的治療を行うかの判断や、膿瘍ドレナージの要否の決定に役立つ。さらに、憩室炎や尿路結石など、ほかの右下腹部痛の原因を見分けることもできる。なお、腹部超音波検査も被曝がなく有用な検査で、特に小児や妊婦では最初に行う画像検査となる。

  2. ×b.  Central venous (CV) catheterization

    CVカテーテルは、長期間経口摂取できない患者への高カロリー輸液(中心静脈栄養)や、末梢からは投与しにくい薬剤(高濃度のカリウムや昇圧薬など)を投与する場合、また循環動態のモニタリングが必要な重症例などで留置する。本例は循環動態が安定しており、輸液や抗菌薬は末梢静脈ルートで十分に投与できる。気胸や感染などの合併症もあるカテーテルを、診断が確定する前に留置する理由はない。

  3. ×c.  Gastrointestinal endoscopy

    上部消化管内視鏡は食道・胃・十二指腸の病変(消化性潰瘍など)の評価に用いるが、本例は右下腹部の腹膜刺激症状であり、適応はない。下部消化管内視鏡(大腸内視鏡)で虫垂開口部を観察しても、虫垂炎の診断はできない。それどころか、腹膜炎のある急性期に送気や前処置を行うと、腸管内圧の上昇により穿孔を誘発・悪化させるおそれがあるため避けるべきである。

  4. ×d.  Magnetic resonance cholangiopancreatography (MRCP)

    MRCPは造影剤を使わずに胆管や膵管を描出するMRI検査で、総胆管結石、胆管・膵管の狭窄や拡張、膵胆管合流異常など、胆道・膵疾患を疑うときに行う。本例の痛みは右下腹部に限局し、黄疸や右季肋部痛など胆道・膵疾患を示す所見はないため、適応はない。

  5. ×e.  Nasogastric tube insertion

    経鼻胃管は、腸閉塞(イレウス)で消化管内容が停滞して嘔吐を繰り返す場合の減圧や、上部消化管出血の評価・洗浄などで用いる。本例には嘔吐や腹部膨満など腸閉塞を示す所見がなく、挿入の必要はない。虫垂炎が進行して麻痺性イレウスを起こした場合には検討されるが、診断がつく前の「次に行う」ことではない。

急性虫垂炎の概要

・虫垂の内腔が糞石やリンパ濾胞の増生などで閉塞し、内圧上昇・血流障害・細菌増殖が起きて炎症を来す。10〜20歳代に多いが、どの年齢にも起こる。 ・典型的な経過:心窩部〜臍周囲の痛み(内臓痛)、食欲不振・悪心・嘔吐、右下腹部へ痛みが移動(体性痛)、発熱。 ・身体所見:McBurney点(臍と右上前腸骨棘を結ぶ線上の外側1/3の点)やLanz点の圧痛、Blumberg徴候(反跳痛)、Rovsing徴候(左下腹部を圧迫すると右下腹部が痛む)、Rosenstein徴候(左側臥位で圧痛が強まる)、psoas徴候(右股関節を伸展すると痛む:後腹膜側の虫垂炎)、筋性防御(腹膜炎の進行を示す)。 ・検査:白血球増多(核の左方移動)、CRP上昇(発症早期には低いことがある)。画像検査では、成人では腹部CTの診断能が高い。小児・妊婦では被曝を避けるため、まず超音波検査を行い、妊婦で診断がつかない場合はMRIも用いる。 ・臨床スコア:Alvarado score(疼痛の移動、食欲不振、悪心・嘔吐、右下腹部の圧痛、反跳痛、発熱、白血球増多、左方移動の8項目で10点満点)が、虫垂炎の可能性の推定に用いられる。

治療

・絶食、輸液、抗菌薬(グラム陰性桿菌と嫌気性菌をカバーする)を開始する。 ・虫垂切除術(現在は腹腔鏡下手術が主流)が標準治療である。糞石のない単純性(非穿孔性)虫垂炎では、抗菌薬による保存的治療も選択肢となるが、再発の可能性がある。 ・穿孔・膿瘍を形成した複雑性虫垂炎では、緊急手術に加え、抗菌薬投与と経皮的ドレナージで炎症を落ち着かせてから、待機的に虫垂切除を行う方法(interval appendectomy)も選択される。

痛みの移動の機序

虫垂は中腸に由来するため、初期の内臓痛はT10の皮膚分節に相当する臍周囲に感じる。炎症が漿膜・壁側腹膜に及ぶと、体性神経の支配で病変部位に一致した限局痛となる。

POINT

・臍周囲(心窩部)から右下腹部へ移動する痛み、右下腹部の圧痛・反跳痛、微熱があれば、急性虫垂炎を考える。 ・成人の虫垂炎の診断と重症度評価(穿孔・膿瘍の有無)には腹部CTが有用。小児・妊婦ではまず超音波検査を行う。 ・腹膜炎のある急性期に消化管内視鏡は行わない。MRCPは胆道・膵疾患の検査である。 ・CVカテーテルや経鼻胃管は、それぞれ長期の栄養管理や腸閉塞の減圧のための処置で、診断前の初期対応ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。