レントゲンに写らない石を探せ―痛風患者の激しい背部痛と単純CTの出番
第119回医師国家試験 B問題 第37問
国試問題にチャレンジ
53歳の男性。突然生じた強い左背部痛を主訴に救急車で搬入された。2年前から痛風で尿酸排泄促進薬を内服している。身長175cm,体重91kg。体温36.0℃。心拍数76/分,整。血圧162/92mmHg。呼吸数16/分。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。左肋骨脊柱角に叩打痛を認める。尿所見:蛋白1+,糖(-),潜血3+,沈渣に赤血球多数/HPF,白血球1~5/HPF。腹部超音波検査で左水腎症を認める。腹部エックス線写真で異常を認めない。 次に行うべき検査はどれか。
- a.FDG-PET
- b.膀胱鏡検査
- c.腹部単純CT
- d.膀胱造影検査
- e.腎シンチグラフィ
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
急な片側背部痛に肋骨脊柱角叩打痛、血尿、同側の水腎症がそろえば尿管結石をまず考えます。尿路結石の多くはカルシウム結石でエックス線写真に写りますが、尿酸結石はエックス線陰性で、痛風、尿酸排泄促進薬の内服、肥満、酸性尿が危険因子です。エックス線写真に写らない結石を疑ったら、成分にかかわらずほぼすべての結石を描出でき、閉塞部位や他疾患の評価もできる腹部単純CTで確認します。FDG-PETや腎シンチグラフィ、膀胱鏡・膀胱造影は目的が異なり、急性期の結石診断には用いません。尿酸結石は飲水と尿のアルカリ化で溶解が期待できるため、成分を見抜くことが治療方針にも直結する点を押さえておきましょう。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・53歳男性、突然発症した強い左背部痛で救急搬送されている。発症が急で痛みが強い点は、尿管結石による疝痛発作(尿管がけいれん性に収縮して起こる激しい痛み)に典型的である。 ・2年前から痛風に対して尿酸排泄促進薬(ベンズブロマロンなど)を内服している。この薬は腎からの尿酸排泄を増やすため尿中尿酸濃度が上がり、尿酸結石の危険因子となる。 ・身長175cm、体重91kgでBMIは約29.7と肥満であり、血圧も162/92mmHgと高い。肥満・高血圧・高尿酸血症(メタボリックシンドローム的な背景)は尿路結石、とくに尿酸結石と関連が深い。 ・左肋骨脊柱角〈CVA〉叩打痛は、腎被膜が引き伸ばされたり腎に炎症があったりすることを示す。 ・尿潜血3+、沈渣で赤血球多数は尿路からの出血を示す。白血球は1〜5/HPFとほぼ正常で発熱もなく、腎盂腎炎などの尿路感染症は考えにくい。 ・腹部超音波で左水腎症があり、左尿路のどこかに通過障害(閉塞)があることがわかる。 ・腹部エックス線写真(KUB:腎・尿管・膀胱部単純撮影)で異常がない。
診断の流れ
急な片側背部痛+CVA叩打痛+血尿+同側の水腎症という組み合わせは、尿管結石を強く示唆する。尿路結石の大部分はカルシウム結石(シュウ酸カルシウム、リン酸カルシウム)で、これらはエックス線写真に白く写る。ところが本例では写っておらず、エックス線を透過する(写らない)結石、すなわちエックス線陰性結石が考えられる。その代表が尿酸結石であり、尿酸排泄促進薬の内服、痛風、肥満という背景がこれを裏づける。 一方、水腎症を起こすがエックス線で写らない病変としては、腎盂・尿管腫瘍(尿路上皮癌)や尿管狭窄も鑑別に挙がる。また高血圧のある中年男性の突然の背部痛では、大動脈解離などの血管性疾患も念頭に置く必要がある。
次に行うべき検査
これらを一度に評価でき、エックス線陰性の尿酸結石も明瞭に描出できるのが腹部単純CTである。尿路結石を疑う急性腹痛・背部痛の診断では、単純CTが最も感度・特異度の高い画像検査として標準的に用いられる。
選択肢考察
- ×a. FDG-PET
FDG-PETは、ブドウ糖類似物質である18F-FDG(フルオロデオキシグルコース)が糖代謝の盛んな細胞に集まる性質を利用し、主に悪性腫瘍の病期診断や転移・再発の検索に用いる検査である。結石の診断には役立たない。またFDGは尿中に排泄されるため、もともと腎・尿路の評価には向かない。保険適用も原則として悪性腫瘍が診断済み(または強く疑われる)場合などに限られ、救急の初期検査として行うものではない。
- ×b. 膀胱鏡検査
