終末期の「食べられない」にどう寄り添うか―NSTが最初に提案すべきは口腔ケア
第119回医師国家試験 B問題 第36問
国試問題にチャレンジ
82歳の女性。膵癌肝転移のため緩和ケア病棟に入院中である。1週間前から食欲が低下し,徐々に食事摂取量が減少している。体重の変化はない。意識は清明。身長150cm,体重36kg。体温36.2℃。脈拍80/分,整。血圧108/58mmHg。皮膚のツルゴールは低下している。口腔内の衛生状態は不良で,乾燥している。腹部は平坦,軟である。下腿に浮腫を認めない。血液所見:赤血球320万,Hb 9.2g/dL,Ht 30%,白血球8,200,血小板23万。血液生化学所見:総蛋白5.8g/dL,アルブミン2.8g/dL,AST 24U/L,ALT 28U/L,尿素窒素28mg/dL,クレアチニン1.0mg/dL。栄養サポートチーム〈NST〉に介入依頼を行うことになった。 この患者に対するNSTの活動で正しいのはどれか。
- a.胃瘻造設を提案する。
- b.口腔ケアの実施を提案する。
- c.緩和ケアチームとは独立して活動する。
- d.体重が4kg以上減少してから介入する。
- e.栄養療法の実施にあたり主治医の許諾は不要である。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
栄養サポートチーム(NST)は、医師・看護師・管理栄養士・薬剤師・歯科医師・歯科衛生士などで構成される多職種チームで、主治医の依頼を受けて栄養評価や栄養療法の提案・助言を行い、実施には主治医の同意が必要です。低栄養のリスクがある患者には体重減少を待たずに早期に介入し、緩和ケアチームなど他チームとも連携して活動します。終末期の癌患者では栄養状態の改善よりもQOLの維持が目標となり、不可逆的悪液質では胃瘻造設などの侵襲的な栄養補給は苦痛を増やしうるため、原則として勧めにくくなります。口腔内の不衛生や乾燥は食欲低下や誤嚥性肺炎の原因となるため、侵襲が少なく経口摂取と快適さを支える口腔ケアが適切な提案です。患者の病期に応じて栄養管理の目標を見直す視点は、チーム医療と緩和ケアの実践に欠かせません。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・82歳女性、膵癌の肝転移があり緩和ケア病棟に入院中で、いわゆる終末期の状態である。 ・1週間前から食欲が落ち、食事量が少しずつ減っている。体重はまだ変わっていない。 ・身長150cm、体重36kgで、BMI(体格指数=体重kg÷身長mの2乗)は36÷1.5²=約16.0と、もともと明らかなやせ(18.5未満)である。 ・皮膚ツルゴール(皮膚をつまんで離したときの戻りやすさ)の低下、口腔内乾燥、BUN 28mg/dLの上昇(クレアチニン1.0mg/dLに比べBUN/Cr比が約28と高い)から、脱水傾向がうかがえる。 ・総蛋白5.8g/dL、アルブミン2.8g/dLと低下しており、摂取量の減少や癌悪液質(癌に伴う代謝異常で筋肉や脂肪が失われていく状態)を背景とした低栄養が示唆される。ただしアルブミンは炎症や脱水の影響も受けるため、栄養指標としては摂取状況や体重の推移とあわせて評価する。 ・Hb 9.2g/dLの軽度貧血もある。 ・口腔内の衛生状態が不良で乾燥している点は、本問の解答に直結する重要な所見である。
考え方
栄養サポートチーム〈NST: Nutrition Support Team〉は、医師・看護師・管理栄養士・薬剤師・歯科医師・歯科衛生士・言語聴覚士・臨床検査技師などで構成される多職種チームで、栄養状態の評価(スクリーニング・アセスメント)、適切な栄養投与ルートと内容の提案、合併症の予防、経過のモニタリングを担う。NSTは主治医の依頼を受けて助言・提案を行う立場であり、最終的な治療方針は主治医が患者・家族と相談して決める。 終末期の癌患者では、積極的に栄養を入れて体重や検査値を改善させることよりも、苦痛を減らし生活の質(QOL)を保つことが栄養管理の目標になる。悪液質が進んだ段階(不可逆的悪液質)では、人工的な栄養補給を強化しても栄養状態の改善は期待しにくく、かえって浮腫・胸腹水・気道分泌物の増加などの負担になりうる。 この患者では、口腔内の不衛生と乾燥が食欲低下・味覚の変化・口の痛み・摂食時の不快感につながっている可能性があり、さらに誤嚥性肺炎や口腔カンジダ症などの口腔内感染症の危険因子でもある。口腔ケアは侵襲がほとんどなく、口から食べる楽しみを支え、快適さを高める手段であり、終末期の目標に最も合った提案といえる。
選択肢考察
- ×a. 胃瘻造設を提案する。
