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年をとるとホルモンはみんな減る?―フィードバックで読み解く高齢者の内分泌

第113回医師国家試験 C問題 第23問

国試問題にチャレンジ

第113回 C問題 第23問

高齢者の内分泌系にみられる特徴はどれか。2つ選べ。

  1. a.ゴナドトロピン分泌低下
  2. b.コルチゾール分泌亢進
  3. c.インスリン抵抗性増大
  4. d.サイロキシン分泌低下
  5. e.レニン分泌低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、加齢で内分泌系がどう変わるかを問う問題だ。ポイントは「ホルモンは年をとれば一律に減るわけではない」ということ。低下するもの、上昇するもの、ほとんど変わらないもの、そして分泌量ではなく効き方が変わるもの、の4つに分けて整理していこう。
医学生医学生
正直、年をとったら全部のホルモンが減るイメージでした。ゴナドトロピンも減るのかなと。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、そこが最初の落とし穴だ。加齢で先に衰えるのは卵巣や精巣といった末梢の性腺なんだ。性ステロイドが減ると、視床下部や下垂体にかかっていた負のフィードバックが弱まる。すると上位のホルモンはどうなるかな。
医学生医学生
ブレーキが外れるので、LHやFSHはむしろ増える……ということですか。
ドクタードクター
その通り。特に閉経後の女性では、エストロゲンが急に下がってFSHとLHが著明に上昇する。高ゴナドトロピン性の性腺機能低下という状態だね。男性もテストステロンの低下はゆるやかで個人差が大きいけれど、方向は同じだ。だからゴナドトロピン分泌低下は誤りになる。
医学生医学生
産婦人科の講義で、閉経の確認にFSH高値を見ると習ったのを思い出しました。つながりました。
ドクタードクター
いい結びつけ方だね。次はコルチゾール。高齢者はストレスに弱いから分泌が増えている、と考えたくなるかもしれないけれど、どうだろう。
医学生医学生
生きるのに必須のホルモンだから、むしろ一定に保たれていそうな気がします。
ドクタードクター
その感覚で正解。コルチゾールの基礎分泌や血中濃度は、加齢でも大きくは変わらないとされている。ただ、同じ副腎皮質から出るDHEA-Sという副腎アンドロゲンは、20歳代をピークに年齢とともに大きく下がる。同じ臓器でも加齢変化が違う、という点は覚えておくといい。
医学生医学生
サイロキシンも同じ考え方で、ほぼ一定ということでしょうか。
ドクタードクター
そう。健常な高齢者では血中のT4はおおむね保たれていて、加齢の特徴とはいえない。甲状腺系で変化するとすれば、末梢でT4からT3への変換が減ってT3が軽く下がることや、TSHの基準がやや高めにずれることくらいだ。高齢者に増える潜在性甲状腺機能低下症は、生理的な加齢変化とは区別して考える必要がある。
医学生医学生
では、正しいのはインスリン抵抗性の増大ですね。内分泌代謝内科の実習で、高齢の糖尿病患者さんは空腹時より食後の血糖が高いことが多いと聞きました。
ドクタードクター
よく見ているね。ブドウ糖をいちばん多く取り込むのは骨格筋だけど、加齢で筋肉量が減るサルコペニアが進み、相対的に内臓脂肪が増え、活動量も落ちる。その結果、末梢でのインスリンの効きが悪くなる。さらに膵β細胞の分泌能も下がる傾向があるから、耐糖能異常や2型糖尿病が増え、食後高血糖が目立ちやすいんだ。
医学生医学生
もう一つの正解はレニン分泌低下ですね。でも、これが臨床でどう効いてくるのかがいまひとつイメージできません。
ドクタードクター
そこが大事なところだ。加齢で腎の傍糸球体装置の働きが衰えるとレニンが減り、アンジオテンシンIIを介したアルドステロン分泌も下がる。いわゆる低レニン・低アルドステロン傾向だね。腎のナトリウム保持能も落ちるから、塩分制限や利尿薬で低ナトリウム血症や脱水を起こしやすい。そしてカリウムの排泄も下がりやすい。
医学生医学生
だから高齢者にACE阻害薬やARB、抗アルドステロン薬を使うときは、高カリウム血症に注意が必要なんですね。
ドクタードクター
その通り。ほかにも加齢で下がるものとして成長ホルモンとIGF-1、メラトニン、活性型ビタミンDがあり、上がるものとしてPTHやANP・BNP、ノルアドレナリンがある。性ステロイドやGH・IGF-1の低下は骨粗鬆症やサルコペニア、フレイルの一因と考えられていて、筋肉が減ればインスリン抵抗性もさらに悪化する。だから蛋白質の摂取とレジスタンス運動が予防の柱になるんだ。
医学生医学生
ホルモンの変化が、フレイルや電解質異常、薬の副作用とつながっているんですね。
ドクタードクター
そう。もう一つ臨床で気をつけたいのは、高齢者の甲状腺機能低下症は倦怠感や物忘れ、便秘のような非特異的な症状で現れて、年のせいと見過ごされやすいこと。加齢による生理的変化を知っているからこそ、病気を見逃さずにすむんだよ。

