年をとるとホルモンはみんな減る?―フィードバックで読み解く高齢者の内分泌
第113回医師国家試験 C問題 第23問
国試問題にチャレンジ
高齢者の内分泌系にみられる特徴はどれか。2つ選べ。
- a.ゴナドトロピン分泌低下
- b.コルチゾール分泌亢進
- c.インスリン抵抗性増大
- d.サイロキシン分泌低下
- e.レニン分泌低下
対話形式の解説
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ドクターまとめ
加齢に伴う内分泌変化は一律の低下ではなく、低下・上昇・不変・作用の変化に分けて整理すると理解しやすくなります。性腺機能が衰えて性ステロイドが減ると、負のフィードバックが弱まるためゴナドトロピンはむしろ上昇し、コルチゾールや血中T4は加齢でもほぼ一定に保たれます。一方、サルコペニアや内臓脂肪の増加を背景にインスリン抵抗性が増大し、腎ではレニン分泌が低下して低レニン・低アルドステロン傾向となります。これらは高齢者の食後高血糖、低ナトリウム血症、RAA系阻害薬による高カリウム血症といった臨床上の問題に直結します。生理的な加齢変化を正しく押さえることは、高齢者の病気を見逃さず、安全に薬を使うための土台になります。
解答・解説
正解はc, eです
加齢に伴う内分泌系の変化は、「低下するもの」「上昇するもの」「ほぼ変わらないもの」に分けて整理すると理解しやすい。
考え方のポイント
1. 末梢の内分泌腺そのものが衰える場合、血中ホルモンは低下するが、負のフィードバック(ネガティブフィードバック)が弱まるため、上位の視床下部・下垂体ホルモンはむしろ上昇する。代表が性腺系で、性ステロイドは低下し、ゴナドトロピン(LH・FSH)は上昇する。 2. コルチゾールやサイロキシン(T4)のように生命維持に不可欠なホルモンは、加齢によっても血中濃度がほぼ一定に保たれる。 3. ホルモンそのものの分泌量でなく、標的組織での作用が弱まる変化もある。代表がインスリンで、加齢によりインスリン抵抗性が増大し耐糖能が低下する。 4. 腎の傍糸球体装置からのレニン分泌は加齢で低下し、それに伴いアルドステロンも低下する(低レニン・低アルドステロン傾向)。 この整理に当てはめると、選択肢のうち加齢変化として正しいのはインスリン抵抗性の増大とレニン分泌の低下である。
選択肢考察
- ×a. ゴナドトロピン分泌低下
加齢により卵巣・精巣の機能が低下し、エストロゲンやテストステロンの分泌が減る。性ステロイドによる視床下部・下垂体への負のフィードバックが弱まるため、ゴナドトロピン(LH・FSH)の分泌はむしろ亢進する。女性では閉経後にエストロゲンが急激に低下し、FSH・LHが著明に上昇する(高ゴナドトロピン性性腺機能低下の状態)。男性ではテストステロンの低下が緩やかで個人差も大きいが、方向は同じである。したがって「低下」は誤りである。
- ×b. コルチゾール分泌亢進
コルチゾールは生命維持に必須の糖質コルチコイドであり、加齢によっても基礎分泌量や血中濃度に大きな変化はみられないとされる。一方、同じ副腎皮質から分泌される副腎アンドロゲンのDHEA-S(デヒドロエピアンドロステロン硫酸)は20歳代をピークに加齢とともに大きく低下する。副腎皮質ホルモンの中でも加齢変化の有無が異なる点に注意する。
- ○c. インスリン抵抗性増大
加齢に伴い、ブドウ糖を最も多く取り込む骨格筋の量が減少し(サルコペニア)、相対的に内臓脂肪が増え、身体活動量も低下する。これらにより末梢組織でのインスリン感受性が低下し、インスリン抵抗性が増大する。加えて膵β細胞のインスリン分泌能も加齢で低下傾向となるため、高齢者では耐糖能異常や2型糖尿病が増える。特に食後高血糖が目立ちやすいのが特徴である。
- ×d. サイロキシン分泌低下
健常高齢者では血中サイロキシン(T4)濃度はほぼ一定に保たれ、加齢変化の特徴とはいえない。加齢でみられる甲状腺系の変化としては、末梢でT4からT3への変換が減ることによるT3の軽度低下や、TSH(甲状腺刺激ホルモン)の基準値がやや高めにずれることが挙げられる。また高齢者では潜在性甲状腺機能低下症(TSH高値でFT4は基準範囲内)の頻度が増えるが、これは加齢そのものの生理的変化とは区別して扱われる。
- ○e. レニン分泌低下
加齢により腎の傍糸球体装置の機能が衰え、レニンの分泌が低下する(血漿レニン活性の低下)。その結果、アンジオテンシンⅡを介したアルドステロン分泌も低下し、低レニン・低アルドステロン傾向となる。腎のナトリウム保持能も低下するため、高齢者は塩分制限や利尿薬で低ナトリウム血症・脱水をきたしやすい。また、カリウム排泄が低下しやすいため、ACE阻害薬・ARB・抗アルドステロン薬などのレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害薬では高カリウム血症に注意が必要である。
加齢に伴う主な内分泌変化のまとめ
低下するもの ・性ステロイド(エストロゲン、テストステロン) ・DHEA-S(副腎アンドロゲン) ・成長ホルモン(GH)、IGF-1(インスリン様成長因子-1) ・レニン、アルドステロン ・メラトニン ・T3(軽度) ・活性型ビタミンD(腎での1α水酸化の低下) 上昇するもの ・ゴナドトロピン(LH、FSH):特に閉経後女性で著明 ・TSH(軽度) ・PTH(副甲状腺ホルモン):ビタミンD低下・腎機能低下による二次的な上昇 ・ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)、BNP ・ノルアドレナリン(交感神経活動の亢進) ほぼ不変のもの ・コルチゾール ・T4(血中濃度) 機能の変化 ・インスリン抵抗性の増大、耐糖能の低下
臨床とのつながり
・性ステロイドやGH/IGF-1の低下は、骨粗鬆症、筋肉量の減少(サルコペニア)、フレイル(虚弱)の一因と考えられている。 ・サルコペニアはインスリン抵抗性をさらに悪化させるため、十分な蛋白質摂取とレジスタンス運動(筋力トレーニング)・有酸素運動が予防に重要である。 ・低レニン・低アルドステロン傾向は、高齢者の電解質異常(低ナトリウム血症、薬剤性高カリウム血症)の背景となる。 ・高齢者の甲状腺機能低下症は、倦怠感、認知機能低下、便秘など非特異的な症状を示し、加齢変化と見誤られやすいので注意する。
POINT
・加齢で末梢ホルモン(性ステロイド)が低下すると、負のフィードバック減弱により上位ホルモン(LH・FSH)は上昇する。 ・コルチゾールとT4の血中濃度は加齢でほぼ不変。DHEA-S、GH/IGF-1は低下する。 ・高齢者ではインスリン抵抗性が増大し耐糖能が低下する(サルコペニア・内臓脂肪増加・活動量低下が背景)。 ・レニン分泌は低下し、低レニン・低アルドステロン傾向となる。RAA系阻害薬による高カリウム血症に注意。