膀胱鏡検査は尿道から内視鏡を入れて膀胱内を直接観察する検査で、膀胱癌の診断(特に肉眼的血尿の精査)や膀胱結石、膀胱内異物の確認などに用いる。本例は片側の背部痛と同側水腎症があり、病変は膀胱より上の左上部尿路(腎盂・尿管)にあると考えられる。侵襲を伴う検査でもあり、急性期にまず行う検査ではない。
- ○c. 腹部単純CT
尿酸結石はエックス線写真では写らないが、CTでは周囲の軟部組織より明らかに高いCT値を示して白く描出される(カルシウム結石ほど高値ではないが、診断には十分)。CTでは結石の位置・大きさ・数、水腎症の程度、腎周囲の脂肪組織の毛羽立ちなどの閉塞に伴う変化を評価でき、拡張した腎盂から尿管を下方へたどると閉塞部位を特定できる。結石の大きさと位置は、自然排石を待つか、結石破砕術などの治療が必要かの判断にも直結する。閉塞部位に結石がなく軟部組織の陰影があれば尿管腫瘍を疑い、造影CTや逆行性腎盂造影などの追加検査へ進む。造影剤を使わないので腎機能への影響もなく、救急の場で短時間に施行でき、大動脈解離など他の疾患の手がかりも得られるため、次に行う検査として最も適切である。
- ×d. 膀胱造影検査
膀胱造影は尿道カテーテルから造影剤を膀胱に注入して撮影する検査で、外傷による膀胱損傷、膀胱と腸管などとの瘻孔、膀胱の形態異常の評価に用いる。膀胱尿管逆流(VUR)の診断には排尿させながら撮影する排尿時膀胱尿道造影(VCUG)を行う。いずれも上部尿路の結石の診断には役立たない。
- ×e. 腎シンチグラフィ
腎シンチグラフィは放射性医薬品を用いて腎機能を評価する検査である。99mTc-DMSAによる静態シンチは腎皮質の形態や瘢痕、左右それぞれの腎機能(分腎機能)の評価に、99mTc-MAG3や99mTc-DTPAによる動態シンチ(レノグラム)は尿の排泄の様子や腎盂尿管移行部狭窄症の診断などに用いる。長期間続いた水腎症で残っている腎機能を調べたいときなどには役立つが、急性発症の結石を診断する検査ではない。
尿路結石の成分とエックス線所見
・シュウ酸カルシウム結石、リン酸カルシウム結石:最も頻度が高く(合わせて全体の約8割以上)、エックス線写真で白く写る(エックス線陽性)。 ・リン酸マグネシウムアンモニウム結石(感染結石):ウレアーゼ産生菌(プロテウス属など)による尿路感染でアルカリ尿となって生じる。サンゴ状結石を作りやすい。エックス線写真に写る。 ・尿酸結石:エックス線写真に写らない(エックス線陰性)。CTでは描出される。 ・シスチン結石:シスチン尿症で生じる。エックス線写真では淡く写る程度。 ・なお、HIV治療薬のインジナビルによる結石はCTでも写りにくい例外として知られる。
尿酸結石の特徴
・危険因子:高尿酸血症・痛風、尿酸排泄促進薬の内服、肥満・メタボリックシンドローム、糖尿病、慢性下痢(脱水と酸性尿)、腫瘍崩壊など。 ・最大の要因は酸性尿である。尿酸は酸性の尿に溶けにくく、尿pHが低いと結晶化しやすい。 ・治療:飲水を増やして尿量を確保し、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム配合薬などで尿をアルカリ化する(尿pH 6.0〜7.0程度を目標)。尿酸結石は尿のアルカリ化で溶解が期待できる数少ない結石である。痛風の治療薬は尿酸排泄促進薬から尿酸生成抑制薬(アロプリノール、フェブキソスタットなど)への変更が検討される。
尿管結石がとどまりやすい部位(生理的狭窄部)
①腎盂尿管移行部、②尿管が総腸骨動静脈と交差する部位、③尿管膀胱移行部。
尿管結石の画像診断
・超音波検査:放射線被曝がなく、水腎症の確認や腎結石の検出に有用。妊婦や小児で第一選択となる。ただし中部尿管の結石は腸管ガスに隠れて見えにくい。 ・腹部単純エックス線写真(KUB):エックス線陽性結石の検出や治療後の経過観察に用いる。陰性結石は写らない。 ・腹部単純CT:結石の検出に最も優れ、成分にかかわらずほぼすべての結石を描出できる。急性期の診断の中心となる。
POINT
・急な片側背部痛+CVA叩打痛+血尿+同側の水腎症は尿管結石を考える。 ・腹部エックス線写真で写らない結石の代表は尿酸結石である。痛風、尿酸排泄促進薬の内服、肥満、酸性尿が危険因子となる。 ・尿酸結石もCTでは描出されるため、エックス線陰性結石を疑ったら腹部単純CTで確認する。 ・尿酸結石の治療と予防は、飲水と尿のアルカリ化(クエン酸製剤)が基本である。