まとめ

加齢に伴う内分泌変化は一律の低下ではなく、低下・上昇・不変・作用の変化に分けて整理すると理解しやすくなります。性腺機能が衰えて性ステロイドが減ると、負のフィードバックが弱まるためゴナドトロピンはむしろ上昇し、コルチゾールや血中T4は加齢でもほぼ一定に保たれます。一方、サルコペニアや内臓脂肪の増加を背景にインスリン抵抗性が増大し、腎ではレニン分泌が低下して低レニン・低アルドステロン傾向となります。これらは高齢者の食後高血糖、低ナトリウム血症、RAA系阻害薬による高カリウム血症といった臨床上の問題に直結します。生理的な加齢変化を正しく押さえることは、高齢者の病気を見逃さず、安全に薬を使うための土台になります。

解答・解説

正解はc, eです

加齢に伴う内分泌系の変化は、「低下するもの」「上昇するもの」「ほぼ変わらないもの」に分けて整理すると理解しやすい。

考え方のポイント

1. 末梢の内分泌腺そのものが衰える場合、血中ホルモンは低下するが、負のフィードバック(ネガティブフィードバック)が弱まるため、上位の視床下部・下垂体ホルモンはむしろ上昇する。代表が性腺系で、性ステロイドは低下し、ゴナドトロピン(LH・FSH)は上昇する。 2. コルチゾールやサイロキシン(T4)のように生命維持に不可欠なホルモンは、加齢によっても血中濃度がほぼ一定に保たれる。 3. ホルモンそのものの分泌量でなく、標的組織での作用が弱まる変化もある。代表がインスリンで、加齢によりインスリン抵抗性が増大し耐糖能が低下する。 4. 腎の傍糸球体装置からのレニン分泌は加齢で低下し、それに伴いアルドステロンも低下する(低レニン・低アルドステロン傾向)。 この整理に当てはめると、選択肢のうち加齢変化として正しいのはインスリン抵抗性の増大とレニン分泌の低下である。

選択肢考察

  1. ×a.  ゴナドトロピン分泌低下

    加齢により卵巣・精巣の機能が低下し、エストロゲンやテストステロンの分泌が減る。性ステロイドによる視床下部・下垂体への負のフィードバックが弱まるため、ゴナドトロピン(LH・FSH)の分泌はむしろ亢進する。女性では閉経後にエストロゲンが急激に低下し、FSH・LHが著明に上昇する(高ゴナドトロピン性性腺機能低下の状態)。男性ではテストステロンの低下が緩やかで個人差も大きいが、方向は同じである。したがって「低下」は誤りである。

  2. ×b.  コルチゾール分泌亢進

    コルチゾールは生命維持に必須の糖質コルチコイドであり、加齢によっても基礎分泌量や血中濃度に大きな変化はみられないとされる。一方、同じ副腎皮質から分泌される副腎アンドロゲンのDHEA-S(デヒドロエピアンドロステロン硫酸)は20歳代をピークに加齢とともに大きく低下する。副腎皮質ホルモンの中でも加齢変化の有無が異なる点に注意する。