膵癌肝転移の終末期で緩和ケア病棟に入院中の82歳であり、予後は限られていると考えられる。胃瘻造設は内視鏡下とはいえ侵襲を伴う処置で、造設後も経管栄養による下痢・嘔吐・誤嚥、瘻孔トラブルなどの負担がある。進行した癌悪液質では栄養を投与しても体重や筋肉量の回復は期待しにくく、輸液や経管栄養の過剰はむしろ浮腫・胸腹水・気道分泌物の増加を招き苦痛を増すことがある。QOLを優先する終末期の栄養方針にそぐわず、NSTから第一に提案する内容ではない。
- ○b. 口腔ケアの実施を提案する。
口腔内の衛生状態が不良で乾燥しているという所見に直接対応する提案である。口腔ケア(歯や舌の清掃、保湿、義歯の管理など)により、口の不快感や痛み・味覚の変化が和らぎ、食欲や経口摂取量の改善につながりうる。また口腔内細菌を減らすことで、誤嚥性肺炎や口腔カンジダ症などの合併症予防にも役立つ。侵襲が少なく、口から食べることを支えて快適さを高めるため、終末期患者の栄養支援として適切であり、歯科医師・歯科衛生士・看護師を含む多職種チームであるNSTの役割にも合致する。
- ×c. 緩和ケアチームとは独立して活動する。
緩和ケアでは、身体的苦痛だけでなく心理的・社会的・スピリチュアルな苦痛にも対応するため、多職種が情報を共有して協働するチーム医療が基本となる。終末期患者の栄養管理は、どこまで栄養を投与するかという方針そのものが緩和ケアの目標と密接に関わるため、NSTは緩和ケアチームや主治医、病棟スタッフと連携して活動すべきであり、独立して動くのは誤りである。
- ×d. 体重が4kg以上減少してから介入する。
NSTには、低栄養が進む前にリスクのある患者を見つけて早期に介入する役割がある。本患者は体重36kg(BMI約16)ともともと著しいやせで、1週間前から摂取量が減り、低アルブミン血症や脱水傾向もみられる。体重36kgからの4kg減少は10%以上に相当し、そこまで待てば全身状態はさらに悪化する。体重減少を介入開始の条件とする根拠はなく、摂取量の減少に気づいた時点で介入するのが望ましい。
- ×e. 栄養療法の実施にあたり主治医の許諾は不要である。
NSTは主治医からの依頼に基づいて栄養評価を行い、栄養療法の内容を提案・助言する支援チームである。治療方針の決定と責任は主治医にあり、NSTの提案を実際に実施する際には主治医の同意(許諾)が必要である。主治医と常に情報を共有しながら進めることが求められる。
栄養サポートチーム〈NST〉とは
・医師、看護師、管理栄養士、薬剤師を中心に、歯科医師、歯科衛生士、言語聴覚士、理学療法士、臨床検査技師などが加わる多職種チームである。 ・主な活動:栄養スクリーニングによる低栄養リスク患者の抽出、栄養アセスメント(身体計測・食事摂取量・血液検査など)、必要エネルギー量や投与経路の提案、栄養療法に伴う合併症の予防と対応、定期的な回診とモニタリング。 ・主治医の依頼を受けて助言・提案を行う立場であり、実施の判断は主治医が行う。診療報酬上も「栄養サポートチーム加算」として評価されている。
栄養投与経路の選択の原則
・腸が使えるなら腸を使う(経口>経腸栄養>静脈栄養)のが基本である。 ・経腸栄養が4週間以上の長期にわたると見込まれる場合は胃瘻などの消化管瘻が検討されるが、適応は予後、本人・家族の意思、QOLを踏まえて判断する。
終末期癌患者の栄養管理
・癌悪液質は、前悪液質→悪液質→不可逆的悪液質と進行する。不可逆的悪液質の段階では、栄養投与を強化しても栄養状態の改善は困難で、過剰な輸液・栄養は浮腫、胸腹水、気道分泌物の増加などで苦痛を増やしうる。 ・このため終末期では、栄養状態の改善よりも、口から食べる楽しみや快適さの維持(症状緩和、QOL)が目標となる。好きなものを少量ずつ食べる、口腔ケアで口の不快感を除くといった支援が中心になる。
口腔ケアの意義
・口腔内の清掃と保湿により、口腔乾燥・口内炎・口腔カンジダ症による痛みや味覚異常を軽減し、経口摂取を支える。 ・口腔内細菌を減らして誤嚥性肺炎の予防に寄与する。高齢者や全身状態の悪い患者で特に重要である。
POINT
・NSTは多職種チームであり、主治医の依頼を受けて栄養療法を提案・助言する。実施には主治医の同意が必要で、緩和ケアチームなど他のチームとも連携して活動する。 ・低栄養のリスクを早期に見つけて介入するのが原則で、体重が大きく減るまで待たない。 ・終末期癌患者の栄養管理はQOLの維持が目標であり、胃瘻造設など侵襲的な栄養補給は原則として勧めにくい。 ・口腔内の不衛生・乾燥には口腔ケアで対応する。口腔ケアは経口摂取の支援と誤嚥性肺炎の予防に役立つ。
