噛む筋は三叉神経、表情は顔面神経―咽頭弓から解く頭部の筋の神経支配
第113回医師国家試験 C問題 第11問
国試問題にチャレンジ
三叉神経の支配を受けるのはどれか。
- a.前頭筋
- b.側頭筋
- c.眼輪筋
- d.口輪筋
- e.広頸筋
対話形式の解説
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ドクターまとめ
頭部の筋は、皮膚を動かして表情をつくる表情筋と、下顎を動かす咀嚼筋に大別され、表情筋(前頭筋、眼輪筋、口輪筋、広頸筋など)は顔面神経、咀嚼筋(咬筋、側頭筋、内側・外側翼突筋)は三叉神経第3枝の下顎神経に支配されます。この区別は、咀嚼筋が第1咽頭弓、表情筋が第2咽頭弓に由来するという発生学で説明でき、顎二腹筋前腹・鼓膜張筋は三叉神経、後腹・アブミ骨筋は顔面神経といった対応も同じ原理で理解できます。広頸筋は頸部にあっても表情筋の仲間で顔面神経支配、開眼の上眼瞼挙筋は動眼神経支配である点は混同しやすい注意点です。臨床では、前頭筋の動きの有無で末梢性と中枢性の顔面神経麻痺を鑑別し、噛みしめ時の側頭筋・咬筋の触診や開口時の下顎偏位で三叉神経運動枝を評価します。神経支配を発生由来と結びつけて理解することが、脳神経診察を正しく行い所見を解釈する土台になります。
解答・解説
正解はbです
頭部の骨格筋は、眼窩内の外眼筋(および上眼瞼挙筋)と舌の筋を除くと、大きく「表情筋(顔面筋)」と「咀嚼筋」に分けられる。両者は支配神経がはっきり分かれており、これを押さえれば本問は解ける。 ・表情筋:顔面や頸部の皮膚に停止する皮筋で、収縮により皮膚を動かして表情をつくる。すべて顔面神経(第VII脳神経)の支配を受ける。前頭筋、眼輪筋、口輪筋、頬筋、広頸筋などがこれに含まれる。 ・咀嚼筋:下顎骨に停止し、顎関節を動かして咀嚼を行う。咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋の4つで、いずれも三叉神経(第V脳神経)の第3枝である下顎神経の運動枝に支配される。 この区別は発生学的な由来を反映している。咀嚼筋は第1咽頭弓(鰓弓)から生じるため第1咽頭弓の神経である三叉神経(下顎神経)に、表情筋は第2咽頭弓から生じるため第2咽頭弓の神経である顔面神経に支配される。 選択肢のうち咀嚼筋は側頭筋のみであり、これが三叉神経支配の筋である。
選択肢考察
- ×a. 前頭筋
誤り。前頭筋は帽状腱膜から起こって眉部の皮膚に付く表情筋で、眉を挙上して額に横じわをつくる。顔面神経の側頭枝に支配される。末梢性顔面神経麻痺(Bell麻痺など)では患側の額にしわを寄せられなくなる。一方、中枢性(核上性)麻痺では前頭筋が両側の大脳皮質から支配を受けるため額のしわ寄せが保たれ、両者の鑑別点となる。
- ○b. 側頭筋
正しい。側頭筋は側頭窩から起こり、頬骨弓の内側を通って下顎骨の筋突起に停止する咀嚼筋である。下顎を挙上して口を閉じる(噛みしめる)作用をもち、後部の線維は下顎を後方へ引く。支配神経は三叉神経第3枝の下顎神経から出る深側頭神経である。噛みしめたときに側頭部で収縮を触知でき、咬筋とともに三叉神経運動枝の診察に用いられる。
- ×c. 眼輪筋
誤り。眼輪筋は眼裂を輪状に取り囲む表情筋で、眼瞼を閉じる働きをもつ。顔面神経(側頭枝・頬骨枝)の支配である。顔面神経麻痺では閉眼できなくなり(兎眼)、閉眼しようとすると眼球が上転して白目が見えるBell現象が観察される。なお、開眼に働く上眼瞼挙筋は動眼神経支配であり、眼輪筋と混同しない。
- ×d. 口輪筋
誤り。口輪筋は口裂を取り囲む表情筋で、口を閉じたり口唇をとがらせたりする。顔面神経(頬筋枝・下顎縁枝)の支配である。顔面神経麻痺では口角が下垂し、口笛が吹けない、口から水がこぼれるといった症状が出る。
- ×e. 広頸筋
誤り。広頸筋は頸部の皮下に広がる薄い皮筋で、上方は下顎を越えて口角付近まで達する。位置としては頸部の筋に分類されるが、皮膚に停止する点や発生(第2咽頭弓由来)は表情筋と同じであり、顔面神経の頸枝に支配される。口角を下外方へ引き、頸部の皮膚を緊張させる。
三叉神経(第V脳神経)の構成
・第1枝 眼神経:感覚のみ(前額部、上眼瞼、角膜など)。角膜反射の求心路。 ・第2枝 上顎神経:感覚のみ(頬部、上唇、上顎の歯など)。 ・第3枝 下顎神経:感覚(下顎部、下唇、舌の前2/3の一般感覚、下顎の歯)+運動。 ・下顎神経の運動枝が支配する筋:咀嚼筋4つ(咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋)のほか、顎舌骨筋、顎二腹筋前腹、鼓膜張筋、口蓋帆張筋。いずれも第1咽頭弓由来の筋である。
顔面神経(第VII脳神経)の運動支配
・すべての表情筋(前頭筋、眼輪筋、口輪筋、頬筋、広頸筋など)。 ・顎二腹筋後腹、茎突舌骨筋、アブミ骨筋。いずれも第2咽頭弓由来の筋である。 ・顔面神経は運動のほか、舌前2/3の味覚(鼓索神経)、涙腺・顎下腺・舌下腺の分泌(副交感神経)も担う。
咀嚼筋の作用
・咬筋・側頭筋・内側翼突筋:下顎を挙上(口を閉じる)。 ・外側翼突筋:下顎を前方へ突出させ、開口を助ける。片側が働くと下顎は反対側へ動く。そのため片側の三叉神経運動枝の麻痺では、開口時に下顎が麻痺側へ偏位する。
臨床との関連
・咀嚼筋の診察:歯を噛みしめさせて咬筋・側頭筋の収縮を触診する。下顎反射(求心路・遠心路ともに三叉神経)も参考になる。 ・破傷風では咀嚼筋の強直により開口障害(牙関緊急)が起こる。 ・ボツリヌス毒素は咬筋肥大の治療などに、また表情筋への注射で眼瞼痙攣や片側顔面痙攣の治療に用いられる。
POINT
・表情筋(前頭筋、眼輪筋、口輪筋、広頸筋など)はすべて顔面神経支配。 ・咀嚼筋(咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋)は三叉神経第3枝(下顎神経)支配。 ・第1咽頭弓由来の筋は三叉神経、第2咽頭弓由来の筋は顔面神経と覚える。 ・上眼瞼挙筋(開眼)は動眼神経、眼輪筋(閉眼)は顔面神経。 ・広頸筋は頸部にあるが表情筋の仲間で顔面神経支配。