  3. ○c.  インスリン抵抗性増大

    加齢に伴い、ブドウ糖を最も多く取り込む骨格筋の量が減少し(サルコペニア)、相対的に内臓脂肪が増え、身体活動量も低下する。これらにより末梢組織でのインスリン感受性が低下し、インスリン抵抗性が増大する。加えて膵β細胞のインスリン分泌能も加齢で低下傾向となるため、高齢者では耐糖能異常や2型糖尿病が増える。特に食後高血糖が目立ちやすいのが特徴である。

  4. ×d.  サイロキシン分泌低下

    健常高齢者では血中サイロキシン(T4)濃度はほぼ一定に保たれ、加齢変化の特徴とはいえない。加齢でみられる甲状腺系の変化としては、末梢でT4からT3への変換が減ることによるT3の軽度低下や、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の基準値がやや高めにずれることが挙げられる。また高齢者では潜在性甲状腺機能低下症(TSH高値でFT4は基準範囲内)の頻度が増えるが、これは加齢そのものの生理的変化とは区別して扱われる。

  5. ○e.  レニン分泌低下

    加齢により腎の傍糸球体装置の機能が衰え、レニンの分泌が低下する(血漿レニン活性の低下)。その結果、アンジオテンシンⅡを介したアルドステロン分泌も低下し、低レニン・低アルドステロン傾向となる。腎のナトリウム保持能も低下するため、高齢者は塩分制限や利尿薬で低ナトリウム血症・脱水をきたしやすい。また、カリウム排泄が低下しやすいため、ACE阻害薬・ARB・抗アルドステロン薬などのレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害薬では高カリウム血症に注意が必要である。

加齢に伴う主な内分泌変化のまとめ

低下するもの ・性ステロイド(エストロゲン、テストステロン) ・DHEA-S(副腎アンドロゲン) ・成長ホルモン(GH)、IGF-1(インスリン様成長因子-1) ・レニン、アルドステロン ・メラトニン ・T3(軽度) ・活性型ビタミンD(腎での1α水酸化の低下) 上昇するもの ・ゴナドトロピン(LH、FSH):特に閉経後女性で著明 ・TSH(軽度) ・PTH(副甲状腺ホルモン):ビタミンD低下・腎機能低下による二次的な上昇 ・ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)、BNP ・ノルアドレナリン(交感神経活動の亢進) ほぼ不変のもの ・コルチゾール ・T4(血中濃度) 機能の変化 ・インスリン抵抗性の増大、耐糖能の低下

臨床とのつながり

・性ステロイドやGH/IGF-1の低下は、骨粗鬆症、筋肉量の減少(サルコペニア)、フレイル(虚弱)の一因と考えられている。 ・サルコペニアはインスリン抵抗性をさらに悪化させるため、十分な蛋白質摂取とレジスタンス運動(筋力トレーニング)・有酸素運動が予防に重要である。 ・低レニン・低アルドステロン傾向は、高齢者の電解質異常(低ナトリウム血症、薬剤性高カリウム血症)の背景となる。 ・高齢者の甲状腺機能低下症は、倦怠感、認知機能低下、便秘など非特異的な症状を示し、加齢変化と見誤られやすいので注意する。

POINT

・加齢で末梢ホルモン(性ステロイド)が低下すると、負のフィードバック減弱により上位ホルモン(LH・FSH)は上昇する。 ・コルチゾールとT4の血中濃度は加齢でほぼ不変。DHEA-S、GH/IGF-1は低下する。 ・高齢者ではインスリン抵抗性が増大し耐糖能が低下する(サルコペニア・内臓脂肪増加・活動量低下が背景)。 ・レニン分泌は低下し、低レニン・低アルドステロン傾向となる。RAA系阻害薬による高カリウム血症に注意。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。